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『属性適性なしの学院最下位、迷宮で見捨てられた僕は七罪の魔神と契約する ~最強英雄になった幼なじみに追いつくまで~  作者: ドキツトム


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第29話 賭けられた隣



競技場を埋めていた花園が、ゆっくりと土へ還っていく。


ティアナは試合後の確認を終えると、係員たちに混じって残った根を回収していた。


自分の魔法だからと、片づけまで人任せにはしないらしい。


やがて着替えを済ませたティアナが、僕たちのいる通路へ駆けてきた。


「お待たせ!」


少し湿った髪が肩の上で跳ねる。


メルナが真っ先に両腕を広げた。


「本戦進出おめでとう、土姫様! それと公開デートのお誘いもおめでとう!」


「そっちは大声で言わなくていいから!」


ティアナが慌ててメルナの口を塞ぐ。


けれど、周囲の生徒たちは既にこちらを見ていた。


僕まで顔が熱くなる。


「アルト」


「うん?」


「明日の午後、忘れてないよね?」


確かめるように覗き込まれる。


「忘れてないよ。一緒に七彩祭を回るんだよね」


「デートとして、だからね」


「う、うん」


ティアナは満足そうに笑い、僕の隣へ並んだ。


その時、上段へ続く階段の途中にユリウスがいることに気づいた。


冷たい青い瞳が、僕ではなくティアナへ向いている。


一枚の花弁が彼の肩へ落ちた。


ユリウスはそれを指で摘み、僅かな炎で灰に変えた。


「本戦の組み合わせが出るよ!」


メルナの声と同時に、中央広場の大型掲示板へ光が走った。


予選を突破した生徒たちの名前が、組ごとに並んでいく。


僕は自分の名前を探した。


すぐに見つかった。


本戦一回戦。


アルト・ロウェル。


その反対側にあった名前は――。


ユリウス・クラウゼル。


周囲がざわめいた。


「いきなり上位五名か」


「予選は勝てても、さすがに相手が悪いだろ」


「クラウゼルは三試合とも圧勝だったぞ」


胸の奥が重くなる。


ユリウスは強い。


魔力量も、剣術も、使える属性の数も僕より上だ。


怖くないと言えば、嘘になる。


掲示板の下に、試合時刻が表示された。


明日の午前。


ティアナとの約束より前だ。


「都合がいい」


背後から声がした。


振り返ると、いつの間にかユリウスが立っていた。


「何が?」


僕が尋ねると、ユリウスは掲示板へ目を向けたまま答えた。


「君の予選突破が、偶然だったとは言わない。三勝は結果だ。そこまで否定するほど、僕は不公平ではない」


褒めている声ではなかった。


「だが、結果はまだ三つだけだ。昨日まで戦闘順位最下位だった事実は消えない」


「分かってる」


「なら、自分の立場も理解すべきだ」


ユリウスの視線が、僕の隣にいるティアナへ移る。


「迷宮では彼女に守られた。防壁、拘束、足場。君が前へ進めた場面の多くに、ティアナの魔法がある」


「それは僕だけじゃない。僕たちは互いの力を使って――」


「言い換えても同じだ。君は彼女の力へ寄りかかっている」


ユリウスが言葉を重ねる。


「ティアナほどの魔法使いなら、三人迷宮競技でも優勝を狙える。だが、君と組めば彼女はまた君の不足を補うことになる」


「私が誰と組むかは、まだ――」


ティアナが口を挟もうとした。


だが、ユリウスは彼女の言葉を無視した。


「僕と組めばいい。僕なら彼女へ優勝を与えられる」


まるで、最初から決まっていることのような口調だった。


「土姫の隣には、それに釣り合う力と家格を持つ者が立つべきだ」


「それを決めるのは君じゃない」


僕が答えると、ユリウスの目がようやく僕へ戻った。


「建前はそこまでにしよう」


口元が僅かに歪む。


「僕はティアナが欲しい」


周囲の声が一瞬遠ざかった。


ティアナの表情からも笑みが消える。


「彼女の力も、家柄も、その容姿も、僕の隣に置くに相応しい。いずれ彼女も理解すると思っていた」


ユリウスの青い瞳が細くなる。


「だが、昨日まで最下位だった君へ、彼女があの笑顔を向ける。正直に言えば、不愉快だ」


「だから僕と戦うの?」


「違う」


ユリウスは静かに笑った。


「ただ彼女の隣に立つだけでは足りない。君から奪うから意味がある」


背筋に冷たいものが走った。


ユリウスが欲しがっているのは、ティアナだけではない。


僕からティアナを奪ったという事実だ。


「君を彼女の目の前で地面へ這わせる。その直後、僕が彼女の手を取る」


「何を――」


「午前に君を倒し、午後には僕が彼女を連れて祭りを歩く。学院中が、誰を選ぶべきだったのか理解する」


ティアナ本人が目の前にいる。


それなのにユリウスは、彼女の予定も気持ちも、既に自分のものになったように語っていた。


「条件を出そう」


ユリウスが僕の剣へ視線を落とす。


鞘には、ティアナが結んでくれた緑色の組紐がある。


「僕が勝てば、三人迷宮競技から降りろ。明日の約束も取り消せ。その組紐も返せ」


「……断る」


「まだある。今後、ティアナの隣へ立つな」


ユリウスはティアナへ目を向け、確信に満ちた声で続けた。


