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『属性適性なしの学院最下位、迷宮で見捨てられた僕は七罪の魔神と契約する ~最強英雄になった幼なじみに追いつくまで~  作者: ドキツトム


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第120話 雪崩の向こう



王都を出て数時間後、僕たちは雪に半ば埋もれた北方旧輸送坑道の入口へ到着した。


今朝、王都の北門を出た時には高かった太陽も、すでに西へ傾き始めている。


輸送車を降りると、冷たい風が灰黒色の上着を叩いた。


坑道の入口は、雪を被った岩壁に黒い口を開けていた。


古びてはいるものの、放棄されているわけではない。入口の支柱は補修され、王国土木局の経路札と入坑記録板も設置されている。


成人坑道技師たちは、輸送車から構造図と確認具を下ろした。


ガルド先輩は大盾と搬送具の固定を確かめ、ユノ先輩は入口周辺の雪と足跡を見ている。


セルフィナは坑道から流れ出る空気へ顔を向けていた。


セシリアは灰金色の髪を風に揺らしながら、医療箱の封と搬送記録を確認している。


フィアも剣、停止笛、治療用品を順に確かめた。


成人物資担当から借りた食器袋も、貸与番号の札を付けたまま荷物の内側へ収まっている。


「全員、構造図を見ろ」


ローディンが僕たちを入口脇へ集めた。


黒髪の下にある灰色の瞳が、一人ずつの装備と立ち位置を確認する。


「第一退路は来た道だ。第二退路は途中の第三点検路から地上保守口へ抜ける。ただし、未確認区画を通る。俺か成人坑道技師の判断なしでは使わない」


構造図には、入口から伸びる主要路と、横へ枝分かれした細い点検路が描かれていた。


保守対象外の脇道は、途中から線が薄くなっている。


「有線通信が切れた場合、信号綱を使う。両方が切れたら停止笛だ。聞こえないからと、勝手に探し回るな」


「はい」


僕は答えた。


ローディンの視線が、僕の左腕へ移る。


治療布の下には黒い紋章があり、その上から黒銀色の封魔具が二重に固定されている。


「アルト。第一覚醒、《暴食》、《部分換装》は使用しない。冷たい脈動、紋章の変化、空腹、知覚の異常、右脚の痺れは即時報告。俺の視界と声の範囲から出るな」


「分かりました。全部、守ります」


今回の参加許可は、以前の無断外出が許されたという意味ではない。


危険な力を期待されたからでもなかった。


観察し、報告し、命令に従う新人騎士として、成人監督下で参加を認められただけだ。


僕はその条件を、軽く扱うつもりはなかった。


ローディンが成人隊へ向き直る。


「目的は三名の救助だ。箱は記録だけ。奥へ続く痕跡があっても追わない」


全員の返答が重なった。


成人坑道技師と成人警備担当を先頭に、僕たちは坑道へ入った。


入口からしばらくは、等間隔に支柱が並んでいた。


壁には王国土木局の経路札が打たれ、天井沿いには物理的な有線通信線が通っている。


その下には、異常時に手で引くための信号綱も張られていた。


雪の反射光はすぐ背後へ消え、手提げ灯の明かりだけが濡れた石床を照らす。


先頭から、成人坑道技師、成人警備担当、ユノ先輩、セルフィナと続く。


中央にはセシリアと折り畳まれた搬送具、成人封印担当がいる。


ガルド先輩は大盾を持って、その横を歩いていた。


僕とフィアは後方寄りだ。


数歩前にローディンがいて、振り向けば僕たちを確認できる距離を保っている。


「右の支柱、補修札あり。日付も一致」


フィアが短く報告した。


「確認した」


ローディンが応じる。


僕は左腕を身体の近くへ置き、右手で記録札を扱った。


坑道の奥へ進むほど、足元の補修跡は少なくなる。


