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『属性適性なしの学院最下位、迷宮で見捨てられた僕は七罪の魔神と契約する ~最強英雄になった幼なじみに追いつくまで~  作者: ドキツトム


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第132話 四日目の灯

「この場面を挿絵で見たい!」と思った箇所がありましたら、挿絵希望度を★1〜5で評価し、場面と一緒に感想欄で教えてください!


例:『〇〇と△△が対峙する場面/★★★★★』


皆さまの声を、今後の挿絵制作の参考にさせていただきます!



孤立四日目の朝、僕たちの手提げ灯は、旧換気塔を示す最後の経路札を照らした。


そこへ辿り着くまでに、三日目の残りをすべて使った。


《部分換装》が消えたあとも、僕の身体から熱は抜けなかった。左手から前腕へ走る激痛と、左右の感覚を取り違える混濁も残っていた。


無理に進めば、旧換気塔へ着く前に歩けなくなる。


僕たちは保守分岐で移動を止めた。


三日目の夕方に、保存食を半食分ずつ食べた。残りは一食分。


夜は保温布を使い、短い見張りを交代した。


僕の高い熱は夜半を過ぎた頃から下がった。


それでも、左腕を動かすたび、内側へ熱した杭を押し込まれるような痛みが走った。指も動くが、考えた動作へ僅かに遅れてついてくる。


フィアの右腕は固定されたままだ。


左前腕にも、僕が残した噛み跡と、術式線を切った反動がある。


互いに完全な状態ではない。


だから、夜が明けたと判断してからも、先に身体状態を報告した。


「空腹、四。見え方は弱いまま残ってる。左腕の痛みは強い。指に遅れ。右脚の痺れもある」


「声は?」


「聞こえない。封魔具と固定も変化なし」


フィアも左手の指を順番に動かした。


「右腕、痺れは同じ。左は圧痛。指先の痺れは昨日より少し強い」


「剣は?」


「一度なら。続けては無理」


残る一食分を、また半分ずつ食べた。


普通の空腹と疲労を放置しないためだ。


それで《暴食》の飢えが消えるわけではない。


二人で飲める水も、まだ水筒二本に残っている。


けれど、保存食はなくなった。


「これで、ゼロ」


フィアが空になった食料袋を折り畳む。


「今日、知らせる」


「知らせる。戻るのは、そのあと」


僕たちは同じ歩幅で進んだ。


僕の右脚が遅れれば、フィアも速度を落とす。フィアの左手に痛みが走れば、僕も止まる。


どちらも一人では先へ行かない。


最後の曲がり角へ位置札を残し、壁の番号と構造図を照合した。


王国土木局の古い表示が、灯りの中に浮かぶ。


――旧換気塔。


その先は、円形の石室だった。


中央に、地上へ向かって伸びる細い縦坑がある。


縦坑の内側には錆びた送風枠と防護格子が残り、その上を雪と氷が塞いでいた。


人が登れる幅ではない。


「出口じゃない」


フィアが上を見て言った。


「うん。無理に広げたら、塔ごと崩れる」


それでも、地上へ繋がっている。


縦坑から落ちる冷気には、地下通路とは違う鋭さがあった。


僕たちは天井、床、石壁、縦坑の縁を確認した。


大きな亀裂は見えない。


塔の下部には、地表非常信号索が残っていた。


太い索は壁沿いの滑車を通り、縦坑の上へ伸びている。僕は右手だけで軽く張力を確かめた。


動く。


だが、途中で止まった。


「錆と氷」


