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『属性適性なしの学院最下位、迷宮で見捨てられた僕は七罪の魔神と契約する ~最強英雄になった幼なじみに追いつくまで~  作者: ドキツトム


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第218話 鬼神と破壊神

「この場面を挿絵で見たい!」と思った箇所がありましたら、挿絵希望度を★1〜5で評価し、場面と一緒に感想欄で教えてください!


例:『〇〇と△△が対峙する場面/★★★★★』


皆さまの声を、今後の挿絵制作の参考にさせていただきます!



 雷を使わなくなって、一か月が経った。


 私の身体は、遅い。


 踏み込みから斬り抜けまで、細剣なら一瞬で終わる。けれど、両手にある刃引きの訓練剣は、私が止まりたい場所を過ぎても前へ落ち続けた。


 肩が下がる。


 息が止まる。


 右の踵が浮き、爪先の向きに腰がついてこない。


 どうにか振り切った時には、次の一歩へ移るための軸が消えている。


「右肩」


 《破壊神》の声が飛ぶ。


 私は落ちた肩を戻し、剣を引き上げた。腕の内側が震えている。


「腰と足が別だ」


 もう一度振る。


「息」


 言われてから、肺が空になっていることに気づいた。


 雷は、こうしたずれが表へ出る前に私を運んでいた。愛用の細剣なら、腕へ重さが残るより先に斬撃が届く。速さで隠れていたものが、今は一振りごとに剥がされていく。


 不快だった。


 同時に、見なかったことにはできなかった。


 《破壊神》が足元の土へ爪先を滑らせ、私を囲む円を描いた。半歩ずれれば外へ出るほど小さい。


「入れ」


 円の中央へ立つ。


「剣を上げろ。俺の一撃を受けても、足を出すな。次の息を乱すな」


 《破壊神》が右手を構えた。


 肩にも肘にも力みはない。それでも、その拳が届く前から、皮膚の下が危険を告げた。


 一歩、横へ抜ける。


「外だ」


 円を踏み越えた私の足を、《破壊神》が見下ろす。


「避けられる」


「後ろに誰もいなければな」


 短い返答だった。


「前に立てば、避けてはいけない一撃がある」


 私は円へ戻った。


 剣を斜めに立てる。今度は逃げない。


 拳が訓練剣の腹を打った。


 金属が低く鳴り、衝撃が手首から肩へ突き抜ける。腕だけで押し返そうとした瞬間、上体が仰け反った。踵が浮き、右足が円の縁を踏む。


 重い。けれど、骨を砕く重さではない。拳はその都度、私の繋がっていない場所だけを正確に揺らしていた。


「肩で止めるな。膝を固めるな」


「もう一度」


「足裏を置け。腰を逃がせ。背骨を折らずに通せ。受ける時に吐け」


 私は足の指から踵までを土へつけ直した。膝をわずかに緩め、爪先と腰の向きを揃える。背骨の上へ頭を置き、肩を下げた。