やがて、壁の経路札に古い横線が加わった。


保守対象外となった脇道の印だ。


その手前に、複数の木箱が積まれていた。


全員が成人坑道技師の合図で止まる。


「接近はここまで。封印担当だけ前へ」


成人封印担当が、箱へ触れない距離から外観を確認した。


別の成人側が、物理的な記録紙へ箱の位置を書き込んでいく。


木箱を縛る封紐には、学院侵攻後に押収された物資と同じ編み方が使われていた。


梱包番号の一部も、事前資料と一致している。


一番下の箱は底板の継ぎ目が僅かにずれ、その奥に星冠をかたどった印が見えていた。


「一致する。開封はしない」


成人封印担当が告げた。


箱の中身は分からない。


何を運び、何のために置いたのかも分からない。


ただ、星冠教団の物資である可能性が極めて高い。その事実だけが記録された。


僕は箱ではなく、その前の石床を見た。


運搬時に付いたらしい太い擦れが、箱の位置で終わらず、脇道の奥へ続いている。


その脇には、泥の薄い線も残っていた。


壁の低い位置には、王国土木局が使う古い経路印がある。


「ローディン、報告があります」


「言え」


「床の擦れが箱の先まで続いています。右の壁には点検区画を示す古い印があります。搬送具か測量用の台車が通れる幅だと思います」


ローディンは僕の示した場所を見た。


自分で確かめに行こうとはしない。


成人坑道技師を呼び、構造図と照合させた。


「旧図にある。第四点検区画だ。現在の図では閉鎖扱いだが、完全に埋まった記録はない」


ユノ先輩が前へ出た。


ただし、成人警備担当より先へは行かない。


石床へ膝をつき、泥の線と壁際を順に確認する。


「靴跡がある。箱を置いた跡とは別」


ユノ先輩の声から、普段の明るさが消えていた。


「こっちは新しい。布が壁に擦れた跡もある。少し血の匂いがするけど、人数と状態までは断定できない」


セルフィナが手提げ灯を持ち上げた。


淡い銀緑色の髪の先が、坑道から流れる空気に僅かに揺れる。


「脇道から、弱い空気の流れがあります。完全には塞がれていません」


セルフィナは一度、暗い先へ目を凝らした。


「先に人がいる可能性があります。ただし、目視できる範囲は曲がり角までです。その先は未確認です」


「安全確認後に進む」


ローディンが即座に決めた。


成人坑道技師が支柱と天井を確認する。


成人警備担当が足場と曲がり角の先を調べた。


誰か一人の感覚だけで進路を決めない。


僕たちは一つずつ確認を重ね、脇道へ入った。


壁の補修は古い。


それでも支柱の大半は立っていた。


泥の足跡は途中で乱れ、壁際へ寄っている。


誰かが別の誰かを支えながら歩いたように、片側だけ深かった。


「この先」


ユノ先輩が低く告げた。


成人警備担当が先へ進み、曲がり角の向こうを確認する。


やがて、点検扉を叩く音が坑道へ響いた。


「王国騎士団だ。中にいる者は応答しろ」


数呼吸のあと、扉の向こうから弱い声が返った。


「三人……いる。箱には、触れていない」


ローディンの表情は変わらなかった。


だが、指示はすぐに飛んだ。


「技師は扉と天井を確認。警備担当は内部の安全確保。セシリア、入れる状態になったら診察を」


点検扉は壊れていなかった。


支柱の歪みによって、下側が石床へ食い込んでいただけだ。


成人坑道技師と成人騎士が物理的な梃子を使い、必要な幅だけ開く。


中には三人の成人測量員がいた。


三人とも生きている。


その事実に、胸の奥で強く息を吐いた。


二人は壁へ身体を預けながらも、自分で立つことができた。


残る一人は床へ座り、傷めた脚を動かさないよう布で固定している。


セシリアがすぐに傍へ膝をついた。