フィアが滑車を見上げる。


「引き切れない」


僕たちは身体を預けてまで引かなかった。


索を切れば、残っている可能性まで失う。


一度だけ規定の範囲で引くと、縦坑の上で小さな金属音がした。


地表の警告板が上がったのか。


鐘が鳴ったのか。


ここからは確認できない。


「他にもある」


僕は石壁へ埋め込まれた金属板を照らした。


縦坑の上へ伸びる金属製の信号管。


その手前には固定式の打音板と、短い打棒が鎖で繋がれている。


さらに別の細い金属導体が、地表側へ向かっていた。


表示板の文字は半分ほど錆びていたが、周期は読めた。


短い打音を三回。


長い打音を一回。


もう一度、短い打音を三回。


十五呼吸待ち、反復。


「王国土木局の非常周期だ」


「音だけだと、吹雪に消える」


フィアが金属導体を見た。


「雷を重ねる」


僕はすぐに答えなかった。


フィアの雷が身体から離れれば、《暴食》は反応する。


昨日までのことを、なかったことにはできない。


「安全手順を先にしよう」


「分かった」


換気塔には、物理的な安全環が残っていた。


僕は短い補助縄を装具帯の固定環へ通し、安全環へ結んだ。


首にも手首にも巻かない。


左腕と封魔具にも触れさせない。


座る、立つ、一歩動く程度の遊びだけを残す。


僕の剣は鞘に収めたまま、可動範囲の外へ置いた。


フィアとの間は六歩以上。


停止笛は、フィアが左手で取れる位置へ置く。


「十呼吸ごと」


「空腹、見え方、左腕、声」


「雷は一周期ごとに切って」


「三周期で休む」


確認を終えてから、僕は右手で打棒を握った。


フィアは金属導体の前へ立つ。


右腕は固定具に収めたまま、身体の外側へ置いている。


左前腕の布には、薄く残る歯形が隠れていた。


「始める」


打棒を振る。


カン、カン、カン。


短く三回。


次は、打棒を押し当てるように長く響かせる。


カァン――。


最後に短く三回。


音は信号管へ入り、縦坑の上へ細く昇っていった。


同じ周期で、フィアの左指から糸ほどの紫電が伸びる。


大きな魔法陣はない。


詠唱もない。


導体の表面を淡い光が走り、すぐに消えた。


フィアは一回ごとに供給を切っている。


有限の、外へ出た雷。


左腕の奥で、飢えが向きを変えた。


「反応した」


僕はすぐに報告した。


「空腹、五。フィア本人じゃなく、導体を走る雷へ向いてる。左腕の圧迫感は増えてない。声もなし」


「続けられる?」


「見るだけなら。喰わない」


「続ける」


十五呼吸を数え、二周期目を送った。


打音。


微弱な雷。


また十五呼吸。


三周期目。


返事はない。


縦坑の上で、吹雪が低く唸るだけだった。


「左腕」


僕が尋ねる。


「圧痛が増えた。痺れは指二本分だけ強い」


「休もう」


「同意」


フィアは導体から離れた。


《暴食》が追う雷も消える。


僕は十呼吸ごとの報告を続けた。


空腹は五から四と五の間。


フィアへ重なる異常な意味は、弱いまま。


左腕の激痛も、封魔具も変化なし。


ベルゼバスの声は聞こえない。


しばらく休み、二度目の三周期を送った。


それでも応答はない。


手提げ灯の炎が僅かに短くなった。


油はまだある。


交換用も一組残っている。


けれど、時間は見えない形で減っている。


「もう一度」


フィアが言う。


