第160話 第五環の門
「この場面を挿絵で見たい!」と思った箇所がありましたら、挿絵希望度を★1〜5で評価し、場面と一緒に感想欄で教えてください!
例:『〇〇と△△が対峙する場面/★★★★★』
皆さまの声を、今後の挿絵制作の参考にさせていただきます!
第五環へ続く最後の折れ階段の先に、旧構造図と同じ幅の門が待っていた。
地上の保守扉よりも厚く、荷車が一台通れるほどの幅がある。
五百年前の地下遺構へ組み込まれた灰色の重量扉には、星冠教団の名も、礼拝の言葉も刻まれていない。
あるのは保守区画番号と、端の欠けた星。
そして、三枚の金属板を重ねるための認証枠だけだった。
「隊列停止」
雷虎成人封印隊長の命令で、先頭の成人盾列が足を止める。
僕たち限定作業列も、前後を成人騎士に囲まれたまま停止した。
左腕を身体の近くへ寄せる。
治療布の上には、黒銀色の封魔具が二重に固定されている。長い階段を下りてきたせいか、指先の震えは地上にいた時より少し強くなっていた。
それでも、治療布に裂けはない。
封魔具にも加熱や変形は起きていなかった。
「位置を照合する」
土亀の構造騎士が、五百年前の旧構造図を硬い記録板の上へ広げた。
別の騎士が定規を門の両端へ当てる。
「南側正規帰還路の終端。第五環外縁、認証門。位置は一致」
「門幅、旧図と差異なし」
「厚みも記録範囲内。蝶番は内側右方向」
構造騎士の一人が床へ膝をつき、石の継ぎ目を目視していく。
「荷重線を確認。門の開閉による沈下痕なし。緊急隔壁までの距離も旧図と一致します」
成人封印騎士は門脇の物理弁へ確認札を付けた。
「導管圧の逃がし弁、戻り弁、外側認証枠を確認。内側操作部は門の向こうです。現時点では復路認証未確認」
一致する項目が増えるほど、門が本物だという事実だけが重くなっていく。
アーサー団長は認証枠から距離を取ったまま、旧構造図と実物を見比べた。
腰には聖剣エクスカリバーがあるが、その柄へ手をかけることはない。
「一致したのは、ここが本物の門だということだけです。安全だという意味ではありません」
誰も反論しなかった。
本物の道だからこそ、敵は構造も開閉手順も知っている。
それは、この門へ到達する前から全員が共有していた事実だった。
成人封印騎士が金属盆へ三枚の封印鍵を並べる。
「切り欠き番号、帰還票および旧認証記録と一致」
「方向印、第五環内側」
「重ね順、二、一、三」
三枚の鍵が、互いの切り欠きを噛み合わせるように重ねられた。
僕は確認線の外側から、門の脇にある区分印を見る。
欠けた星の向きは帰還票と同じだった。
その下に刻まれた短い線は、中央器成院で見たものとは逆方向を向いている。
「アルト。確認対象は区分印だけだ」
ローディンが念を押す。
「はい」
僕は認証枠へ近づかず、見える範囲だけを確かめた。
「中央器成院の器成派印ではありません。星門派の区分印です」
ローディンが僕の発言を記録板へ書き込む。
最終判断は成人封印担当のものだ。
僕の左腕も、封魔具も、この門を開くためには使われない。
「限定照合を記録。鍵を入れる」
成人封印騎士が三枚の鍵を認証枠へ差し込んだ。
一人が鍵を保持し、もう一人が門脇の物理弁を規定の位置まで回す。
金属同士が噛み合う、低い音が響いた。
扉の奥で重い留め具が外れる。
「鍵認証、正常。ただし安全未承認」
厚い門が、床の溝に沿ってゆっくりと動き始めた。
開いた隙間から冷たい空気が流れ出す。
その先に見えたのは、荷車用の溝が中央を走る石造りの認証廊だった。
左右には低い遮蔽物。
壁には人員を数えるための床板と、閉じた側面扉。
