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『属性適性なしの学院最下位、迷宮で見捨てられた僕は七罪の魔神と契約する ~最強英雄になった幼なじみに追いつくまで~  作者: ドキツトム


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第19話 改竄された魔石



誘導魔石が示す青い矢印は、帰還路を向いていなかった。


僕の手の中で一度回り、真下を指して止まる。


透明だった魔石の内部へ、細い黒線が走った。


「アルト、それを捨てて」


フィアの声と同時に、足元で巨大な歯車が噛み合った。


石床を四角く囲むように亀裂が走る。


レグルスが銀槍を突き立て、ティアナの蔦が僕たちの腕へ絡みついた。


魔石から放たれた黒い光が、壁と床の継ぎ目へ吸い込まれていく。


壊れたんじゃない。


初めから、これを起こすために作られていた。


「この魔石、道を示してるんじゃない」


石床が大きく傾く。


「道を作ってる――!」


――二十分前。


学院迷宮の入口で、バルト先生が僕たち四人を見回した。


「目的は浅層にある三つの確認地点を巡り、制限時間内に戻ることだ。速さは評価しない」


先生は背後の観測区画を指した。


内部には迷宮各所を映す監視水晶が並び、教師たちが複数の実習班を見守っている。


「異常を見つけた時点で実習は終了。攻略より撤退を優先しろ」


「了解しました」


僕が答えると、青白い誘導魔石が渡された。


「これはアルトが持て。四人の中で、魔導具の術式を一番読めるのはお前だ」


レグルスは銀槍を肩へ担ぎ、迷宮の暗がりへ目を向けた。


「僕とフィアが前方を確認する。アルトは中央、ティアナは後方でいいか」


「異議なし」


フィアが短く答える。


「じゃあ私は、帰り道を作っておくね」


ティアナが石床へ触れると、亀裂から小さな双葉が顔を出した。


通過した曲がり角へ芽を残し、誘導魔石以外の目印にするつもりらしい。


僕たちは、四人で浅層へ入った。


学院迷宮の壁には、一定間隔で魔導灯が埋め込まれている。


それでも角の先までは照らせない。


最初の交差路でフィアが足を止め、細剣の柄へ手を添えた。


一人で消えるほど遠くには行かない。


角の先を確かめると、すぐに戻ってきた。


「右は行き止まり。左に古い靴跡がある」


「魔物の気配は?」


「ない。実習班の跡だと思う」


レグルスが指先へ小さな風を集めた。


舞い上がった埃が左の通路へ流れていく。


「空気も淀んでいない。予定どおり左へ進もう」


第一確認地点までは、何も起こらなかった。


壁の認証板へ誘導魔石を近づけると、一つ目の印が青く点灯する。


ティアナは認証板の下にも芽を残した。


「目印、多すぎない?」


僕が尋ねると、彼女は土を軽く払って立ち上がった。


「迷宮で道を覚えてるふりをするよりはいいでしょ?」


「それはそうだね」


第二確認地点へ向かう途中、僕たちは別の実習班と合流した。


その先頭に立っていたのは、白木の長弓を背負ったエルフの少女だった。


腰まで届く淡い銀緑色の髪。


細長い耳と、澄んだ翡翠色の瞳。


セルフィナ・シルヴァリス。


十回生の戦闘順位上位十名に入り、遠距離索敵では学年最高峰といわれる生徒だ。


「復帰実習だと伺いました」


セルフィナは僕へ丁寧に頭を下げた。


「浅層とはいえ、以前事故に遭われた場所です。地図との照合を忘れないことをお勧めします」


「ありがとう。気をつけるよ」


彼女の肩に、小鳥の形をした半透明の風が留まっていた。


契約している風の精霊らしい。


その小鳥が突然羽を逆立て、セルフィナの肩から飛び退いた。


「どうしました?」


セルフィナが腕を差し出しても、精霊は戻らない。


僕の持つ誘導魔石の周囲を旋回し、警戒するように甲高い音を鳴らした。


セルフィナの翡翠色の瞳が細くなる。


「その魔石を、少し見せていただけますか」


差し出すと、彼女は直接触れず、手のひらへ風を集めた。