「左手は?」


「使える。三周期だけ」


「途中で増えたら止めよう」


「分かってる」


僕たちは周期を変えなかった。


焦って無秩序に叩けば、地上の雪や設備が立てる音と区別できなくなる。


短く三回。


長く一回。


短く三回。


雷も同じ周期。


七周期目。


八周期目。


九周期目。


フィアが導体から指を離した。


僕も打棒を下ろす。


十五呼吸。


何もない。


さらに十五呼吸が過ぎた。


僕は打音板を見た。


次も同じように送る。


返らなくても、崩さない。


右手で打棒を持ち直した時だった。


カン、カン、カン。


縦坑の上から、音が落ちてきた。


僕は動きを止めた。


カァン――。


長い一回。


続いて、短く三回。


同じ周期だった。


「返った」


声が震えそうになる。


フィアの青い瞳が縦坑へ向く。


「もう一度待つ」


僕たちは十五呼吸を数えた。


上から再び同じ周期が返ってきた。


偶然ではない。


風が金属を揺らした音でもない。


「応答する」


僕は打棒を鳴らした。


三回。


一回。


三回。


音が上へ届いたあと、雪を削るような音が聞こえた。


防護格子の向こうで、何かが動いている。


粉雪が縦坑へ落ちた。


古い格子の隙間に、細い裂け目が生まれる。


人が通れる大きさではない。


指一本ほどの隙間だ。


そこへ、橙色の光が置かれた。


僕たちの手提げ灯ではない。


四日間、地下で守り続けた小さな火とも違う。


地上側の誰かが置いた、別の手提げ灯だった。


その細い光が、雪と格子を抜けて石床まで落ちる。


四日目になって、初めて地上から届いた灯だった。


「下! 聞こえる?」


縦坑の上から声がした。


風と金属管に削られていても、分かる。


「ユノ先輩!」


僕は立ち上がりかけ、補助縄に止められた。


「アルト!?」


「僕です! フィアもいます!」


「二人ともいるんだね! 待って、今、確認を――」


声が一度遠ざかる。


続いて、別の声が届いた。


「アルト。フィア。聞こえますか」


「セルフィナ!」


丁寧で、落ち着いた声。


けれど、いつもより僅かに速い。


「聞こえます!」


「打音はユノが発見しました。金属管から同じ周期が複数回続いています。私は、打音と同じ位置、同じ周期の雷反応を確認しました」


一つだけで決めなかった。


音と雷。


周期と位置。


僕たちの返答。


それを重ねて、ここにいると確かめた。


「二人の生存を確認します。状態を報告してください」


僕は息を整えた。


長くなっても、隠さない。


「二人とも生存。歩けます。僕は右脚に痺れ。左手から前腕に激痛と感覚の遅れがあります。封魔具、治療布、二重固定は維持。黒い紋章の拡大なし」


フィアも縦坑へ声を向ける。


「右腕、固定継続。左前腕に噛み跡。両手に痺れ。歩ける」


僕は続けた。


「三日目に、僕の異常な飢えが悪化しました。フィア本人の同意と安全手順を決めて、放出済みの有限魔力だけを三呼吸分、《暴食》で吸収しました。肉、血、魂、生命、記憶、能力、体内魔力は対象外」


上は静かに聞いている。


「その後、旧換気塔手前で梁が落ちかけました。ベルゼバスが三心拍だけ左手から前腕を変えました。仮称《部分換装》。梁の支持だけに使用。攻撃なし。紋章と封魔具に外見上の変化なし。解除後、発熱、激痛、感覚混濁あり」


