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『属性適性なしの学院最下位、迷宮で見捨てられた僕は七罪の魔神と契約する ~最強英雄になった幼なじみに追いつくまで~  作者: ドキツトム


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第57話 三人の証言



 学院預かりとなった翌日、僕はバルト先生とともに査問室へ入った。


 右脚にはまだ痺れが残っている。


 左腕の封魔具も外されていない。三本の黒銀の輪は冷たいまま、紋章の上を圧迫していた。


「本日は、学院預かり中の安全管理と、暴食の今後の扱いを決めるための詳細聴取を行います」


 ローデンが一冊の記録を開いた。


「第55話の証言は、移送決議を前にした概要確認でした。今回は三名を個別に聴取します」


 壁の通信術式は、セレネ先生によって閉じられている。


 証言は外部通信網へ残さず、この一冊だけに記録される。


「アルト・ロウェル。証言への口出しは認めません」


「分かりました」


 最初に入ってきたのはティアナだった。


 証言席へ座った彼女は、一度だけ僕を見てから正面を向いた。


「アルト・ロウェルと親しい関係にありますか」


「大切な仲間です」


「その感情が証言へ影響する可能性は?」


「あります。だから、アルトにとって都合の悪いことも話します」


 記録官のペンが動き始める。


「暴食の異常を、最初に誰が申告しましたか」


「アルトです」


 ティアナは迷わず答えた。


「まだ私たちと話せるうちに、三人の魔力まで食べ物に見えると言いました」


 あの言葉を口にした時の恐怖が蘇る。


 仲間へ知られることより、知られないまま手を伸ばす方が怖かった。


「他に何を告げましたか」


「自分が誰かへ手を伸ばしたら、止めてほしいと頼まれました」


「黙っていることもできたと?」


「はい。アルトが隠そうと思えば、私たちは気づくのが遅れたと思います」


 ローデンが次の頁へ視線を落とす。


「実際に、彼の左手は君へ向いた」


「向きました」


「恐怖は?」


 ティアナの指が、膝の上で固く組まれた。


「怖くなかったとは言いません」


 その声に嘘はなかった。


「触れられたら何を喰われるのか、分かりませんでした。本当に怖かったです」


 胸が痛む。


 けれど、ティアナが恐怖を隠さないことに、僕は安堵していた。


 安全だったという嘘で守られても、次は止められない。


「接触は?」


「ありません。私の魔力も吸収されていません。三人でアルトを止めたあと、アルトは私たちと救助対象を捕食対象から外しました」


「次も必ず異変を申告できると保証できますか」


「できません。言葉にする前に暴走するかもしれません」


「君がいない場所で、暴食を使わせても安全だと思いますか」


「いいえ。一人で使わせるべきではありません」


 ティアナは記録官を見た。


「でも、危険を自分から告げたことも残してください。止めてほしいと頼んだこともです」


 証言を確認し、署名したティアナが退室する。


 二人目はフィアだった。


 腰まで届く金髪を揺らし、黒いカチューシャの位置を直してから証言席へ座る。


「アルト・ロウェルは暴走していましたか」


「はい」


 フィアの答えは短かった。