天井近くを細い導管が走り、奥には中央通路へ続く開口部がある。
人影は見えない。
だが、灯具には火が残っていた。
無人ではない。
「門を固定」
鉄楔が扉の下へ打ち込まれる。
停止部へ太い杭を差し、留め縄を門外の固定環へ結ぶ。
土亀の構造騎士が床と蝶番側の荷重を再確認する。
「門外に封印騎士二名、構造騎士一名を残す。内側操作部が確認できるまで後続全員は入れない」
「成人盾列、進入」
盾を構えた成人騎士たちが、間隔を保って門を越えた。
その後ろへ封印騎士と構造騎士が続く。
僕たちには、まだ移動命令が出ない。
静寂の中、金属靴が石床へ触れる音だけが遠ざかっていく。
その直後だった。
鋭い音が、認証廊の奥から三つ重なった。
鉄の矢が成人盾列へ飛ぶ。
一発目が盾の中央へ突き刺さり、二発目は上端で弾かれた。三発目が石壁へ当たり、乾いた音を響かせる。
「射出口、正面奥!」
成人盾役が盾を寄せ、隙間を閉じる。
さらに短い鉄弾が二発飛んできた。
盾列は崩れない。
先頭が一歩進めば、後列も同じ幅だけ進む。
敵の射撃は続いたが、その間隔は奇妙なほど長かった。
成人騎士を押し返す密度ではない。
かといって、単なる威嚇でもない。
こちらが立ち止まれば撃たず、進めば一度だけ撃ってくる。
「右の遮蔽物に二名。奥に三名以上」
成人盾役の報告が届く。
低い遮蔽物の向こうから、暗い外套を着た男たちが姿を現した。
胸元にあるのは、門と同じ星門派の区分印。
一人が物理式の弩を持ち、二人が短槍と盾を構えている。
本部の門を守る人数としては、あまりにも少ない。
「盾列、前進。隊形を崩すな」
成人騎士たちは走らない。
盾で射線を塞ぎながら、一定の速度で距離を詰めていく。
星門派の守備役は、弩をもう一度だけ放った。
矢が盾へ当たった瞬間、短槍を持つ二人が遮蔽物から出る。
槍先が盾の縁を狙う。
成人盾役が正面で受け、隣の騎士が敵の柄を押さえ込んだ。
もう一人の星門派守備役は、踏み込む直前に動きを止めた。
背後から短い笛の音がしたからだ。
三人は同時に後退へ移った。
弩を持つ男が先に奥の開口部へ走り、短槍の二人が数歩ごとに振り返る。
一人だけが成人騎士に槍を押さえられ、石床へ倒された。
「生存拘束!」
成人騎士が腕を背へ回し、普通の拘束具を掛ける。
倒れた男は抵抗を続けたが、何も話さなかった。
「この場では尋問しない。地上受領線へ送れ」
残る守備役は、中央通路の奥へ消えていった。
追えば追いつけそうな速度だった。
成人前衛の一人が踏み出しかける。
「追撃しない」
封印隊長の声が、認証廊を打った。
「隔壁、復路、地上連絡を先に取る」
成人騎士はただちに止まり、盾列を戻した。
敵が消えた中央通路へ、誰も飛び込まない。
先行確認が終わり、僕たち限定作業列にも門内への進入命令が出た。
フィアは右腕の簡易固定具を残したまま、剣へ手をかけずに歩く。
ティアナは成人構造騎士の後ろ。
レグルスも破砕役より前へ出ない。
セルフィナは周囲を観察しているが、閉じた側面扉へ近づこうとはしなかった。
ローディンは、僕のすぐ後ろにいる。
僕たちは六人だけで動いているのではない。
前後左右には、成人封印隊の隊列が維持されていた。
門を越えたところで、ローディンが僕の左手を見た。
「震えが増えている」
「階段を下りた時から少し。でも、感覚はあります」
僕が指を曲げる。
やはり反応はわずかに遅い。
「悪化すれば止める」
「はい」
門内の記録卓には、破られた紙の切れ端だけが残されていた。
重要な記録は持ち去られている。
壁際に寝具はなく、食料箱も空だった。
守備役がここで長く持ちこたえる準備をしていた形跡がない。
