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『属性適性なしの学院最下位、迷宮で見捨てられた僕は七罪の魔神と契約する ~最強英雄になった幼なじみに追いつくまで~  作者: ドキツトム


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第89話 名のない防衛線

「この場面を挿絵で見たい!」と思った箇所がありましたら、挿絵希望度を★1〜5で評価し、場面と一緒に感想欄で教えてください!


例:『〇〇と△△が対峙する場面/★★★★★』


皆さまの声を、今後の挿絵制作の参考にさせていただきます!



戦団名を書く欄だけを空白にした配置板が、地下からの衝撃で僕たち四人の前へ倒れかけた。


レグルスが銀槍の石突きを伸ばし、板の縁を受け止める。


「配置を決める前から倒れてどうする」


成人警備隊長が配置板を立て直し、床の固定具へ差し込んだ。


僕が一人で投降するという考えを撤回してから、まだ数分しか経っていない。


同じ夜のまま、地下から響く破壊音だけが、少しずつ近くなっていた。


大型地下門は開放されたまま。


外側回廊では、星冠教団の信徒たちが封印破壊杭を打ち込み続けている。


《重環封鎖》の外環は既に砕かれ、中環にも太い亀裂が走っていた。それでも最後の内環は、セレネ先生と成人封印官たちによって維持されている。


さらに回廊の奥では、四本の召喚杭を結ぶ《深層遺物牽引》の術式線が脈打っていた。


地下遺物は、まだ現れていない。


けれど、床下から伝わる規則的な振動は、召喚術が止まっていないことを示していた。


「お前たちは中央交差廊を守れ」


成人警備隊長が配置板を指す。


中央避難階段を上った先には、四方向へ延びる交差廊がある。


北は正門、東は医療区画、西は避難区画と下級生寮、南は僕たちの背後にある地下入口。


ここを抜かれれば、侵入者は学院の各区画へ散らばれる。


「我々が主力だ。お前たちは通路確認と迎撃補助。南の階段を越えて追撃するな。撤退命令が出た場合は、東西どちらかの安全な経路へ移れ」


「分かりました」


僕たちはそれぞれ答えた。


配置板にはアルト、ティアナ、フィア、レグルスと記されている。


けれど戦団長の欄も、戦団名の欄も空白だった。


僕たちは正式な戦団ではない。


成人警備隊長の指揮下で、同じ場所を守る四人にすぎなかった。


「南東の床はまだ使える。でも、南西の継ぎ目が少し広がってる」


ティアナが床へ膝をつき、石板の境目を目で追った。


魔力を使うのではなく、指先で細かな石粉の動きを確かめている。


「次に揺れたら、そっちは踏まない方がいい。移動防壁も東寄りに置こう」


「ならば中央から西へ三歩分、俺の間合いにする」


レグルスが銀槍を横へ向け、穂先が誰にも触れない高さで通路幅を測る。


「東は?」


フィアが細剣の柄へ手を添えた。


「僕と成人警備員で見る。ただし、僕の判断だけでは動かない。変化があれば共有する」


「最初からそのつもり」


フィアは短く返した。


その時、西側の廊下に淡い光の矢印が浮かんだ。


直前からメルナが維持している幻像の案内標だ。


しかし、矢印は途中で薄れ、東側へ向きを変える。


すぐ後に、小さな鈴に似た誘導音が二度鳴った。


西階段に新しい損傷が見つかったのだ。


「避難経路、西から東へ変更!」


成人職員の声が続き、物理案内板も掛け替えられる。


幻像だけに頼ってはいない。


メルナが異常を見つけ、成人職員へ伝え、物理案内と一緒に避難列を動かしている。


少し前まで、メルナはフィアやレグルスの動きに幻像を重ねる役だと思っていた。


けれど今は違う。


誰かの指示を待たず、自分の担当する命の流れを見ている。


「負傷者、東へ通ります!」


廊下の奥からミナの声がした。


成人治療職員と二人で担架を運んでくる。担架には、入口封印で石片を受けた成人警備員が横たわっていた。


ミナは武器を持っていない。


額には汗が浮かび、担架を支える両腕も震えている。それでも足を止めず、成人治療職員と歩調を合わせていた。


「段差です。ゆっくり上げます」


「一、二――今だ」


二人は担架を傾けず、中央交差廊の段差を越える。


僕たちは道を空けた。


