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『属性適性なしの学院最下位、迷宮で見捨てられた僕は七罪の魔神と契約する ~最強英雄になった幼なじみに追いつくまで~  作者: ドキツトム


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第92話 英雄のいない日

「この場面を挿絵で見たい!」と思った箇所がありましたら、挿絵希望度を★1〜5で評価し、場面と一緒に感想欄で教えてください!


例:『〇〇と△△が対峙する場面/★★★★★』


皆さまの声を、今後の挿絵制作の参考にさせていただきます!



七大魔法騎士が戻れないという四枚の戦況票が、不完全なアークデーモンの次の一歩と同時に学院中央へ届いた。


巨体の右足が石床を踏み抜き、低い衝撃が柱から天井へ駆け上がる。


同日の夜。先生たちの攻撃で失った右腕も胸郭も、銀色の封印帯を巻かれた心臓遺物から流れる再生魔力によって、既に元の不完全な姿へ戻っていた。


成人警備員と王都残留警備隊の盾列が後退する横を、物理伝令が駆け抜けた。


「王国中央より、四地域の戦況票です!」


王国連絡官が封筒を受け取る。


学院長の前で物理封印を調べ、正規印、当日認証、記録番号を順に照合した。


「全て正規記録です。通常通信網の転記ではありません。各地から届いた物理報告の原本確認印もあります」


学院長が最初の一枚を開く。


「北部。数百体規模の魔物群が二つの峠へ到達。雷虎騎士団と風鷹騎士団が現地守備隊と交戦中」


読み上げる間にも、アークデーモンが右腕を振り上げる。


盾列が左右へ開き、中央から重い物理防壁が下ろされた。


轟音。


爪が防壁を引き裂き、厚い金属板が内側へ歪んだ。


「両騎士団が離脱すれば、峠の後方にある複数集落の避難路が開放状態になります」


王国連絡官が続ける。


二枚目は西部だった。


広域結界柱の不安定化は止まっていない。炎獅子騎士団と土亀騎士団は、穀倉地帯と避難路を分担して防衛している。


一方が抜ければ、地下と森林から流入した魔物群が避難者へ追いつく。


三枚目の南部では、水路結界の歪みが拡大していた。


水蝶騎士団と光龍騎士団は、堤防、避難船、結界技師を同時に守っている。水蝶騎士団の選抜部隊にいるレイシアも、現地の任務から動けない。


四枚目は東部。


灰鬼騎士団が、旧森林帯から交易路へ出た複数種の魔物群を食い止めていた。撤退すれば、巡回拠点だけでなく、その先にある小集落まで危険に晒される。


どれも偽物ではなかった。


どの戦場にも、守らなければならない人がいる。


「帰還可能時刻は?」


学院長の問いに、王国連絡官が首を横へ振った。


「確定できません。少なくとも、学院が必要としている時間には間に合いません」


不完全アークデーモンの胸で、心臓遺物が脈打つ。


七大魔法騎士がいないという事実が、急に広くなった学院中央へ重く落ちた。


それでも学院長は、戦況票を握り潰さなかった。


「七騎へ無理な帰還命令は出さない。彼らを戻せば、王国の別の場所で避難路が破られる」


迷いのない声だった。


「学院に残った者で時間を作る。中央分節結界を起動する」


残留職員が中央制御盤の金属蓋を開いた。


これは誰か一人が唱える魔法ではない。学院に以前から備わる災害防御設備だ。


四基の可動式結界支柱と、床下を通る物理導線。それらを中央制御盤へ接続し、学院中央の通路を複数に分けて封鎖する。


学院長が中央制御盤へ認証鍵を差し込む。


セレネ先生と結界担当の先生たちが、各導線へ手を置いた。


淡い金色の線が床を走り、四基の支柱を結ぶ。南北の通路を横断する形で、半透明の第一結界面が立ち上がった。


「供給を一定に! 一人へ負荷を集中させないでください!」


セレネ先生が支柱の目盛りを確認する。


直前に攻撃魔法を使った土術担当の先生、火術担当の先生、光術担当の先生も、呼吸を整えながら補助導線へ魔力を送った。


腕は震え、額には汗が浮いている。


誰も無限には支えられない。


結界が時間を作る間に、次の配置を完成させる必要があった。


「生徒は成人責任者の指示に従え! 戦闘ではなく、避難と維持作業を優先する!」


成人警備隊長の指示が中央を走る。


物理伝令札を抱えた十回生が各通路へ散った。別の生徒たちは結界支柱用の楔と留め具を運び、盾や水を成人警備員へ渡していく。


正門では、ユリウスが成人門衛と増援者の物理印を確認していた。未確認者を混ぜることなく、正規の王都残留警備隊だけを小さな確認口から通している。


