第九話 仲間の可能性
小さな生き物は、シロの鼻先をじっと見つめていた。
シロもまた、興味深そうにその姿を眺めている。
しばらく互いに動かなかったが、やがてシロがゆっくりと伏せた。
どうやら、敵意がないことを伝えようとしているらしい。
「おっ、仲良くできそうじゃないか」
悠真が声をかけると、小さな生き物はシロの周りをちょこちょこと歩き始めた。
シロは動かず、その様子を目で追っている。
そして、小さな生き物がシロの前足に触れた。
「くぅ?」
シロが首を傾げる。
小さな生き物は嬉しそうに跳ねると、今度はシロの背中によじ登ろうとした。
「おいおい、さすがにそれは嫌がるんじゃないか?」
しかし、シロは特に気にしていないようだった。
むしろ、少しだけ背中を低くしてやっている。
「……なんだ。もう仲良くなったのか?」
悠真は苦笑した。
ほんの少し前まで警戒し合っていた二匹が、こうして一緒にいる。
なんだか不思議な光景だった。
***
しばらく二匹の様子を眺めていた悠真だったが、ふと思い出したように立ち上がった。
「そうだ。シロのことも、もう少し調べてみないとな」
これまで《生命感知》で周囲の植物や生き物を確認してきた。
しかし、シロについてはまだ詳しく調べていなかった。
悠真はシロに向き直り、意識を集中させる。
すると、視界に見慣れた表示が浮かび上がった。
《個体情報》
名称:シロ
種族:白銀狼
レベル:2
状態:良好
HP:32/32
MP:18/18
攻撃力:12
防御力:9
素早さ:16
スキル:
・嗅覚強化
・俊敏
「おお……!」
思わず声が漏れた。
ちゃんとステータスが表示されている。
「レベル2なのか。思ったより高いな」
シロは悠真の顔を見上げている。
その姿はまだ小さく、どこか幼さも残っている。
それでも、立派な狼の魔物なのだろう。
「白銀狼っていう種族なんだな」
初めて知る名前だった。
さらに詳しく確認しようとすると、別の表示が浮かんだ。
《育成対象を確認しました》
対象:シロ
育成適性:高
育成可能
「……育成できる?」
悠真は思わず目を見開いた。
これまで《育成》は植物にしか使っていなかった。
けれど、シロにも使えるらしい。
「もしかして、仲間も育てられるのか?」
胸が高鳴った。
もしそうなら、この能力は想像していた以上にすごいものかもしれない。
ただし、どのような効果があるのかは分からない。
悠真は慎重に表示を確認した。
《育成》
対象:シロ
効果:成長補助
予測効果:ステータス成長補正
必要魔力:5
「ステータス成長補正……?」
レベルアップしたときの成長に影響するのだろうか。
まだ確かなことは分からない。
けれど、試してみる価値はありそうだった。
***
「シロ、ちょっと試してみてもいいか?」
シロは小さく鳴いた。
悠真はシロの前にしゃがみ、そっと手を伸ばした。
その頭に触れながら、《育成》を発動する。
すると、手のひらから淡い緑色の光が広がった。
シロの身体が一瞬だけ光に包まれる。
「おお……!」
光はすぐに消えた。
シロ自身には、特に変わった様子はない。
「……これでいいのか?」
悠真はもう一度、シロのステータスを確認した。
《育成状態》
対象:シロ
育成段階:Ⅰ
成長補正:有効
次回レベルアップ時、追加成長ボーナスが発生します。
「やっぱり!」
悠真は思わず声を上げた。
どうやら、育成によってすぐに強くなるわけではないらしい。
次のレベルアップ時に、通常の成長とは別に追加のボーナスが加わるようだ。
「なるほどな……」
つまり、仲間が成長する前に育成しておけば、その成長をさらに伸ばせるということだ。
「これなら、シロをもっと強くしてやれるかもしれない」
悠真はシロの頭を撫でた。
シロは気持ちよさそうに目を細める。
その様子を見ていると、自然と頬が緩んだ。
「頼りにしてるぞ、シロ」
シロは嬉しそうに尻尾を振った。
***
そのとき、背後から小さな声が聞こえた。
「きゅっ」
振り返ると、あの小さな生き物がこちらを見上げていた。
どうやら、先ほどの光景を見ていたらしい。
「ん? お前も気になるのか?」
悠真が手を差し出すと、小さな生き物はちょこんとその上に乗った。
驚くほど軽い。
改めて見ると、身体には淡い緑色の模様があり、耳のような部分は葉っぱに似た形をしていた。
「そういえば、お前のことも調べてみないとな」
悠真は《生命感知》を使った。
《個体情報》
名称:未確認
種族:未確認
状態:良好
生命反応:安定
詳細情報:取得できません
「やっぱり分からないか……」
シロのときとは違い、ほとんど情報が表示されない。
さらに《育成》を確認してみる。
《育成対象を確認しました》
対象:未確認生物
育成適性:判定不能
特殊反応:確認
「特殊反応?」
その文字を見た瞬間、小さな生き物の身体が淡く光った。
手のひらの上で、緑色の光がゆっくりと揺れている。
すると、岩場の奥にある白い花も、呼応するようにかすかに輝いた。
「……え?」
悠真は花と小さな生き物を交互に見た。
偶然なのだろうか。
それとも、この生き物とあの花には何か関係があるのだろうか。
小さな生き物は、何事もなかったかのように悠真の指にしがみついている。
「お前……本当に何者なんだ?」
返事の代わりに、小さな声が返ってきた。
「きゅっ」




