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『属性適性なしの学院最下位、迷宮で見捨てられた僕は七罪の魔神と契約する ~最強英雄になった幼なじみに追いつくまで~  作者: ドキツトム


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第91話 アークデーモン

「この場面を挿絵で見たい!」と思った箇所がありましたら、挿絵希望度を★1〜5で評価し、場面と一緒に感想欄で教えてください!


例:『〇〇と△△が対峙する場面/★★★★★』


皆さまの声を、今後の挿絵制作の参考にさせていただきます!



中央防壁を突き破った不完全な右腕が、学院中央の石床へ五本の爪を食い込ませた。


砕けた石材が北へ弾け、成人警備員の盾へ雨のように降り注ぐ。


心臓遺物を核とした巨体が立ち上がってから、まだ数呼吸しか経っていない。同日の夜。破壊された中央避難階段を上り、不完全なアークデーモンが学院中央へ半身を乗り出していた。


四メートル前後の左右非対称な身体。右腕と上半身は比較的形を保っているが、左半身の輪郭は魔素の煙となって崩れ、また結び直されている。


顔の半分に目も口もない。


胸郭の中央では、銀色の封印帯を巻かれた心臓遺物だけが、異様な重さで脈打っていた。


南側の物理防壁から十歩ほど北に、成人警備員と王都残留警備隊が二重の盾列を作っている。その後方に戦闘担当の先生たち。僕たち四人は、成人警備隊長の命令でさらに六歩下がった位置にいた。


