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『属性適性なしの学院最下位、迷宮で見捨てられた僕は七罪の魔神と契約する ~最強英雄になった幼なじみに追いつくまで~  作者: ドキツトム


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第158話 任務が終わったら

「この場面を挿絵で見たい!」と思った箇所がありましたら、挿絵希望度を★1〜5で評価し、場面と一緒に感想欄で教えてください!


例:『〇〇と△△が対峙する場面/★★★★★』


皆さまの声を、今後の挿絵制作の参考にさせていただきます!



婚約者になった翌朝、僕とレイシアは、互いの隣ではなく、それぞれに命じられた出発列へ立つ準備をしていた。


夜明け前の医療待機室には、薬草と冷えた金属の匂いが残っている。


成人医療員が僕の左腕を支え、封印担当が治療布の上から黒銀色の封魔具を確認していく。


外側の第一固定。


内側の第二固定。


どちらにも緩みはなかった。


「破損、変形、加熱なし。治療布にも裂けはありません」


封印担当の指が、肩の手前で止まった。


布からはみ出さない位置まで確認し、記録板へ印をつける。


「紋章線の増加もありません。停止位置に変化なし」


左手をゆっくり開くよう求められた。


指先がわずかに震える。


開いたつもりの指が実際に動くまで、ほんの少し遅れた。


痛みも感覚の遅れも、まだ消えていない。


成人医療員はその事実を隠さず記録したうえで、僕を見た。


「現時点では限定作業への参加を認めます。ただし、作戦中に悪化した場合は即時停止です」


「分かりました」


参加できることと、治ったことは違う。


能力を使えることとも、戦っていいこととも違う。


僕が袖を戻すと、すぐ横に立っていたローディンが確認札を受け取った。


「もう一度だけ言う。成人封印隊の内側から出るな」


「はい」


「未知の認証板、導管、封印台には触れない。封魔具の解除を要求する経路は、その時点で捨てる。作業途中でも停止命令が出れば退け」


ローディンは淡々と告げ、最後の一項を記録板へ加えた。


「《暴食》と《部分換装》に事前使用許可はない。レイシア団長の側で異常が起きても、命令経路を離れるな」


胸の奥が一度だけ強く縮んだ。


それでも、僕は頷いた。


「僕は配置を守ります」


昨夜、レイシアともそう約束した。


婚約者になったからこそ、僕の不安だけで彼女の持ち場を乱すわけにはいかない。


右手を握ると、彼女の背へ回した時の感触がまだ残っている気がした。


指輪はない。


正式な届け出も、騎士団への報告もしていない。


それでも、昨夜交わした言葉は確かに僕たちのものだった。


「次、フィア」


成人医療員の声で、僕は診察卓から離れた。


フィアは右腕の簡易固定具を見せ、指先を二度だけ曲げた。


「連続作業は禁止。成人封印担当が指定した線だけを対象とすること」


「承知しました」


短い返答のあと、フィアの札が限定作業列の内側へ戻される。


ティアナは土亀の構造責任者から、局所分離を行う場合も柱と人員の位置を先に確認するよう告げられていた。


レグルスには、成人破砕担当の指定なしに隔壁へ手を出さないという停止条件が付く。


セルフィナの観察記録にも、判断と命令は成人責任者が行うと明記された。


僕たちは近い場所へ並んでいても、六人だけの班ではない。


前には成人盾役。


左右には封印騎士と構造騎士。


後ろには救護員と退路担当が立つ。


僕たちは、その隊列の内側で必要な作業だけを行う。


「移動、待機、作業開始、撤退は成人封印隊長の命令に従え」


隊長の言葉に、全員が揃って頷いた。


やがて夜明け前を知らせる鐘が鳴り、僕たちは出発用の中庭へ移動した。


冷たい空気が頬へ触れる。


空はまだ暗い。


