第191話 統括の夜
「この場面を挿絵で見たい!」と思った箇所がありましたら、挿絵希望度を★1〜5で評価し、場面と一緒に感想欄で教えてください!
例:『〇〇と△△が対峙する場面/★★★★★』
皆さまの声を、今後の挿絵制作の参考にさせていただきます!
執行前夜、オルフェン・レグナスは五通の同じ封書を、五つの異なる経路へ送り出した。
封書は同じ紙を使い、同じ折り方で閉じられていた。学院長印を押した封蝋にも違いはない。
中へ記されているのは、指定された時刻と学院管理下の会議室、単独で来ること、誰にも口外しないことだけだった。
ただし、五人の到着時刻には少しずつ間が設けられていた。
一通目は、学院から運び出される事務書類の束へ紛れ、成人職員の手で灰鬼騎士団本部へ届けられた。
受取人は、灰鬼騎士団長ガイ・ゴルテイト。
二通目は、治療記録を運ぶ施錠鞄に収められ、救護区画を経由してフィアへ渡された。
三通目は、返却される訓練器具の確認書と一緒に運ばれ、ティアナの手へ届いた。
四通目は、物資搬入口を通る荷の受領記録へ挟まれ、レグルスが受け取った。
五通目だけは学院の書庫を経由し、閉館後の返却書類としてセルフィナへ届けられた。
五人へ封書を渡した者たちは、その場で受領印だけを得て引き返した。
口頭での伝言はなかった。
学院長室では、オルフェンが机の上から封蝋と余った紙を片づけた。
その脇には翌日の執行予定を記した封書が置かれていたが、学院長は開かなかった。
外が暗くなると、オルフェンは普通の灯具を一つ持ち、学院の主要棟から離れた廊下へ向かった。
学院管理下にある古い会議室は、普段ほとんど使われていなかった。
石造りの壁には装飾がなく、窓には厚い木戸が下ろされている。出入口は一つだけで、扉の外にも内にも手動の錠が備わっていた。
オルフェンは廊下の端まで歩き、人影がないことを目で確かめた。
それから扉を開け、灯具を長机の中央へ置いた。
室内には六つの椅子があった。
長机の片側へ二脚、反対側へ三脚、短辺へ一脚。どの席にも名札は置かれていない。
机の上には、裏返された五枚の役割札が等間隔に並んでいた。
紙の大きさも材質も同じだった。文字面は机へ伏せられ、裏側には何も書かれていない。
役割札の奥には、五つの封印箱が置かれていた。
形も大きさも揃っている。蓋と本体をまたぐ確認印だけが、それぞれ僅かに異なっていた。
箱には鍵穴がなく、隙間も見えなかった。
振れば中身が分かるような余白も、外側から用途を判別できる印もなかった。
壁際には小さな書記机が残されていた。
その上に紙も筆も墨もない。記録を取る者の椅子も置かれていなかった。
オルフェンは六つの椅子を順に確かめた。
机の下にも手を入れ、窓の木戸へ内側から留め具を掛ける。
最後に手動計時器を机の端へ置くと、室外へ出た。
最初に現れたのはセルフィナだった。
彼女は書庫側の階段から上がり、廊下へ出る前に足を止めた。
左右を見てから会議室まで歩き、扉の前で封書を取り出した。封蝋は割られていたが、紙には折り目以外の傷がなかった。
「セルフィナです」
扉が開き、オルフェンが姿を見せた。
「お入りください」
セルフィナは一礼し、室内へ入った。
扉はすぐに閉じられたが、内側の錠はまだ下ろされなかった。
少し後、ティアナが別棟から続く連絡廊下を通ってきた。
治療とリハビリを終えた身体に外套を重ね、片手に封書を持っている。
会議室の手前で歩みを緩め、閉じた窓と廊下の角へ一度ずつ目を向けた。
「ティアナです」
「どうぞ」
オルフェンに促され、ティアナも室内へ入った。
三人目はレグルスだった。
彼は正面の回廊を使わず、訓練区画に面した石段から上がってきた。
封書を外套の内側から出し、学院長印のある面をオルフェンへ向ける。
オルフェンが受け取ると、レグルスは背筋を伸ばしたまま一礼した。
「失礼します」
短い言葉の後、三人目のために扉が閉じられた。
夜間の鐘が一度だけ遠くで鳴った。
鐘の余韻が消してから、フィアが中庭側の柱廊を通って現れた。
歩幅は一定で、扉の前まで来ても周囲を見回さなかった。
オルフェンが開けるより先に、封書を差し出す。
「呼び出しに従った」
「ありがとうございます。中へ」
フィアは机の上へ一瞬だけ視線を向け、空いている椅子の横へ立った。
扉が閉じられた後、廊下には再び誰もいなくなった。
最後の到着時刻が近づくと、石段の下から重い足音が聞こえた。
ガイ・ゴルテイトは整えきらない髪のまま、灰鬼騎士団の外套を雑に羽織っていた。
腰には大剣が下げられている。
鞘の留め具は掛かったままで、柄へ手を置くこともなかった。
ガイは会議室へ直行せず、廊下の角を一つ通り過ぎた。
突き当たりまで歩いて引き返し、途中の脇扉を二か所確かめる。どちらにも内側から錠が掛かっていた。
会議室へ戻ると、ガイは封書を二つ折りにした状態でオルフェンへ渡した。
