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『属性適性なしの学院最下位、迷宮で見捨てられた僕は七罪の魔神と契約する ~最強英雄になった幼なじみに追いつくまで~  作者: ドキツトム


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第27話 雷剣の敗北



「両者、前へ!」


 午後の競技場へ、バルト教師の声が響いた。


 向かい合う二人は、どちらもここまで二戦全勝。


 学院最速の雷剣、フィア。


 学年最高峰の索敵能力を持つ精霊弓、セルフィナ。


 勝った方だけが、予選組一位として本戦へ進む。


「雷剣が予選から出てくるなんて、相手も運がないな」


「いや、セルフィナなら止められるかもしれない」


「止める? 動いたところを見られれば、だろ」


 観客席の期待が、二人の間へ降り積もる。


 腰まで届く金髪を黒いカチューシャで留めたフィアは、細剣の切っ先を低く構えていた。


 右手には薄い巻き布が残っている。


 向かい側のセルフィナは、白木の長弓へ矢をつがえていない。


 淡い銀緑色の髪の周囲を、半透明の風精霊がいくつも漂っていた。


「勝敗は戦闘続行不能、または両足の場外! 始め!」


 バルト教師の腕が下りる。


 雷光が弾けた。


 フィアの姿が、開始位置から消える。


 観客の目には、金色の線だけが残ったはずだ。


 それなのに、セルフィナの矢は先に放たれていた。


 誰もいない空間へ向けて。


 次の瞬間、その空間へフィアが現れる。


 細剣と矢がぶつかった。


 甲高い音。


 フィアは矢を弾きながら身体をひねり、そのままセルフィナの脇へ抜けようとする。


 セルフィナの周囲で風が巻いた。


 淡い銀緑色の髪が浮かび、細い身体が後方へ滑る。


 フィアの細剣が、白木の弓を僅かに掠めた。


 けれど、一撃が触れただけでは試合は終わらない。


 セルフィナは着地と同時に、三本の矢をつがえた。


 放たれた矢は、またフィアのいる場所を狙っていなかった。


 一歩先。


 雷を纏って進む、その到達地点へ降り注ぐ。


 フィアは一瞬だけ加速を切り、右へ跳んだ。


 一本を細剣で弾く。


 二本目を身を屈めて避ける。


 三本目は、フィアではなく地面へ突き刺さった。


 矢羽根の下から細い根が伸びる。


 根は競技場の床を這い、フィアの後ろへ回り込んだ。


「速さを止める気じゃない」


 僕は思わず呟いた。


 セルフィナはフィアの脚へ蔦を巻きつけようとしていない。


 矢と根で、フィアが走れる場所だけを減らしている。


「では、何を狙っているの?」


 隣にいたティアナが尋ねる。


「行き先を決めさせるんだと思う。フィアが自分で選んだように見える道へ、先に矢を置いてる」


 フィアが再び加速する。


 左。


 そこには矢。


 雷の軌道が折れ、右へ変わる。


 次の矢は、もう右側へ飛んでいた。


 セルフィナはフィアの姿を追っていない。


 翡翠色の瞳は、競技場全体へ向けられている。


 風精霊たちが拾っているのだ。


 足元へ雷が集まる微かな揺れ。


 踏み込みで押し退けられる空気。


 金髪や制服へ生じる僅かな帯電。


 そして、動き出す直前の重心。


 フィアが消えてから目で追うのでは遅い。


 だからセルフィナは、消える前に射ている。


「でも、全部は止められない」


 フィアの雷が、二つへ分かれたように見えた。


 急加速。


 直後に制動。


 残った雷光だけを前へ流し、本人は斜めへ踏み込む。


 セルフィナの矢が残像を貫いた。


 フィアは低い姿勢から細剣を突き出す。


 セルフィナが弓を盾のように立てた。


 切っ先が弓の側面を滑り、制服の肩へ触れる。


 安全術式の光が弾けた。


 それでもセルフィナは戦闘を続けられる。


 弓を回して細剣を外へ押し出し、風を足元へ集めて距離を取った。


「今のを避けるのか……」


「逆です」


 僕たちの近くにいた上級生の声へ、セルフィナが戦いながら答えたわけではない。


