表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『属性適性なしの学院最下位、迷宮で見捨てられた僕は七罪の魔神と契約する ~最強英雄になった幼なじみに追いつくまで~  作者: ドキツトム


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

166/199

第166話 奪われたアルト

「この場面を挿絵で見たい!」と思った箇所がありましたら、挿絵希望度を★1〜5で評価し、場面と一緒に感想欄で教えてください!


例:『〇〇と△△が対峙する場面/★★★★★』


皆さまの声を、今後の挿絵制作の参考にさせていただきます!



黒銀色の左腕が、倒れた四人と、その前に立つローディンさんへ向いた時、僕に残っていたものは、殺させないという拒絶だけだった。


フィアは剣を失い、床へ倒れている。


ティアナは支持枠の陰で肩を押さえ、レグルスは銀槍を抱いたまま呼吸を取り戻そうとしていた。セルフィナの額には細い血が流れている。


四人とも生きている。


ローディンさんも僕と四人の間に立ち、記録板を握っていた。


「アルト・ロウェル、停止しろ。能力使用命令は出ていない」


聞こえている。


命令の意味も分かっている。


それでも狼の前脚を思わせる左腕は持ち上がった。


重なった甲殻が噛み合うたび、第五環から流れ込む魔力が外殻の内側へ沈む。鉤爪の先は、フィアとローディンさんを一度に薙げる高さへ上がった。


駄目だ。


この腕を振り下ろしたら、二人が死ぬ。


僕の右手は石床の継ぎ目を掴んだ。指先が裂けても、左半身の力には届かない。


それでも、離さなかった。


「止まれ……!」


命令したのは僕自身だった。


左腕は止まらない。


だから軌道だけを変えた。


右肩を床へ落とし、人間のままの右脚を折る。全身の重みを片側へ崩した瞬間、黒銀色の鉤爪がフィアの頭上を外れた。


爪は石床へ突き刺さった。


轟音とともに床が割れ、砕けた石片が四方へ弾ける。


ローディンさんはフィアを庇うように身体を伏せた。肩と背へ破片を受け、記録板を抱えたまま床へ倒れる。


「ローディン……さん……」


返事の代わりに、荒い呼吸が聞こえた。


生きている。


フィアの胸も動いている。


ティアナが痛みに顔を歪めながら、こちらを見ていた。レグルスの指は銀槍を握ったまま、セルフィナの長い耳も僕の声へ僅かに反応した。


五人とも生きている。


それだけを確かめた瞬間、黒銀色の左半身が硬直した。


僕の拒絶が届いたのは、ほんの一息だった。


床下で何かが外れた。


石板が左右へ引き込まれ、弧状の金属軌道が深部通路から保守区画へ繋がる。金属車輪と鎖の音が近づき、棺を思わせる黒鉄の箱が軌道を滑ってきた。


魔法ではない。


箱の下で車輪が回り、深部側の巻き上げ機構が鎖を引いている。


黒鉄の搬送棺は僕の背後で止まった。


二枚の蓋が左右へ開く。


内側から現れた保持枠は、僕の首や右半身ではなく、黒銀色へ変わった左肩、腰、左脚と同じ高さに置かれていた。


最初から、この姿を収めるために調整されている。


「アルト……!」


フィアが片腕で床を這った。


遠くへ弾かれた剣ではなく、僕へ手を伸ばしている。


僕も右手を伸ばそうとした。


その前に、左肩へ黒鉄の枠が噛み合った。


腰と左脚にも別の枠が閉じる。針も杭も刺さらない。ただ厚い金属が外殻を挟み、僕の身体を搬送棺の内側へ引き上げた。


「アルト・ロウェル……停止しろ……」


ローディンさんの声が床から届く。


途切れながらも、停止命令は消えていない。


「搬送設備……物理軌道。出現時刻、突入開始後……封魔具回収溝、再作動……」


倒れたまま記録を続けている。


壁の奥で、細い金属音がした。


第164話で封魔具を奪った回収溝が開く。


