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『属性適性なしの学院最下位、迷宮で見捨てられた僕は七罪の魔神と契約する ~最強英雄になった幼なじみに追いつくまで~  作者: ドキツトム


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第115話 別々の制服

「この場面を挿絵で見たい!」と思った箇所がありましたら、挿絵希望度を★1〜5で評価し、場面と一緒に感想欄で教えてください!


例:『〇〇と△△が対峙する場面/★★★★★』


皆さまの声を、今後の挿絵制作の参考にさせていただきます!



合同ドラフトから七日後、灰鬼の新人制服に袖を通した僕たちは、王国選抜局の合同訓練区画で七色の同期たちと再会した。


灰黒色の上着に、同色の脚衣。腰には装具を自由に組み替えられる黒い帯がある。


僕の左袖だけは途中から開閉できる仕立てで、治療布と黒銀色の封魔具を外さず確認できるようになっていた。


左腕の状態は今朝もローディンへ報告済みだ。


「出口は正面と東側。救護通路は西。集合場所は中央の白杭だ」


僕たちの後ろを歩くローディンが、到着早々に確認する。


空間魔法は使っていない。それでも、入口からここまでにある扉と曲がり角を、全部覚えているようだった。


フィアの停止笛は装具帯の左前にある。


生活指導で配置し直した位置だ。フィアは受付へ進む前に、右腕を動かさず笛へ触れられることを確かめていた。


セルフィナの制服は、長い耳や身体の動きを不必要に塞がない形に調整されている。


僕たちは同じ灰鬼の制服を着ている。


けれど、それだけで同じ班になったわけではない。所属班も指導担当も、これから個別に決まる予定だ。


「アルト!」


聞き慣れた明るい声が飛んできた。


振り向けば、黄褐色の装備に身を包んだティアナが、こちらへ大きく手を振っていた。


蜂蜜色の長髪は、盾へ挟まないよう普段より高い位置でまとめられている。肩と腰、膝、踵には焦げ茶色の補強具。背中には、身体の幅ほどもある訓練用の盾が固定されていた。


その隣にはメルトがいる。


装備の色と品質は同じだが、留め具の位置や盾を背負う高さは体格に合わせて違っていた。


「その灰色、ちゃんと似合ってるね。三人で並ぶと、本当に灰鬼って感じだよ」


「ティアナも土亀らしくなったね。装備、重くない?」


「重いよ。でも、持って歩けない盾じゃ、必要な場所まで守りに行けないからね」


ティアナは笑って、肩の留め具を軽く叩いた。


不満を隠している笑顔ではない。重さごと、自分が選んだものとして受け入れている顔だった。


メルトも背中の盾を少し持ち上げてみせる。


「搬送路で引っ掛けない背負い方を、昨日から確認している。まだ油断すると角が出る」


「私も最初、扉の枠にぶつけかけたよ」


「それは声を落とす内容ではない」


「ぶつけてはいないから大丈夫だよ」


以前と同じ会話だった。


制服が変わっても、二人の間に流れる空気まで別物になったわけではないらしい。


記録棟の前には、ほかの同期たちも集まっていた。


白と金の勤務服を乱れなく着たユリウス。


淡い水色と銀の装具を身につけたメルナとミナ。


淡い緑と白の軽装を着た風鷹の双子は、同じ色でも留め具の位置がそれぞれ違う。


青と白銀の制服を着た北部地方学院出身の新人も、後方区画の案内板を静かに確認していた。


七騎士団へ分かれたことは、候補札の記録だけではない。


制服と装具が、それぞれの進んだ先をはっきり示していた。


「炎獅子の新人が到着します」


成人事務職員の声に、入口へ目を向ける。


集合時刻を告げる鐘が鳴る、その少し前。


レグルスは遅れることなく現れた。


深紅と黒の新人制服は、支給されて数日とは思えなかった。


肩口には擦れた跡があり、裾には洗っても落としきれなかった土汚れが残っている。装具帯の一部には、すでに補修用の糸が走っていた。


髪も整えきれていない。


両手には新しく巻き直された保護布。歩幅は一定だが、片脚を前へ出すたび、腰から肩までが僅かに強張っている。


目の下には濃い疲労があった。


