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やられて嫌なことは

 それから目立った噂も聞かなくなってきた。 そもそもそんな事実が無いのだから噂が飛んでいても困る。


「皆さん自分の事で忙しいのかも知れませんね。」

「そうじゃない? 他人の噂なんかどうでもいいんでしょ。」


 かなり突っぱねたような言い方になったが、実際に俺達になにかを聞いてくる生徒や教師はいなくなった。 これが普通なのだろう。


「とはいえここまで噂が立ったのには発生源がある筈なんだが・・・ そもそも俺達が付き合い始めたのだって冬休み前だから、そんないきなり根も葉もない事を噂にするとは思えないんだよなぁ?」

「噂は分散させれていますから割り出すのも難しいですよね。 気にはなってしまいますが・・・」


 そう言ってフィーナは俺に一歩近付いてきた。


「そんなことを気にしていてもしょうがないです。 私達は私達なのですから。」


 そんなフィーナの言葉に、俺も苦笑する。


「それもそうだな。 この事実が変わるわけでもなんでもないわけだしな。」


 そう言いながら俺達は家へと帰るために歩く。 そうだ。 ここまで来たんだ。 今さら何が来ても問題じゃない。 あの夢の事だって今となってはもう恐れることでもない気がしてきたのだ。 乗り越えたとは思っていないが、この楽しさはどんなことでも打ち破れる気がする。


 そう思っていた時が、俺にもあった。 あの瞬間、あの場面に遭遇してしまうまでは。


 それは噂が過ぎ去って数日が経った夕方。 まだ冬の寒さと日の落ちる速さに悶えながらも、フィーナと共に帰ろうと部活が終わって正門に行こうとした最中。


 柔剣道場から出てきたであろうフィーナが、その途中の校舎裏に誰かといた。 その誰かは角度と夕陽のせいでほとんど見えない。 しかもフィーナがその人物に対して怒りを露にしているように見えた。


「おいおい、誰だか知らないが不味いことになりそうだぞ?」


 ここでエムゼが出てきてしまえば今までの努力が全てが水の泡になる。 それを向こうは知らないのだから余計に焦り、俺は声をあげようとした。


「おーい、フィー」


 名前を呼ぼうとした瞬間、俺は目の前の光景を現実だと思いたくなくなった。


 その人物がフィーナに対してキスをしたのだ。 しかも唇同士で。


 僅か2、3秒の事柄だったが、俺は動けなかったし、声すらも発することが出来なかった。


 その後に響いたのは何かが破裂したかのような音。 そしてフィーナは俺の事が見えていたのかいないのか分からないが、そのまま去っていってしまう。 そんな彼女は口元を抑えながら涙を流していた。


 もう一人の人物は既にいなくなっており、俺は誰にもなにも出来なくなってしまったまま、夕陽が沈んで暗くなった空を見上げるしか出来なかった。

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