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『属性適性なしの学院最下位、迷宮で見捨てられた僕は七罪の魔神と契約する ~最強英雄になった幼なじみに追いつくまで~  作者: ドキツトム


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第163話 地図が割れた時

「この場面を挿絵で見たい!」と思った箇所がありましたら、挿絵希望度を★1〜5で評価し、場面と一緒に感想欄で教えてください!


例:『〇〇と△△が対峙する場面/★★★★★』


皆さまの声を、今後の挿絵制作の参考にさせていただきます!



隔壁の向こうからガイ団長の声が届いた時、僕たちを閉じ込めているのは一枚の鉄板だけだと思っていた。


「ローディン、聞こえるか」


落下した隔壁の脇にある細い伝声管から、低い声が響く。


雑音は混じっていたけれど、聞き間違えるはずがない。


「聞こえています」


ローディンは伝声管へ口を寄せた。


「こちらは六人全員生存。重傷者なし。生命維持線、中枢側供給線ともに流れを維持しています。深部側保守通路は開放状態。停止命令を継続中です」


「アルトの左腕は」


「治療布に異常なし。黒銀色の封魔具に破損なし。二重固定、黒い紋章ともに変化ありません」


僕は身体へ寄せた左腕を見下ろした。


指先の震えと感覚の遅れは残っている。それでも治療布は裂けておらず、封魔具にも熱や変形はなかった。


「分かった。そのまま待て」


ガイ団長の声に、焦りはあっても乱れはなかった。


最寄りの灰鬼核心進入線を成人指揮官へ預け、少数の成人騎士だけを連れて来たらしい。


全作戦を捨てて、僕一人を助けに来たのではない。


だからこそ、その声を信じられた。


隔壁の外側で、金属器具を床へ置く音が続く。


成人構造騎士が継ぎ目を確認し、鉄梃と圧力具を差し込む位置を読み上げていた。


「破砕ではありません。最初は荷重を掛けず、隔壁下端の浮きを確認します」


「やれ」


圧力具の取っ手が回される。


隔壁が低く軋み、足元へ細かな振動が伝わった。


けれど、鉄板そのものはほとんど持ち上がらない。


代わりに、壁の中を通る生命維持管が一度だけ強く震えた。


伝声管の向こうで、別の成人騎士が声を上げる。


「圧力札が上昇。外側支柱へ荷重が逃げています」


続いて、遠くから石の欠片が落ちる音がした。


「後方待機区画の床目地が開きました。救助済み捕虜がまだ搬送待ちです。このまま力を掛ければ、待機区画の天井か床へ重量が移ります」


圧力具が止まった。


成人構造責任者の判断は早かった。


「解除確認を中止。部分破砕も禁止します。これは扉だけではありません。回転区画の荷重留めを兼ねています」


短い沈黙のあと、ガイ団長が言った。


「人ごと潰して助けたことにはならねえ」


鉄梃を引き抜く音がした。


「外環側の固定点を探せ。生命維持管には触るな。退路担当も動かすな」


「了解」


誰も、壊せる力がないから諦めたわけではない。


壊した先にいる人を守るため、壊さないと決めたのだ。


「こちらからも隔壁へ触れるな」


ローディンが僕たちを見回す。


「外側で安全な解除点を探している。限定作業列は停止を維持する」


フィアもティアナも頷いた。


レグルスは深部側の通路から距離を取り、セルフィナは通気口の下へ置いた薄紙を見守っている。


僕たちはまだ、成人封印隊の内側にある限定作業列だった。


鉄板に隔てられたからといって、その命令系統まで消えたわけではない。


異変へ最初に気づいたのはフィアだった。


「待って。音の位置が変わってる」


簡易固定具の残る右腕を動かさず、青い瞳だけを隔壁へ向ける。


「さっきの鉄梃の音、正面から聞こえてた。でも今は……少し右」


僕も耳を澄ませた。


隔壁の向こうで成人騎士が停止杭を運んでいる。


音は確かに聞こえる。


けれど、鉄板一枚を挟んだ正面ではなく、厚い壁の奥を横から伝わってくるように響いていた。


「空気も変わっています」


セルフィナが薄紙を指した。


深部側へ傾いていた紙が、一度真下へ垂れたあと、ゆっくり反対側へ揺れている。


精霊に尋ねたわけではない。


通気口から流れる空気を、目で確かめているだけだ。


ティアナが床へしゃがんだ。


「床と壁の目地が開いています。崩れているんじゃありません。両方とも形を保ったまま、位置がずれています」


石床の端に、髪の毛ほどの黒い線が走っていた。


その線が少しずつ太くなる。


下から現れたのは土でも空洞でもない。


弧を描く金属の歯だった。


レグルスが息を呑む。


「歯車じゃない。床そのものを送る軌道だ。隔壁が落ちた時、外側との固定も外れたのか」


壁内で、何か巨大な留め具が抜けた。


圧力札の針が一段上がる。


続いて、はるか下から鎖の走る音が響いた。


一つではない。


何本もの鎖が、順番に巨大な重りを解放していく。


「全員、壁際の支持枠へ」


ローディンの命令が飛ぶ。


「姿勢を低くしろ。左腕や固定具を床へ打ちつけるな」


僕は右手だけで金属の支持枠を掴んだ。


右脚に痺れが走り、一瞬だけ膝が沈む。


それでも左腕は胸元へ寄せたまま、壁へ肩をつけて身体を支えた。


床が動いた。


傾いたのではない。


落下したのでもない。


保守区画の床も壁も天井も、水平を保ったまま横へ滑り始めた。


石の下で金属歯が一つずつ噛み合う。


