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『属性適性なしの学院最下位、迷宮で見捨てられた僕は七罪の魔神と契約する ~最強英雄になった幼なじみに追いつくまで~  作者: ドキツトム


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第13話 三人一組



 組み合わせが発表されてから、二日後。


 僕は学院の模擬迷宮区画、その入口に立っていた。


「右脚を出せ」


 バルト先生に言われ、右足を一歩前へ出す。


 膝を曲げ、足首を回す。普通に歩く分には、もうほとんど痛まない。


 けれど、強く地面を蹴ろうとすると、筋肉の奥に鈍い違和感が残っていた。


「歩けるようになったからといって、治ったわけじゃないからな」


 バルト先生が右腿を指で押す。


「痛っ」


「まだ痛むじゃないか」


「今のは先生が強く押したからです」


「口答えできるなら元気だな」


 腕を組んだ先生が、僕を真っすぐに見る。


「今日は《閃駆》を使うな。右脚に痛みが出た時点で離脱しろ」


「分かりました」


「訓練で脚を壊したら、卒業どころじゃない。お前の一歩は、使い潰すために作ったんじゃないからな」


 僕が頷くと、バルト先生は他の組の確認へ向かった。


「アルト、腕を出して」


 今度はティアナに呼ばれる。


 素直に左腕を差し出すと、彼女は僕の制服の袖へ青色の布を巻き始めた。


 同じ組の生徒であることを示す識別布だ。


「少しきつくない?」


「大丈夫だよ」


「本当に?」


 ティアナが僕の腕へ指を滑らせ、結び目の下へ指先を差し込む。


 顔が近い。


 肩へ彼女の髪が触れ、甘い花の香りがした。


「うん。ちょうどいい」


「よし」


 満足そうに笑ったティアナが、僕の識別布を軽く叩く。


「今日は、本当に隣にいられるね」


「そうだね」


「だから、勝手に一人で行かないでね」


「僕より、それを言わないといけない人がいる気がするけど……」


 僕たちは同時に、入口の横へ視線を向けた。


 腰まで届く金髪。


 それを押さえる飾り気のない黒いカチューシャ。


 華奢な腰には、細身の剣が差されている。


 フィアは自分の識別布を巻き終えると、僕たちではなく、閉ざされた模擬迷宮の扉を見ていた。


「フィア、おはよう」


 ティアナが声をかける。


「おはよう」


 フィアはこちらを見て、短く答えた。


「右脚は?」


「え?」


「負傷していると聞いた」


「普通に走らなければ大丈夫。でも、《閃駆》は使えない」


「そう」


 フィアはそれ以上聞かなかった。


 心配しているようにも、失望しているようにも見えない。


 ただ、必要な情報を確認しただけだった。


     ◇


「制限時間は二十分だ!」


 模擬迷宮の前で、バルト先生が参加者全員へ声を張る。


 学院内に造られたこの訓練区画は、魔導具によって石壁や通路の位置を変えられる。今回は本物の学院迷宮ではないため、実習停止中の僕も参加を許可されていた。


「三人で中央区画へ向かい、魔導核を停止。その後、全員で出口まで帰還しろ!」


 攻略速度だけでは合格できない。


 負傷、救助判断、隊列の維持。そして三人の連携も評価に含まれる。


「内部では、訓練開始後に追加課題が発生する。何を優先するか、三人で判断しろ」


 説明を終えたバルト先生が、入口を示した。


 僕たちは閉ざされた扉の前へ並ぶ。


「始まる前に、役割を決めよう」


 ティアナが僕とフィアの間へ立った。


「フィアが前衛と斥候。アルトが中央で、近くに来た魔導人形への対応。私は後ろから防御と支援をする。それでどう?」


「必要ない」


 フィアが迷いなく答えた。


 ティアナが目を瞬く。


「必要ないって、何が?」


「役割分担」


 フィアは細剣の柄へ手を置いた。


「私が先行して、中央区画までの敵と罠を処理する。二人は安全になった道を来て」


「それじゃ、三人一組の意味がないよ」


「三人で遅く進むより、私が一人で危険を消す方が全員の生存率は高い」


 冷たい言い方ではなかった。


 フィアは、自分の考えを事実として伝えているだけだ。


「でも、途中で何かあったら――」


「起こさせない」


 ティアナの言葉へ、フィアが答える。