 再び、拳が来る。


 剣へ触れた瞬間に、短く息を吐いた。


 衝撃を腕だけで抱えず、肘をわずかに譲る。肩から背へ、腰から両脚へ落とす。足裏に押された土が沈み、その分だけ力が左右へ抜けた。


 身体は揺れた。


 けれど、足は円に残った。


「次」


 二撃目。


 左膝が内へ入る。


「膝」


 三撃目。


 腰を引きすぎた。


「逃がすのと退くのを混ぜるな」


 四撃目。


 息を吐き、足裏で受け、背中まで一本にする。


 最初の日は、一撃で尻もちをついた。立ち上がる前に呼吸が乱れ、剣を持ち直すだけで腕が痺れた。


 今は四度受けても立っている。


 五撃目を流した時、《破壊神》の右脇が空いた。


 考えるより先に、私は右足を踏み込ませた。受けた剣を返し、そのまま胴へ振る。


 軸が傾いた。


 剣先が届く前に、《破壊神》の手が峰を掴んだ。訓練剣は空中で止まり、私の右足だけが円の外へ出ていた。


「受けた直後に勝とうとするな」


 手を離されると、剣の重さで肩が落ちた。


「次の息が先だ。軸もない反撃は、前へ倒れているだけだ」


 反論はできない。


 私は円へ戻った。


 昼までに、さらに三十二回、外へ出た。


     ◇


 昼食は、肉と根菜を煮込んだものと、黒いパンだった。


 私は皿を空にし、残ったパンを水で流し込んだ。立ち上がって訓練剣へ手を伸ばす。


 先に、《破壊神》の指が柄を押さえた。


「座れ」


「食べた」


「足りない」


 鍋からもう一杯、皿へ注がれる。


「まだ動ける」


「今日動けるかではない。明日も前に立てるかだ」


 《破壊神》は皿を私の前へ戻した。


「鍛錬で壊す。食べて満たす。眠って作り直す。どれかを抜けば、壊しただけだ」


「休んでいる」


「目を閉じているだけの夜を、眠ったとは言わん」


 匙を持つ手が止まった。


 《破壊神》はそれ以上言わず、自分の食事へ戻った。


 私は煮込みを口へ運んだ。噛むたびに時間を失っている気がした。座っている間にも、昼に崩した三十二の足運びが頭の中へ浮かぶ。


 全部、直せる。


 回数があれば。


     ◇


 夜が深まるまで待った。


 寝床を抜け、音を立てずに訓練場へ戻る。月明かりの下、地面には昼間の円が薄く残っていた。


 訓練剣を持ち上げる。


 受ける相手はいない。だから、打撃を受けた直後の形だけを繰り返した。


 足裏を置く。膝を緩める。息を吐く。衝撃を想像し、剣を傾ける。次の呼吸で軸を作り直し、一歩だけ返す。


 右の踵が浮いた。


 十回、増やす。


 腰が先に開いた。


 さらに十回。


 剣に引かれて肩が落ちる。


 もう十回。


 失敗を残して眠れば、その形が身体へ沈む気がした。休んでいる間にも、誰かは前へ進む。次の戦場で仲間が踏み込んだ時、私だけがその背中へ届かない。それだけは駄目だった。