淡い気流が魔石の表面を撫でる。


「妙ですね」


「何が?」


「通常の誘導魔石は、内部の魔力を使って現在地を探ります。しかし、これは逆です」


風の精霊が魔石から距離を取る。


「周囲の魔力を吸い寄せて、どこかへ流しています」


「壊れてるの?」


ティアナが地図を広げた。


「まだ断定できません。ただ、人族の魔導具は精霊ほど状態を率直には示しませんから」


声音は穏やかだった。


けれど、精霊より魔導具を劣ったものと見ることに、何の迷いもないように聞こえた。


僕は地図と誘導魔石を見比べた。


第二確認地点を過ぎた先で、地図は右を示している。


ティアナが残した芽も、右の通路に並んでいた。


しかし魔石の矢印だけが、左の石壁を向いている。


フィアはすでに壁際へ移動していた。


指で表面をなぞり、白い石粉を拾う。


「削れた跡がある。古くない」


ティアナが床の亀裂へ指を置く。


細い根が、石壁の下へ潜っていった。


「壁の向こうに空洞がある。かなり広い」


レグルスも手のひらから風を送る。


風は壁の亀裂へ吸い込まれたまま、戻ってこなかった。


「奥で下へ流れている。地図にない下り道だ」


僕は誘導魔石を魔導灯へ透かした。


セルフィナが、僕の手元を見る。


「内部術式をお読みになるのですか?」


「できる範囲だけだけど」


「失礼しました。属性適性のない方が、魔石内部の微細術式まで判別する例は少ないもので」


言葉は丁寧でも、できるとは思っていないことが伝わってきた。


誘導魔石の中には、五本の術式がある。


経路、現在地、帰還方向、緊急信号、個体識別。


だが学院の認証印の奥に、もう一本、黒い術式が隠れていた。


二つへ分岐し、封印を囲み、起動条件へ繋がっている。


「故障じゃない」


自然な魔力汚染なら、術式は滲む。


衝撃で壊れたのなら、線が途切れる。


この黒い線は、整いすぎていた。


「誰かが、別の場所へ向かう命令を書き足してる」


セルフィナの表情が僅かに変わった。


もう一度風を流し、黒い術式の位置を確かめる。


「……一致しています。私の精霊が感じた流れの先です」


彼女は僕を見た。


「訂正します。少なくとも術式解析では、私より先に答えへ到達されたようですね。アルトさん」


「今は評価してる場合じゃない」


レグルスが帰還路を振り返る。


「撤退する。封鎖区画の調査は教師へ任せるべきだ」


誰も反対しなかった。


僕は通信石へ魔力を流す。


「バルト先生、応答してください」


『どうした』


「誘導魔石と地図の経路が一致しません。認証印の下に、黒い第六術式があります」


『識別番号を読め』


番号を伝えると、紙をめくる音が聞こえた。


『その魔石は今朝、検査を通っている。施錠保管庫から正規に出されたものだ』


「検査後に入れ替えられた可能性は?」


『外側だけならな。だが認証印の下へ術式を刻むには、学院の整備権限と専用器具が必要だ』


通信越しに、別の教師へ指示を飛ばす声が聞こえる。


『セルフィナ班は他班へ撤退を伝えながら入口へ戻れ。アルトたちは動くな。俺が迎えに行く』


「承知しました」


セルフィナは素早く答えた。


立ち去る前に、風の小鳥を僕たちの頭上へ飛ばす。


「精霊を残します。通信が乱れた場合、位置を辿る目印になります」


セルフィナ班が右の通路へ戻っていく。


僕たちはその場で動きを止めた。


次の瞬間、誘導魔石の矢印が真下を指した。


黒い術式が点灯する。


左の石壁が奥へ沈み、隠された通路が開いた。


同時に帰還路を塞ぐように、背後の壁が落ちる。


セルフィナの風精霊が、閉じる壁の隙間を抜けようとした。


だが黒い光に弾かれ、向こう側へ押し戻される。


『アルトさん――!』


通信石からセルフィナの声が響いた直後、足元の床が傾いた。


「全員、掴まれ!」


レグルスが銀槍を横へ渡す。


フィアは滑り落ちながら細剣を壁へ突き立てた。


刃が石を削り、激しい火花を散らす。


「繋ぐよ!」


ティアナの蔦が四人の腰と腕へ巻きついた。