黒銀色の封魔具が傾斜した物理溝を滑り落ち、搬送棺の下部に備えられた小さな施錠箱へ収まった。


蓋が閉まり、横留め棒が落ちる。


取り戻せない。


封魔具も、僕自身も。


「待って……」


フィアの指先が搬送棺の縁へ届きかけた。


けれど鎖が引かれ、車輪が動き出す。


彼女の手が遠ざかる。


二枚の蓋が左右から閉じ始めた。


最後に見えたのは、倒れた五人だった。


ティアナは息をしている。


レグルスも、セルフィナも。


フィアの青い瞳は開いている。


ローディンさんの手も、記録板を握ったままだった。


誰も死なせなかった。


それしか守れなかった。


黒鉄の蓋が閉じ、横留め棒が重い音を立てる。


暗闇の中で搬送棺が傾いた。


車輪が深部へ下り始める。


一枚目の物理扉が閉じた。


続いて戻り弁、二枚目の遮断板。外から届いていた声が、金属を一枚隔てるごとに遠ざかる。


僕を載せた棺は、第五環のさらに奥へ引かれていく。


どこへ運ばれるのかは分からない。


それでも、五人の呼吸だけは最後まで耳に残っていた。


その音を手放さないようにしているうちに、僕の意識は暗闇へ沈んだ。



異常を知らせたのは、婚約者の感覚などではなかった。


外環側の捕虜救助線へ駆け込んできた成人伝令と、紙の報告札だった。


回転区画が再び作動したこと。


限定作業列との応答が途絶えたこと。


深部方向の物理搬送軌道が、一度だけ動いたこと。


そこにアルトの名前は書かれていなかった。


それでも私は、報告を最後まで読んだ。


「救助線は副責任者が引き継いでください。歩行可能者にも護衛を付け、担架対象は救護受領点へ。未確認区画を残したまま前進しないで」


「承知しました。救助、搬送、地上報告を継続します」


復唱を聞く。


捕虜を置いてはいけない。


アルトと約束したからではなく、水蝶騎士団長として、救うべき人を置き去りにはできない。


引き継ぎが成立してから、私は限定人数だけを伴って走った。


二次保守隔壁の前には、ガイ団長、ゴウセル団長、アーサー団長と成人構造騎士がいた。


以前、破壊を断念した荷重隔壁ではない。


搬送軌道の作動後、回転区画の側面へ新たに接続された薄い保守隔壁だった。


「隣接区画の捕虜、退避完了」


「生命維持線は迂回済み。主支柱への荷重なし」


成人構造騎士が床と天井を確かめる。


アーサー団長が隔壁の継ぎ目へ手を触れた。


「向こう側に接触している人員はいません。限定突破を許可します」


私は頷いた。


排水溝と救護用水袋から水を集める。


細い水流を隔壁の継ぎ目へ差し込み、成人騎士が打ち込んだ物理楔の背を押す。


水圧を一点へ重ねた。


隔壁が内側へ折れる。


私は開いた隙間を抜け、保守区画へ踏み込んだ。


最初に見えたのは、金色の長い髪だった。


「フィア!」


その近くに、ティアナ、レグルス、セルフィナが倒れている。


搬送軌道の前にはローディンもいた。


成人医療員が五人へ散る。


「ローディン、生存。意識低下、呼吸あり」


「フィア、生存」


「ティアナ、生存。右肩打撲」


ゴウセル団長がティアナの傍らへ膝をついた。


手袋を外す暇もなく、娘の首元へ指を当てる。胸が動いているのを確かめた時だけ、厳しい顔が僅かに歪んだ。


「医療員へ渡す。頭部を動かすな」


父親の声と団長の命令が重なっていた。


「レグルス、呼吸あり。セルフィナも意識反応あり」


五人とも生きている。


では、アルトはどこにいるの。


床には黒銀色の鉤爪が刻んだ深い痕が残っていた。


裂けた治療布。外側と内側、二つの固定部品。血の付いたローディンの記録板。


壁の回収溝は空だった。


黒銀色の封魔具はない。


搬送棺の車輪跡だけが、閉ざされた深部側の扉まで続いている。


アルトの姿は、どこにもなかった。