ミナは僕たちを一度だけ見たが、前線へ残ろうとはしなかった。


負傷者を医療区画へ運ぶ。


今のミナが守るべき場所は、そこだった。


北側から物理伝令が駆け込んできた。


「上層観測廊より報告! セルフィナの風精霊が、学院外壁沿いを移動する未確認者を捉えました。正確な人数と装備は不明!」


成人警備隊長が即座に問い返す。


「高所からの確認は」


「フェリナと成人監視員が目視確認中です!」


伝令の言葉が終わるより先に、高所信号所の物理鐘が鳴った。


短く一度、間を置いて二度。


学院外周に不審者あり。正門へ接近せず、壁沿いに移動中。


決められた信号だった。


セルフィナは遠くの空気の乱れを捉えた。


フェリナは高所からそれを目で確認し、信号へ変えた。


片方だけでは断定できなかった情報が、二人の役割によって正門へ届く。


「ユリウスのいる正門へ伝達済みです」


成人警備隊長はうなずいた。


正門前には、王都の残留警備隊も近づいている。


敵か、味方か。


門を開く前に見分けなければならない。


ほどなく、北から別の物理札が届いた。


成人門衛とユリウスが、増援の王国印、当日認証、人数札を照合中。正門は閉鎖を維持し、小さな確認口だけを使用する。


未確認者を追うため、持ち場を離れた者はいない。


ユリウスなら、以前は前線へ出ることを選んだかもしれない。


今は剣を抜くよりも、正しい者だけを学院へ入れる役目を優先していた。


地面が、また脈打った。


今度の振動は真下からではない。


南の地下入口から、石床を這うように伝わってきた。


物理報告札を抱えた成人保守職員が階段を駆け上がる。


「ガルナからの報告です! 地下補助経路の封鎖に異常なし。侵入痕もありません。ただし、基礎の振動板が一定周期で強く反応しています!」


札には、中央交差廊南西部の石板番号も記されていた。


ティアナが配置板と床を見比べる。


「さっき広がっていた継ぎ目と同じ場所。やっぱり、南西は使えない」


ガルナは封鎖口を開けなかった。


振動の先を一人で探しにも行かなかった。


地下遺物の位置は分からない。


それでも、危険な足場を一つ消せただけで、僕たちの立つ場所は変えられる。


「中央防壁を東へ半歩移動!」


成人警備隊長の指示で、二名の学院警備員が車輪付きの防壁を押す。


僕とティアナも右側から支えた。


左腕は身体へ寄せたまま、僕は右肩だけで軽く方向を整える。


その瞬間だった。


地下から、今までで最も重い打撃音が響いた。


三本目の封印破壊杭。


亀裂だらけだった《重環封鎖》の中環が、淡い金色の破片となって飛び散った。


「セレネ先生!」


南の階段下から叫びが上がる。


反動を受けたセレネ先生の身体が揺れた。


左右の成人封印官も腕を下げかけるが、後列の封印官がすぐに支柱へ手を重ねる。


残された内環が、押し寄せる信徒たちの盾に押され、学院側へ大きくたわんだ。


破壊されたわけではない。


だが、一呼吸だけ、封印面と床の間に人が通れる隙間が生じた。


黒衣が四つ、滑り込んでくる。


「第一線、接敵!」


学院警備員たちが盾を重ねた。


先頭の二名は、その場で受け止められる。


盾同士がぶつかり、短剣が金属板の表面を引っかいた。


残る二名は仲間を踏み台にするように横へ跳び、第一防衛線の端を抜けた。


一名は丸盾と短剣。


もう一名は、細長い封印破壊杭を肩から吊っている。


二人は中央避難階段を駆け上がってきた。


「中央、迎撃補助! 通路へ入れるな!」


成人警備隊長の命令が飛ぶ。


僕たちは勝手に前へ出なかった。


階段を上りきる位置まで引きつける。


こちらには成人警備員が三名。その後ろに僕たち四人。


丸盾の信徒は東の医療区画を見た。


杭を持つ信徒は西の避難区画へ顔を向ける。


二手に分かれるつもりだ。


「南西を踏ませないで!」


ティアナが叫ぶ。


崩れかけた床へ敵を落とすためではない。


そこが沈めば、僕たちの退路まで崩れる。


レグルスが中央から二歩前へ出た。


銀槍の穂先ではなく、柄の中央を丸盾の縁へ当てる。


「そちらへは行かせん」


信徒が盾を押し込む。


レグルスは正面から押し返さず、右足を半歩引いた。


槍の柄を斜めに滑らせ、突進の向きだけを東から中央へ変える。