「俺で最後か」
「はい。お待ちしていました」
ガイは扉の上枠と蝶番へ目を向けてから、室内へ入った。
六人が揃った。
オルフェンは受け取った五通の封書を重ね、壁際の空の書記机へ置いた。
ガイは短辺の席の脇へ立った。フィア、ティアナ、レグルス、セルフィナも、それぞれ椅子の後ろにいる。
五枚の役割札は、まだ伏せられたままだった。
五つの封印箱も、確認印を破られていない。
オルフェンは廊下へ顔を出し、左右を確かめた。
外側の灯具は一定の明るさで燃え、階段にも人影はなかった。
「では、始めましょう」
オルフェンは室内へ戻った。
厚い扉が閉じられた。
内側の錠が下りる音を最後に、廊下は静かになった。
扉の下から、灯具の細い光だけが漏れていた。
廊下の手動計時器の針が進んだ。
遠くの見回りが一度通り過ぎたが、会議室の前へは近づかなかった。
外壁に沿った通路で靴音が遠ざかり、再び静けさが戻る。
扉の向こうから声は漏れなかった。
人が立ち上がる音も、椅子を動かす音も聞こえない。
廊下の灯具は、燃料を少しずつ減らしていった。
扉の外へ置かれた水差しにも、誰も手を触れなかった。
夜間の鐘が、先ほどとは異なる回数だけ響いた。
鐘が止むと、木戸の隙間から入る風が廊下の灯を僅かに揺らした。
計時器の針はさらに進んだ。
別の見回りが遠い交差廊下を横切った。灯具の光が一度だけ石壁へ映り、すぐに見えなくなった。
会議室の扉は開かなかった。
扉下から漏れる光にも変化はなかった。
やがて、手動計時器の針が目盛りを一つ越えた。
内側の錠が持ち上がった。
厚い扉がゆっくりと開き、長く伸びていた光が廊下へ広がった。
最初に出てきたのはセルフィナだった。
入室時にはなかった封印箱を両手で持っている。
一枚の役割札は文字面を身体側へ向け、箱と腕の間に挟まれていた。
セルフィナは扉の前で立ち止まり、オルフェンへ一礼した。
何も言わず、書庫側へ続く階段を下りていく。
その姿が見えなくなるまで、次の者は室内に残っていた。
間を置いて、レグルスが出た。
箱は片腕に抱えられ、役割札は封のない紙入れへ収められている。紙入れの口から見えるのは、文字のない裏面だけだった。
レグルスは姿勢を崩さず、訓練区画側の石段へ向かった。
角を曲がる直前、足を止めた。
一度だけ会議室の方へ顔を向け、それから階段を下りた。
三人目に出てきたティアナも、封印箱と役割札を一つずつ持っていた。
箱の確認印は閉じたままだった。
役割札は二枚の白紙に挟まれ、外から文字を読むことはできない。
ティアナは廊下の灯具の下で外套を整えた。
会議室へ短く一礼すると、来た時とは異なる細い連絡廊下へ進んだ。
その足音が消えた後、フィアが扉をくぐった。
彼女の封印箱も、他の三人が持っていたものと同じ大きさだった。
役割札は裏返しのまま箱の上へ重ねられ、右手で押さえられている。
フィアは廊下へ出ると、窓の木戸に背を向けて立った。
オルフェンが扉口へ出てくる。
「経路は空いています」
フィアは頷いた。
そのまま中庭へ続く柱廊へ入り、一度も振り返らず暗がりの先へ消えた。
会議室には、オルフェンとガイだけが残った。
机の上に並んでいた五枚の役割札は、すべてなくなっていた。
五つあった封印箱もない。
ガイの左手には、最後の一箱が下げられていた。
右手には役割札が一枚ある。
文字面は外套の内側へ向けられ、扉口から読むことはできなかった。
ガイの大剣は、入室時と同じく鞘へ収まっている。
留め具にも触れられた跡はなかった。
オルフェンは壁際の書記机へ移動し、そこに重ねていた五通の召集封書を手に取った。
机には議事録も図面も残されていない。
長机の上には空になった水杯が六つ並び、灯具の芯が短くなっていた。
オルフェンは窓の木戸を確かめた。
次に廊下へ出て、計時器の針を見る。
ガイも封印箱を持ったまま扉の外へ出た。
オルフェンが室内の灯具を一つずつ消す。
長机も六つの椅子も闇へ沈み、最後に厚い扉が閉じられた。
外側の錠へ鍵が差し込まれた。
オルフェンは鍵を抜き、ガイへ正面から向き直った。
「明日のことを、お任せしてよろしいですね」
ガイは封印箱と役割札を持ったまま、短く頷いた。
「明日は、命令どおりにやる」
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「今後どうなるの!!」
と思ったら
下にある⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎から、作品の応援をお願いいたします。
面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!
ブックマークといただけると本当に嬉しいです。
何卒よろしくお願いいたします。




