表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『属性適性なしの学院最下位、迷宮で見捨てられた僕は七罪の魔神と契約する ~最強英雄になった幼なじみに追いつくまで~  作者: ドキツトム


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

96/145

第96話 銀槍と光剣

「この場面を挿絵で見たい!」と思った箇所がありましたら、挿絵希望度を★1〜5で評価し、場面と一緒に感想欄で教えてください!


例:『〇〇と△△が対峙する場面/★★★★★』


皆さまの声を、今後の挿絵制作の参考にさせていただきます!

 


セルフィナが示した胸郭中央の一点を、不完全アークデーモンは三層の再生外殻で覆い直した。


本物の心臓を特定してから、まだ数呼吸しか経っていない。


喉元、左肩、右脇腹、下腹部、背骨側の偽核も赤く脈打っている。六つの光から伸びた暗赤色の魔力が胸郭へ集まり、硬い外殻、仮初めの筋肉、高密度な魔力層の順に本物を隠した。


同じ夜のまま、敵だけが傷を過去へ押し戻していく。


「測定位置に変化はありません」


セルフィナが精霊たちの退避方向を書き込んだ図面を成人記録官へ渡した。


探索へ出た精霊たちは、既に離れた休息場所へ移されている。再び危険へ送り出されることはない。


セレネ先生が図面と六枚の目盛り板を照合した。


「本物は胸郭中央、外殻から一腕分ほど奥です。五つの偽核に位置の変化はありません」


学院長は中央制御盤から離れず、僕の足元を指した。


成人記録官が白い測量糸を床へ張る。


僕が立つ第二防衛区画の物理印から、破損した第三土壁の中央、成人盾列の隙間、不完全アークデーモンの胸郭へ。


距離はおよそ二十歩。


糸が示す直線上に、三層の外殻が重なっていた。


「外殻は壊せます。しかし、閉じる方が早い」


セレネ先生の言葉を裏づけるように、胸郭が重く脈打つ。


成人警備員が強弩で削ったばかりの右肩にも、仮初めの筋肉が生え始めていた。


「開口と維持を分けます」


学院長が即座に決めた。


「成人警備隊が姿勢を崩す。学生は移動盾の内側から補助し、退避命令を最優先。心臓には触れるな」


その時、北側通路から金属靴の列が近づいてきた。


先頭は王都残留警備隊。盾、強弩の矢束、拘束鎖を運ぶ成人たちの後ろに、ユリウスがいた。


彼は成人警備隊長の前で止まり、人数札と物資札を差し出す。


「正門の追加認証は完了しました。成人門衛長の命令により、増援班を中央まで案内しました。配置変更札もあります」


正門を勝手に放棄したわけではない。


北側には成人門衛と残留警備員が残り、確認口も閉じられている。正規の交代を終えた上で、ユリウスは自分の足で学院中央まで来たのだ。


成人警備隊長は配置札を確認すると、セルフィナの図面を示した。


「標的は胸郭中央深部。外殻を開く役と、再生を遅らせる役が必要だ」


レグルスが銀槍を持ち上げた。


「風なら、外殻の継ぎ目へ入れられる」


ユリウスは長剣を抜き、その刃を見た。


「光で再生箇所を見分け、炎で焼けば、短時間なら閉鎖を遅らせられます」


どちらが上に立つかを決める言葉はなかった。


二人は互いを見て、それぞれが必要だと判断した役割を口にしただけだ。


「退避条件は三つだ」


成人警備隊長が告げる。


「右腕が盾列の上を越えた時。拘束鎖が二本とも切れた時。中央の物理鐘が三度鳴った時だ。いずれか一つで後退しろ」


「了解」


二人の返答が重なった。


僕は床の物理印から動かない。


右脚にはまだ薄い痺れが残り、左腕も治療布と黒銀色の封魔具に覆われている。ここで僕が前へ出ても、成人盾列の足並みを乱すだけだ。


ティアナは残った第三土壁の亀裂を確かめていた。


「中央の割れ目は白線と重なってる。ただし右側の根は切れてる。盾を寄せすぎたら壁が崩れるよ」


フィアは痺れの残る右腕を胸元へ添え、天井を見上げる。


「左上の石材が緩んでる。移動盾は中央より半歩右を通って」


二人とも戦えるふりはしなかった。今できる報告を成人警備員へ渡している。