それでも背筋を伸ばし、受付前で足を止める。


「炎獅子騎士団新人、レグルス。集合時刻前に到着した。確認を頼む」


声にも疲れが滲んでいたが、言葉は明瞭だった。


フィアがレグルスを上から下まで見た。


「ひどい顔」


「率直だな、君は」


「顔だけじゃないよ。レグルス、それ、本当に参加していい状態なの?」


ティアナの心配は、装具の擦れではなく、その下の身体へ向いていた。


レグルスは無理に胸を張らなかった。


「疲労は大きい。肩と両脚も記録済みだ。だが、今日の基礎訓練には参加許可を受けている」


「痛みは?」


僕が尋ねると、レグルスは一度だけ肩を回そうとして、途中でやめた。


「全身にある。特に腰と肩だ。炎獅子の成人治療職員から、悪化した場合はその場で申告するよう命じられている」


強がって無傷を装ってはいない。


痛みを認めた上で、決められた範囲へ立とうとしている。


それが、数日前までのレグルスとは少し違って見えた。


「炎獅子では、何をしてるの?」


ティアナが尋ねる。


「前線判断だ」


レグルスは短く答え、それから訓練区画に並ぶ三色の札を見た。


「炎獅子では、前へ出るだけでは足りない。誰を先に通し、どこで止まり、いつ退くかまで、一瞬で決める。僕はまだ判断が遅い。だから、次は一つ早くする」


疲れ果てた顔で、それでも緑の瞳は真っ直ぐだった。


レグルスは炎獅子で、自分が知らなかったものを学び始めている。


その厳しさを、選択の誤りとは考えていないようだった。


「新人騎士は、所属別の列へ並んでください。確認は一名ずつ行います」


成人事務職員の指示で、僕たちは記録棟へ入った。


机の上には、七騎士団それぞれの書式で作られた記録が並んでいる。


確認されるのは団員証、所属、指揮階級の有無、身体上の制限、監督者登録、緊急時の命令系統。さらに装具の貸与記録と、負傷や撤退時の報告先だ。


僕の順番になると、成人事務職員は赤縁資料そのものを開かなかった。


権限を持つ職員だけが扱う封印記録とは別に、今日の活動へ必要な条件だけを記した紙が用意されている。


「灰鬼騎士団新人、アルト。指揮階級なし。単独行動禁止。主監督騎士はローディン・クロウ。左腕への重量負荷を禁止。疲労時の右脚の痺れに注意。異常時は即時停止の後、成人治療職員と成人封印担当へ引き渡す」


「間違いありません」


「監督騎士、確認を」


「確認した」


後方に立つローディンが署名する。


僕の左腕にあるものが、同期たちの前で読み上げられることはなかった。


フィアとセルフィナの名前も、僕の監督条件には書かれていない。


二人は僕と同じ新人であって、僕を見張るための装具ではないからだ。


セルフィナの確認では、王国側とエルフ側の共同承認番号が照合された。


共有されるのは今日の活動に必要な身体条件と緊急手順だけ。精霊に関する記録や、エルフ側で管理される情報は開示されない。


セルフィナは一つずつ内容を聞き、署名欄へ目を通してから頷いた。


「共同承認の範囲内です。異議はありません」


レグルスの確認には、ほかの新人より少し時間がかかった。


肩、腰、両脚の疲労記録。


禁止されている動作。


途中で成人治療職員の再確認を受ける時刻。


レグルスはどれも省略させず聞き、自分でも参加条件を復唱した。


制服の傷みだけを見れば、炎獅子は新人を考えなしに鍛えているように見えるかもしれない。


けれど、記録には負荷も休止条件も細かく残されていた。


全員の照合が終わると、僕たちは隣接する屋外区画へ移動した。


木製の遮蔽板。


成人一人ほどの重さがある訓練用人形。


赤い停止旗と、白い経路札。


進行、停止、後退の三種類の札。


今日は魔法も武器も使わない。


七騎士団が共同で動く時、同じ合図で止まり、同じ手順で負傷者を運び、同じ形式で報告するための訓練だ。


「強さを測る訓練ではありません」


中央に立った成人指導騎士が告げる。


「自分の所属だけで通じる合図を、他団へ押しつけないこと。命令を受けた者は復唱すること。経路札を運んだ者は、受領確認まで取ること。負傷者を運ぶ者は、退路を塞がないこと。判断役は、前方だけでなく後方を確認すること」


