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『属性適性なしの学院最下位、迷宮で見捨てられた僕は七罪の魔神と契約する ~最強英雄になった幼なじみに追いつくまで~  作者: ドキツトム


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第94話 雷剣の断線

「この場面を挿絵で見たい!」と思った箇所がありましたら、挿絵希望度を★1〜5で評価し、場面と一緒に感想欄で教えてください!


例:『〇〇と△△が対峙する場面/★★★★★』


皆さまの声を、今後の挿絵制作の参考にさせていただきます!



第三土壁の亀裂から、フィアは見えないはずの術式線が床を脈打たせる瞬間だけを待っていた。


同日の夜。


ティアナが築いた第一土壁は崩れ、第二土壁も大半を失っている。残された第三土壁の南には、不完全アークデーモンが立っていた。


胸郭中央で、銀色の封印帯に巻かれた心臓遺物が脈打つ。


どくん。


その瞬間だけ、崩れた土壁の下で何かが淡く光った。


「今の、見えた?」


僕が尋ねる。


フィアは第三土壁の亀裂へ顔を寄せたまま、細剣の柄へ手を置いた。


「線そのものは見えない。光った場所も一つだけ」


彼女より前では、成人警備員と王都残留警備隊が盾列を作っている。


第三土壁の北側に僕とレグルス。さらに後方では、消耗したティアナがバルト先生の確認を受けていた。


学院長と結界担当の先生たちは、第二結界区画の維持へ移っている。


七大魔法騎士も、主要騎士団の主力も戻っていない。


「四本は同時に動いていません」


セレネ先生が成人記録官の物理板を床へ置いた。


外側回廊に残る四本の召喚杭。その杭から伸びた術式線は、床下を通り、心臓遺物へ繋がっている。


身体を再生させる魔力そのものではない。


再構成体の形を支え、儀式側から進む方向を与えている可能性がある線だ。


「心臓の脈動へ合わせて、一本ずつ強くなっています。四本を一度に破壊すれば、残った線へ魔力が集中する恐れがあります」


「なら、床ごと切り離す」


レグルスが床の亀裂を見る。


セレネ先生は首を横へ振った。


「第三土壁と学院の支持構造まで失います。必要なのは破壊力ではありません。線が休む一瞬を見つけ、一本ずつ断つ精度です」


視線がフィアへ向く。


「雷を微量だけ流せば、術式線から戻る時間差を確認できるかもしれません。ただし、周期を誤れば雷が逆流します」


「やる」


フィアの返事は短かった。


「成人盾列を付ける」


成人警備隊長が即座に決める。


「二名一組で左右を守れ。線を切るたびに退路を確認する。無理なら途中で戻れ」


「分かりました」


フィアが細剣を抜いた。


土壁を築くために濡らされた床へ、切っ先をそっと置く。


「紫電よ、我が刃に沿い、偽りの脈だけを断て――第一階位・雷魔法《雷装・断脈》」


紫電が細剣を薄く覆った。


敵へ放つ雷ではない。


切っ先から床へ、髪の毛ほど細い雷が流れ込む。


一呼吸。


何も起こらない。


二呼吸目で、第三土壁の亀裂近くから青白い光が戻った。


続いて崩れた第二土壁の下。


不完全アークデーモンの左脚付近。


最後に南東側の床溝。


四つの光は同時ではない。僅かな間隔を置いて、順番に明滅していた。


僕は物理記録板へ位置と順番を書き込む。


一、第三土壁。


二、第二土壁。


三、左脚。


四、南東の床溝。


「もう一周期」


フィアが言った。


雷光が再び四か所を巡る。


三回目も、順番は同じだった。


ただし、一つが強く光る時、次の線はほとんど光を失っている。


「見えた」


フィアが細剣を持ち上げる。


魔力が強まる瞬間ではない。


光が消え、次の線へ流れが移る直前。


そこが断つべき休止点だ。


「一本目、行きます」


成人盾列が第三土壁の亀裂を左右へ広げる。


フィアは右足から半歩踏み込み、細剣を床へ滑らせた。


一本目の青白い光が強くなる。


まだ動かない。


光が細くなり、二本目へ移る寸前――刃先が床の溝を横切った。


硬質な音が一度だけ鳴る。


青白い線が、切断箇所から両側へ消えた。


ほかの三本は残っている。


「一本目、切断確認!」


成人記録官の声が響く。


フィアはすぐに刃を引いた。


その右手が僅かに震えている。


切断時に術式線から戻った雷が、指へ食い込んだのだ。


「続ける?」


僕は記録だけを示した。


決めるのはフィアだ。


「まだ握れる」


彼女は二本目へ視線を向けた。


