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『属性適性なしの学院最下位、迷宮で見捨てられた僕は七罪の魔神と契約する ~最強英雄になった幼なじみに追いつくまで~  作者: ドキツトム


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第195話 遅すぎた知らせ

「この場面を挿絵で見たい!」と思った箇所がありましたら、挿絵希望度を★1〜5で評価し、場面と一緒に感想欄で教えてください!


例:『〇〇と△△が対峙する場面/★★★★★』


皆さまの声を、今後の挿絵制作の参考にさせていただきます!



荒野の観測台へ王都からの緊急封書が届いた時、そこに記されたアルトの執行開始時刻は、すでに過ぎていた。


王都から数キロ離れた乾いた荒野では、水蝶騎士団が魔力変動の観測を続けていた。


地面へ打ち込まれた観測杭の間を成人騎士たちが行き交い、避難対象となった住民を街道脇の安全区域へ誘導している。


任務そのものは本物だった。


荒野の地下では、朝から不規則な魔力変動が観測されている。放置すれば街道や近隣集落へ影響が及ぶ可能性があった。


北側の避難線はまだ最終確認を終えていない。


成人救護班との連絡も一部が残り、王都側へ続く街道の封鎖報告も揃っていなかった。


それでも、あと少しで一区切りつくと思っていた。


任務が終わったらすぐに王都へ戻る。


隔離病棟へ面会を申請して、別の施設で検査を受けているアルトを待つ。


次に会ったら、孤児院へ何を話すか決める。


正式な婚約手続きに何が必要なのかも、一緒に確認する。婚約指輪はどんなものがいいか、今度こそ二人で相談する。


その未来を疑う理由など、私にはなかった。


「団長、王都より最優先の緊急封書です」


息を切らした成人通信担当者が、観測台の階段を駆け上がってきた。


差し出された封書には二重の封印が施されている。


外側には水蝶騎士団長宛ての印。


内側には、非公開命令を示す王国の封印。


「いつ届いたの?」


「たった今です。開示指定時刻を迎えたため、封印経路から送達されました」


開示指定時刻。


その言葉が胸へ引っかかった。


私は封印を解き、折り畳まれた文書を開いた。


最初に目へ入ったのは、アルト・ロウェルという正式名だった。


続いて、第一処分――永久封印。


文字の意味を理解するまで、何度も同じ行を読み返した。


永久。


治療が終わるまでではない。


安全な封魔具が完成するまででもない。


解除日も退院日も存在しない、国家危険管理処分。


「何……これ……」


指先が震えた。


次の項目には、永久封印施設への移送中に適用される三つの緊急条件が記されていた。


ベルゼバス、サタネグラス、アスモリーナの三魔神同時顕現。


成人医療担当者と成人封印担当者によって客観的に確認された、アルト本人の人格消失。


本人の意思で停止できない、周囲魔力の強制吸収。


いずれか一つが成立した場合、永久封印を中止。


事前判決に基づき、即時死刑へ移行する。


「死刑……?」


声が、自分のものではないほど掠れた。


執行担当は灰鬼騎士団。


執行場所は、七旗ドラフトの演武場。


アルトが騎士として進む場所を選んだ、あの演武場だった。


さらに下へ視線を落とす。


魔神による強制全身換装を確認。


人格応答あり。


倫理観及び対象境界を維持。


三魔神同時顕現なし。


人格消失なし。


周辺自由魔素の継続的流入を複数地点で観測。本人による停止要求及び停止行動を確認するも、流入停止せず。


本人の意思で停止できない周囲魔力の強制吸収と認定。


即時死刑へ移行。


紙面の文字が滲んだ。


アルトは、アルトのままだ。


人格を失っていない。


人間と精霊を対象外にしている。


止めようとしている。


それでも殺される。


「執行完了の報告は?」


通信担当者の肩が跳ねた。


「まだ届いていません」


「なら、まだ生きてる」


口にした言葉へ縋るように、私は次の欄を探した。


判決確定時刻。


執行開始予定時刻。


アルトを王都外の封印治療施設へ移送すると偽って説明する指示。


本人への判決開示禁止。


私への通知禁止。


どれも、私が荒野へ出発するより前に決まっていた。


最後に記された開示許可時刻だけが、執行開始予定時刻より後になっている。


注記には、私が荒野の指定観測区域へ到着したことを確認した後も、執行開始まで通知を保留するとあった。


間違いではない。


遅れたのでもない。


私がアルトから離れるまで待ち、処刑が始まってから知らせたのだ。


「最初から……」


封書を握る指へ力が入った。


「最初から、私をここへ追い出すための任務だったの……?」


「団長、我々は何も――」


「分かってる!」


通信担当者が息を呑む。


責める相手がこの人ではないことくらい、分かっていた。


それなのに声を抑えられなかった。


文書の続きには、私を遠ざけた理由まで整然と並んでいた。


アルト・ロウェルにとって、レイシア・ロウェルは重要な感情刺激対象である。


両名は、二つの追加契約が強制成立する以前から、双方の自由意思による私的婚約関係にある。


愛情及び婚約に人格異常は認められない。


ただし、面会時に《憤怒》《色欲》の契約反応が増幅した記録が存在する。


移送時の反応抑制、条件成立時の執行への介入防止、私的関係による利益相反回避のため、レイシア・ロウェルを別地域任務へ配置する。


婚約確認記録。


私が自分で署名した記録だった。


アルトとの未来が嘘ではないと証明するために書いた名前が、私たちを引き離す根拠に使われている。


