表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『属性適性なしの学院最下位、迷宮で見捨てられた僕は七罪の魔神と契約する ~最強英雄になった幼なじみに追いつくまで~  作者: ドキツトム


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

164/184

第164話 強制された《暴食》

「この場面を挿絵で見たい!」と思った箇所がありましたら、挿絵希望度を★1〜5で評価し、場面と一緒に感想欄で教えてください!


例:『〇〇と△△が対峙する場面/★★★★★』


皆さまの声を、今後の挿絵制作の参考にさせていただきます!



女の声が途切れた直後、第五環の管は、六人ではなく僕一人へ向けて鳴り始めた。


床へ広げた旧構造図の端が震える。


けれど、環状路はもう動いていない。


震えているのは、壁と床と天井を走る供給管だった。


「全員、停止を維持」


ローディンの命令に、誰も深部通路へ近づかなかった。


それでも壁際の圧力札が一斉に動く。


一本、二本ではない。


全ての針が同じ方向へ傾き、僕の立っている位置を中心に振り切れた。


「アルト、そこを離れろ!」


右脚へ力を込めた瞬間、床の点検板が左右へ割れた。


内部からせり上がった金属枠が、僕の左腕を囲む。


腕へ直接噛みついたわけではない。


四本の圧力爪が狙ったのは、治療布の上から装着されている黒銀色の封魔具、その外側の第一固定だった。


爪と爪の間隔は、留め具の位置へ正確に合っている。


「僕の装具を……知ってる」


偶然ではなかった。


ローディンが僕の右肩と胴を掴み、金属枠から引き離そうとする。


けれど、壁から伸びた別の保持枠が、左前腕の周囲だけを囲んだ。


「腕を引くな!」


ローディンは力の向きを変えた。


無理に身体を引けば、固定された左腕だけが残る。


彼は僕の胴を支え、圧力爪へ手を伸ばした。


触れるより先に、壁内で圧縮された空気が放たれる。


第一固定が四方向へ引かれた。


骨まで締め上げられるような圧力。


次の瞬間、固定部の安全継ぎ目が弾けた。


「――っ!」


外側の第一固定が床へ落ちる。


王国側の解除鍵は使われていない。


僕も留め具へ触れていない。


装具が自分から外れたわけでもなかった。


「停止しろ!」


ローディンの声に、設備は応じない。


別の圧力爪が治療布の隙間へ入り、内側の第二固定を逆方向へ捻った。


固定部が腕を守るため、骨より先に力を逃がす。


本来なら僕の身体を守るはずの構造だった。


星門派は、その安全機構を外すために使っている。


鈍い音とともに、第二固定が開いた。


治療布の巻き終わりが壁側へ巻き取られる。


布がほどけ、途中で裂けた。


擦れた皮膚へ熱い痛みが走る。


赤い圧迫痕と細い血の線が露出した直後、黒銀色の封魔具が左腕から引き剥がされた。


「待て!」


僕の声より早く、封魔具は壁の回収溝へ引き込まれた。


金属板が閉じる。


ローディンが隙間へ指を入れる余地さえ残らなかった。


治療布。


第一固定。


第二固定。


黒銀色の封魔具。


王国側が現場で外すことを禁じた全てが、敵の設備によって奪われていた。


露出した左腕に、黒い紋章が走っている。


指先から腕を這い、肩の手前で止まったまま。


けれど、いつもの黒ではなかった。


皮膚の下で脈を打つたび、線の奥だけが深く沈んで見えた。


「アルト・ロウェルへの封魔具解除命令は出ていない。《暴食》の使用も許可していない」


ローディンは誰に聞かせるでもなく、はっきりと言った。


記録板へ解除時刻を書き込みながら、僕の前へ身体を入れる。


その直後、天井の点検板まで開いた。


空気が重くなる。


魔力の流れは見えない。


それでも身体が、先に理解した。


壁から。


床から。


天井から。


巨大な何かに押し潰されるような圧力が、僕一人へ集まってくる。


「離れてください!」


僕は五人から距離を取ろうとした。


だが、最初の波が黒い紋章へ衝突する。


針も管も、僕の身体には繋がっていない。


魔力そのものが、露出した左腕へ外側から押し込まれていた。


肺から空気が抜ける。


心臓が一拍遅れ、次の瞬間に二度打った。


左腕の指が勝手に曲がる。


膝が崩れかけ、ローディンが右側から僕を支えた。


「他の五人に流入なし。対象はアルトだけだ」


ローディンが周囲を見回す。


「セルフィナ、供給位置。接触はするな」


「はい」


セルフィナは僕へ駆け寄らず、床へ舞った石粉を追った。


粉塵が僕へ向かって流れている。


壁の一部では結露が一瞬で乾き、別の場所では圧力札の針が細かく震えていた。


長い耳がわずかに伏せられる。


「一つではありません。床に二つ、壁に四つ、天井にもあります」


セルフィナが順番に指す。


「周囲の精霊も、全て同じ場所を避けています。接触させなくても分かります。供給口はまだ増えます」


「区分印を確認する」


ローディンが言った。


僕は吐き気を堪え、右手で壁の管を示した。


「細い管は捕虜区画側です。切れません。上の太い管……欠けた星が内向きになっている線は、中枢側の制御です」


「記録と一致」