「迷宮競技でも、舞踏会でも、その後も、空いた隣には僕が立つ」


僕の中で、何かが強く軋んだ。


怖さが消えたわけじゃない。


それでも、この条件だけは受けられない。


「その条件じゃ受けない」


ユリウスが眉を上げる。


「ティアナは、僕が賭けていいものじゃない」


「綺麗事で逃げるつもりか?」


「違う。僕が競技から降りるかどうかは僕が決められる。でも、その後ティアナが誰と組むかは、僕にも君にも決められない」


僕はユリウスから目を逸らさなかった。


「僕が負けても、ティアナが君を選ぶ理由にはならない」


「なるさ」


即答だった。


「彼女は弱い君へ向けた庇護欲を、好意と取り違えている。君が僕の足元へ倒れれば、その勘違いも終わる」


周囲には、いつの間にか人だかりができていた。


「土姫を賭けるのか?」


「勝った方が相手になるってことか?」


そんな声が聞こえる。


ユリウスは訂正しない。


むしろ、観衆が増えるほど満足そうに見えた。


僕が断れば、逃げた男として残る。


受けて負ければ、ティアナの前で全部を失う。


最初からそのために、人の多い場所で話しかけたのだ。


「最低」


隣から、低い声が聞こえた。


ティアナが一歩前へ出る。


「私の気持ちを、あなたが勝手に説明しないで」


「今は、そう思っているだけだ」


「違う」


「彼が敗北するところを見れば、君も理解する。敗者へ向けた同情を、好意と取り違えていたと」


「アルトが負けても、私はあなたを選ばない」


ユリウスの表情は変わらない。


「拒むのは自由だ。君が僕を拒むほど、振り向かせた時の価値が上がる」


ティアナの肩が震えた。


怯えではない。


怒りだった。


「明日のデートへ行くのはアルト。あなたじゃない。この組紐だって、あなたに返せなんて言われる筋合いはない」


「明日の午前が終わっても、同じことを言えるならね」


「言えるよ」


ティアナは僕の鞘へ結ばれた組紐を指先で掴んだ。


「でも、アルトが私を賭ける形にはしない」


それから僕を見る。


「条件を変えるね」


「ティアナ?」


「アルトが負けたら、私が三人迷宮競技から降りる」


周囲がどよめいた。


「ユリウスとは組まない。デートも取り消さない。組紐も返させない。私が競技から降りるだけ」


「そんな……ティアナまで出られなくなる必要はないよ」


「あるよ。私の選択を、勝手に間違いだって言わせないために」


ティアナはユリウスへ向き直る。


「アルトが勝ったら、試合後に観客の前で私たちへ謝って。私の気持ちを同情だと言ったことも撤回して」


声は震えていなかった。


「それから、私が誰の隣を選ぶかへ、二度と口を出さないで」


「自分の出場権を、この男へ預けるのか?」


「違うよ」


ティアナが僕の目を見る。


「アルトが私を賭けるんじゃないよ」


緊張を隠すように、少しだけ笑った。


「私が、アルトに賭けるの」


胸が強く締めつけられた。


信じてもらえた嬉しさだけじゃない。


僕が負ければ、ティアナは競技へ出られない。


その重さまで、僕へ預けようとしている。


ユリウスは、そんなティアナを見て笑った。


「いいだろう」


欲しかった相手から拒絶された顔ではなかった。


むしろ、二人まとめて壊す道具を手に入れたような笑みだった。


「なら、君は彼を選んだせいで三人迷宮競技まで失う」


「そうはならない」


「その時になっても、同じ顔で彼の隣へ立てるか見せてもらおう」


ユリウスは一歩だけティアナへ近づいた。


触れはしない。


それでも、青い瞳は既に傷ついた彼女を見ているようだった。


「泣いて縋る場所が必要になった時には、僕が隣にいる」


「いらない」


ティアナは即座に言い切った。


僕は彼女を見る。


「本当にいいの?」


「私の参加は、私が決める」


迷いのない返事だった。


僕は息を吸い、ユリウスへ向き直る。


「その勝負、受ける」


「ようやく身の程を知る気になったか」


「違う」


ティアナは僕のものじゃない。


勝った者が手に入れる賞品でもない。


だからこそ、彼女の言葉を勝手に塗り替えようとするユリウスを、このままにはできない。


「君が勝っても、ティアナは君のものにはならない」


「敗者の言葉になる」


「ならないよ」


僕は掲示板に並ぶ二つの名前を見た。


「明日、観客の前で君に認めさせる」


ユリウスは鼻で笑い、背を向けた。


「君の希望と、彼女の信頼。その両方を折ってやる」


金色の髪が人波の向こうへ消えていく。


掲示板には、僕とユリウスの名前が向かい合っていた。


賭けられたのはティアナじゃない。彼女が僕へ預けた信頼と、その隣へ立ち続ける覚悟だった。

 「面白かった!」


 「続きが気になる、読みたい!」


 「今後どうなるの!!」


 と思ったら


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 面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!


 ブックマークといただけると本当に嬉しいです。


 何卒よろしくお願いいたします。

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