私はフィアの前へ膝をついた。


青い瞳が、ゆっくり私へ向く。


「アルトは?」


自分の声が、知らない人のもののように聞こえた。


フィアの唇が動く。


「連れていかれた」


それだけで、全部が壊れた。


「棺……奥へ。封魔具も」


フィアの指が、深部へ続く軌道を示す。


昨夜、アルトは私の婚約者になった。


二人で帰ったら孤児院へ報告しようと言った。


一緒に指輪を選んでほしいと言ってくれた。


今朝は、別々の配置を守って戻ると約束した。


そのアルトがいない。


返事もない。


残っているのは血と、空の溝と、奪われた方向だけだった。


「返して……」


足元の水が浮いた。


最初は、成人医療員が使っていた小さな水盆だけだった。


次に救護用の水袋が震える。


輸送管の内側で水が逆流し、排水溝から何本もの水柱が立った。壁と天井の結露が一滴ずつ離れ、私の周囲へ集まってくる。


止めようとは思った。


けれど、止まらなかった。


「アルトを返して!」


水が保守区画から環状路へ溢れた。


管を伝い、溝を逆流し、第五環の各通路へ膨大な魔力圧が走る。


圧力札の針が振り切れた。


石壁が軋み、支柱から白い粉が落ちる。


成人救護員たちが盾列と防水布で五人を包んだ。


「レイシア!」


ガイ団長が横から私の肩を掴んだ。


その靴が水圧で半歩滑る。それでも手を離さず、私の上腕を身体ごと押さえ込んだ。


「壊すな! あいつを奪われた場所ごと潰す気か!」


「離して! アルトが、アルトが奥にいるの!」


ゴウセル団長が床へ足を据えた。


亀裂の入りかけた支柱を守りながら、私の反対側の腕を支える。


背後では成人医療員がティアナを担架へ移している。


娘の生存を確かめたその人も、私を責めなかった。


「だからこそ止めろ、レイシア団長。生存者も救出路も、この下にある」


「でも、アルトが……!」


アーサー団長が水圧の中へ踏み込んだ。


青と白銀の甲冑が濡れ、紺色のマントが激しくはためく。それでも彼女は剣を抜かず、私の肩を両側から支える一人になった。


「アルト・ロウェルの死亡は確認されていません」


澄んだ青い瞳が、真正面から私を見る。


「彼がまだ第五環にいるなら、ここを崩落させることは、彼自身と救出路を同時に潰すことになります」


その言葉だけが、私の中へ届いた。


アルトは死んでいないかもしれない。


まだ地下にいる。


なら、壊せない。


私が壊してはいけない。


浮き上がっていた水が震えた。


環状路へ走っていた流れが止まり、排水溝へ落ちる。輸送管の圧力が下がり、支柱の軋みが少しずつ収まった。


魔力を止めても、涙は止まらなかった。


膝から力が抜ける。


ガイ団長とゴウセル団長、アーサー団長の三人が、床へ崩れる私を支えた。


「アルト……」


呼んでも返事はない。


「どこにいるの……アルト!」


水に濡れた床へ手をつく。


この下のどこかにいるなら、聞いてほしい。


生きているなら返事をしてほしい。


昨夜の約束を、帰った後の人生を、こんな場所で奪わせたくない。


「アルト! アルト――!」


崩せない地下の奥へ向かって、私は喉が裂けるまで、返事のないアルトの名を呼び続けた。

 「面白かった!」


 「続きが気になる、読みたい!」


 「今後どうなるの!!」


 と思ったら


 下にある⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎から、作品の応援をお願いいたします。


 面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!


 ブックマークといただけると本当に嬉しいです。


 何卒よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