役割が割り振られていく。


ユリウスは命令の受領と復唱。


風鷹の双子は別々の経路札を受け取り、それぞれ反対側の区画へ向かった。


北部地方学院出身の雷虎新人は、後方区画の閉鎖と再開を知らせる旗を担当する。


メルナとミナは搬送具と負傷者札の確認だ。


「治療物資、用途別に三箱。搬送布は二枚。予備の水は西側へ置きます」


ミナは物資を並べながら、救護通路へ箱の角が出ていないか確かめていた。


ドラフトの時にレイシア団長が見ていたものは、きっとこういうところなのだろう。


戦いが始まっても、救う仕事を止めない。


淡い水色の制服を着たミナは、その役割を誇るように胸を張っていた。


ティアナとメルトは、訓練用の盾と遮蔽板を担当する。


指導位置へ立ったのはゴウセル団長だった。


土亀騎士団の新人二人を前にしても、その表情は変わらない。


「第一退路から搬送人形を三体通す。盾列は正面からの圧力を想定し、救護通路を確保。交代は二十数えた時点だ」


「はい、ゴウセル団長」


ティアナは父親ではなく、騎士団長へ向ける声で答えた。


最初の試行が始まる。


ティアナは幅広い盾を正面へ立て、腰を落とした。重さに負けず、足元も崩れない。


メルトも隣で遮蔽板を支え、二人の間へ搬送人形を通せる幅を残している。


正面だけを見れば、しっかりした防衛線だった。


だが、左側の第二退路を示す札が上がった時、ティアナの向き直りが遅れた。


盾は安定している。


その分、正面へ意識を置きすぎていた。


「停止」


ゴウセル団長の声が落ちる。


ティアナとメルトは即座に盾を止めた。


「ティアナ。背後の人数は」


「搬送役二名、負傷者三名です」


「第二退路の状態は」


ティアナが左を見る。


札はすでに閉鎖を示す向きへ変わっていた。


「……確認が遅れました」


「自分が立っているだけでは防衛にならん。背後の人数、退路、交代まで守れ。やり直しだ」


「はい。もう一度お願いします、ゴウセル団長」


ティアナは言い訳をしなかった。


メルトと留め具の位置を確かめ、盾の角度を僅かに変える。今度は正面だけでなく、互いに左右の退路を確認できる配置だった。


二度目の試行。


「背後、搬送役二名、負傷者三名!」


ティアナが声を出す。


「第一退路、使用可能。第二退路、閉鎖まで十!」


メルトが応じた。


「交代まで五! 搬送人形、最後の一体が通るよ!」


盾を保ったまま、ティアナは左側へ身体を向け直す。


搬送路を塞がず、最後の人形が安全区画へ入った時点で、二人は順序どおり後退した。


ゴウセル団長は記録板を確認する。


それからティアナとメルトへ、同じ一度の頷きを向けた。


ティアナの口元が少しだけ緩む。


大げさな言葉はなくても、基準を満たしたことは伝わっていた。


僕は軽い経路札と記録を担当した。


重い人形には触れない。右手で札を運び、閉鎖区画と利用可能な通路を見比べる。


フィアは停止旗と退路札を確認していた。


左側の停止笛へ手を伸ばし、右腕を使わず取れる位置にあることも確かめている。


セルフィナは後方から届いた報告を、確認済みと未確認に分けた。


「東側の閉鎖は確認済みです。北側にも障害がある可能性はありますが、そちらはまだ推測です」


全てを知っているようには話さない。


分からないことを、分かったふりで埋めない。


その報告を受け、ユリウスが内容を正確に復唱して次の区画へ渡した。


最後に、レグルスが前線判断役へ立つ。


片手には進行札。


もう片方の台には、停止札と後退札がある。


成人指導騎士が開始旗を上げた。


風鷹の双子が経路札を運ぶ。


ティアナとメルトが盾列を作る。


メルナとミナが最初の搬送人形を動かした。


前方区画の道が開き、レグルスの手が進行札へ伸びる。


だが、二体目の搬送人形はまだ盾列の内側にいる。


ミナも治療物資の箱を救護通路から外している途中だった。