――終わったらすぐ来る。


昨日、透明な隔壁の向こうにいたアルトへ、私はそう約束した。


――うん。約束。


白い髪の下で、青灰色の瞳が穏やかに細められていた。


アルトは私を信じていた。


検査が終われば病棟へ戻れると信じていた。


私が荒野から帰れば、また面会できると思っていた。


その時にはもう、王国はアルトを永久に閉じ込め、異変が起きれば殺すと決めていた。


「嘘をついた……」


頬を伝った涙が、封書へ落ちた。


「私は、何も知らないままアルトに約束した。終わったらすぐ来るって……」


周囲の空気が震えた。


荒野に残っていた僅かな水分が、一斉に私の周囲へ浮かび上がる。細かな雫が無数の水蝶へ変わりかけ、制御を失って砕けた。


観測板が軋む。


固定されていた布が風に煽られ、留め縄が一本切れた。積まれていた記録紙が宙へ舞い、乾いた地面へ水滴が叩きつけられる。


「団長、魔力を抑えてください!」


成人副官が駆け寄ってくる。


「抑えられるわけない!」


自分でも聞いたことのない声が出た。


「アルトは一年間も苦しめられた! 帰ってきて、全部話して、治療を受けて、誰も傷つけないように自分から反応を伝えてた! それなのに、どうして本人へ何も言わずに殺すの!」


長い耳の奥で、心臓の音が鳴り続ける。


視界が涙で歪む。


永久封印。


即時死刑。


執行開始。


どの言葉も、アルトと交わした約束を切り裂いていく。


「王都へ戻る」


私は封書を握ったまま観測台を下りた。


「団長、お待ちください。北側避難線の最終確認が残っています」


成人副官が後を追ってくる。


足は止まらなかった。


「一部住民の避難完了報告も未着です。第三観測地点との同期、王都側街道の封鎖確認、救護班との最終連絡も終わっていません」


聞こえている。


全て団長である私が確認すべきことだった。


現地を離れるなら、成人副官へ状況を説明し、指揮権を正式に移譲しなければならない。


それが多くの命を預かる者の責任だ。


「引継書を用意します。現地指揮権の移譲を完了してください」


副官が手書きの書類を差し出した。


私は受け取らなかった。


遠くでは、まだ避難する住民の列が動いている。


観測杭の数値を読み上げる成人騎士の声も聞こえる。


ここで私が抜ければ、任務は混乱する。


分かっている。


分かっているのに、アルトが殺されるかもしれない一秒と、引き継ぎに使う一秒を比べることができなかった。


「団長!」


「行かなきゃ……」


「せめて現状報告を最後まで聞いてください!」


「今、アルトが殺される!」


私は振り返った。


副官の手にある引継書へ、署名欄だけが白く残っている。


その白さを見ても、手を伸ばせなかった。


私は避難線の最終確認をしなかった。


住民全員の安全を確かめなかった。


指揮権移譲の署名も残さなかった。


水蝶騎士団長として果たすべき仕事を、途中で投げ出した。


「私も同行します」


副官が言った。


背後の成人騎士たちも動こうとする。


私は首を振った。


「誰もついてこないで。これは私が勝手に行く」


「しかし――」


「水蝶騎士団を巻き込まないで!」


また声を荒らげてしまった。


副官が足を止める。


私は何も命じなかった。


任務を続けろとも、指揮を引き継げとも、最後まで言葉にできなかった。


ただ彼らを残し、背を向けた。


これで団長として終わっても構わない。


七大魔法騎士の称号を剥奪されてもいい。


王国への反逆と判断され、英雄としての名を失ってもいい。


王国籍を奪われ、孤児院へ普通に帰れなくなってもいい。


守ってきたものが軽いわけではない。


水蝶騎士団長という地位も、七大魔法騎士という称号も、数え切れない命を守るために背負ってきた。


それでも、それらを守るためにアルトが殺されるのを見過ごすことはできない。


王国を滅ぼしたいわけではない。


誰かを殺したいわけでもない。


アルトを生きたまま連れ出す。


それだけだった。


詠唱はしない。


私の足元から水が噴き上がり、風が荒野を円形に薙いだ。


第七階位・水・風複合魔法《水蝶天翔》。


膨大な魔力が一瞬で失われ、胸の奥に鋭い痛みが走る。


水流が二枚の翼となって背後へ広がり、その周囲を風が幾重にも包み込んだ。無数の水蝶が荒れた軌道で舞い上がる。


強い風圧が観測用の布を引き剥がした。


杭が一本傾き、机の書類が空高く散る。成人騎士たちは盾を立て、避難中の住民を風から庇った。


副官が何か叫んでいる。


けれど、もう聞き取れなかった。


私は彼らの無事も、任務が継続できるかも確認しなかった。


地表すれすれまで身体を浮かせ、水と風の翼を王都へ向ける。


空間を跳ぶ魔法ではない。


数キロの距離を、自分の魔力を削りながら飛び抜けるしかない。


間に合う保証はない。


それでも執行完了の報告は届いていない。


アルトはまだ生きている。


私を待っている。


次の面会で孤児院と指輪の話をする約束は、まだ終わっていない。


「世界中から追われても、今度はアルトと一緒に逃げる」

 「面白かった!」


 「続きが気になる、読みたい!」


 「今後どうなるの!!」


 と思ったら


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 面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!


 ブックマークといただけると本当に嬉しいです。


 何卒よろしくお願いいたします。

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