 右足の感覚が鈍くなっていた。


 分かっていたが、動くなら続けられる。


 踏み込む。


 爪先が夜露を含んだ土を滑った。


 力の抜けた右膝が折れ、重い剣だけが前へ落ちる。柄を放せず、上体ごと引かれた。刃引きでも、この重さで顔から受ければ無事では済まない。


 襟元が後ろへ引かれた。


 同時に、訓練剣が横から掴まれる。


 地面まで指二本分のところで、私は止まった。


 《破壊神》が剣を持ち上げ、私を立たせた。


「もう一度」


 口から出たのは、考える前の言葉だった。


「終わりだ」


「今のは足が滑っただけ」


「その足をここまで削ったのは誰だ」


 右足へ力を入れる。膝が細かく震えた。


「次は直す」


「失敗するたび、飯を急ぎ、眠りを削り、苦しんだ数で埋めようとする」


 訓練剣が、私の手から抜き取られた。


「お前は鍛えているんじゃない。休む怖さから、自分を削っている」


「止まれば、遅れる」


「削れた脚で、誰の前に立つ」


 答えが喉で止まった。


 今夜の一回を増やせば、明日の不足が減ると思っていた。けれど実際には、剣を支えることさえできなかった。


 《破壊神》は訓練剣を肩へ担いだ。


「明日立つお前まで含めて、お前の身体だ。今夜のお前が、勝手に使い潰すな」


「まだ歩ける」


「なら寝床まで歩け。訓練はさせん」


 取り返そうとしても、剣は片手で遠ざけられた。


 私は空いた手を握り、開いた。


 そのまま、寝床へ戻った。


     ◇


 翌朝、身体が軽かった。


 右足は土を確かに押し、昨日より剣が素直に持ち上がる。背中に残っていた熱も薄い。


 食べて眠った結果を、身体そのものに突きつけられた。


 少し腹が立った。


 訓練場へ出ると、《鬼神》が待っていた。


 その傍らで淡い光が集まり、小さな人影を形作る。私の胸にも届かない子どもだった。片手に、片輪の欠けた木の馬を握っている。


 子どもは私を見上げたあと、黙って上着の裾を掴んだ。


 指先から冷たさは伝わらない。それでも、布が引かれる感覚だけは本物だった。


「条件は一つだ」


 《鬼神》が告げる。


「この子へ、敵の手を触れさせるな」


 周囲の地面から、四体の敵性記憶体が立ち上がった。それぞれが剣や槍を持ち、私と子どもを囲む。


 雷は使えない。


 細剣もない。


 私は重い訓練剣を中段へ置き、子どもの小さな足音を背後に聞いた。


 正面の一体が踏み込む。


 振り下ろされた剣を、訓練剣の腹で受けた。


 息を止めない。


 足裏から膝、腰、背中までを繋ぎ、衝撃に合わせて短く吐く。腕へ集まりかけた重さを両脚へ流す。


 足は残った。


 すぐには斬り返さない。


 裾を引く指を確かめ、左の槍との距離を見る。右から迫った敵へ剣の柄を打ち込み、身体を折らせた。その隙に半歩だけ下がり、子どもを私の背中へ隠す。


 槍が伸びる。


 刃ではなく柄の根元を押さえ、外へ流した。重い訓練剣は速く振れない。その代わり、一度相手の武器へ乗せれば、進む線を大きくずらせる。


 背後で子どもの靴が土を擦った。


 私は振り向かず、裾が引かれる向きで位置を知る。


 三体目が左へ回る。正面を斬るふりで牽制し、足だけを左へ運んで道を塞いだ。右の敵には空いた手で手首を押し、剣先を子どもから外す。


 雷がなくても見える。


 細剣でなくても止められる。


 一か月前なら、最初の一撃を避けた瞬間に子どもへの道を開けていた。今は打撃を受けても呼吸が続く。次の敵を見るための軸も残っている。


 四体の攻撃が重なるたび、私は一歩ずつ場所を変えた。


 ただし、子どもから二歩以上は離れない。


 正面の敵が大きく剣を振り上げた。


 私は半身になり、刃を滑らせる。敵の剣が地面を叩く。その手首へ訓練剣を重ね、腰を回して押し落とした。


 敵の片膝がつく。


 首筋が空いた。


 今なら倒せる。


 ここで残せば、体勢を戻してまた子どもを狙う。動く敵が一体減れば、守る範囲も狭くなる。


 私が前へ出ると、裾を掴んでいた指が離れた。


 一歩。


 敵が後ろへ退く。


 二歩、三歩。


 逃げながら剣を戻そうとする腕を、訓練剣で外へ弾く。


 四歩目で懐へ入った。


 横薙ぎの一撃が、敵の胴を捉える。


 敵性記憶体が中央から折れ、黒い霧となって崩れた。


 倒した。


 振り返る。


 子どもとの間には、私が進んだ四歩より長い距離が開いていた。右側にいた敵が、私の死角を通って背後へ回り込んでいる。


 戻ろうと踏み込む。


 訓練剣の重さが、斬り終えた側へ身体を残した。軸を戻す一呼吸が要る。


