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『属性適性なしの学院最下位、迷宮で見捨てられた僕は七罪の魔神と契約する ~最強英雄になった幼なじみに追いつくまで~  作者: ドキツトム


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第32話 双獣の挑発



 医務室を出た瞬間、廊下にいた生徒たちの視線が一斉に集まった。


「アルト・ロウェルだ」


「本当にユリウスに勝ったんだよな?」


「元最下位が、上位五名を……」


 元最下位。


 昨日までなら最下位と呼ばれていたのに、今は前へ一文字増えている。


 喜ぶべきなのだろう。


 けれど、左腕の紋章が制服の下で疼くたび、素直に胸を張る気にはなれなかった。


「炎を分解した剣士だって」


「属性適性なしで、どうやったんだ?」


「本当に剣で消したのか?」


 疑問と警戒の混じった声も聞こえる。


 僕は答えず、携帯食の残りを口へ入れた。


 固い穀物を噛んで飲み込む。腹には溜まるのに、身体の奥に残った空洞までは埋まらない。


 右脚の痺れは歩ける程度まで治まっていた。


 肩と手首と肘には、剣を振るたびに思い出しそうな痛みがある。


 それでも、仲間の魔力が食べ物に見える状態は収まっていた。


「顔色、さっきよりは戻ったね」


 少し離れた場所で待っていたティアナが言った。


「うん。検査でも、今すぐ寝込む必要はないって」


「今すぐ、という言い方が気になるけど」


 ティアナは眉を寄せたものの、競技場で何があったのかを問い詰めなかった。


 僕たちはフィア、レグルスと合流し、中央広場へ向かった。


 三人迷宮競技の受付が始まっていたからだ。


 受付台で渡された申請用紙には、名前を書く欄が三つあった。


 僕たちは四人。


 欄は三つ。


 分かっていたことなのに、空白を目の前にすると意味が重くなる。


「個人戦の結果だけで決めるべきではない」


 レグルスが競技規則をめくりながら言った。


「探索、戦闘、罠への対応、全員での帰還。何を優先するかによって必要な三人は変わる」


「事前に競技区画の詳しい情報は出ないみたい」


 ティアナは別紙を広げた。


「公開されてるのは、制限時間と持ち込める道具の数だけだね」


「なら、今ここで決める必要はない」


 フィアが淡々と言う。


「個人戦の順位と、迷宮での役割は同じではないから」


 右手の傷を残す彼女自身が言うと、その言葉には別の重さがあった。


「少なくとも、戦闘順位だけでアルトを外すのは反対だからね」


 ティアナが申請用紙を押さえる。


 僕を入れると決めたわけではない。


 ただ、最初から外す理由にもならない。


 四人で規則を確認しようとした時、受付広場の向こうから大きな声が飛んできた。


「いた! 噂の元最下位くん!」


 赤茶色の髪が、人混みの上で跳ねた。


 大きな犬耳を立てた少女が、太い尾を勢いよく振りながら歩いてくる。


 両腕には、ごつい魔導籠手。


 金色の瞳は、こちらを見つけたことを隠そうともせず輝いていた。


 その半歩後ろには、黒髪の少女がいる。


 黒い猫耳と細長い尾。


 青緑色の瞳を細め、腰の湾曲した双短剣へ軽く手を添えている。


「ガルナ・フェルザとフェリナ・フェルザ……」


 レグルスが呟いた。


 戦闘順位上位十五名級の獣人双子。


 犬獣人の姉と猫獣人の妹。


 正反対の二人は、学院でまとめて双獣と呼ばれている。


「元がつくようになってよかったね!」


 姉のガルナが、白い歯を見せて笑った。


「ユリウスを倒した試合は見たよ。最後の一撃、すごかった!」


「お姉ちゃん。褒めに来たみたいになってるよ」


 妹のフェリナが、笑顔のまま姉の脇腹を小さく突く。


「勝ったことは本当だし、褒めるところは褒めるって!」


「そうだね。個人戦の勝利は本物」


 フェリナの青緑色の瞳が、僕から三人分の申請欄へ移る。


「それで、元最下位くんも三人迷宮競技に出るつもりなの?」


「まだ誰が出るかは決めてないよ」