 けれど彼女の戦い方は、そう告げていた。


 避けたのではない。


 近づかれることまで含め、離れる準備をしていた。


 セルフィナが地面へ二本の矢を撃つ。


 新しい根が伸び、競技場の左半分を細かく区切った。


 フィアは一度立ち止まった。


 細剣の先が、ほんの僅かに揺れる。


 何かへ気づいたように、足元の雷を消した。


「雷を使わない?」


 ティアナが身を乗り出す。


 フィアは普通に走った。


 身体強化すら最小限。


 速い。


 けれど、先ほどまでの雷速とは比べられない。


 セルフィナの矢は、フィアの右前方へ放たれた。


 雷を纏っていれば到達したはずの場所。


 しかしフィアは、まだその手前にいる。


 矢が空を切った。


 セルフィナの翡翠色の瞳が、初めて大きく開く。


 フィアはそこから雷を弾けさせた。


 予兆を読まれてから動くのではなく、読ませる予兆そのものを遅らせた。


 間合いが一気に消える。


 細剣がセルフィナの長弓を下から跳ね上げた。


 弓が手を離れかける。


 セルフィナは左手だけで弓を掴み直し、風の塊を二人の間へ叩き込んだ。


 フィアが後ろへ滑る。


 セルフィナも反対側へ飛ばされ、膝をついた。


 あと半歩。


 フィアが完全に懐へ入っていれば、セルフィナは弓を失っていた。


「速いだけじゃない……戦いながら、読み方を変えさせた」


 僕が追いつきたいと思ったのは、あの速さだけではない。


 一度読まれたなら、二度目は違う剣を出す。


 その判断ごと、フィアの剣だった。


 セルフィナが立ち上がり、四本の矢を連続で放つ。


 今度は正面からフィアを射抜くためではない。


 右肩。


 右脇。


 細剣の鍔。


 フィアが右手で処理しなければならない位置へ、矢が重なる。


 一射目を弾く。


 二射目も弾く。


 三射目で、細剣が大きく震えた。


 四射目を受けた瞬間、フィアの右手から一度だけ力が抜ける。


 傷が残っている。


 フィアはすぐに握り直したが、剣先が戻るまで半瞬かかった。


 セルフィナは見逃さなかった。


 矢を当てて右手を壊そうとはしない。


 ただ、握り直す回数を増やしている。


 競技場の地面には、すでに何本もの矢が刺さっていた。


 そこから伸びた根が、細い線となって走路を狭めている。


 左には蔦。


 右には場外線。


 残ったのは、セルフィナへ真っすぐ続く道だけだった。


「露骨な道だ」


 罠だと、僕にさえ分かる。


 フィアにも分かっているはずだ。


 それでも、細剣を正面へ向けた。


 右手の巻き布が赤く滲み始めている。


 フィアの肩が、見覚えのある角度へ動いた。


 鎧蜥蜴との戦いより前。


 自分の右手を傷つけた、あの斬撃へ入る時の構え。


「フィア……」


 使えば、蔦も矢もまとめて断てるのかもしれない。


 けれど、右手はもう一度耐えられる状態ではない。


 フィアの細剣が僅かに上がる。


 そして、止まった。


 肩の力を抜き、普通の刺突の構えへ戻す。


 右手を壊す斬撃は使わない。


 今ある雷と細剣だけで、正面を抜くつもりだ。


 足元で雷が揺れた。


 風精霊が一斉に振り向く。


 フィアが消えるより先に、セルフィナは二本の矢を放った。


 一本は左。


 もう一本は右。


 どちらも、今のフィアがいる場所には飛んでいない。


 雷光が一本道を駆け抜ける。


 フィアはセルフィナへ迫った。


 左の矢が着地点へ刺さり、蔦を伸ばす。


 細剣が一閃し、蔦を断った。


 だが、右の矢から伸びた蔦への反応が半瞬遅れる。


 右手の傷。


 それでもフィアは剣を返し、二本目まで切った。


 蔦は身体へ巻きついていない。


 足も止めていない。


 ただ、その一瞬で十分だった。


 セルフィナが弓を横へ振る。


 風が、フィアの側面へ叩きつけられた。


 止めるほど強い風ではない。


 雷速の進路を、僅かに右へ曲げるだけの風。


 フィアの細剣が、セルフィナの頬のすぐ横を通り過ぎた。


 身体はそのまま場外線へ向かう。


 右足が線を越えた。