セルフィナは遮らなかった。


最後まで聞いてから答えた。


「確認しました。推測で補わず、そのまま成人責任者と医療担当へ伝えます」


「保存食はゼロです」


「水は?」


「水筒二本。空ではありません」


「分かりました」


ユノ先輩の声が戻る。


「位置札も途中まで見つけてる。全部じゃないけど、旧図と向きが一致した。諦めてなかったからね」


胸の奥で、強く息を吐いた。


僕たちが残した札は、無駄ではなかった。


成人側は救助をやめていなかった。


「すぐ上げられますか?」


フィアが尋ねた。


声は短い。


期待を隠してはいないが、根拠のない答えも求めていない。


セルフィナが答える。


「この縦坑は狭すぎます。送風枠と格子も残っています。上から広げれば、換気塔を崩す危険があると、坑道技師が判断しました」


「別経路?」


「はい。隣接する救援横坑から、側壁を開けます。開口位置を確認中です。まだ壁は抜けていません」


事実と、まだできていないことを分ける。


「待ってください。必ず、成人側の手順で開けます」


「分かった」


僕は答えた。


「待ちます」


上の灯が消えない。


それだけで、地下の暗さが少し違って見えた。


だが、ユノ先輩の声が急に低くなった。


「下側。音がある」


僕とフィアは同時に換気塔の入口へ顔を向けた。


「一人分に聞こえる。金属音も混じる。でも、距離も誰かも決められない」


その報告を追うように、保守路から規則的な足音が届いた。


遠くはない。


けれど、何歩先かまでは分からない。


「追跡役の可能性があります」


僕は上へ報告した。


「これまで複数回、暗色の防寒衣、星冠印に似た留め具、赤黒い制御紐を確認。正体と同一人物かは不明です」


「救援隊へ伝えます」


セルフィナの声が遠ざかる。


フィアは換気塔下部の点検格子を見た。


「逃げれば、開口位置から離れる」


「追わない。ここで止める」


「倒さない。ここを保つ」


「救援まで」


僕は補助縄を自分の装具帯から外した。


信号終了後、空腹、見え方、左腕、声を三回報告している。


どれも安定していた。


縄を回収し、剣を右手で取る。


抜かない。


使うのは、設備だ。


僕たちは換気塔下部の点検格子へ移動した。


錆びた鉄格子は重い。


フィアが左手で取っ手を握り、両脚と体重を使って引く。


「痛み」


「左、強い。でも引ける」


僕も右手を添えた。


左腕は身体へ寄せたまま。


二人で格子を閉める。


フィアが押さえている間に、僕は右手で横木を掛けた。


短い補助縄を留め具へ回し、開きにくいよう固定する。


人影が曲がり角へ現れた。


暗色の防寒衣。


顔は布と影に隠れている。


成人程度の体格。


装具の端に、小さな星冠印らしき刻印が見えた。


腰には赤黒い制御紐。


同じ追跡役かもしれない。


違うかもしれない。


向こうは名乗らない。


僕たちも問い掛けなかった。


追跡役が短い器具を上げる。


乾いた音。


金属杭が飛び、点検格子の留め具へ突き刺さった。


鉄全体が震えた。


僕たちの身体には当たらない。


だが、留め具の片側が歪んだ。


「一撃で壊れない。でも続けば外れる」


僕が報告する。


「第二扉まで、退路確認」


フィアが振り返らずに言った。


「確認済み」


もう一本の金属杭が格子へ当たった。


横木が僅かに浮く。


追跡役は格子へ近づいた。


隙間から、赤黒い実体線が差し込まれる。


線の先が内側の留め具へ絡みつく。


張力が掛かった。


「右の留め具を引いてる」


「切る」


フィアは石床と靴で鞘を固定した。


右腕を使わず、左手だけで通常剣を抜く。


刃先を格子の隙間へ向ける。


追跡役本人ではない。


留め具へ絡んだ、赤黒い線だけ。


「一度で」


「うん」


フィアの左手が動いた。


利き腕の速度ではない。


噛み跡と痺れで、刃先も僅かに震えている。


それでも線が強く張った瞬間を選び、一度だけ刃を引いた。


赤黒い実体線が切れる。


張力を失った端が、格子の外へ戻った。


追跡役へ刃は届いていない。


フィアも追わない。


「左腕」


「痛み、増えた。痺れは三本。剣はもう続けて無理」


「第二扉へ下がろう」


「同意」


格子へ三本目の杭が打ち込まれた。


鉄枠が傾く。


僕たちは格子の前へ残らなかった。