土亀の構造騎士が遮蔽物の根元へ触れずに目を凝らす。
「固定杭が浅い。これは恒久防衛用ではありません」
成人記録官が床を示した。
奥へ向かう足跡が、幾つも同じ方向へ重なっている。
慌てて散った跡ではない。
横道へ向かう足跡はなく、深部へ続く中央通路だけが開けられていた。
左右の側面扉は、どちらも内側から閉じられている。
「門を守る配置ではないな」
封印隊長が呟いた時、地上側から成人伝令が入ってきた。
手には折り畳まれた紙札がある。
「水蝶捕虜救助線より報告。外環側第一認証区画で星門派守備役と接触。短時間の抵抗後、収容区画方向へ後退。追撃せず、入口を確保しています」
別の伝令も、その直後に到着した。
「灰鬼核心進入線より報告。守備役は二度の接触でいずれも後退。中央側通路のみ開放。側道は閉鎖されています」
僕たちの経路だけではない。
水蝶の救助線でも。
灰鬼の核心進入線でも。
敵は同じように、少しだけ抵抗してから深部へ下がっている。
二人目の伝令が、ガイ団長からの言葉をそのまま伝えた。
「門を守ってるんじゃねえ。追わせるために、届きそうな背中だけ残してやがる」
僕は、敵が消えた中央通路を見る。
射撃の間隔。
浅く固定された遮蔽物。
持ち出された記録。
深部へ揃った足跡。
そして、複数の侵入線で繰り返される同じ後退。
「逃げているんじゃなくて、僕たちが追える速さで下がっているんですね」
ローディンが僕の言葉を記録する。
成人封印隊長は頷いたが、その先を断定しなかった。
「どこへ誘っているかは分からない。分断か、時間稼ぎか、別の区画への集結か。現時点で決めつけるな」
地上統括指揮所へ送る報告が作られる。
誘導の可能性。
三作戦線で同じ後退を確認。
追撃停止。
退路維持。
紙札は成人伝令の手で、来た道を地上へ戻される。
門の内側にも成人封印騎士が残った。
隔壁前には構造騎士が付き、鉄楔と停止杭が並べられる。
通過した認証廊へ番号札が置かれ、次の伝令位置が決められた。
さらに後方では、光龍騎士団が星冠塔の民間利用区画との境界を保持している。
地下から誰かが出てきても、敵と決めつけて斬ることはない。
投降者かもしれない。
収容者かもしれない。
地上職員へ紛れていた潜伏信徒かもしれない。
だからこそ、身元確認と受領線を残す必要があった。
やがて地上から、オルフェンの確認書が届いた。
追撃禁止。
救護線と核心進入線を重ねない。
退路担当を前線へ回さない。
一区画ずつ地上との接続を確認したうえで進む。
封印隊長が紙を折り、記録官へ戻す。
「次区画へ進む。先行は成人盾列。限定作業列は中央を維持」
敵の背中はもう見えない。
けれど、追えば届くように残された道だけが、深部へ口を開けていた。
僕たちはその誘いを知らずに踏むのではない。
知ったうえで、帰るための線を一つずつ残して前へ進む。
ローディンが僕の位置を確認し、フィアたちも成人隊の内側で足並みを揃えた。
追えば届きそうな背中を追わず、僕たちは退路を一本ずつ地上へ繋いだまま、誘われた深部へ進んだ。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「今後どうなるの!!」
と思ったら
下にある⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎から、作品の応援をお願いいたします。
面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!
ブックマークといただけると本当に嬉しいです。
何卒よろしくお願いいたします。