 フィアは左足で踏み止まろうとする。


 傷んだ右手では細剣を地面へ突き立てられない。


 左足も、競技場の外へ着いた。


「場外!」


 バルト教師の声が響く。


「勝者、セルフィナ・シルヴァリス! 三戦全勝、本戦進出!」


 歓声とどよめきが重なった。


 フィアは場外で姿勢を立て直し、自分の両足を見下ろした。


 判定へ抗議はしない。


 セルフィナも笑っていなかった。


 白木の長弓を垂直に立て、胸元へ手を添える。


 正式な敬礼だった。


「あなたが動き出した後では、私には追えません」


 セルフィナは静かに告げる。


「だから、動く前を読みました。一度でも読み違えていれば、場外にいたのは私です」


 フィアはしばらくセルフィナを見ていた。


 やがて細剣を下げ、小さく頭を傾ける。


 敗北を認める礼だった。


 その時、観客席から別の声が落ちてきた。


「雷剣が予選敗退か」


「あの家系なら、本戦へ進んで当然だと思っていたのに」


「期待外れだな」


「血筋ほどの剣じゃなかったのか?」


 さっきまで速さへ歓声を上げていた人たちの声だ。


 期待していた分だけ、敗北へ向ける言葉も鋭い。


 僕は立ち上がりかけて、座り直した。


 ここで僕が怒鳴っても、フィアの敗北が消えるわけではない。


 セルフィナの勝利を軽くするだけだ。


 フィアも観客席を見なかった。


 細剣を鞘へ収め、一人で退場口へ消えていく。


 僕は少し時間を置いてから、競技用武器の返却所へ向かった。


 フィアは木製の台へ細剣を置き、右手の巻き布を外していた。


 血は薄く滲んでいる。


 大きく傷が開いたわけではない。


 フィアは新しい布を右手へ巻いていた。


 けれど同じ場所を二度、三度と通している。


「見ていた?」


「うん」


「なら分かる。読み負けた」


 フィアは巻き布を引いた。


「右手のせいだけではない。傷がなくても、最後の道へ入った時点で、セルフィナの狙い通りだった」


「うん。セルフィナの勝ちだよ」


 フィアの手が止まった。


「慰めに来たのではないの?」


「そのつもりはないよ」


「なら、何を言いに来たの?」


 僕は競技場で見た剣を思い出す。


「フィアは、途中で読まれてることに気づいた。雷を使わない踏み込みで、一度セルフィナの予測を外した」


「でも、その次を読まれた」


「右手を壊す斬撃も使わなかった」


 フィアの瞳が僅かに細くなる。


「あれを使っていれば勝てた、とは言わない。使っても負けていたかもしれない。でもフィアは、今後の剣を捨ててまで今日の一勝を取りに行かなかった」


「その結果、負けた」


「うん」


 否定はしない。


 今日の勝者はセルフィナだ。


 それでも、僕が見ていた剣まで変わるわけではない。


「負けた剣に、追いつきたいと言うの?」


 フィアが尋ねる。


 僕は頷いた。


「今日負けても、僕が追いつきたいと思ったのは、やっぱりフィアの剣だ」


 巻き布が、フィアの指から落ちた。


 床へ届く前に左手で掴む。


「……意味が分からない」


「僕も、これ以上うまくは言えないよ」


「そう」


 フィアは視線を逸らし、右手へ布を巻き直した。


 また同じ場所を二度巻いている。


 きつく締めすぎたことへ気づいたのか、今度は少し緩めた。


 僕が返却所を出ようとした時、フィアの左手が胸元へ上がった。


 傷があるのは右手のはずだった。


 それでも、剣を握っていない左手は、しばらくフィアの胸元から離れなかった。

 「面白かった!」


 「続きが気になる、読みたい!」


 「今後どうなるの!!」


 と思ったら


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 面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!


 ブックマークといただけると本当に嬉しいです。


 何卒よろしくお願いいたします。

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