重い震動が一定の間隔で身体を通り抜け、通路全体が第五環の中心を回るように移動していく。


「環状路そのものが……」


ティアナが目地を追う。


「一つの区画ごと、中心軸に沿って回っています」


隔壁の向こうから、ガイ団長の声がした。


「ローディン! 床が動いてる、聞こえるか!」


「聞こえています! こちらも回転中、六人全員無事です!」


ローディンが伝声管へ答える。


「その場を動くな!」


声はまだ近い。


次の震動が来る。


ガイ団長の声が正面から右側へずれた。


もう一度。


今度は背後の壁の奥から、途切れながら届く。


「外環の固定点を――」


言葉の途中で、伝声管から空気が抜ける音がした。


声が消える。


隔壁を叩く成人騎士の合図も、壁の中を横へ流れ、やがて聞こえなくなった。


「応答を続ける」


ローディンは隔壁を決まった回数だけ叩いた。


返事はない。


もう一度。


やはり、金属の鈍い音が保守区画内へ戻ってくるだけだった。


それでも外側の成人騎士たちが消えたわけではない。


僕たちのいる区画が、彼らの前から移動したのだ。


頭上の管では、回転継ぎ手が擦れ合っていた。


細管の結露は途切れていない。


捕虜区画へ送られる空気と熱と水は、環状路が動いている間も維持されていた。


守るべき命を残したまま、こちらからだけは無理に壊せない。


その構造ごと、準備されていた。


やがて最後の金属歯が噛み合い、区画が止まった。


身体を押していた横向きの力が消える。


「全員、そのまま。床の停止を確認する」


ローディンは数呼吸待ってから、支持枠を離れた。


六人の状態を確かめ、記録板へ回転開始と停止の時刻を書き込む。


それから普通の旧構造図と透明図を床へ広げた。


小さな方位針を中央へ置く。


針は迷わず同じ方向を指した。


方角が狂ったのではない。


「保守区画番号は一致しています」


僕は右手で壁の札を示した。


欠けた星の方向印も、管の保守番号も変わっていない。


「ここは、地図に記された保守区画のままです」


「壁材も支持枠も一致します」


ティアナが旧構造図の書き込みと現物を見比べた。


「別の区画へ入れ替えられたわけではありません」


問題は、開いている通路だった。


旧構造図では、深部側の細い保守通路は第五環の内環へ向かう。


けれど、方位針に照らせば、今その入口は環状方向へ向いていた。


来た道へ繋がるはずの隔壁側は、既に別の石壁と噛み合っている。


ローディンが透明図を旧構造図へ重ねた。


一つ一つの部屋は一致する。


管も、印も、番号も正しい。


それなのに、部屋と部屋を結ぶ線だけが途中で途切れた。


一本だったはずの道が、紙の上で割れている。


その時、壁に埋め込まれた薄い金属板が震えた。


誰も触れていない。


管の中を空気が通り、板を一定の速さで振動させている。


『中央器成院が落ちた時点で、皆様がここへいらっしゃることは想定しておりました』


穏やかな女の声だった。


勝ち誇るような笑いも、怒りもない。


まるで予定どおり訪れた客へ、館内の説明をするような声音だった。


「発声源、壁内の伝声設備」


ローディンは返事をせず、記録板へ書き込む。


「女声。本人の位置、生放送か記録かは未確認」


『本部を隠す必要はございません。正しい場所へ辿り着いてくださるなら、その場所のほうを閉じればよいのですから』


僕は床の地図を見た。


帰還票は本物だった。


輸送図も、封印鍵も、ローデン評議官の旧記録も本物だった。


第五環の門は正しく開き、宿舎も輸送管も実在した。


偽りはなかった。


だから僕たちは、慎重に確認しながらここまで来た。


『地図も、門も、道も本物です。ですから皆様は、疑いながらも必ず入ってくださる』


女の声の後ろで、低い機械音が続いている。


正規帰還路。


認証門。


緊急隔壁。


重量扉。


戻り弁。


捕虜区画と生命維持線。


深部へ集められた熱と魔力器材。


そして、五百年前の環状路を動かす軌道と重り。


星門派は十四日で巨大な本部を造ったのではない。


最初から存在した設備を整え、中央器成院が落ちた時点で、作動させる順番を変えたのだ。


人が逃げるための本部から、入ってきた者を分けて閉じる場所へ。


「声の内容も記録した」


ローディンが透明図を押さえた。


「だが、相手の正体も目的も決めつけない。全員、停止を維持。開いた通路へ入るな」


誰も異議を唱えなかった。


フィアは剣へ触れない。


ティアナは床へ手をつかず、レグルスも金属歯を壊そうとはしない。


セルフィナも、暗い通路をただ目で見ている。


僕も左腕を身体へ寄せたまま、割れたように繋がらない地図を見下ろした。


地図が間違っていたのではない――正しい地図の上で第五環そのものが回り、本部は僕たちを捕らえる巨大な檻へ組み替わっていた。

 「面白かった!」


 「続きが気になる、読みたい!」


 「今後どうなるの!!」


 と思ったら


 下にある⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎から、作品の応援をお願いいたします。


 面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!


 ブックマークといただけると本当に嬉しいです。


 何卒よろしくお願いいたします。

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