表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『属性適性なしの学院最下位、迷宮で見捨てられた僕は七罪の魔神と契約する ~最強英雄になった幼なじみに追いつくまで~  作者: ドキツトム


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

35/104

第35話 笑う友人

「この場面を挿絵で見たい!」と思った箇所がありましたら、挿絵希望度を★1〜5で評価し、場面と一緒に感想欄で教えてください!


例:『〇〇と△△が対峙する場面/★★★★★』


皆さまの声を、今後の挿絵制作の参考にさせていただきます!



 七色の旗が、一本ずつ学院の空から外されていく。


 昨日まで歓声に満ちていた中央広場には、木箱を運ぶ音と、縄を解く音が響いていた。


 僕も片づけ用の箱を抱え、臨時客席の間を歩く。


 昨夜は七色の光の下でティアナと踊っていたのに、今朝にはもう祭りの跡を片づけている。


 足を間違えた記憶まで箱へ詰めてしまえたら、少しは気が楽だったかもしれない。


「その旗、赤と橙はこっち! 青は奥の箱ね。魔導灯は重ねないで。通路に荷物を置くと運ぶ人が転ぶよ!」


 広場の中央から、よく通る声が聞こえた。


 明るい茶色の髪を低い位置で結び、片づけ係の腕章をつけた少女が、生徒たちへ次々に指示を出している。


 ミナ・ベルク。


 僕と同じ十回生で、戦闘順位は中位より下。


 目立つ属性魔法も、強力な武器も持っていない。


 それでも僕が戦闘順位最下位だった頃から、ミナの態度は一度も変わらなかった。


「アルト、その箱はどこへ持っていくの?」


「掲示板の横だって聞いたけど」


「それなら反対。そっちは解体した客席を運ぶ道になるから、倉庫前へお願い」


「分かった」


 僕が方向を変えると、ミナは満足そうに笑った。


「昨日は踊って、今日は荷運び。忙しい騎士様だね」


「まだ騎士じゃないよ」


「私も。だから今は、片づけ係同士ということで」


 軽い調子で言って、ミナは次の生徒へ向かう。


 その背後では、昨夜の舞踏会に出席した生徒たちが、騎士団から受けた勧誘について話していた。


「装備代を全額出すって言われたんだ」


「私は卒業後の任地が遠すぎてさ。条件を見直してもらうつもり」


「メルナは三か所から声をかけられたんだろ?」


 華やかな話が飛び交っている。


 ミナはそちらを見なかった。


 聞こえていないはずはない。それでも手を止めず、外した旗の本数を確認している。


 昨夜、僕も勧誘を受けた。


 ならばミナはどうだったのか。


 尋ねようとして、やめた。


 今ここで、周囲に聞こえるような話ではない。


「う、うぅ……お母さん……」


 小さな泣き声が聞こえた。


 広場の端に、祭り客らしい子どもが一人で立っている。周りを見回しているが、家族らしい姿はない。


 最初に気づいたのはミナだった。


「みんな、旗の確認を続けてて。私は少し外れるね」


 短く告げ、子どもの前まで駆けていく。


 けれど、いきなり手を掴んだりはしない。


 目線の高さまで屈み、少し離れた場所から笑いかけた。


「お母さんとはぐれちゃった?」


 子どもは泣いたまま頷く。


「そっか。それは怖かったね」


 ミナは床に残っていた七色の飾り札を拾った。


「ねえ、この札の色、分かる?」


「……あか」


「正解。じゃあ、こっちは?」


「きいろ……」


「すごい。ゆっくり息を吸って、次も当ててみようか」


 色を数えるうち、子どもの乱れていた呼吸が少しずつ落ち着いていった。


 ミナは急かさず、名前と家族の服装、最後に一緒にいた場所を一つずつ聞き出す。


「アルト、迷子受付へ伝えてくれる? 私はここにいるから」


「分かった。すぐ戻る」


 僕が箱を置いて走り出した、その時だった。


「あっ!」


 頭上から短い声が落ちる。


 大型掲示板を支えていた縄の一本が、作業中の生徒の手から滑った。


 片側の支えを失った掲示板が、ゆっくりと広場側へ傾く。


「下がって!」


 鋭い声と同時に、二つの輪が宙を走った。


 メルナの投擲輪だ。


 二枚の輪は人のいない高所を抜け、掲示板の裏へ垂れていた予備縄へ正確に引っかかる。


 メルナが両腕を交差させると、縄が張った。


 完全に倒れる寸前で、掲示板の動きが止まる。


 同時に床へ淡い光が伸び、安全な退避方向を示した。


「赤い光の方へ! 掲示板の正面には入らないで!」


 光の屈折で作られた矢印に従い、作業員たちが移動する。


 メルナが危険そのものを止めた一方で、ミナは掲示板へ近づかなかった。


「子どもはこっち! 走らなくていいから、順番に離れて!」


 迷子の子の手を取り、近くにいた子どもたちを危険範囲の外へ誘導する。


「一人、二人……六人。全員いるね」


 人数を確かめた直後、ミナはしゃがみ込んでいる生徒へ駆け寄った。


 退避する途中で転び、足首を押さえている。


「動かせる?」


「少しなら。片づけへ戻らないと……」


「戻っちゃ駄目。板と布を持ってきて! それから医務室へ連絡をお願い!」