「ふうん。土姫と雷剣のお荷物だったのに、個人戦で一度勝っただけで、集団戦まで通用すると思ってるのか気になって」


 ティアナが一歩前へ出かけた。


「お荷物って――」


 僕はその前で軽く手を上げた。


 言葉が刺さらなかったわけじゃない。


 鎧蜥蜴戦では、僕の力が足りなかった。


 浅層復帰実習では、ティアナの蔦がなければ滑走を止められなかった。


 フィアやレグルスが作った機会へ、僕が繋いでもらった場面も多い。


 だからこそ、感情だけで否定しても意味はない。


「個人戦と集団戦が違うのは分かってる」


「分かってるだけじゃ駄目だよ!」


 ガルナは魔導籠手を胸の前で打ち合わせた。


 鈍い金属音に、周囲の生徒が振り返る。


「集団戦っていうのは、一人で三人分強ければいいわけじゃない。こういうこと!」


 ガルナとフェリナは、受付広場の隣にある簡易練習区画へ歩いていった。


 仕切り壁と低い足場が並び、参加者が連携を確認できる場所だ。


 フェリナが係員へ使用札を渡す。


 短時間の練習用らしく、周囲に薄い安全膜が張られた。


「始めていいよ」


 フェリナが配置につく。


 ガルナは仕切り壁の手前に立ち、正面だけを向いた。


 練習装置が動き出す。


 壁の向こうから、青い訓練球が射出された。


 完全にガルナの死角だ。


 フェリナが音もなく走る。


 一歩で足場へ上がり、そのまま仕切り壁の側面を駆けた。


 黒い残像が二つに分かれて見える。


 壁の上からなら、ガルナへ迫る訓練球が見える。


 だが、声はない。


 手振りも視線もない。


 それなのに、ガルナの犬耳とフェリナの猫耳が、同じ瞬間に動いた。


 ガルナが振り返らないまま、右腕だけを後方へ振る。


 魔導籠手から小さな衝撃波が放たれた。


 青い訓練球の中心へ正確に当たり、勢いを失った球が受け網へ落ちる。


「見ていなかった」


 フィアが目を細めた。


「音へ反応したわけでもない。球が射出されるより先に、腕を動かしていた」


 続いて、練習区画へ白い煙が満ちた。


 フェリナの姿が見えなくなる。


 煙の中では、複数の移動標的が動き始めていた。


 そのうち一つだけに香料が塗られているらしい。


 ガルナの鼻が小さく動く。


 右。


 左。


 もう一度、右。


 視界を奪われているはずのフェリナが、煙の中で同じ方向へ進路を変えた。


 足音は聞こえない。


 低い壁を蹴る音すら、消音魔法に消されている。


 ガルナの尾が左へ振れた。


 煙の中で、フェリナの細い尾も同じ方向へ動く。


 次の瞬間、訓練用の短剣が飛んだ。


 煙を切り裂き、移動標的の中央へ突き立つ。


 命中を知らせる光が灯った。


 煙が薄れる。


 ガルナは一歩も動いていない。


 フェリナも標的を直接見てはいなかった。


「合図じゃない」


 僕は二人の動きを思い返す。


「感覚そのものを渡してるんだ。ガルナはフェリナが見た球の位置を受け取った。今度はフェリナが、ガルナの嗅覚で捉えた方向を受け取った」


「正解」


 フェリナが標的から短剣を抜いた。


「でも、考えていること全部が分かるわけじゃないよ。必要な感覚を、必要な時だけ借りるの」


「思考まで読めたら、フェリナが毎日あたしを怒る前に逃げられるんだけどな!」


「怒られる理由を考えた方が早いと思うよ」


 笑顔で返されたガルナの犬耳が少し垂れた。


 性格も話し方も違う。


 けれど戦いになれば、二つの身体が一つの索敵網として動く。


「迷宮なら、片方が曲がり角の先を見ながら、もう片方が後方を警戒できる」


 ティアナが練習区画を見渡した。


「離れても、お互いの位置を見失いにくいんだね」


「分断されたように見えても、情報は途切れない」


 レグルスも表情を引き締める。


「挟撃を仕掛ける側にとっては、厄介だな」


「切り替える前に兆候はある」


 フィアが双子の耳と尾へ視線を向ける。


「目と耳と尾が、一瞬だけ同じ方向へ動いていた」


「よく見てるね、雷剣ちゃん」


 フェリナは認めたが、困った様子はない。


 それだけで能力のすべてを見抜いたわけではないのだろう。