「質問へ順番に答えてください。意識は保てていますか。吐き気、強い眠気、視界の異常は?」


返事を聞きながら、手首で脈を測る。


瞳の反応と呼吸を確認し、少量ずつ水を飲ませた。


脚の布を必要な範囲だけ外す。


「強く腫れています。ここでは歩かせません。固定を追加して搬送します」


セシリアはローディンへ顔を上げた。


「二名も冷えと軽い脱水があります。自力歩行は可能ですが、成人騎士の補助が必要です。医療上、即時撤退を勧告します」


「採用する」


ローディンは迷わなかった。


「物資確認は終了。三名を連れて戻る」


点検区画の奥には、さらに泥の跡が続いていた。


星冠教団の人間が進んだものか、古い保守作業の跡なのかは分からない。


誰も追おうとは言わなかった。


折り畳み式の搬送具が広げられた。


負傷した測量員の脚をセシリアが清潔な布と固定具で保護する。


成人騎士たちが身体を持ち上げ、搬送具へ載せた。


ガルド先輩が大盾の固定具を締め直す。


「俺は搬送具の横につく」


「盾を置いた方が運びやすくないですか」


歩行できる測量員の一人が、弱い声で尋ねた。


ガルド先輩は首を横へ振った。


「置かない。負傷者を先へ。俺は盾ごと下がる」


大盾をその場へ残し、自分だけが素早く動くつもりはないらしい。


盾も、守る相手も、退路も一緒に動かす。


「ここを守るんじゃない。帰る奴を守る」


低い声だった。


それ以上の説明はなかった。


帰路では、歩行可能な二人を成人騎士が支えた。


セルフィナとユノ先輩は前方の足場と帰路札を再確認する。


セシリアは搬送具の横から、負傷者の呼吸と意識を見続けていた。


ローディンは全体へ指示を出しながら、何度も僕とフィアを振り返る。


僕たちは搬送具の少し後ろで、経路札と床の障害物を確認した。


成人監督の範囲から離れてはいない。


星冠教団の箱が見える区画へ戻った時だった。


ユノ先輩の足が止まった。


「止まって」


声が鋭い。


成人隊全体が、その一言で動きを止める。


「油の匂いが増えた。金具も動いてる。数はまだ分からない」


ユノ先輩が振り向くより早く、セルフィナも天井を見上げた。


手提げ灯の光の中へ、細かな粉塵が落ちてくる。


「三方向で紐の張りが変化しました」


セルフィナの翡翠色の瞳が、壁沿いに伸びる細い制御紐を追う。


「空気の流れも同時に変わっています。連動している可能性があります。ただし、確認できたのはここまでです」


ローディンは二人へ詳細を問い返さなかった。


「全隊、即時撤退。救助対象を中央へ。箱には近づくな」


成人坑道技師が最寄りの支柱へ灯りを向けた。


古い木製支柱の上部に、坑道本来のものではない金属製の留め具が噛ませてある。


そこから赤黒い制御紐が、天井の奥へ伸びていた。


「支柱解放具だ。上の雪圧まで使っている。一本じゃない!」


言葉の途中で、坑道の奥から乾いた音が響いた。


硬い何かが外れる音。


続いて、別方向からも同じ音がした。


一か所ではない。


重い金属が滑り、制御紐が一斉に張っていく。


星冠教団は箱を隠すだけではなく、古い支柱そのものへ分断用の設備を組み込んでいた。


誰が、いつ、何を起動条件にしたのかは分からない。


ただ、設備はすでに動き始めている。


「前へ! 走れる者から安全扉を越えろ!」


ローディンの命令が坑道へ通った。


成人警備担当が、歩行できる測量員二人を支えて前へ進む。


ユノ先輩とセルフィナが帰路札を確認し、安全扉までの足場を報告する。


セシリアは搬送具の負傷者へ声を掛け続けた。


「揺れます。固定は外れていません。目を閉じず、私の声へ返事をしてください」


天井から小石が降り始める。