フィアは剣を左手だけで鞘へ戻す。


僕は横木を外さず、補助縄だけを回収した。


それから二人で、内側安全扉まで後退する。


点検格子が大きな音を立てて歪んだ。


完全に壊れたかは見えない。


確かめにも行かない。


内側安全扉を閉める。


僕が右手で横木を掛けた。


左脚を主な支点にし、右脚は添えるだけにする。


フィアは反対側の留め具へ左手を掛け、身体の重心で押さえた。


固定中の右腕は外側へ逃がしている。


「アルト、空腹」


「五。雷が消えたあとも少し上がった。見え方は弱いまま。左腕の痛みは強い。声なし」


「分かった」


「フィアは?」


「左の圧痛、強い。痺れは残る。意識は問題ない」


扉の向こうで金属音が鳴った。


追跡役が点検格子を越えたのかもしれない。


断定はできない。


ただ、足音は近づいている。


上からセルフィナの声が届いた。


「開口位置、決まりました。成人坑道技師が作業を開始します」


岩壁の向こうから、弱い打音がした。


一回。


間を置いて、二回。


構造を確かめるための音らしい。


「まだ抜けていません」


セルフィナが続ける。


「分かりました!」


僕は横木を押さえたまま答えた。


安全扉へ、外から衝撃が加わる。


横木が掌へ食い込む。


右脚の痺れが膝まで上がった。


僕一人では支え切れない。


けれど、反対側の留め具をフィアが維持している。


フィア一人でも足りない。


二人だから、扉はまだ閉じていた。


「右脚、痺れ増加」


「私も左手、力が落ちてる」


互いに隠さない。


耐えられるふりもしない。


次の衝撃で、扉の下側が少し開いた。


追跡役の手袋が隙間へ入る。


僕たちは剣を突き出さなかった。


フィアが左手と体重で留め具を押し戻す。


僕も右手で横木を下へ掛け直した。


隙間が閉じる。


岩壁の向こうで、確認打音が近づく。


一度ごとに、こちらの壁から細かな粉が落ちた。


無計画に壊している音ではない。


位置を測り、支えを確認し、少しずつ開口点へ近づいている。


「あと何回?」


僕は誰へともなく言いかけた。


フィアが短く遮る。


「数えない。状態」


「空腹、五。右脚の痺れ、膝下。左腕、激痛。意識は清明」


「私、右腕は同じ。左は痛い。まだ押せる」


あと何回かは分からない。


だから、今できる一回だけを続ける。


安全扉へ再び衝撃。


片側の留め具が軋んだ。


追跡役が外から金属杭を差し込み、横木の端を押し上げている。


僕は右手で横木を押さえた。


左腕は使わない。


黒い紋章も、封魔具も沈黙したまま。


《暴食》も使わない。


第一覚醒も、《部分換装》もない。


借り物の爪ではなく、残っている身体と設備で待つ。


上部から、ユノ先輩の声が落ちた。


「作業音、すぐ横まで来てる! でも壁の厚さは私には決められない!」


「聞こえてます!」


フィアの金髪が、振動で肩の後ろへ揺れた。


黒いカチューシャの下で、青い瞳は扉だけを見ている。


「アルト」


「何?」


「ここまで来た」


短い言葉だった。


四日間。


雪崩の向こうから始まり、火を起こし、同じ布で夜を越え、負傷を報告し、助けを求め、飢えを隠さず、貸された腕を三心拍だけ使った。


ここまで、二人で来た。


「うん」


僕は答えた。


「ここからも、二人で保つ」


追跡役が安全扉を強く引いた。


補助縄で補強できる位置ではない。


横木の端が留め具から半分浮く。


フィア側の留め具にも、ひびが入った。


「次で外れるかもしれない」


「下がる場所は?」


「縦坑の裏側。扉が開いたら、格子を挟んで回る」


「了解」


倒すための配置ではない。


最後まで距離を作るための退避だった。


僕たちは扉へ身体を預けきらず、離れられる姿勢を保つ。


追跡役の指が、開いた隙間から伸びた。


最後まで残った留め具へ触れる。


岩壁の反対側で、今までの確認打音とは違う、重く低い音が生まれた。


空気が揺れる。


石壁の奥まで、一撃の重量が通る。


その音を、僕は知っていた。


追跡役が最後の留め具へ手を掛けた瞬間、岩壁の向こうから、僕が一度だけ真正面で受けたガイ団長の大剣の音が響いた。

 「面白かった!」


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