「私たちはもう登録済み」


 フェリナが三人の名前で埋まった受付札を軽く掲げた。


「三人目も決まってる。あなたたちとは別班だよ」


「あたしたち二人の死角は、ほとんどない!」


 ガルナが胸を張った。


「三人目が加われば、もっと強い!」


 フェリナは僕たちの申請用紙を覗き込む。


「でも、そっちは四人。出られるのは三人だけ」


 視線が僕へ向く。


「土姫、雷剣、銀槍。それで三人になるよね」


 レグルスの眉が動いた。


「勝手に僕たちの編成を決めるな」


「順位と実績を並べただけだよ」


 フェリナは細長い尾を揺らす。


「元最下位くんを入れたら、誰か一人を外さないといけない。それに迷宮で彼を守るなら、土姫と雷剣の動きまで制限される」


「それなら、やっぱり土姫と雷剣のお荷物じゃない?」


 ガルナが悪気を隠さず言った。


 ティアナの頬が膨らむ。


 フィアの顔から感情は読めない。


 僕は三人の前に出るのではなく、三人と同じ位置へ立った。


「僕が荷物かどうかは、君たちが決めることじゃない」


 ガルナの金色の瞳が細くなる。


「ユリウスへ勝ったことで、集団戦まで強くなったとは思ってない。僕は三人に助けられてきたし、まだ一人でできないことも多い」


「じゃあ、外れる?」


「それを今ここで決めるつもりはない」


 三人分しかない申請欄を見る。


「一対一と集団戦が違うのは分かってる。だから、競技で確かめよう」


 ガルナの太い尾が、勢いよく左右へ振れた。


「いいね! それなら話が早い!」


「一対一では勝っても、集団戦では通用しない」


 フェリナが笑う。


「ユリウスを倒した剣が、仲間と一緒にいる時でも振れるのか見せてよ」


「勝負は三人迷宮競技だ!」


「受けて立つ、とはまだ言わない」


 レグルスが申請用紙を双子から遠ざけた。


「誰が出場するかは、僕たち四人で決める」


「個人順位だけで選ぶつもりはない」


 フィアも続ける。


「迷宮で必要なのは、速い者や強い者を三人並べることだけではないから」


「アルトは守られてるだけじゃないよ」


 ティアナが僕の隣で言った。


「実習で、何度も状況を次へ繋いでくれた。出る三人はまだ決めないけど、最初から外す理由もないから」


「なら、誰を選ぶか楽しみにしてる!」


 ガルナが魔導籠手を掲げる。


「競技で泣いても待ってあげないからね、元最下位くん!」


「迷宮では観客の歓声も、一対一の間合いも助けてくれないよ」


 フェリナが背を向ける。


「そこで本当に通用したら、その時はお荷物って呼ぶのをやめてあげる」


 二人は同時に歩き出した。


 言葉を交わしていないのに、右と左から来た生徒を同じ瞬間に避ける。


 離れて見えても、二人の感覚は繋がっている。


「随分、好き勝手言われたな」


 レグルスが不機嫌そうに呟いた。


「でも、実力は本物だね」


 ティアナは双子が去った方向を見ていた。


「対策を考える前に、私たちの三人を考えないと」


「今日は規則を持ち帰るだけでいい」


 フィアが受付の案内を取る。


「誰かを急いで外せば、それこそ相手の言葉に動かされたことになる」


 僕たちは、名前の書かれていない申請用紙を畳んだ。


 時計塔の針は、もうすぐ正午を指す。


 ティアナが時計と僕を交互に見た。


「午後の約束は、ちゃんと空けておいてね」


「うん。忘れてないよ」


 まずは、この四人で三人分の答えを見つけなければならない。


 一人で勝った僕へ、双獣が突きつけた次の問いは――三人でも勝てるのか、だった。

 「面白かった!」


 「続きが気になる、読みたい!」


 「今後どうなるの!!」


 と思ったら


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 面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!


 ブックマークといただけると本当に嬉しいです。


 何卒よろしくお願いいたします。

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