「前列、受けるな。爪の正面から半歩ずらせ! 第二列、槍!」


成人警備隊長の声が響く。


アークデーモンの右腕が床を掻いた。


石片が跳ねるより先に、前列が左右へ開く。二列目から六本の槍が突き出され、右腕の仮初めの筋肉へ深々と食い込んだ。


手応えはある。


幻でも、物理攻撃をすり抜ける霊体でもない。


続いて左右から踏み込んだ成人警備員が、長剣で肘の外殻を削る。後方の強弩が鳴り、太い矢が肩を貫通した。


右腕が石床へ沈む。


けれど、胸の心臓が一度、重く鳴った。


どくん。


暗赤色の魔力が、胸郭から肩へ走る。血管にも似た光の筋が傷口へ集まり、欠けた骨格を繋ぎ、その上へ筋肉と外殻を順番に編み上げていく。


強弩の矢が、再生する肉に押し出されて落ちた。


「三呼吸もかからない……」


フィアが細剣を抜かずに呟く。


最初の一呼吸で骨が戻り、次で筋肉が形を得た。三度目の呼吸を終えるより先に、削られた肘の外殻まで塞がっている。


ただし、姿が完全体へ近づいたわけではない。


再生後も左半身は歪み、顔の半分は欠けたままだ。心臓遺物に残された型を、同じ不完全な輪郭へ戻しているだけだった。


「攻撃は通っている」


レグルスが銀槍を低く構え、盾列の交代位置を確認する。


「通った端から、なかったことにされているだけだ」


アークデーモンが右脚を階段の上へ置いた。


ティアナが床へ視線を落とす。


「中央の床は、あと二歩なら耐える。左側は駄目。支持石に亀裂が繋がってる」


その報告を受け、成人警備隊長が即座に左列を下げた。


「土術担当の先生、拘束を! 正面へ固定した後、左右の射線を開く!」


土術担当の先生が盾列の隙間から三歩前へ出た。両足を肩幅に開き、杖の石突きを床へ打ちつける。


詠唱の間、成人警備員が盾を重ねて前を塞ぐ。


「大地よ、深き根より鎖を起こし、踏み荒らす巨躯の四肢を縛り、その重みを礎へ沈めよ――第三階位・土魔法《地鎖封脚》」


石床が波打った。


学院の基礎全体ではない。アークデーモンの両脚を囲む範囲だけが隆起し、六本の太い岩鎖へ変わる。


二本が右足首へ巻きつき、二本が不完全な左脚を挟む。残る二本は腰の下まで伸び、巨体の重みを床へ引き込んだ。


アークデーモンの前進が止まる。


反動で土術担当の先生の膝が揺れた。杖へ体重を預け、肩で大きく息をする。


「拘束確認! 前列、左右へ退避!」


盾列が中央を空けた。


火術担当の先生が両手を前へ掲げる。熱が集まるまでには数呼吸が必要だった。成人警備員は射程の外へ下がり、王都残留警備隊が東西の通路を封鎖する。


「炎よ、幾重の穂となり、熱を束ね、逃れ得ぬ連雨となって、我らが前を侵す巨躯へ降り注げ――第三階位・火魔法《灼槍連雨》」


天井の直下へ、幾十もの炎槍が並んだ。


一斉ではない。


第一の炎槍が右手を貫き、第二、第三が肘を砕く。その直後へ残る炎槍が連続して降り注ぎ、右腕と肩を焼き切った。


灼熱の風が僕たちの位置まで届く。


床は黒く焦げたが、炎槍は中央の狭い範囲へ正確に絞られている。東の医療区画にも、西の避難経路にも火は流れなかった。


焼け落ちた右腕が、巨大な炭の塊となって床を転がる。


火術担当の先生も、その場で片膝をついた。吐く息が熱に震え、額から汗が滴っている。


「胸郭、開きました!」


成人警備員の報告に、光術担当の先生が片目を細めた。


味方が射線から消えたことを二度確認する。その間にも、心臓から暗赤色の筋が肩へ伸び始めていた。


「光よ、散る輝きを一線へ束ね、偽りの肉と魔力の層を貫く白き杭となれ――第三階位・光魔法《白光穿杭》」


白い光が、一本の杭へ収束した。


眩しさが視界を塗り潰す。


光杭はアークデーモンの胸郭へ正面から突き刺さり、外殻と仮初めの筋肉を一直線に消し飛ばした。


露出した心臓遺物まで、あと指一本分。


そこで光は銀色の封印帯と、その周囲を覆う暗い魔力層に阻まれた。白と暗赤色がぶつかり、甲高い音を残して砕け散る。


光術担当の先生が腕を押さえてよろめいた。


「核まで、届かない……!」


その目は眩しさで白んでいる。それでも攻撃は、胸郭をほとんど貫き、右肩と腕を失った巨体を岩鎖の中へ沈ませていた。


三人の先生の攻撃は確かに災厄の身体を破壊した。


それでも。


どくん。


一度目の脈動で、胸郭に骨の輪が現れた。


どくん。


二度目で、暗赤色の魔力が骨を覆い、焼き落とされた肩へ伸びる。


どくん。


三度目で筋肉と外殻が結ばれ、右腕が指先から逆向きに生え揃った。


同時に、再構成された両脚が内側から膨張する。


岩鎖へ亀裂が走った。


土術担当の先生が杖を握り直すが、魔力を使い切った脚が立ち上がらない。


「下がってください!」


成人警備員二人が先生を抱えて後列へ運ぶ。


次の瞬間、六本の岩鎖が内側から弾け飛んだ。


アークデーモンの右腕が横薙ぎに振るわれる。


爪が直接届く範囲から、成人盾列の前列が身を沈めて退いた。だが、腕の外側へ広がった魔力圧までは避けきれない。


「盾を重ねろ!」


七枚の盾が一つの壁になる。


衝撃。


前列の靴底が石床を削り、盾列全体が三歩押し戻された。端にいた成人警備員が肩から床へ倒れ、別の一人は割れた盾で頬を擦った。