「第一盾列、前へ!」


号令と同時に、六人の学院警備員が盾を重ねた。


その後ろから王都残留警備隊の強弩隊が片膝をつく。


弦が三度鳴った。


太い矢が不完全アークデーモンの右肩と不完全な左脚へ突き刺さる。仮初めの筋肉が裂け、外殻の欠片が石床へ散った。


攻撃は効いている。


ただ、胸郭中央の心臓が脈打つたび、暗赤色の再生魔力が傷へ注がれていく。


「拘束鎖、脚へ!」


二組の成人警備員が左右から鎖を投げた。


鎖は左足首と右膝へ絡み、床の固定輪へ繋がれる。四人ずつが後方へ体重をかけた。


不完全アークデーモンが前へ踏み出そうとする。


不完全な左脚が強弩の傷から折れ、巨体が片膝をついた。


石床が揺れた。


胸郭が下がり、銀槍の穂先が届く高さへ入る。


「移動盾、開け!」


二枚一組の大盾が前進した。


左右の成人警備員が作る狭い空間へ、レグルスとユリウスが入る。二人は盾の先端を越えない。


レグルスは右足を一歩後ろへ引き、左足を前へ置いた。


銀槍を腰の高さへ構える。


息を一つ。


肩を落とす。


二つ。


両手で柄を握り直す。


三つ。


槍の穂先を、セルフィナが示した胸郭中央の継ぎ目へ合わせる。


四つ目の呼吸と共に、声を放った。


「風よ、我が銀槍に沿って螺旋を結び、重なる守りの継ぎ目へ潜れ。貫く一点を押し広げ、閉ざされた標への道を開け――第二階位・風魔法《螺旋開甲》」


風が穂先から柄の半ばまで巻きついた。


広がる風ではない。


銀槍に沿って細く絞られ、何重にも回転する螺旋だ。


「踏み込む!」


レグルスの左足が床を噛んだ。


銀槍が移動盾の間を抜け、硬い第一外殻の継ぎ目へ突き入る。


穂先が半分まで入ったところで止まった。


直後、螺旋風が継ぎ目の内側へ潜り込む。


硬い外殻が左右から持ち上がった。


罅が縦に走る。


レグルスは腕力だけで押し込まない。右足で反動を受け、腰を落とし、回転する風が作った隙間へ穂先を半歩ずつ進める。


第一層が弾けた。


その奥から、暗赤色の仮初めの筋肉が槍へ絡みつく。


「開ける。閉じさせるな」


レグルスが短く告げた。


ユリウスは長剣を胸の前へ立てる。


一呼吸目で光を刃の芯へ集める。


二呼吸目で炎を刃先へ沿わせる。


三呼吸目、光と炎を混ぜずに重ねる。


四呼吸目、開いた外殻の幅を測る。


五呼吸目、長剣が白い光と薄い炎を纏った。


「光よ、我が刃の芯を照らし、炎よ、その縁を灼け。裂かれた仮初めの肉を閉じさせず、進む一線をここに残せ――第二階位・光・火複合魔法《光炎剣》」


「言われなくても、そのつもりだ」


ユリウスが右足を斜め前へ運ぶ。


レグルスの槍と交差しない位置から長剣を振り上げ、開口部の上縁だけを斬った。


白光が再生魔力の流れを照らす。


炎が切断面を細く焼き、伸びかけていた仮初めの筋肉を黒く縮ませた。


続く斬り下ろしで、下縁も焼く。


炎は開口部から外へ漏れない。第三土壁にも、成人警備員の盾にも届かなかった。


「第一層、開口を維持!」


成人記録官が叫ぶ。


だが、五つの偽核が同時に脈打った。


喉元と右脇腹から流れた再生魔力が、横方向から開口部へ伸びる。


「本物の位置は動いていません!」


セルフィナが図面へ指を置いた。


「中央深部のままです。右から来る魔力は偽核側!」


ユリウスは返事をせず、右から迫る外殻だけを見た。


長剣を水平へ返す。


光で再生の先端を捉え、炎の刃を押し当てる。外殻は実際に焼け落ちたが、その下から次の魔力が滲み出す。


完全には止まらない。


それでも、閉じる速度が鈍った。


レグルスは銀槍を半回転させた。


穂先の螺旋風が第二層の支持構造へ噛み込み、仮初めの骨格を左右へ押す。


反動が柄を逆流した。


レグルスの右肩が跳ね、後ろ足の足首が外へずれる。


「ぐっ……!」


掌の皮が擦れ、柄へ血が滲む。


それでも足を踏み直し、槍の角度を僅かに上へ変えた。


正面から貫くのではない。左右を繋いでいる支持部を、内側から順に剥がしている。


第二層が開いた。


心臓直前の高密度な再生魔力層が姿を現す。


暗赤色の膜が、銀槍の穂先を押し返した。