丸盾の信徒がたたらを踏んだ。


その背後を、杭を持つ信徒が西へ抜けようとする。


フィアが動いた。


速い。


それでも一人で敵の奥へは入らない。


成人警備員の盾の横から三歩だけ踏み込み、細剣を下から上へ走らせる。


切れたのは身体ではない。


封印破壊杭を吊っていた革帯だった。


重い杭が床へ落ちる。


信徒が反射的に手を伸ばした瞬間、成人警備員の盾がその肩を押さえた。


丸盾の信徒が短剣を僕へ突き出す。


距離は一歩半。


僕は左腕を身体へ寄せ、右手の剣を短剣の内側へ合わせた。


刃と刃を正面から止めない。


右足を斜め後ろへ運び、相手の腕を外側へ流す。


短剣の切っ先が僕の頬の横を抜けた。


剣の腹で手首を押し下げる。


空いた胴へ、成人警備隊長の盾が突き込まれた。


信徒が床へ倒れる。


二名の学院警備員がすぐに腕を取り、武器を外して拘束した。


僕たちだけで倒したのではない。


ティアナが安全な足場を選び、レグルスが進路を絞り、フィアが杭を落とした。


最後に成人警備員が制圧した。


「追うな! 中央を維持しろ!」


成人警備隊長が命じる。


階段下では、最初の二名も学院警備員に押さえ込まれていた。


内環は再び閉じている。


だが、その表面は激しく波打ち、外側から新しい破壊杭が押し当てられていた。


僕が元の位置へ戻ろうとした時、右足の裏に細い痺れが走った。


疲労の溜まった脚が、一瞬だけ床の感触を失う。


隠してはいけない。


「右脚に軽い痺れがあります。歩けますが、踏み込みが少し遅れます」


成人警備隊長が僕の立ち方を見る。


「中央から半歩下がれ。防壁の右後方だ。前へ出る判断は私がする」


「はい」


命令に従い、僕は位置を変えた。


ティアナがこちらを見て、小さく息を吐く。


「ちゃんと言ったね」


「それでいい」


フィアも細剣を鞘へ戻しながら言った。


レグルスは銀槍を構え直す。


「当然だ。隠される方が迷惑だからな」


庇われたわけではない。


戦列を維持するために、必要な情報として受け取られた。


そのことが、少しだけ嬉しかった。


北から物理鐘が三度鳴った。


正規増援の確認完了。


ほどなく、王都残留警備隊の第一陣が成人門衛とユリウスの確認を経て、狭い確認口から学院内へ入ったと報告が届く。


未確認者は外壁の陰へ退き、正門には近づいていない。


セルフィナが空気の動きを捉え、フェリナが目で確かめ、ユリウスが門を守った結果だった。


東側では、メルナが切り替えた幻像の矢印に沿って、最後の避難列が安全区画へ入る。


その後を、ミナと成人治療職員が最後の担架を運んでいった。


地下からはガルナの報告札が届き続けている。


封鎖は維持。


侵入痕なし。


振動は継続。


セレネ先生と成人封印官は、残る内環を守っている。


バルト先生は医療区画で負傷者を受け入れ、交代できる成人警備員を前線へ戻していた。


僕たちの前にある配置板では、正門、観測廊、高所、地下、避難路、医療区画を結ぶ線が増えていた。


誰も、僕の命令で動いているわけではない。


それぞれが自分の持ち場で判断し、成人責任者へ報告し、その情報が次の誰かを守っている。


《深層遺物牽引》の脈動は、まだ止まっていない。


《重環封鎖》も、残る内環一枚だけだ。


ローデン評議官も、星冠教団も、地下門の向こうにいる。


戦いは終わっていない。


それでも配置板の戦団名欄は、最後まで空白だった。


正式な戦団名も旗もないまま、それぞれの持ち場を繋いだ僕たちは、学院を守る一つの防衛線になっていた。

 「面白かった!」


 「続きが気になる、読みたい!」


 「今後どうなるの!!」


 と思ったら


 下にある⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎から、作品の応援をお願いいたします。


 面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!


 ブックマークといただけると本当に嬉しいです。


 何卒よろしくお願いいたします。

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