「アルトは暴走していました。自分一人で暴食を閉じられていませんでした」


「具体的な状態は?」


「私たち三人の体内魔力を食べ物として認識し、一度だけティアナへ左手を伸ばしました。私たち三人が同時に止めています」


「アルト・ロウェルの意思だけで停止したのではない?」


「違います。その事実を隠して、安全だったとは証言できません」


 フィアは僕を庇わなかった。


 だからこそ、その次の言葉にも重みがあった。


「同時に、暴走が始まってから終わるまで、仲間の魔力は一度も吸収されていません」


「それは三名が止めた結果ですか。それとも、本人の意思ですか」


「両方です」


 ローデンの問いに、フィアは即答した。


「最初の停止には私たちが必要でした。でも、止められたあと、誰を捕食対象から外すか選んだのはアルトです」


「救助対象の魔力は?」


「吸収されていません」


「第47話で吸収されたものは?」


「ティアナが印を付け、私が核との接続を断ったあと、眷属本体から完全に切り離された敵魔力だけです」


「次も止められますか」


「保証できません」


 フィアの声は揺れなかった。


「危険だったことと、最後まで仲間を喰わなかったことは、どちらも事実です。片方だけを記録すれば、次に必要な条件を見失います」


 フィアも内容を確かめ、署名して退室した。


 最後に入ってきたレグルスは、戦闘記録を卓上へ広げた。


「アルト・ロウェルの精神力によって、暴食は制御されたと評価できますか」


「いいえ」


 レグルスは明確に否定した。


「アルトの精神力だけで止まった、と記録するのは誤りです」


「では、何が必要だった?」


「ティアナが敵と味方の魔力経路を分け、敵魔力へ三拍の印を付けました。フィアが仲間への接続線と、核へ戻る接続線を断ちました」


 記録官が役割を書き出していく。


「僕が切り離された敵魔力までの一本道を作り、アルトが印の付いた一塊だけを選びました」


「捕食時間は?」


「一呼吸です。閉じる時にも三人の補助が必要でした」


 レグルスは四人分の記録を順に指した。


「ティアナが分け、フィアが切り、僕が道を作り、アルトが選びました。四人の連携で限定したのであって、誰か一人の力ではありません」


「一人でも欠けていれば?」


「同じ結果になった保証はありません」


「別の敵でも再現できると?」


「保証できません。だから、無条件に使えるとは証言しません」


 レグルスは一度言葉を切った。


「条件を揃えれば限定できた実績が、一度あると証言します」


「君たち三人を、今後も常に同行させるのですか」


 査問使が尋ねる。


「僕たちも十五歳の生徒です。アルト専用の安全装置として拘束されるつもりはありません」


 厳しい言葉だが、当然だった。


 三人にも、それぞれの道がある。


「ならば、誰が止めるのですか」


「僕たちが担った役割を分解し、監督者や計測手段でも補えるか確かめるべきです。今分かっている条件を捨てて、ただ封じ続けるよりは合理的です」


 レグルスも証言書へ署名した。


 三人の証言が揃うと、ローデンは記録を二つへ分けた。


「確認された危険性から読み上げます」


 査問室の空気が引き締まる。


「暴食は完全制御されていない。アルト・ロウェルは一度、自力で暴食を閉じられなくなった。仲間の体内魔力を食べ物として認識し、ティアナへ左手を伸ばした。三名による外部制止を必要とした」