それでも列は崩れない。


後列が負傷した二人を引き込み、王都残留警備隊が空いた場所へ入る。倒れた成人警備員は意識を保ったまま、東側の搬送路へ送られた。


ミナと成人治療職員が二人一組で担架を運ぶ姿が見えた。バルト先生の短い指示が医療区画から飛び、次の負傷者を受け入れる場所が即座に空けられる。


西側ではメルナの幻像標が向きを変え、避難者を前線から遠い階段へ導いていた。


正門も捨てられてはいない。ユリウスから届いた物理札には、増援経路を維持していると記されていた。


上層ではセルフィナの健康な風精霊とフェリナの物理信号が、中央から上へ抜ける魔力圧を観測している。


誰もが、自分の持ち場でこの一歩を止めようとしていた。


「測定線を張ります」


セレネ先生が成人記録官とともに、盾列のさらに後方へ器具を置いた。


細い魔力試験線が三本。複数の目盛り板と、物理記録針。


試験線の先端を、再生の際に漏れた暗赤色の光へ近づける。


心臓が脈打つたび、記録針が跳ねた。


一枚目の上限を越える。


成人記録官が予備の目盛り板へ切り替えたが、針は止まらない。過去の災害基準を刻んだ最上段へ達し、そこで細かく震え続けた。


「測定範囲外です」


セレネ先生の声は静かだった。


「無限と断じる根拠はありません。ですが、学院でこの戦闘を続けられる時間内に、枯渇を待てる量ではありません」


「同じ攻撃を続ければ?」


僕が尋ねる。


「先に、先生たちと防衛隊の魔力と体力が尽きます」


セレネ先生は再生した胸郭を見た。


「攻撃が効かないのではありません。あの身体は壊せます。ただ、壊すたびに心臓遺物から新しい魔力が供給される」


通常魔法は、魔力を炎や光、圧力や物質変化へ変える。散らし、縛り、別の現象へ置き換えることもできる。


けれど、心臓に残る総量そのものを消し去るわけではない。


「循環から魔力を抜かなければならない……」


ティアナが呟いた。


セレネ先生の視線が、僕の左腕へ移る。


治療布と黒銀色の封魔具に覆われた腕は、今は何の反応も示していない。


「可能性があるとすれば、《暴食》です」


空気が張り詰めた。


僕は左腕を身体へ寄せた。暴食は開いていない。封魔具も作動していない。


「心臓を喰わせるという意味ですか」


「違います」


セレネ先生は即座に否定した。


「星冠教団は心臓遺物を《暴食》へ捕食させようとしました。それは、《暴食》が魔力を変換するのではなく、循環している総量から奪えると彼らが考えている証拠でもあります」


セレネ先生は、再生途中に見えた暗赤色の筋を指した。


「狙うなら心臓ではありません。身体を直すため、傷口へ放出された再生魔力です。外へ出た分だけを循環から奪えれば、心臓そのものを捕食せずに再生量を減らせるかもしれません」


あくまで、可能性。


成功した記録はない。


再生魔力だけを選べる保証もなく、近くには先生や成人警備員がいる。一つ間違えば、守るべき人の魔力まで巻き込む。


東側からバルト先生が足早に来た。前線へは出ず、僕たちの後方で左腕と呼吸を確認する。


「長時間の使用は認められない」


低く、はっきりした声だった。


「お前が意図的に開いて閉じた記録は、一呼吸以内しかない。それも安全が証明された時間ではない。左腕の炎症も熱傷も完治していない。右脚の痺れも残っている」


「一呼吸なら、どこまで奪えますか」


僕はすぐ使うとは言わなかった。


「再生を止めるには、何が足りないんですか」


セレネ先生が測定板へ視線を落とす。


「流量が大きすぎます。仮に一呼吸だけ奪えても、一度の再生を僅かに遅らせる程度でしょう。次の脈動で、また心臓から流れ込む」


「流れを細くするか、奪う時間を延ばす必要がある」


ティアナが続けた。


「どちらも、まだ方法がない」


フィアはアークデーモンの再生を見据えていた。


「胸が戻るまでには短い隙がある。でも、あれだけじゃ心臓を壊せない。アルトを近づける隙にもならない」


「可能性があることと、今使えることは別だ」


レグルスが銀槍の石突きを床へ置く。


「条件もないまま開けば、防衛線ごと危険にするだけだ」


ティアナの指が、僕の無事な右袖を短く掴んだ。


「可能性があることと、今すぐ一人で使うことは違う」


戦闘音の中でも、その指が僅かに震えているのが分かった。


僕は短くうなずく。


フィアも細剣を下げたまま言った。


「再生を止める条件と、周りを巻き込まない条件。その両方が揃うまでは使わせない」


「異論はない」


レグルスが正面へ視線を戻す。


僕も右手で剣を握り直した。


自分だけが持つ可能性だからといって、自分だけで答えを決めていいわけではない。


前方で、心臓遺物が再び脈打った。


右腕も胸郭も脚部も、同じ不完全な輪郭へ再生を終えている。


成人警備隊長が新しい盾列を組み直す。先生たちは消耗した三人を後方へ下げ、次の攻撃に備えて射線を測る。


アークデーモンが、学院中央へ次の一歩を踏み出した。


「僕の《暴食》だけが再生魔力を奪えるかもしれない――けれど、一呼吸では、災厄の心臓が生み出す奔流に届くはずもなかった。」

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