上層ではセルフィナの健康な風精霊が、学院中央から吹き上がる石粉と魔力圧を追っていた。その報告を、フェリナが高所信号所から目視で確かめ、灯火と物理鐘で伝える。


西側では、メルナが維持していた幻像の矢印を切り替えた。成人職員も物理案内板の向きを変え、避難者を損傷の少ない通路へ分散させる。


東側では、バルト先生が搬送順を決めていた。


ミナは成人治療職員と担架の両端を持ち、打撲を負った成人警備員を医療区画へ運んでいる。戦うために前線へ戻ろうとはしない。


それでも、彼女が負傷者を運ぶからこそ、代わりの成人警備員が盾列へ入れる。


役割は、剣を持つことだけではなかった。


僕は一瞬だけ、治療布と封魔具に覆われた左腕を見た。


《暴食》なら、放出された再生魔力を奪えるかもしれない。


けれど一呼吸では足りず、長く開く安全な方法もない。


ここで僕が七大魔法騎士の代わりになろうとしても、仲間の魔力まで危険へ晒すだけだ。


なら、今の僕にできることは何だ。


不完全アークデーモンが第一結界面の前へ立った。


比較的形の整った右腕を引く。


肩が後ろへ回り、腰が遅れて沈んだ。


「来るぞ!」


成人警備員が盾を重ねる。


右拳が結界面へ叩き込まれた。


光の壁が弓のようにたわみ、衝撃が四基の支柱へ分かれて走る。学院長と先生たちの腕が同時に揺れた。


南側の可動支柱が跳ねる。


その車輪の下で、石床が割れた。


亀裂は支柱の真下から北西へ伸び、固定用の物理楔を一本弾き飛ばした。


「南支柱、床が持ちません!」


成人保守職員が叫ぶ。


直後、地下支持区画から物理伝令札が届いた。


ガルナと成人保守職員が、現行図面と振動板を照合した記録だった。


南支柱の現在地は、中央避難階段から伸びた亀裂の上にある。そこから十二歩東なら、比較的損傷の少ない支持線へ移せる。


「導線の余裕は?」


学院長が尋ねる。


「十二歩までです。それ以上は物理接続が抜けます!」


「支柱を東へ移す。結界供給は止めない」


命令を受けても、すぐには動かせなかった。


支柱は成人の背丈を越え、四方に鉄の車輪を備えている。成人保守職員、成人警備員、それに複数の十回生が一緒に押す必要があった。


問題は、結界の向こうにいる災厄だ。


次の一撃が移動中の支柱へ伝われば、固定できないまま倒れる。


僕はアークデーモンの右肩を見た。


さっきの攻撃直後、腕は結界面へ押しつけられていた。そこから爪を抜き、肘を戻し、肩を引き直すまで――。


「成人警備隊長」


「何だ」


「右腕の攻撃後、次の構えへ戻るまでに短い間があります。確定した弱点ではありません。でも、支柱を動かす時間には使えます」


「どれくらいだ」


「最初の攻撃では八つ数えられました。ただ、次も同じとは限りません」


成人警備隊長は僕の報告だけで決めなかった。


前列の成人警備員へ視線を向ける。


「腕の戻りは?」


「こちらでも遅れを確認しました。左脚が不完全なため、構え直す際に重心が一度止まります」


成人警備隊長がうなずいた。


「移設を承認する。最短で動かし、アルトの打音で停止しろ。異変があれば即時退避だ」


僕が指揮官になったわけではない。


僕の観察が、前列の報告と照合され、成人責任者の判断へ繋がっただけだ。


それで十分だった。


「直線は駄目」


ティアナが床へしゃがみ、亀裂の向きを確かめる。


「五歩目と六歩目の間が沈んでる。最初に二歩東、そのあと北へ半歩ずらして、弧を描くように戻せば安定した支持線へ乗る」


成人保守職員が床を槌で叩き、音を確認した。


「その経路で行く!」


フィアが支柱の下を見る。


「右後輪に古い固定帯が絡んでる。正規の帯じゃない。これだけ切る」


細剣が一閃した。


古びた帯だけが落ち、隣を通る魔力導線には刃先一つ触れない。


レグルスは銀槍を逆手に持ち、刃先を外へ向けた。


「車輪が沈んだ時だけ槍柄を入れる。押す力はそちらで合わせろ。俺一人では持ち上がらん」


成人保守職員と十回生たちが支柱の後ろへ並ぶ。


僕は右手に物理記録板を持ち、腰へ下げられていた打音具を握った。


左腕は身体へ寄せたままにする。


結界の向こうで、アークデーモンが右腕を引き始めた。


一度目より速い。


「構えに入った!」


僕が叫ぶ。


成人警備隊長が全員を結界後方へ退避させた。


拳が再び結界面へ叩き込まれる。


金色の光が波打ち、南支柱の車輪が亀裂の縁まで滑った。


アークデーモンの爪が結界面へ食い込み、止まる。


今だ。


僕は打音具を一度鳴らした。


「移動開始!」


成人保守職員と生徒たちが一斉に押す。


支柱の車輪が軋み、床を一歩、二歩と進んだ。