ガルド先輩が搬送具の外側へ大盾を傾けた。


大きな石ではない。


それでも一つが盾へぶつかるたび、重い音が響いた。


成人騎士が反対側から盾を支える。


ガルド先輩一人で崩落を止めているのではない。


大盾で落下物の向きを逸らし、その間に全員で搬送具を進めていた。


前方で安全扉が開く。


歩行可能な二名が先に越えた。


ユノ先輩とセルフィナも、成人警備担当の指示で安全側へ入る。


成人封印担当は箱を捨て、記録紙だけを抱えて退いた。


物資より、人の命が先だった。


「搬送具を通す!」


ガルド先輩の声が響いた。


その時、搬送具の後部が強く引かれた。


車輪が止まる。


赤い制御紐が床を横切り、後部固定具へ巻き付いていた。


設備の作動によって引き出された紐が、搬送具を捕らえたのだ。


奥ではすでに、別の金具が外れ続けている。


「止めるな!」


ローディンが搬送具の前側を掴んだ。


「後ろが絡んでいます!」


僕は右手で固定部を示した。


成人坑道技師が安全扉の向こうから灯りを向ける。


「赤い一本だけ切れ! 横の黒は支柱へ繋がっている!」


フィアは確認のため、もう一度だけ問う。


「赤い線だけ?」


「それだけだ!」


フィアが剣を抜いた。


雷も、魔法剣も使わない。


狭い搬送具と支柱、負傷者、複数の制御紐。


その全ての隙間にある、指定された赤い一本だけへ刃を滑らせた。


短い金属音がした。


赤い紐だけが切れる。


他の紐も、支柱も、搬送具も傷ついていない。


「外れた!」


僕は右膝をつき、右手で搬送具の後部留め具を外した。


左腕は身体へ寄せたまま動かさない。


フィアが搬送具の端を押し、僕も右手と肩で前へ力を加える。


一人で持ち上げようとはしない。


「渡します!」


ローディンとガルド先輩が安全側から搬送具を引いた。


車輪が安全扉の境を越える。


セシリアがすぐ負傷者の固定を確認した。


三人目も、成人隊側へ渡った。


全員、生きたまま向こうへ行った。


「アルト、フィア、即時後退!」


ローディンの命令が飛ぶ。


「はい!」


僕たちは同時に走り出した。


命令を無視して残ったわけではない。


けれど、最初の一歩を踏み出した瞬間、足元ではなく頭上から大きな破断音がした。


前方の支柱が外れる。


同時に、僕たちの背後でも岩盤が鳴った。


「前を見る!」


フィアの声で、僕は落下する支柱材を見た。


そのまま進めば下敷きになる。


僕たちは押し潰されないため、二歩だけ後退した。


次の瞬間、ローディンとの間へ岩と圧雪が落ちてきた。


白い塊が黒い坑道を埋める。


支柱材が斜めに倒れ、その上へさらに岩が重なった。


安全扉の向こうで、ローディンがこちらへ手を伸ばすのが見えた。


けれど、間にはすでに大量の雪が流れ込んでいる。


僕たちの背後でも崩落が起きた。


三つの異なる音が、ほとんど同時に坑道を揺らした。


「アルト、フィア! 無理に越えるな! 状態を――」


ローディンの声が、途中で途切れた。


天井沿いの有線通信線が引き千切られる。


信号綱も激しく跳ね、張力を失って床へ落ちた。


最後の岩が雪の上へ落ちる。


視界から安全扉が消えた。


音も消えた。


残ったのは、手提げ灯の小さな火と、雪が擦れる低い音だけだった。


「ローディン!」


僕は呼び掛けた。


返事はない。


停止笛を左手で取ろうとはせず、右手で装具帯から外す。


規定の合図を吹いた。


鋭い音が孤立した区画へ響き、雪と岩へ吸い込まれる。


フィアも耳を澄ませた。


長い数呼吸を待つ。


応答はなかった。


信号綱へ近づき、切れた端を確認する。


引いても、向こうからの張りは返らない。