ローディンがフィアを見る。


「生命維持線ではないことを確認。最も近い物理制御線一本だけ、緊急切断を許可する」


「了解」


フィアが剣を抜いた。


右腕の簡易固定具を庇い、左手で柄を握る。


魔力を纏わせない。


新しい技も使わない。


セルフィナが示した壁際へ踏み込み、細い制御線だけを一度で断った。


金属線が弾ける。


左壁の供給口が閉じた。


押し込まれていた魔力圧が、目に見えて弱まる。


僕はようやく一息だけ吸えた。


「止まった……?」


フィアの問いへ答える前に、反対側の圧力札が跳ね上がった。


床下から重い振動が突き上げる。


閉じた一口を補うように、別の供給口が開いた。


「一本じゃない」


レグルスが歯を食いしばる。


「切った分を、別の線から回してやがる」


再び魔力が左腕へ流れ込む。


視界が白く明滅した。


身体の内側から、骨と筋肉の間を押し広げられていく。


「戻り弁です!」


ティアナが共有外装管の前へ膝をついた。


「中枢側から、生命維持線の外周を使って回り込んでいます。ここなら二つの流れを分けられます」


「捕虜側を止めない条件で、局所処置を許可」


ローディンが即答する。


ティアナは緑金の瞳で接合部を見定めた。


「《根界分離》」


短い言葉とともに、戻り弁を挟んだ二つの流れが分かれる。


捕虜区画へ向かう細管の結露は残っている。


空気、熱、水の流れは止まっていない。


中枢側から回り込んでいた圧力だけが切り離され、僕の左腕を押す力が落ちた。


ティアナの額に汗が浮かぶ。


「分けました。でも、この接続部だけです。長くは維持できません」


「十分だ。次を探す!」


レグルスが空の排気路を指した。


セルフィナが薄紙を翳し、流れの先を確かめる。


ティアナも旧構造図と床の支持線を見比べた。


「その先は捕虜区画ではありません。外周保守用の空洞です。支柱からも外れています」


「ローディン!」


「点検板だけの限定開口を許可。生命維持管と回転軌道には触れるな」


「分かった。《螺旋開甲》!」


レグルスの力が点検板の留め具だけへ集中する。


板が内側から押し開かれ、暗い排気路が現れた。


壁や床は壊れていない。


続けて、レグルスが開口部へ手を向ける。


「《旋流排気》!」


僕へ集中していた魔力の一部が横へ引かれた。


空の排気路へ流れが逃げ、室内を満たしていた圧力が一段下がる。


肺へ空気が戻った。


激しく鳴っていた心臓も、ほんの一瞬だけ間隔を取り戻す。


フィアの切断も。


ティアナの分離も。


レグルスの排出も。


セルフィナの観察も、確かに届いている。


それでも、第五環は止まらなかった。


床下の回転継ぎ手が、もう一段深く噛み合う。


天井側の管が震える。


閉鎖宿舎側。


正規帰還路側。


捕虜区画の外周。


深部へ続く太い輸送管。


別の環状区画から戻る供給線。


旧構造図に記された複数の経路が、現在の保守区画へ収束していた。


一つ止めれば、別の一つが開く。


一つ分ければ、その外側を回る。


一つ排出すれば、排出量を超える魔力が補充される。


「第五環全体から集めている……」


ティアナの声が震えた。


この本部が、五百年前から僕のために造られていたわけではない。


星門派が既存の環状供給路を組み替え、僕一人へ向ける手順を用意していたのだ。


「アルト、意識を保て」


ローディンの声が遠く聞こえる。


黒い紋章は肩の手前で止まっている。


けれど、その内側で何かが脈打つたび、流れ込んだ魔力が身体の奥へ積み重なっていく。


「僕は《暴食》を使わない。開くつもりもない」


自分の声で、はっきり否定した。


助かるために使うのではない。


仲間を守るために選ぶのでもない。


痛みから逃げるために、ベルゼバスへ頼るつもりもなかった。


「使用命令は出していない!」


ローディンも言う。


「アルト、能力を開くな。身体の反応を報告しろ!」


「左腕が……内側から、空洞になるみたいに――」


言葉が途切れた。


次の魔力が、これまでの全てを重ねたような圧力で押し寄せる。


左腕の激痛が、突然消えた。


治ったのではない。


痛みを感じる場所そのものが、深い穴へ変わった。


圧力札の針が一斉に振り切れる。


壁から押し込まれていた魔力が止まり、逆向きに引かれた。


床も。


天井も。


開いた供給口も。


第五環から集まった膨大な魔力が、露出した黒い紋章へ吸い込まれていく。


止めようとしても、左腕は僕の命令を待たない。


僕は望まず、命じられず、使うと決めてもいないまま――《暴食》を強制的に開かされた。

 「面白かった!」


 「続きが気になる、読みたい!」


 「今後どうなるの!!」


 と思ったら


 下にある⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎から、作品の応援をお願いいたします。


 面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!


 ブックマークといただけると本当に嬉しいです。


 何卒よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