表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『属性適性なしの学院最下位、迷宮で見捨てられた僕は七罪の魔神と契約する ~最強英雄になった幼なじみに追いつくまで~  作者: ドキツトム


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

66/104

第66話 森の誘拐者

「この場面を挿絵で見たい!」と思った箇所がありましたら、挿絵希望度を★1〜5で評価し、場面と一緒に感想欄で教えてください!


例:『〇〇と△△が対峙する場面/★★★★★』


皆さまの声を、今後の挿絵制作の参考にさせていただきます!



 ティアナが二度目の条件付き訓練を止めてから、四日が経った。


 僕たちは学院外周結界の内側にある管理林へ来ていた。


 今日の目的は、結界杭の状態と非常時の退避経路を確認することだ。


 学院騎士とバルト先生が同行し、僕の移動経路は出発直前に知らされた。学院側の正式な許可を得た実習だが、暴食の使用許可は出ていない。


「予定外の戦闘は避けろ。異常を発見した場合は、調査より報告を優先する」


 先頭を歩く学院騎士が告げた。


「特にアルト。右脚と左腕は完治していない」


 バルト先生が僕を見る。


「はい。無理はしません」


「その言葉だけで安心できないことは、お前も知っているな?」


「異変があれば、感じた時点で申告します」


 今度は迷わず答えた。


 隣にいたティアナが、僕の横顔を確かめるように見てから頷いた。


 僕の腰には学院支給の実習剣がある。刃は潰されているが、魔法の術式や捕縛道具を切る程度の強度はあった。


 少し前を歩くセルフィナの周囲では、淡い青緑色の風精霊たちが木々の間を飛び回っている。


 そのうち一体は、日々の監視で僕の左腕を巡っている小さな精霊だった。


 精霊は僕の封魔具の周りを一周すると、先行する仲間を追って森の奥へ消えた。


「北側、異常ありません。南東の結界杭までは二百歩ほどです」


 セルフィナが風精霊から受け取った情報を記録板へ書き込む。


「こちらの退避経路も問題ない」


 レグルスが木々の間を抜ける風を確かめた。


 実習は順調だった。


 だからこそ、最初の異変は小さすぎた。


「……止まってください」


 セルフィナが不意に足を止めた。


 腰近くまで伸びた銀緑色の髪が、風もないのに揺れている。


「どうしたの?」


 ティアナが尋ねる。


「北へ送った二体が、東から戻ると伝えています。ですが、東を確認していた一体も、北から戻ると」


「森で方角を見失ったのでは?」


 レグルスの問いに、セルフィナは首を振った。


「風精霊が風向きを取り違えることはあります。しかし、三体が同時に互いの位置を入れ替えることはありません」


 木の葉が、ざわりと鳴った。


 その音は右から聞こえたのに、頬へ触れた風は左から吹いていた。


「全員、警戒態勢!」


 学院騎士の声が飛ぶ。


 直後、木々の隙間から小さな風精霊が現れた。


 いつも僕の左腕を観測していた一体だ。


 淡い青緑色だった身体の端に、墨を垂らしたような黒い染みが付着している。


 飛び方が不規則だった。


 こちらへ進んだかと思えば、見えない糸に引かれるように後ろへ戻る。


「近づいてはいけません!」


 セルフィナが鋭く制した。


 周囲にいた風精霊たちを、一斉に自分の背後へ退避させる。


「黒い魔力が、あの子の外側の風へ付着しています。接触すれば、ほかの精霊にも広がる可能性があります」


「解除できるか?」


「今は分かりません。観測網を切り離します」


 セルフィナが細い指を閉じる。


 周囲を満たしていた風の気配が、一気に小さくなった。


 同時に、森の奥から黒い風が吹き出した。


 視界が歪む。


 数歩先にいた学院騎士とバルト先生の姿が、黒い霧の向こうへ霞んだ。


「位置は変えるな! 同じ区域内にいる!」


 バルト先生の声が届く。


 続いて、緊急警報の赤い光が木々の上へ打ち上がった。