 どれも否定できない。


「次に、確認された抑制要素です。アルト・ロウェルは異変を自ら申告し、仲間へ自分を止めるよう求めた。人間の魂、仲間、救助対象の魔力は吸収していない」


 次の頁が開かれる。


「外部条件による限定捕食が一度成立した。捕食対象を一つへ絞り、時間を一呼吸へ限定し、三名の補助を受けて閉じた」


「結論は?」


 査問使の問いに、ローデンはすぐ答えなかった。


「安全とは認定できません。しかし、完全に管理不能とも断定できません」


 そこで、ローデンは予想していなかった言葉を続けた。


「暴食の使用を、条件付きで認めるべきだと考えます」


 僕は思わず顔を上げた。


「昨日まで使用禁止だった力を、ですか」


 査問使も問い返す。


「禁止するだけでは、具体的な制御データが得られません。カルトが強制的に暴食を開かせる方法を持つなら、使わずに済むという前提そのものが危険です」


 ローデンは三人の証言書へ手を置いた。


「さらに、放出済みの魔力や呪いを限定して吸収できるなら、国家の戦力となる可能性があります」


 国家の戦力。


 その言葉は、処刑より穏やかでありながら、別の冷たさを持っていた。


「契約者を兵器として扱うのですか」


 学院長が問う。


「そうならないためにも、本人の意思と使用目的を条件へ含めます。未知の力を封じるだけでは、利用される時に何も対処できません」


「具体的な条件を」


 ローデンが一枚の書類を差し出した。


「第一に、学院と貴族院双方の事前許可なく暴食を使用しないこと」


 記録官が書き留める。


「第二に、成人の監督者と、暴走時に停止へ動ける者がいる状況に限ること」


 初期の訓練では、ティアナ、フィア、レグルスが本人の同意を得て参加する。


 同時に、三人の役割を別の監督手段で補えるか調査する。


「第三に、人間の魂、肉体、体内魔力を捕食対象としないこと。対象は本体から切り離された魔力、または安全に分離された呪いに限定します」


「第四に」


 ローデンの声がさらに硬くなる。


「他者を傷つける意図で暴食を使用しないこと」


 敵の魔力攻撃を消す。


 呪いを取り除く。


 放出済みの魔力を奪い、攻撃を止める。


 それは許可の対象になり得る。


 生きた人間そのものへ暴食を向けることは認められない。


「封魔具はどうしますか」


 バルト先生が尋ねる。


「外しません。許可された訓練時のみ、学院と貴族院の二重認証で監視設定へ調整します」


「無効化するのですか」


「いいえ。許可された出力量を超えた場合は作動します。使用量、対象、時間はすべて記録します」


 封魔具は消えない。


 使うことを許されても、境界を越えれば左腕を焼く。


「条件違反時の処遇は?」


 査問使の問いに、ローデンは僕を見た。


「無断使用。監視を避けた使用。他者を傷つける意図での使用。人間を捕食対象とした使用」


 一つずつ読み上げる。


「いずれかが確認された場合、学院長の監督による猶予を即時終了します。処分は貴族院管理施設への移送、または即時処刑です」


 ティアナたちのいない査問室が、急に広く感じられた。


「敵に強制された場合は?」


 セレネ先生が尋ねる。


「本人の意思によらない強制発動は、無断使用と同一には扱いません。ただし、即時再査問とします」


 学院長は長い間、条件書を読んでいた。


「国家の戦力となる可能性だけを理由に、生徒へ使用を強制することは認めません」


「記録します」


「訓練には本人の同意を必要とする。監督者が危険と判断した時点で中止。暴食の捕食対象は一つ、時間は一呼吸から始める」


「異論ありません」


「アルト・ロウェル」


 学院長が僕を見た。


「君はどうしますか」


 使わなければ、安全だと思われるかもしれない。


 けれど、眷属は僕の意思に関係なく暴食を開かせた。


 次も同じことが起きた時、何も知らないままでは守れない。


「条件を受け入れます」


「国家の戦力になるために?」


「それだけではありません」


 僕は左腕の封魔具へ触れた。


「使わないまま、また誰かに開かされる方が怖いです。制御できるようになるために、具体的な記録が必要です」


 完全制御できるとは言わない。


 次も成功するとも約束できない。


「誰かを傷つけるためには使いません。異変を感じたら隠さず申告します。許可なく使うこともしません」


「条件を破れば、猶予は終わります」


「分かっています」


 学院長が条件書へ署名した。


 続いて査問使、ローデン、バルト先生が確認の署名を残す。


 僕の前にも書類が置かれた。


 そこに名前を書けば、暴食はただ禁じられる力ではなくなる。


 同時に、一度でも条件を破れば僕を処刑台へ戻す契約になる。


 僕はペンを取り、アルト・ロウェルと記した。


 聴取を終えて部屋を出ると、三人が待っていた。


「どうなったの?」


 ティアナに尋ねられ、僕は条件を説明した。


「使用が認められた。ただし、事前許可と監視がある時だけ。捕食対象も切り離された魔力や呪いに限られる」


「勝手に使ったら?」


「移送か処刑」


 三人の表情が硬くなる。


「許可されたからといって、制御できたことにはならない」


 フィアが言った。


「うん」


「次の訓練でも、対象が少しでも逸れたら止める」


「お願いするよ」


 レグルスは腕を組み、僕の封魔具を見た。


「国家の戦力という評価に浮かれるな。今認められたのは力ではなく、実験する価値だけだ」


「分かってる」


「なら、まずは条件を一つずつ記録に変える。四人でな」


 無条件の自由ではない。


 無条件の信頼でもない。


 それでも、ただ恐れて封じるだけだった暴食と向き合う道が、初めて制度の中へ作られた。


 暴食は、使ってはならない力から、条件の中で使い方を証明する力へ変わった――そして条件を一つでも破れば、その先に待つのは処刑か移送だった。

 「面白かった!」


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 と思ったら


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 面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!


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