レグルスは歯を食いしばり、伸ばした手を止めた。


進行札ではなく、停止札を取る。


「停止! 搬送完了まで前線を維持する!」


全員が止まった。


一拍遅れていた。


もし実際の前線なら、その一拍で位置が変わる者もいる。


成人指導騎士は記録板へ印をつけた。


「判断は正しい。ただし遅い。進行札へ触れる前に、後方を見ろ」


「了解した。次は先に確認する」


レグルスは疲労を理由にしなかった。


給水と身体確認を挟み、二度目が始まる。


今度のレグルスは、前方の開通より先に搬送人形の数を見た。


ティアナたちの盾列。


ミナが空けた救護通路。


北部地方学院出身の新人が持つ、後方閉鎖の旗。


最後の一体が安全区画へ入る。


直後、後方の旗が閉鎖予告へ変わった。


「後退!」


レグルスが札を上げる。


「前方班から順に下がれ! 搬送路を横切るな!」


ユリウスが復唱し、風鷹の双子が別々の区画へ伝える。


ティアナとメルトが盾を保ったまま最後に下がる。


僕は経路札を回収し、ローディンが立つ監督範囲へ戻った。


全員が安全区画へ入った時、成人指導騎士の終了旗が上がった。


レグルスは大きく息を吐く。


顔色はさらに悪くなっていたが、倒れはしない。


成人治療職員の確認にも、肩と腰の痛みを正確に答えていた。


訓練終了後、僕たちは給水所の周りへ集まった。


レグルスは長椅子へ腰を下ろすだけで、普段の倍ほど時間がかかった。


背中を預けると、深紅の制服が重力に負けたように沈む。


「本当に、すごい疲れ方だね」


ティアナが水筒を持ったまま眉を下げる。


「ああ。厳しい」


レグルスは即答した。


「だが、僕が知らなかった前線を教わっている。次は判断を一つ早くする」


「その前に、今日の記録を治療担当へ出して」


フィアが言う。


「当然だ。隠せば、明日の訓練許可が出ない」


弱音を吐かないことと、痛みを隠すことは違う。


レグルスは、その違いも炎獅子で学んでいるらしい。


「私も最初は止められたけどね」


ティアナが自分の盾を見た。


「正面を守ればいいと思ってた。でも、後ろが出られなかったら守ったことにならないんだよね」


「二度目は基準を満たしていました」


セルフィナが告げる。


「うん。次は一度目からやるよ」


少し離れた場所では、ミナが水蝶の搬送布を畳み直している。


メルナが端を揃え、ユリウスは記録用紙の提出先を確認していた。


双子はそれぞれ別の経路札を返却し、北部地方学院出身の新人も後方旗の本数を数えている。


淡い水色の制服を見て、僕はレイシアとの約束を思い出した。


僕たちは同じ王都にいる。


所属する騎士団が違っても、二度と会えなくなるわけではない。


あの日は泣いているレイシアへ伝えるための言葉だった。


けれど今、七色の制服が同じ訓練区画へ集まっている。


その光景が、約束は慰めだけではなかったと教えてくれた。


「次回の合同基礎訓練は、十二日後です」


成人事務職員が、新しい日程表を掲示する。


所属本部へ戻る門は別々だ。


受ける訓練も、担う役割も違う。


それでも、またここで会える日が、もう記録の上に存在している。


セルフィナが日程表を見上げた。


「制服は所属を分けていますが、共通手順は私たちを繋ぐためにあるようです」


「次はもっと早く盾を動かすから、見ててね」


ティアナが言う。


「僕は、今日より先に後方を見る」


レグルスも疲れた身体を起こした。


フィアは何も約束しなかった。


ただ、左手で停止笛の位置を確かめ、次の日程を覚えるように目を細めた。


僕たちはそれぞれの団員証を受け取り、それぞれの帰路へ向かう。


制服の色は七つに分かれていても、僕たちの道まで王都の中で途切れたわけではなかった。

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