 ミナは近くの生徒へ役目を振り分けた。


 受け取った細い板を足首の両側へ当て、布で固定する。


 高位の治癒魔法で傷を消すわけではない。


 どこまで痛めたかを勝手に決めつけることもない。


「これで動かさずに待とう。医務室でちゃんと見てもらって」


「でも、人数が足りなくなるだろ」


「悪化させて明日まで歩けなくなる方が困るよ」


 ミナが笑うと、負傷した生徒は渋々ながら力を抜いた。


 やがて職員が新しい縄をかけ、掲示板を安全な位置へ戻した。


 メルナも投擲輪を回収し、僕たちの方へ歩いてくる。


「ふう。朝から目が覚めたわ」


「助かったよ、メルナ」


「私だけじゃないよ」


 メルナはミナへ視線を向けた。


「私が看板を止めている間、ミナは下にいる人を動かしてくれた。どっちかが欠けてたら、誰かが怪我してたかもしれない」


「私はできる方をやっただけだよ。あんな大きな看板、腕力で止めようとしたら一緒に潰れちゃうし」


「それをすぐ判断できるのが大事なの」


 メルナは危険へ輪を投げ込み、その動きを止められる。


 迷宮でも、競技用の魔導人形を幻像で惑わせ、仲間が進む道を作った。


 騎士団から勧誘されるだけの力がある。


 ミナには、同じことはできない。


 けれど、メルナが掲示板を支えている間、誰をどこへ逃がすかを考えたのはミナだった。


 危険の前に立つ人と、そこから逃れてきた人を受け止める人。


 役割は違っても、どちらか一人だけでは守れないものがある。


 騒ぎが収まり、僕たちは広場の端で短い休憩を取った。


 ミナは水を一口飲むと、膝の上へ作業表を広げた。


「迷子受付から連絡は?」


「家族が捜してるって。もうすぐ迎えに来るよ」


「よかった」


 ミナがいつものように笑う。


 僕は少し迷ってから、昨日から気になっていたことを尋ねた。


「ミナは、舞踏会で騎士団から声をかけられた?」


 作業表をめくる指が、一瞬だけ止まった。


「一件もなかったよ」


 答えは明るかった。


 けれど、その笑顔がいつもより少しだけ固いことには気づいた。


「悔しくないわけじゃないんだ」


 ミナは自分から続けた。


「私だって騎士の徽章を付けて、人を守りたいと思ってたから。昨日はみんなが勧誘の話をしていて、いいなって思った。私も一度くらい呼び止めてもらいたかったよ」


 笑っているのに、その言葉は軽くなかった。


「無理して笑ってる?」


「少しはね」


 ミナはあっさり認めた。


「でも、泣いてる子にまで私の悔しさを背負わせたくないでしょ。怪我をした子の前で暗い顔をしたら、もっと不安にさせちゃう。笑ってる方が、次に何をすればいいか私も考えやすいし」


 何も傷ついていないから笑えるわけではない。


 傷ついたままでも、目の前の誰かを不安にさせないために笑っている。


「騎士は諦めるの?」


「ううん。訓練も続けるし、試験だって受けるつもり。まだ決まったわけじゃないからね」


 ミナは作業表を閉じた。


「でもね、騎士になれなくても、誰かを守る方法はあるよ」


 その声に、強がりはなかった。


「迷子を家族へ返すことも、怪我を悪化させないことも守ることでしょ。戦った人が帰ってこられる場所を残すことだって、たぶん同じ」


「帰ってこられる場所……」


「戦う人だけで全部はできないよ。食べ物を用意する人も、道具を直す人も、傷ついた人のそばにいる人も必要だから」


 僕は強くなりたかった。


 敵の前へ立ち、誰かへ届く攻撃を止められる騎士になりたかった。


 その思いは変わらない。


 けれど、戦いが終わったあと、人を日常へ戻すこともまた守ることなのだ。


 僕が見ていたのは、守るという行為の一番目立つ部分だけだったのかもしれない。


「お姉ちゃん!」


 先ほどの子どもが、広場の向こうから駆けてきた家族へ顔を向けた。


 すぐに立ち上がり、その腕の中へ飛び込む。


 家族は何度も頭を下げた。


「本当にありがとうございました」


「見つかってよかったです」


 ミナは子どもへ手を振る。


「次は手を離さないでね」


「うん!」


 家族と手を繋いで去っていく子どもを見送ると、ミナは立ち上がった。


「さて、休憩終わり。旗がまだ半分以上残ってるよ」


 新しい勧誘が来たわけではない。


 戦闘順位が上がったわけでもない。


 それでもミナが作業へ戻ると、散らばっていた人と道具が少しずつ整い始める。


 僕も箱を持ち直し、その隣へ並んだ。


 祭りの光が消えた朝、誰にも勲章をもらわない友人の笑い声が、学院を日常へ戻していた。

 「面白かった!」


 「続きが気になる、読みたい!」


 「今後どうなるの!!」


 と思ったら


 下にある⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎から、作品の応援をお願いいたします。


 面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!


 ブックマークといただけると本当に嬉しいです。


 何卒よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