崩れた第二土壁まで、七歩。


床には湿った土、砕けた石、切れた根が散乱している。


成人警備員二名が左右から盾を構え、フィアと同時に進んだ。


一歩。


二歩。


三歩目で土が滑る。


フィアは足裏を横へ向け、重心を低く落として踏み直した。根を跳び越え、右の盾から半歩も離れず進む。


不完全アークデーモンの心臓が脈打った。


二本目の線が、土砂の下で光る。


フィアは細剣を土へ突き入れた。


まだ切らない。


雷光が強まり、刃を押し返す。手首に紫電が跳ね、フィアの眉が痛みに寄った。


光が三本目へ移る。


その瞬間、手首を返す。


土だけが浅く裂け、その下の術式線が途切れた。


「二本目!」


四本の召喚杭のうち一つから光が消える。


不完全アークデーモンの上半身が僅かに傾いた。


しかし倒れない。


心臓遺物から暗赤色の魔力が流れ、不完全な左肩の輪郭を繋ぎ直している。


再生は止まっていなかった。


「戻れ!」


成人警備隊長の指示で、三人が第二土壁の陰へ下がる。


フィアは細剣を持ち替えようとしたが、右手の指がすぐには開かなかった。


「痺れが上がってる」


彼女自身が申告する。


「手首まで。でも、剣は落とさない」


「三本目は最も近い」


レグルスが銀槍の石突きを床へ置いた。


術式線は、不完全アークデーモンの左足から二歩ほど北にある。


右腕の直撃範囲ではない。


だが、その外側へ広がる魔力圧からは逃げにくい。


「俺は右腕との距離を測る。盾列の退路は中央に残す。フィア、お前が戻る場所だけは塞がん」


「頼む」


成人警備隊長が不完全アークデーモンの動きを見る。


「右腕を引いた。攻撃後に入る。盾列、受けるぞ!」


巨腕が横へ振るわれた。


成人警備員と王都残留警備隊が盾を重ねる。


衝撃が第三土壁を越え、第二防衛区画まで空気を震わせた。


盾列が二歩押し戻される。


それでも、フィアへ通じる中央の道は残った。


「今だ!」


フィアが飛び出す。


誰より速い。


けれど、一直線には走らない。


崩れた土壁を右へ避け、石材の手前で左足を細かく踏み替える。不完全な左脚から三歩の位置へ入り、低く身を沈めた。


心臓が鳴る。


三本目が光る。


フィアは細剣を構えるが、アークデーモンの左脚が突然持ち上がった。


踏み潰すためではない。ただ前へ進もうとしただけだ。


それでも、四メートルの巨体が動かす脚は、人間一人を容易に押し潰す。


フィアは切断を捨て、右後方へ跳んだ。


左足が直前までいた床へ落ちる。


石が砕け、術式線の光が土煙に消えた。


「退路は空いている!」


レグルスの銀槍が、戻る方向を示す。


だが、フィアは退かなかった。


土煙の中へ切っ先を差し込み、雷を一筋だけ流す。


床下から青白い光が返る。


強い。


次の瞬間、弱まる。


フィアの左足が前へ出た。


刃が左脚のすぐ脇を走り、三本目の術式線だけを断つ。


「三本目、切断!」


フィアはその勢いのまま床を蹴り、成人盾列の間へ戻った。


着地した右手から細剣が滑りかける。


僕は記録板へ次の周期を書きながら告げた。


「残りは南東。三回とも、三本目が消えてから四つ数えた後に強くなる」


フィアは僕を見ず、白み始めた視界を瞬きで戻そうとしていた。


「記録は受け取った。切る時は私が決める」


「うん」


後方からティアナの声が届く。


「第三土壁の東端は、あと一度なら通れる。戻るならそこ。南側の根はもう支えにならない」


レグルスも短く続ける。


「帰還路は確保した」


フィアが痺れた指を一本ずつ柄へ戻す。


「なら、行ける」


四本目は南東側の床溝。


不完全アークデーモンの正面から外れているが、第三土壁の守りも届かない。


成人警備員三名が斜めに盾を並べる。


フィアはその陰を進んだ。


一歩ごとに、細剣の紫電が弱くなる。


維持した雷が、彼女自身の手首と腕を焼くように痺れさせていた。


南東の床溝へ到達する。


四本目の光が強まった。


フィアは細剣を振り下ろさない。


光が一度過ぎるのを待つ。


不完全アークデーモンが右腕を床へ突く。衝撃で盾の一枚が割れ、成人警備員が後方へ弾かれた。


隣の成人警備員がすぐ前へ出る。


「こちらは保つ! 線を見ろ!」


フィアが再び切っ先を床へ置いた。


一つ。


二つ。


三つ。


僕が記録板を握る。


四つ目。


四本目の光が最大になる。


そこではない。


光が召喚杭側へ引き戻され、床溝が暗くなる。


フィアの細剣が走った。


青白い線が左右へ裂け、消える。