けれど傾斜は急になり、蔦が一本ずつ千切れていく。


床が跳ねた。


ティアナの身体が浮き、僕の胸元へ飛び込んでくる。


咄嗟に腰へ腕を回し、壁との間へ肩を入れた。


「アルト、左!」


身体を捻ると、突き出した岩が脇を通り過ぎる。


フィアの細剣。


レグルスの槍。


ティアナの蔦。


四人の抵抗が重なり、落下速度が僅かに落ちた。


僕たちは狭い整備通路から、広い空洞へ投げ出された。


背中から石床へ落ちる。


息は詰まったが、骨は折れていない。


「全員いるか」


レグルスの声に、それぞれが返事をする。


ティアナは僕の胸へ手をついたまま顔を上げた。


「もう離して大丈夫」


「あ、ごめん」


すぐに腰から腕を解く。


彼女は立ち上がると、千切れた蔦を回収しながら周囲を見回した。


空洞の壁には、灰色の魔石が等間隔で埋め込まれている。


迷宮内の魔力濃度を一定に保つ、固定式の安定魔石だ。


本来なら淡く光るだけの石から、黒い線が伸びていた。


誘導魔石と同じ術式。


それらは床を這い、空洞中央へ集まっている。


フィアが壁際へ近づいた。


「刻印の向きが逆。迷宮側からじゃない。今落ちてきた整備通路側から刻まれてる」


ティアナは壁に残った黒い灰を摘まむ。


「焼かれた根だ。術式を隠すために、ここだけ植物を枯らしてる」


レグルスが閉ざされた頭上を見た。


「外から入り込んだ者が、偶然見つけられる場所じゃない」


施錠保管庫にあった誘導魔石。


学院の認証印。


専用の刻印具。


地図にない整備通路と、固定された安定魔石。


すべてへ触れるには、学院の構造と巡回時間を知っている必要がある。


「この魔石が、たまたま私たちへ渡ったの?」


ティアナの問いに、すぐには答えられなかった。


「まだ分からない」


僕は通信石を握る。


「でも、偶然だと決めることもできない」


通信へ魔力を流した。


「先生、安定魔石にも同じ術式があります。全部、空洞中央へ魔力を送っています」


『安定魔石だと? その区画は教師でも自由には入れん!』


足音が響いている。


バルト先生は、すでに迷宮内を走っていた。


別の雑音に、セルフィナの声が重なる。


『風の精霊が弾かれました。ですが流れは追えます。第二確認地点の二十メートル以上、下です』


『よし。セルフィナは入口で位置を維持しろ。アルト、四人とも何も触るな。必ず迎えに――』


激しい雑音。


通信石の光が消えた。


腰の緊急帰還具からも、同時に魔力が抜ける。


空洞中央で、何かが呼吸した。


暗がりの中に、拘束具へ繋がれた鎧蜥蜴がいる。


本来なら人の腰ほどしかない、F級の小型魔物。


けれど目の前の個体は、四本の脚だけで僕の背丈を超えていた。


安定魔石から吸い上げられた魔力が、鎧のような鱗を内側から膨張させている。


「まだ刺激しないで」


僕たちは攻撃せず、距離を取った。


先生たちは位置を把握している。


戦うより、到着まで時間を稼ぐべきだ。


しかし床を走る黒い術式が、拘束具へ届いた。


一つ目の金具が外れる。


二つ目。


三つ目。


重い鎖が石床へ落ちた。


フィアが細剣を抜く。


レグルスが銀槍を構える。


ティアナの蔦が背後へ防壁を編んだ。


僕も剣を抜く。


「倒そうとしない」


鎧蜥蜴の瞳が開く。


「先生が来るまで、生き残る」


巨大な尾が壁を叩き、空洞全体が揺れた。


天井から砕けた石が降る。


手元の誘導魔石には、三つの文字が青く浮かんでいた。


危険度F。


安全。


実習続行可能。


目の前の怪物が空洞を震わせても、魔石だけは、それを安全なF級だと嘘をつき続けていた。

 「面白かった!」


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 面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!


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