 その一呼吸が、遠い。


 敵の手が、子どもの肩へ触れた。


 音もなく、子どもの輪郭がほどけた。


 裾を引いていた小さな指が透け、欠けた木の馬とともに光の粒へ変わる。


 私が斬り伏せた敵の黒い霧が地面へ沈む。その向こうで、守るはずだった子どもの光が空へ消えていった。


 残る敵性記憶体も動きを止め、霧散した。


「追わなければ、正面の敵は立て直していた」


 《鬼神》は、消えた子どもの場所を見た。


「敵を倒せとは言っていない」


「残せば、また狙う」


「それで」


 私は訓練剣を握り直した。


「一人なら勝てた」


「だから何だ」


 返答に間はなかった。


 《鬼神》が、何もいなくなった地面を示す。


「敵は倒れた。後ろの一人も消えた。お前は何に勝った」


 奥歯を噛む。


 もっと速ければ、四歩を一息で戻れた。


 もっと強ければ、追う前の一撃で仕留められた。


 四体が動き出すより早く全て倒せるなら、子どもへ触れる手そのものがなくなる。


「戻る速さが足りなかった」


「また、自分を足すのか」


 《鬼神》の視線が、私の右足へ落ちた。


「速さ。力。動ける時間。夜中に剣を振った理由と同じだ」


 私は黙った。


「お前は強い。隊列も、退路も、役割も知っている。背中を預けることも覚えた」


「なら」


「だが、自分の役目だけは一人で完成させようとする」


 言葉が切り込んできた。


 仲間と戦う時、私は自分の立つ位置を知っている。誰が道を作り、誰が守り、誰が決めるのかも見てきた。背中を預けて生き残ったことも、一度ではない。


 けれど、自分に任された一線へ敵を通せば、それは私の不足だと思っていた。


 誰かがそこを埋めるなら、私の不足を背負わせたことになる。


 なら、速くなればいい。強くなればいい。最後まで動ける身体を作ればいい。


 私一人で、任された役目を終わらせればいい。


「お前の役目は斬ることではない」


 《鬼神》が言った。


「守るために斬ることだ。順番を変えるな」


 消えた光が、まだ目の奥に残っている。


 敵を仕留めた瞬間、私は勝ったと思った。


 その時にはもう、条件から外れていた。


「人の身体には背中がある。一人で全方位を完成させるな」


「空ければ、敵が通る」


「斬る以外で空けるな」


 《鬼神》は私の足元と、子どもがいた場所との間を指した。


「止める。下がる。時間を稼ぐ。届く者へ託す。敵を全て倒すことだけが勝ちではない」


「倒さなければ、残る」


「守るものも残せ。それから斬れ」


 声は低く、短かった。


「剣は己だ。だが、己を皮膚の内側だけで終わらせるな。守るものがあるなら、そこまでをお前の間合いに含めろ」


 分かる言葉と、分からない動きの間に深い溝があった。


 子どもから離れず、四方を塞ぐ。


 斬るより先に守り、守ったまま敵を斬る。


 今の私の中に、その答えはない。


 《鬼神》が片手を上げた。


 淡い光が再び集まる。欠けた木の馬を持つ子どもが現れ、四体の敵性記憶体がその周囲へ立ち上がった。


 子どもの指が、また私の上着の裾を掴む。


「もう一度やるか」


 訓練剣を握る手に力が入った。


 いつもなら、答える前に構えている。


 失敗したなら、成功するまで繰り返す。十回で足りなければ百回。今日で届かなければ、眠る時間を削ってでも今日のうちに近づく。


 剣を中段へ上げかけた。


 夜露で滑った右足の感覚が蘇る。


 続いて、敵を倒した向こうで消えた小さな指と、空へ昇った光が重なった。


 同じ考えのまま回数だけを増やしても、同じ失敗へ、昨日より速く辿り着くだけだ。


 私は訓練剣を下ろした。


 手放しはしない。切っ先も地面へつけない。


 ただ、自分の中にない答えを、一人で作れるふりをやめた。


 できないことを正確に知るのは、退くことではない。次の一歩を間違えないために、今いる場所を測ることだ。


 私は《鬼神》を真っ直ぐ見た。


「教えて。守ったまま、斬る方法」

 「面白かった!」


 「続きが気になる、読みたい!」


 「今後どうなるの!!」


 と思ったら


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 面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!


 ブックマークといただけると本当に嬉しいです。


 何卒よろしくお願いいたします。

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