第八話 小さな来訪者
悠真がそっと手を差し出すと、その生き物は小さな鼻を近づけた。
くんくんと匂いを嗅いでいる。
「……なんだ? お前」
手のひらに乗るほどの小さな身体。
丸いつぶらな瞳に、警戒心はあるものの、こちらに強い敵意は感じられない。
その様子を、シロも興味深そうに眺めていた。
「シロも気になるのか?」
シロが一歩近づく。
すると、小さな生き物はびくっと身体を震わせ、慌てて悠真の足元へ隠れた。
「おっと。怖がらせちゃったな」
悠真はシロの頭を軽く撫でた。
「ゆっくりな。仲良くできるといいけど」
シロは少し不満そうに鼻を鳴らした。
その仕草に、悠真は思わず笑ってしまう。
「ははっ。お前もまだまだ子供だな」
改めて足元を見ると、小さな生き物は悠真の靴にしがみつくようにして、こちらを見上げていた。
「……そうだ。お前、どんな生き物なんだ?」
悠真は《生命感知》を意識した。
すると、視界に淡い光が浮かび上がる。
しかし、いつもの植物や動物とは少し違う反応だった。
小さな身体の中心に、淡い緑色の光が揺れている。
「ん……?」
悠真は目を凝らした。
《生命感知》
対象:未確認生物
生命反応:確認
状態:良好
詳細情報:取得できません
「未確認生物……?」
思わず呟く。
どうやら、この能力でも詳しいことまでは分からないらしい。
「まあ、知らない生き物なんだから当然か……」
そう言いながら、悠真は小さな生き物を見つめた。
そのとき、小さな生き物が突然、悠真の足元から離れた。
とことこと岩場の奥へ向かって歩いていく。
「あ、おい。どこに行くんだ?」
悠真が声をかけると、生き物は立ち止まり、こちらを振り返った。
そして、もう一度歩き出す。
まるで、ついてこいと言っているようだった。
「……もしかして、何かあるのか?」
悠真はシロに目を向けた。
シロも生き物の後を追うように歩き出す。
「お前まで行くのかよ」
苦笑しながら、悠真も後を追った。
岩場の奥は、これまであまり確認していなかった場所だ。
少し進むと、壁際にいくつかの植物が生えているのが見えた。
その中に、小さな白い花が咲いていた。
「花……?」
近づいてみると、周囲の植物とは違い、その花だけがかすかに光を帯びている。
悠真は《生命感知》を使った。
《植物》
名称:未鑑定
状態:良好
生命反応:強
「……なんだ、これ」
他の植物と比べても、明らかに強い生命反応を示している。
さらに《育成》を意識してみると、今度は少し違う表示が浮かび上がった。
《育成》
対象:未確認
反応:特殊
「特殊……?」
今まで見たことのない表示だった。
悠真が花を観察していると、小さな生き物が花のそばにちょこんと座った。
そして、花に顔を近づける。
すると、花の光が一瞬だけ強くなった。
「えっ?」
悠真は思わず身を乗り出した。
花の光はすぐに元の淡さへ戻った。
「今の……お前が何かしたのか?」
小さな生き物は、何事もなかったかのようにこちらを見上げている。
シロも花に近づき、鼻先を寄せた。
その瞬間、小さな生き物が慌ててシロの前に立ちはだかった。
「くぅっ!」
小さな身体をいっぱいに広げて、シロを止めようとしている。
「お、おいおい。そんなに怒らなくてもいいだろ」
悠真は慌ててシロを引き離した。
どうやら、この花を守っているらしい。
「なるほどな。お前にとって大切な場所なのか」
悠真がそう言うと、小さな生き物は少しだけ身体の力を抜いた。
その様子を見て、悠真は小さく笑った。
「分かったよ。勝手に触ったりしないから」
すると、小さな生き物は再び花のそばに座り込んだ。
悠真はもう一度、白い花を見つめた。
この森には、まだ自分の知らないものがたくさんある。
この花も、この小さな生き物も。
「……本当に不思議な世界だな」
ぽつりと呟く。
その隣で、シロが小さく鳴いた。
「ん? どうした?」
シロは花ではなく、小さな生き物の方をじっと見つめていた。
小さな生き物も、負けじとシロを見つめ返している。
「……お前たち、仲良くできそうか?」
二匹の視線がぶつかり合う。
そして、シロがそっと鼻先を近づけた。
小さな生き物は一瞬だけ身をすくめたものの、今度は逃げなかった。