 成人監督者は動いている。増援も呼ばれた。


 それでも、その短い隙を狙っていた者たちがいた。


 木々の陰から、三つの人影が現れる。


 灰色と黒の外套。


 顔を覆う仮面には、七芒星へ冠を重ねた紋章が刻まれていた。


「星冠教団……!」


 ティアナが僕の隣で息を呑む。


 三人の教団員は武器を構えなかった。


 代わりに、一人が両手を僕へ差し出す。


「主の器。お迎えに参りました」


「僕は器じゃない」


 実習剣を抜く。


「王立学院の生徒、アルト・ロウェルだ」


「誤った名も、狭き檻も、間もなく不要となります」


 教団員が指を曲げた。


 木の枝に偽装されていた黒い帯が、一斉に僕へ襲いかかる。


「第一階位防壁!」


 右手の前へ薄い膜を展開する。


 防壁は最初の帯を弾いたが、二本目が表面へ食い込み、亀裂を走らせた。


 完全には止められない。


 僕は防壁の横を抜けた帯を実習剣で打ち払う。


「地面にも術式がある!」


 ティアナが叫んだ。


 足元に黒い線が浮かび、土そのものが森の奥へ滑り始める。


「動かさせない!」


 ティアナが両手を地面へ当てた。


 緑色の光が土へ走る。


 周囲の樹木の根が地中で結ばれ、柔らかな土が一枚の岩盤のように固まった。


 滑っていた地面が止まる。


 右脚に痺れを抱えた僕の足元も、ティアナの魔法が支えてくれた。


「右後方に黒い魔力!」


 索敵網を縮めたセルフィナが、自分の目で見えた範囲だけを伝える。


 教団員の一人が、小さな黒い塊を放った。


 魔力塊は術者の手を離れ、僕の前へ浮かぶ。


 表面には星冠の紋が刻まれていた。


 その瞬間、胃の奥が強く縮んだ。


 食べ物だ。


 黒い魔力が、ひどく甘い匂いを放っているように感じる。


『喰え』


 頭の奥で、獣じみた声が響いた。


『口を開け』


「さあ、主の器。御力のままに」


 教団員が囁く。


 僕は左手を握り込んだ。


 けれど、黙らなかった。


「黒い魔力が食べ物に見える!」


 全員へ届くように声を張る。


「でも、暴食は開かない。こいつらは僕に使わせようとしている!」


「申告を確認した!」


 ティアナが即座に返した。


「アルトは右手と剣だけに集中して!」


「分かった!」


 あまりにも食べやすそうな魔力だった。


 だから罠だ。


 何が仕込まれているのか分からない。吸収した瞬間に何が起きるかも確認されていない。


 星冠教団は僕を殺しに来たのではない。


 暴食を開かせ、生きたまま連れ去るために来た。


 黒い帯が足首へ巻き付いた。


「第一階位、摩擦軽減!」


 帯の内側へ魔法を流す。


 締め付けられる寸前、抵抗を失った帯が靴の表面を滑った。


 抜けた足を固い地面へ戻す。


 右脚の痺れで体勢が傾いたが、ティアナが固定した根が踵を受け止めた。


「アルトを運ぶ線は、あれ」


 フィアが樹木の間へ目を向ける。


 黒い導線が幹から幹へ張られ、その先だけ森の景色が細く歪んでいた。


 用意されていた主脱出路だ。


「切る」


 フィアの姿が低く沈む。


 雷魔法は使わない。


 最短の歩法だけで木々の間を抜け、細剣を三度走らせた。


 黒い導線が次々と切断される。


 歪んでいた森の道が閉じた。


「主経路、消失!」


「こちらへ退け!」


 レグルスが銀槍を横へ払う。


 放たれた風が、黒い霧と通常の空気を分けていく。


 僕たちからバルト先生たちまで、一本の清浄な風の道が生まれた。


「退避路は確保した! ただし汚染された精霊は通すな!」


 黒い捕縛帯が、セルフィナの背後から伸びる。


 彼女はほかの風精霊を汚染から離すことに集中していて、反応が遅れていた。


「セルフィナ!」


 右手で薄い防壁を展開する。


 帯の軌道が僅かに逸れ、セルフィナの肩ではなく地面へ突き刺さった。


 僕は実習剣へ軽量補助をかけ、帯を根元から断つ。


「なぜ私を――」


「目の前にいたから守っただけだ」


 答えながら、地面へ打ち込まれた黒い杭へ剣を振り下ろす。