「私がすべて処理する」


 自慢しているわけではない。


 本気でできると思っている。


 実際、彼女ならできるのかもしれない。


 フィアは僕たちを嫌っているわけでも、弱いと笑っているわけでもなかった。


 自分が一人で前線を引き受けることを、最初から当然だと思っている。


「フィア、僕は――」


 開始を告げる鐘が鳴った。


 同時に、目の前の扉が開く。


「先に行く」


 青白い雷が、フィアの足元で弾けた。


     ◇


 フィアの姿が掻き消えた。


 石造通路の先で、金属音が連続する。


 一体目の魔導人形が槍を構えるより早く、フィアの細剣が胸の核を貫く。


 二体目が腕を振り上げる。


 フィアはその脇をすり抜け、振り返ることなく背中の核を刺し抜いた。


 壁の穴から矢が射出される。


 けれど、矢が通路を横切った時には、フィアはすでに閉じかけた石壁の向こう側へ消えていた。


「速すぎるよ……!」


 ティアナが駆けながら声を上げる。


 僕も追おうとしたが、右脚の奥に痛みが走りかけ、速度を落とした。


「無理だ。追いつけない」


「でも、このままじゃ三人一組じゃないよ」


「うん。だからこそ、僕たちは僕たちのできることをしよう」


 通路には、核を貫かれ停止した魔導人形だけが残されていた。


 フィアは本当に、前方の危険を一人で排除している。


 それでも、胸に引っかかるものは消えなかった。


 いくら道が安全でも、彼女の背中はもう見えない。


 これは三人で進んでいるとは言えなかった。


 その時、右手の横道から高い警告音が鳴った。


『救助対象、発生。救助対象、発生』


 赤い光が明滅する。


 フィアの進んだ最短経路とは、反対方向だった。


「行こう、アルト」


「うん」


 迷う必要はなかった。


 僕とティアナは横道へ入った。


     ◇


 行き止まりに近い小部屋。


 崩れた石材の下から、人間の腕を模したものが伸びている。


 訓練用の救助人形だ。


「私が瓦礫を支える」


 ティアナが両手を床へ向ける。


 茶色い魔法陣が広がり、石床の隙間から太い蔦が生えた。


 蔦が瓦礫へ絡みつき、ゆっくりと持ち上げる。


「今だよ!」


 僕は隙間へ身体を滑り込ませ、救助人形の肩を掴んだ。


 人間一人分の重さがあり、片手では引き出せない。


 右脚を踏ん張りたくなる。


 けれど、ここで傷を悪化させれば、救助対象を運べなくなる。


 腰を落とし、左脚と背中を使って引く。


「もう少し……!」


 人形の身体が、瓦礫の下から抜けた。


 その瞬間、足元の魔法陣が赤く染まった。


「アルト、後ろ!」


 地鳴りが響く。


 通路の左右から、二枚の石壁が迫ってきていた。


「救助対象を先に!」


 僕は人形を抱え、ティアナと一緒に通路へ走る。


 しかし、閉じる壁の方が速い。


 剣を抜いたものの、狭い通路では刃が壁へ当たり、途中までしか抜けなかった。


 ――剣を振れないなら、柄を使え。


 灰鴉の言葉が蘇る。


 華麗に斬る必要はない。


 生きて戻るために、使えるものを使う。


 僕は剣を鞘へ戻すと、鞘ごと迫る壁の隙間へ突き込んだ。


 石壁が鞘を挟み、動きがわずかに鈍る。


「アルト、剣が!」


「剣より先に、ティアナたちを出す!」


 救助人形を出口側へ滑らせる。


 けれど、ティアナの短いローブが、突き出した石材へ引っかかった。


「きゃっ……!」


 壁が迫る。


 僕はティアナの身体を引き寄せた。


 片腕を腰へ回し、自分の胸元へ抱き込む。


「ご、ごめん!」


「謝るのは、あと!」


 ティアナの頬がすぐ近くにある。


 僕は彼女を抱えたまま肩から壁へぶつかり、反動で引っかかった布を外した。


 壁の向こうに、青白く光る解除板が見えた。


 剣は振れない。


 だから、挟まれた鞘から柄だけを押し込む。


 柄頭が解除板へ触れた。


 石壁の動きが、一瞬止まる。


「ティアナ、先に!」


 彼女と救助人形を隙間の向こうへ押し出す。


 僕は床へ身体を投げ、狭くなった壁の下を転がり抜けた。


 直後、背後で石壁が閉じる。


 僕の鞘は、寸前で弾き出され、床を滑ってきた。


「痛た……」


 格好良さとは程遠い。


 制服は埃まみれで、肩も床へ打ちつけた。


 それでも三人とも、壁のこちら側にいる。