けれど東の端だけが、わずかに青みを帯び始めていた。


中庭には複数の列が作られている。


成人封印隊。


水蝶の捕虜救助線。


星冠塔の外周を受け持つ監視隊。


地上区画の避難と管理を行う部隊。


全員が一つの道から地下へ入るわけではない。


そして、七騎士団の全軍がここへ集められたわけでもなかった。


王都と王国各地の防衛は残されている。


中央器成院では捕虜八人の治療が続き、ヴァレクの生存移送と物証保全にも成人騎士が配置されていた。


騎士団長統括オルフェン・レグナスは、出発列の正面に立っていた。


「これより、星冠教団本部へ向かいます」


穏やかな声が、静まり返った中庭へ届く。


「本部位置は確認済みです。しかし、そこへ続く正規帰還路は敵の管理下にあります。開いている扉を安全と判断してはなりません」


各列の成人責任者が確認札を掲げる。


「一つの隔壁で、指揮、救護、封印、退路を同時に失わないこと。帰路を確認せず、次の区画へ全部隊を進めないこと」


オルフェンは僕たちのいる限定作業列にも目を向けた。


「《全身換装》に一律の使用許可はありません。アルト・ロウェルの《暴食》《部分換装》にも、事前使用許可は出していません。全員、現場の停止判断を守ってください」


誰も声を上げなかった。


その沈黙自体が、命令を受領した印だった。


オルフェンの最終確認が終わり、それぞれの列が門前へ動き始める。


その時、別の列から淡い銀青の髪が近づいてきた。


レイシアだった。


水蝶騎士団長の外套を整え、片手には捕虜救助線の名簿を持っている。


水色の瞳の縁には、昨夜の涙の名残がほんの少しだけ残っていた。


けれど、その立ち姿はもう一つの作戦線を預かる団長のものだった。


「アルト」


「レイシア」


互いの列が動き出すまで、与えられた時間は長くない。


僕たちは抱き締め合わなかった。


婚約者になったことも、ここでは口にしなかった。


レイシアの右手が下ろされ、僕も右手を伸ばす。


重なったのは指先だけだった。


それでも、昨夜の約束を確かめるには十分だった。


「任務がうまくいったら、二人で孤児院へ帰ろう。今度は昔の約束じゃなく、結婚するって報告しよう」


レイシアの耳が、ほんのわずかに揺れた。


その瞳が潤みかける。


けれど今度は涙を落とさず、静かに笑った。


「うん。だから、今はお互いの配置を守ろう」


「僕は成人封印隊の内側から出ない。停止命令が出たら退く。必ず救護受領点へ戻る」


「私は救助線を離れない。通信が途絶えても、確認なしにアルトの経路へは入らない」


言葉にすると、二人を隔てる線がいっそうはっきりした。


けれど、それは引き離すためだけの線ではない。


僕たちだけでなく、騎士も、捕虜も、収容されているかもしれない誰かも帰すための配置だった。


レイシアの指先が、僕の右手から離れる。


「必ず戻るよ、アルト」


「うん。二人とも」


それ以上は言わなかった。


レイシアは水蝶の列へ戻り、僕もローディンの待つ成人封印隊の内側へ入った。


背後で重い門扉が開き始める。


夜明け前の王都アウレリスへ、冷たい風が一本の道を作った。


先頭の外周隊が門を抜ける。


続いて捕虜救助線が動き、少し間を置いて成人封印隊にも前進命令が届いた。


僕は最後に一度だけ、別の列を見た。


レイシアは振り返らなかった。


僕も彼女の名を呼ばなかった。


互いが持ち場を守ることこそ、もう一度会うために今できる約束だった。


「前進」


成人封印隊長の命令に従い、僕は王都の石畳へ足を下ろした。


任務が終わったら――その言葉を別れの挨拶にはせず、僕たちはそれぞれの帰還線へ足を踏み出した。

 「面白かった!」


 「続きが気になる、読みたい!」


 「今後どうなるの!!」


 と思ったら


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