地下門側の四本の召喚杭から、一斉に光が失われた。


不完全アークデーモンの身体が止まる。


右腕が半ばまで持ち上がった姿勢で揺れ、不完全な顔がわずかに横を向いた。


それでも心臓は鳴った。


暗赤色の再生魔力は、胸郭から全身へ流れ続けている。


「召喚杭との接続は切れました!」


セレネ先生が確認する。


「ですが、再構成体は活動を継続しています。全員、警戒を解かないでください!」


フィアが成人盾列へ戻ろうとする。


その時、南東の側面通路から足音が響いた。


外側回廊から学院中央南側へ続く保守路。


そこを、ローデン評議官が走ってきた。


片腕に《アークデーモン心臓遺物封印簿》の原本を抱え、もう一方の手には細長い金属針を持っている。


「線は繋ぎ直せる」


ローデン評議官は床溝の前へ膝をついた。


物理式の再接続針を、切断された四本目の線へ差し込む。


封印簿原本を開き、心臓遺物の封印番号へ針の目盛りを合わせた。


複製された学院固定式認証が淡く光る。


そこへ、ローデン評議官本人の生きた魔力が流れ込んだ。


「心臓は既にここにある。器へ届ければ足りる」


床溝から、第五の仮接続線が伸びる。


召喚杭ではない。


ローデン評議官の手元から、不完全アークデーモンの心臓へ向かう線だった。


フィアは既に細剣の間合いにいる。


一歩踏み込めば、ローデン評議官の手を斬れる。


二歩なら肩。


三歩なら首へも届く。


ローデン評議官が顔を上げた。


フィアの細剣が動く。


刃は身体へ向かわなかった。


痺れた手で切っ先を床へ落とし、最後に残った紫電を仮接続線へ流す。


「斬るべきなのは、あなたじゃない」


青白い線が一瞬だけ露わになる。


「あなたが災厄へ繋いだ線だけ」


フィアが踏み込んだ。


《雷剣・断線》。


細剣が、ローデン評議官の指先から再接続針へ伸びた仮接続線だけを横切った。


雷が弾ける。


接続反動を受けたローデン評議官が床へ片手をついた。再接続針が抜け、金属音を立てて転がる。


身体に斬り傷はない。


フィアは細剣を振り切った姿勢で止まり、荒い呼吸を繰り返した。


右手の指は、もう柄を握り込めていない。


ローデン評議官は封印簿原本を抱え直し、東側保守通路へ走った。


その先は医療区画の手前へ繋がっている。


「東へ逃走!」


成人警備員が二人一組で追い、左右の脇道を塞ぐ。


第二防衛区画から、セレネ先生と成人封印官が回り込んだ。


医療区画側からはバルト先生と成人警備員三名が出る。


前後を挟まれ、ローデン評議官の足が止まった。


セレネ先生が八歩以内へ踏み込む。


左右の成人封印官が補助印を掲げた。


「盗まれた鍵よ、偽られた印よ、その応答をここに閉ざせ。環は手を縛り、鎖は術路を断ち、許されぬ認証を沈黙させよ――第三階位・封印術《認証縛環》」


淡い封印環が、ローデン評議官の両手首と足元へ閉じた。


複製認証の光が消える。


ローデン評議官は魔力を流そうとしたが、認証へ続く経路が反応しない。


セレネ先生の腕も大きく震えた。


成人封印官が左右から術を支え、封印環を維持する。


「今です!」


成人警備員二名がローデン評議官の肩と脚を押さえる。


バルト先生が医療用拘束帯を両腕へ巻き、背中側で固定した。


別の拘束帯が膝と足首をまとめる。


「呼吸あり。意識あり。脈は速いが、命に別状はない」


バルト先生は拘束後も状態を確認した。


その場で殴ることも、問い詰めることもしない。


成人記録官が落ちた封印簿原本を拾う。


学院側と王国側の二名で番号と外装を確認し、二重封印された物理証拠箱へ収めた。


原本は本物だ。


けれど、その全内容が明らかになったわけではない。


学院中央では、不完全アークデーモンが再び動き始めていた。


四本の召喚杭との接続はない。


それでも心臓遺物は脈打ち、仮初めの身体へ再生魔力を流し続けている。


戦いは終わっていない。


フィアは成人警備員に守られながら、痺れた右手から細剣を鞘へ収めた。


彼女は最速の剣で、人を斬らなかった。


誰より速い剣を人へ向けず、災厄へ続く線だけを一本ずつ断ち切った――それが、フィアの『雷剣の断線』だった。

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 面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!


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