その時、不完全アークデーモンの右腕が持ち上がる。


「盾列、衝撃姿勢!」


成人警備員がレグルスとユリウスの前へ盾を重ねた。


右腕が横薙ぎに振るわれる。


爪が届く範囲は移動盾の手前だった。だが、その外側へ広がった魔力圧が六枚の盾へ激突する。


一枚目がへこむ。


二枚目の縁が割れる。


三列の成人警備員が肩を密着させ、靴底で石床を削りながら受けた。


盾列全体が二歩押し戻される。


一人の成人警備員が腕を打ち、後列へ下がった。すぐに王都残留警備隊の交代員が空いた位置へ入る。


レグルスも右足を半歩滑らせた。


銀槍の穂先が外れかける。


ユリウスはレグルスを支えなかった。


代わりに、閉じかけた上縁へ自分で踏み込み、光炎剣を差し入れた。レグルスが槍を戻すための空間を、炎で残したのだ。


レグルスも助けを待たない。


左足を中央へ戻し、銀槍を持ち直す。


「まだ開ける」


「なら遅れるな」


互いを指揮する言葉ではなかった。


それぞれが、自分の担当を続けるという確認だった。


レグルスが銀槍を高密度な魔力層へ突き入れた。


槍の射程と、その先の半歩。


螺旋風が届く限界まで、穂先を押し込む。


高密度な膜が中央から膨らみ、左右へ割れた。


強い反動がレグルスの肩を打つ。


右手の握力が落ち、足首が震えた。呼吸も大きく乱れている。


それでも、槍の柄を胸へ引きつけ、割れ目を押し広げたまま保つ。


ユリウスが開口部の上、右、下へ三度剣を走らせた。


白光が暗赤色の流れを縁取る。


薄い炎が再生外殻を焼き、閉じようとする端を後退させる。


籠手から煙が上がった。


柄へ伝わる熱で、ユリウスの掌が焼けている。腕は目に見えて震え、白光を見続けた瞳も焦点を失いかけていた。


それでも斬撃の幅は乱れない。


銀槍が開けた場所だけを、光剣が維持する。


やがて、三層の向こうに銀色の封印帯が見えた。


成人の両手に収まるほどへ圧縮された、暗い心臓遺物。


一度脈打つだけで、開口部の縁から新しい再生魔力が溢れ出す。


レグルスは銀槍を心臓へ向けなかった。


穂先を外殻の左側へずらし、道を押し広げることだけに使う。


ユリウスも長剣を核へ届かせず、再生する縁だけを焼いた。


「本物を確認!」


セレネ先生と成人記録官が同時に声を上げる。


「盾列中央、一人分だけ開けろ!」


成人警備隊長の命令で、僕の前にいた二人の成人警備員が左右へ半歩ずつ動いた。


僕は床の物理印から動かない。


破損した第三土壁の中央。


成人盾列の狭い間。


レグルスの銀槍が押し開いた三層の外殻。


ユリウスの光炎剣が焼いている開口部。


その全てが白い測量糸の上へ重なった。


二十歩先。


銀色の封印帯に巻かれた本物の心臓が、遮るものなく見える。


左腕の治療布にも、黒銀色の封魔具にも変化はない。


《暴食》も開いていない。


今はまだ、作られた道を確認するだけだ。


「《光炎剣》、維持限界まで残り僅か!」


成人記録官が数え始める。


不完全アークデーモンは倒れていない。


五つの偽核も脈打ち、心臓から溢れる再生魔力は焼かれた縁の外側で新たな外殻を作ろうとしている。


道がいつまで持つかは分からない。


その道をどう使えば安全なのかも、まだ決まっていない。


それでも、レグルスとユリウスは誰かの上下に並ぶことなく、自分で選んだ役割を果たしていた。


銀槍が装甲を開き、光剣が再生を焼き止めた先に、僕と本物の心臓を結ぶ一本の直線が生まれた。

 「面白かった!」


 「続きが気になる、読みたい!」


 「今後どうなるの!!」


 と思ったら


 下にある⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎から、作品の応援をお願いいたします。


 面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!


 ブックマークといただけると本当に嬉しいです。


 何卒よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