第196話 リヴァイアサン
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例:『〇〇と△△が対峙する場面/★★★★★』
皆さまの声を、今後の挿絵制作の参考にさせていただきます!
王都の城壁が見え始めた時、五人の騎士団長が、私の進路を塞ぐように荒野へ並んだ。
第七階位・水・風複合魔法《水蝶天翔》の水翼が、荒野の上で大きく揺れる。
このまま高度を落とさず突破すれば、五人を巻き込む。
私は風を横へ逃がし、水圧を絞った。両足が乾いた地面へ着いた瞬間、背後で水翼が砕け、無数の水蝶となって散る。
正面中央に立つのは、雷虎騎士団長アーサー・ペンドラゴン。
長い金髪を高く束ね、青と白銀の甲冑へ短い紺色のマントを重ねている。右手は聖剣エクスカリバーの柄に置かれていた。
その右に、土亀騎士団長ゴウセル・テラフォードと、炎獅子騎士団長イグナシオ・ボルケーノ。
左には、風鷹騎士団長シルフィ・レイカードと、光龍騎士団長ギルバート・レイツェル。
七大魔法騎士のうち、私とガイ団長を除いた五人が揃っている。
ガイ団長がいない理由は、考えるまでもなかった。
アルトの即時死刑を執行する灰鬼騎士団長は、七旗ドラフトの演武場にいる。
その事実が、胸の奥をさらに急かした。
「レイシア。止まれ」
アーサーが告げる。
若い声には似合わないほどの威厳が、荒野の空気を張り詰めさせた。
「我々が受けた命令は、君を殺すことではない。生存状態で進行を阻止し、拘束することだ」
「執行開始後まで私を騙しておいて、今度は私を拘束するの?」
「通知手順が正しかったとは言わない」
ギルバートが静かに答えた。
「しかし、七大魔法騎士が王国の執行命令へ武力介入すれば、王都の防衛体制そのものが揺らぐ。ここから先へ進めば、明確な命令違反だ」
そんなことは分かっている。
水蝶騎士団長の地位も、七大魔法騎士の称号も、王国籍も失うかもしれない。
それでも、立ち止まる理由にはならなかった。
「そこを退いて」
「退けないわ」
シルフィが風に乱された髪を払う。
その視線は私の背後に残る水滴と、抉れた地面を順に捉えていた。
「第七階位を無詠唱で維持したまま、荒野からここまで飛んできた。しかも、普段のあなたより制御が荒い。その状態で王都へ入れると思って?」
「制御を失ってはいない」
「けれど、止まる気もないのでしょう?」
返す言葉はなかった。
イグナシオが私と王都の間隔を測るように視線を動かし、左右の退路へ目を配った。
「ドラフトの時みたいに、観客席を気にして出力を削った決闘じゃ済まねえな」
声は豪快でも、構えに隙はない。
「軽く押さえようとした方が突破される。そうなりゃ、王都の中で止めることになる」
ゴウセルが重く一歩を踏み出した。
それだけで、五人の間にあった隙間が消える。
「生かして止める。だからこそ、全力でなければならん」
七旗ドラフトの決闘では、誰も本来の出力を使っていなかった。
候補生を殺さないため。
観客を巻き込まないため。
演武場を壊さないため。
私もリヴァイアサンとの接続を制限し、水圧と換装範囲を抑えていた。
今は違う。
あの時と同じ力では、五人を越えられない。
五人も、それを理解している。
アーサーがエクスカリバーを抜いた。
澄んだ刀身が朝の光を反射する。
ゴウセルが腰を落とし、イグナシオが両腕を構える。シルフィは風向きを測るように半身となり、ギルバートは私と王都を結ぶ直線へ立った。
誰も逃げない。
誰も私を殺そうとしてはいない。
それでも、私を通すつもりもなかった。
「全員、殺すな。だが、手加減もするな」
アーサーの命令に、四人が無言で応じた。
武器と構えが、私一人へ向けられる。
私は五人を殺したいわけではない。
倒すことが目的でもない。
アルトが生きているうちに、ここを突破する。
そのために必要なら、ドラフトでは閉じていた接続を全て開く。
「来て、リヴァイアサン」
詠唱は必要ない。
私の足元へ銀青色の魔法陣が広がった。
第七階位・水召喚魔法。
荒野の大気が震え、地面を覆うほどの水が魔法陣から噴き上がる。
水柱は空中でうねり、巨大な頭部を形作った。
続いて長大な胴体、厚い鰭、幾重にも重なる水の鱗が現れる。
巨大な水の海獣リヴァイアサンが、荒野の上へ顕現した。
その姿は王都の城壁に届きそうなほど大きい。
けれど、溢れた水は五人にも城壁にも襲いかからず、私の周囲で渦を巻いている。
リヴァイアサンが低く鳴いた。
命令への服従ではない。
私が望むものと、これから払う代償を確かめる声だった。
私は水の海獣を見上げる。
「アルトのところへ行きたい」
リヴァイアサンの巨大な瞳が、静かに閉じられた。
次の瞬間、その巨体が崩れた。
水の身体は破壊されたのではない。数え切れない銀青色の流れへ分かれ、全てが私へ向かう。
最初に両脚へ水圧が巻きついた。
鱗状の魔力が足先から脛、膝、腿へ重なっていく。
腰を包んだ水流が胴へ上がり、腹部と胸部を隙間なく守る。背中へ集まった水圧は、姿勢を支える第二の骨格となった。
両腕、両肩、首へ銀青色の鱗状装甲が広がる。
最後に顔の上半分を覆う薄い装甲が形成され、澄んだ水の視界が五人を捉えた。
銀青色の長髪と長い耳は残っている。
人型も、意識も、標的を選ぶ権利も失っていない。
背後では、リヴァイアサンの水流が巨大な外套となって揺れていた。
これは身体を奪われる換装ではない。
私とリヴァイアサンが、互いに選んで重なる正規の全身換装だ。
開始も、出力も、解除も、私が選べる。
その代わり、全身の魔力経路が軋んだ。
《水蝶天翔》で消費した魔力の上へ、本気の換装負荷が重なる。呼吸は熱く、視界の端には僅かな明滅が走った。
無限には戦えない。
だからこそ、一息で五人を越える。
召喚獣全身換装。
ドラフトで見せた安全制限は、もう一つも残していなかった。
「五人の団長が手加減を捨てた正面で、ドラフト決闘とは比較にならない、私の本気の召喚獣全身換装が完成した。」
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