「アルト!」


 ティアナが僕の上へ覆い被さるようにして、顔を覗き込んだ。


「どこか痛めた?」


「肩を少し打っただけ」


「右脚は?」


「大丈夫」


 ティアナは安堵したあと、急に頬を赤くした。


「さっきは、その……ありがとう」


「咄嗟だったから。嫌だったならごめん」


「嫌じゃないよ」


 即答したティアナが、さらに赤くなる。


「助けてもらったのは嬉しいけど……次は一緒に避けようね」


「うん。その方がいいね」


「あと、抱き寄せる時は――」


「時は?」


「……何でもない!」


 ティアナは僕の手を取って立ち上がらせると、救助人形の腕を肩へ回した。


     ◇


 僕たちが中央区画へ到着した時、すべては終わっていた。


 何体もの魔導人形が、胸の核を正確に貫かれて停止している。


 中央に浮いていた魔導核も光を失っていた。


 その前で、フィアが一人立っている。


「遅かった」


 馬鹿にしている様子はない。


 ただ到着時間の差を、事実として口にしただけだった。


「途中で救助信号が鳴ったの」


 ティアナが説明する。


 フィアの視線が、彼女の肩へ回された救助人形へ向く。


「そう」


 短く答えたフィアは、ティアナへ近づいた。


 そのまま救助人形を軽々と担ぎ上げる。


「フィア?」


「疲れているでしょう」


 それだけ言うと、出口へ歩き始めた。


「時間がない。戻る」


 僕とティアナも後を追う。


 フィアは走らなかった。


 僕たちが遅れない速度で、救助人形を背負って進んだ。


 三人と一体が出口を抜けた直後、終了を告げる鐘が鳴った。


     ◇


「中央区画到達、魔導核停止。フィア個人の記録は、本日の最速だ」


 結果を記した板を見ながら、バルト先生が告げる。


 周囲の生徒から感嘆の声が上がった。


 けれど、先生の表情は厳しいままだった。


「三人一組としての評価は――不合格」


 ティアナが目を見開く。


 フィアは動かなかった。


「これは学院最速を決める競走じゃない」


 バルト先生がフィアを見る。


「お前が中央へ到着した時、後ろの二人が生きていると確認できたか」


「……できていません」


「今回は二人が自力で救助対象を守った。だが実戦なら、お前が記録を作っている間に仲間が死んでいたかもしれん」


 フィアは言い訳をしなかった。


 ただ結果を受け止めるように、目を伏せる。


「次は、後方に敵も罠も残さず進みます」


「違う」


 バルト先生が、はっきりと言い切る。


「次は後ろを見ろ」


 フィアの眉がわずかに動いた。


「同じ三人で再試験だ。今度は、一人でも隊列から離れた時点で失格とする」


     ◇


 訓練が終わると、フィアは一人で歩き出した。


「フィア」


 僕はその背中を呼び止める。


 金色の髪が揺れ、フィアが振り返った。


「何?」


「次は、僕たちがフィアについていくんじゃない」


 怒っているわけではない。


 フィアの判断が、全部間違っていたとも思わない。


 僕たちが危険な魔導人形に襲われずに済んだのは、彼女が前方を制圧してくれたからだ。


 それでも、あれは三人一組ではなかった。


「次は、三人で行こう」


「今のあなたが、私に合わせられるの?」


「今は無理だと思う」


 誤魔化しても仕方がない。


「でも、置いていかれたまま終わりたくない。僕もティアナも、フィアの後ろを歩くだけの荷物じゃないから」


「私も、一人で守ってもらうつもりはないよ」


 ティアナが僕の隣へ並ぶ。


「フィアにも、私たちを頼ってほしい」


 フィアは答えなかった。


 ただ、僕とティアナを静かに見つめる。


 前しか見ていなかった少女が、その時だけ初めて足を止めた。

 「面白かった!」


 「続きが気になる、読みたい!」


 「今後どうなるの!!」


 と思ったら


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 面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!


 ブックマークといただけると本当に嬉しいです。


 何卒よろしくお願いいたします。

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