「第一階位、加重補助!」


 一瞬だけ重くなった実習剣が、杭の中央を砕いた。


 誘拐術式の黒い線が消える。


 遠くから、学院警備の笛が聞こえた。


 教団員たちは閉じた主脱出路を見て、同時に後退する。


「回収条件が失われました」


「器を傷つけるな。撤退する」


 黒い粉が撒かれた。


 レグルスの風でも押し返しきれない濁った幕が広がる。


「追うな!」


 黒い霧の向こうから、バルト先生の声が飛んだ。


 僕たちは命令に従った。


 霧が晴れた時、三人の教団員は消えていた。


 地面には複数の足跡が残っていたが、それぞれ別の方向へ分かれている。


 誰も捕まえられなかった。


 それでも、僕はここにいる。


 人間の魔力も魂も喰っていない。


 左腕の封魔具も作動していなかった。


「風精霊を戻します」


 セルフィナが両手を広げる。


 退避していた淡い青緑色の光が、彼女の周囲へ集まってきた。


 一体、二体、三体。


 けれど、足りない。


「……戻りなさい」


 セルフィナが森の奥へ呼びかける。


 黒く濁った木々の間で、弱い風が揺れた。


 普段、僕の封魔具の周りを巡っていた小さな精霊だ。


 黒い風の膜へ絡め取られ、羽ばたくように何度も身を震わせている。


「引き寄せられないの?」


 僕が尋ねる。


「繋がったまま引けば、汚染がこちらの精霊へ広がります」


 セルフィナは右手を上げた。


 精霊と彼女を結んでいた細い風の道が見える。


 それを切ろうとする指先が、僅かに震えていた。


「待って。ほかの方法が――」


「今ここで全員を汚染させる方が、あの子も望みません」


 声は冷静だった。


 けれど、いつもより少しだけ細い。


「……ごめんなさい。必ず迎えに戻ります」


 セルフィナが指を閉じる。


 細い風の道が途切れた。


 森の奥で、小さな精霊が一度だけ明滅した。


 僕は思わず一歩を踏み出した。


「アルト、今は追わないでください」


 セルフィナが僕の袖を掴む。


「あの子の汚染と本体を、安全に分けられる保証がありません。あなたが暴食を開けば、あの子まで喰うかもしれない」


 ミナから呪いを吸収できたのは、呪いが本人から安全に分離されていたからだ。


 今の精霊は違う。


 黒い汚染が身体を包み、境界すら見えない。


 それに、教団は僕へ暴食を使わせようとしていた。


 ここで開けば、それこそ敵の望みどおりになる。


「分かってる。勝手には使わない。無断で森へも戻らない」


 握っていた左手を開く。


「でも、あの精霊を見捨てるつもりもない」


 セルフィナの指が、僕の袖から離れた。


 翡翠色の瞳は、まだ森の奥を見つめている。


「私も見捨てません」


 彼女は小さく息を吸い、いつもの静かな声を取り戻した。


「学院へ戻って救出条件を作ります。救出案が成立した時は、あなたにも来てもらいます」


「うん」


 バルト先生が僕の封魔具と魔力経路を確認する。


「暴食の使用なし。封魔具の作動なし。黒い魔力を食べ物と認識した時点で申告したことも記録する」


「はい」


「だが、今から戻ることは許可しない。精霊を救うためにも、まず汚染の性質を調べる」


 僕たちは退避経路を通り、管理林を離れた。


 最後まで、セルフィナは何度も振り返っていた。


 星冠教団は僕を奪えなかった。けれど森の奥には、セルフィナの小さな風精霊が一体、黒く濁った風の檻に取り残されていた。

 「面白かった!」


 「続きが気になる、読みたい!」


 「今後どうなるの!!」


 と思ったら


 下にある⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎から、作品の応援をお願いいたします。


 面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!


 ブックマークといただけると本当に嬉しいです。


 何卒よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