先生たちは魔力供給を切らない。移動に合わせて床の導線が引かれ、結界面が斜めに歪む。


三歩。


四歩。


ティアナが床へ置いた物理楔の間を通る。


「少し右! そこから弧を描いて!」


五歩目。


前輪は安全な線を越えた。


しかし六歩目で、右後輪が亀裂へ落ちた。


支柱が傾く。


中央制御盤の目盛りが一気に下がり、結界面の南端へ細い亀裂が走った。


「押しても駄目! 車輪が縁に噛んでる!」


ティアナが物理楔を掴み、亀裂と車輪の隙間を示す。


「ここへ二本! 角度を揃えて!」


成人保守職員が楔を打ち込む。


フィアが支柱の下へ視線を走らせた。


「切った帯の残りが車軸へ巻きついてる!」


再び細剣が走る。


車軸を傷つけず、絡んだ帯の端だけが切断された。


「レグルス!」


「分かっている!」


銀槍の柄が車輪の下へ差し込まれる。


レグルス一人では上がらない。成人保守職員二人が柄へ手を添え、十回生たちが支柱を押した。


「合わせろ! 三つで押す!」


一。


二。


三。


車輪が楔を乗り越えた。


支柱が大きく揺れながら、亀裂の外へ抜ける。


僕は記録板へ目を落とした。


移動後の固定順は、東側安全留め、下部楔、外側固定帯。順番を違えれば、結界の圧力で支柱が元の位置へ引き戻される。


「東の安全留めからです! 次に下部楔、固定帯は最後!」


「記録と一致する!」


成人保守職員が確認し、留め具へ手を伸ばした。


その時、結界の向こうで爪が抜けた。


不完全な右肩が後ろへ回る。


想定より早い。


「次が来る! 固定を急いで!」


七歩、八歩、九歩。


車輪が支持線へ乗る。


十歩、十一歩。


最後の十二歩目で、成人保守職員が東側安全留めを落とした。


下部楔が四輪へ打ち込まれる。


固定帯が支柱と床環を結んだ。


「固定完了!」


僕は打音具を二度、強く鳴らした。


「全員退避!」


生徒も成人職員も、支柱を置いて北へ走る。


僕の右脚へ薄い痺れが走ったが、まだ足は動く。


「右脚に痺れがあります。移動は可能です!」


隠さず叫び、成人警備員の指示に従って最後尾から下がった。


全員が結界後方へ入った直後、アークデーモンの拳が三度目の衝撃を放った。


結界面が深くたわむ。


南端の亀裂が枝分かれし、先生たちの呼吸が同時に乱れた。


移設した支柱も半歩ほど滑った。


それでも、倒れない。


十二歩東の支持線と四つの楔が衝撃を床へ逃がし、中央分節結界は形を保った。


「維持できています!」


セレネ先生が目盛りを確かめる。


その報告とほぼ同時に、西側から物理札が届いた。


避難者の移動完了。


東側からも、最後の負傷者が安全区画へ入ったという札が届く。ミナと成人治療職員が担架を運び終え、バルト先生が人数を照合したのだ。


不完全アークデーモンは倒れていない。


胸の心臓遺物も、暗赤色の再生魔力を流し続けている。


中央分節結界にも、既に消せない亀裂が入っていた。


僕たちが稼いだのは、ほんの僅かな時間だけだ。


「英雄の代わりになるつもりだった?」


ティアナが乱れた呼吸を整えながら尋ねた。


僕は左腕ではなく、右手に持った打音具を見た。


「ならない。僕にできる仕事をする」


フィアが細剣に残った帯の切れ端を払い落とす。


「時機は見誤らなかった。それで一つ、結界が残った」


「次も報告を遅らせるな」


レグルスが銀槍の柄を確かめる。


「一人で抱え込まれる方が、周りには迷惑だ」


学院の外には、戻れない七人の英雄がいる。


学院の中には、その力に届かない僕たちがいる。


けれど、届かないから何もできないわけではない。


観測する者がいる。


床を調べる者がいる。


道を示す者、負傷者を運ぶ者、門を守る者、結界へ魔力を送り続ける者がいる。


僕はその間を繋ぎ、次に動ける一瞬を知らせればいい。


英雄のいない日、僕が選んだのは誰かの代わりになることではなく、僕にできる一歩で、みんなの防衛線を途切れさせないことだった。

 「面白かった!」


 「続きが気になる、読みたい!」


 「今後どうなるの!!」


 と思ったら


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 面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!


 ブックマークといただけると本当に嬉しいです。


 何卒よろしくお願いいたします。

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