「通信、途絶」


フィアが告げた。


「うん」


僕は雪壁へ近づきすぎない位置から、崩れ方を見た。


今すぐ手で掘れる量ではない。


支柱材と岩が雪の中へ混ざっている。無理に一つを抜けば、残った岩盤まで動く可能性があった。


その時、坑道の奥から冷たい風が吹いた。


灯りの火が細く傾く。


僕の吐いた息が白くなった。


崩落で上部の雪層が割れ、外気へ繋がる隙間ができたらしい。


雪に囲まれた坑道の温度が、目に見えない速さで下がっていく。


「アルト、状態」


フィアが僕を見た。


短い言葉だ。


けれど、何を答えるべきかは分かっていた。


「左腕の痛みなし。冷たい脈動もない。紋章の変化も感じない。空腹は普段どおり。味覚、嗅覚、視覚にも異常なし」


右脚へ意識を向ける。


「右脚は動く。今は痺れていない。ただ、長く歩けば出る可能性がある」


大丈夫、の一言では済ませなかった。


分かる範囲を、そのまま伝えた。


「フィアは?」


「右腕、動く。切断の反動も規定内。痛みの増加なし」


フィアも曖昧に答えなかった。


僕は治療布の上から封魔具を見た。


黒銀色の装具は沈黙したままだ。


二重固定も外れていない。


孤立したからといって、禁止が消えたわけではない。


第一覚醒も、《暴食》も、《部分換装》も使わない。


分からない力は、退路の代わりにはならない。


「位置札を残そう」


「ここは、崩落区画の内側」


フィアが周囲を確認する。


僕は物理的な位置札へ時刻と状態を書き、崩落地点から見える壁の隙間へ固定した。


成人側がこちらまで掘り進めた時、最初に見つけられる位置だ。


続いて構造図を広げる。


灯りが揺れ、線の影が紙の上を動いた。


「この場所に長くいるのは危険だ」


僕は雪壁の上を見た。


まだ細かな石と雪が落ち続けている。


「最寄りの点検窪みは、奥へ十二歩くらい。そこまでは主要路の内側だ。その先は行かない」


フィアが構造図と壁の経路印を見比べた。


「一致してる。点検窪みまで移動。そこで再確認」


未知の坑道奥へ踏み込む判断ではない。


崩落が続く場所から、構造図で確認できる一番近い安全位置へ移るだけだ。


僕たちは荷物を背負い直した。


防寒外套も、保存食も、飲料水も残っている。


手提げ灯も二つある。


だから安全というわけではない。


冷気は強くなり、石床の水分が薄く白み始めていた。


僕たちは互いの灯りが見える距離を保ち、十二歩だけ進んだ。


点検窪みは、主要路から壁一枚分だけ奥へ引っ込んだ場所にあった。


天井の支柱に大きな歪みはない。


それでも、ここから先の構造は完全には確認できない。


僕は荷物を下ろさず、まず入口側を振り返った。


雪崩の向こうには、ローディンがいる。


セルフィナも、ユノ先輩も、ガルド先輩も、セシリアもいるはずだ。


最後の搬送具が安全扉を越えたところは、この目で見た。


三人の測量員は全員、成人隊側へ渡せた。


その安堵は消えない。


けれど、それで僕とフィアの危険が小さくなるわけでもなかった。


「アルト」


フィアが僕の名を呼ぶ。


「何?」


フィアは暗い坑道の奥ではなく、僕を見た。


「一人で行かないで」


監督者の命令ではない。


僕を見張るための言葉でもない。


この場所から二人で帰るための、短い確認だった。


「うん。二人で戻る」


僕も短く答えた。


必ず助かると、根拠なく言い切ったわけではない。


それでも、一人で答えを探しに行くつもりはなかった。


雪崩の向こうへ大人たちの声が消え、冷え続ける死地には、フィアと僕の二人だけが残された。

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