第108話 第八階位
「この場面を挿絵で見たい!」と思った箇所がありましたら、挿絵希望度を★1〜5で評価し、場面と一緒に感想欄で教えてください!
例:『〇〇と△△が対峙する場面/★★★★★』
皆さまの声を、今後の挿絵制作の参考にさせていただきます!
高階位使用を求める二人へ、成人選抜官が返したのは許可ではなく、観覧席全体への追加退避命令だった。
「一般観覧席を閉鎖! 全観覧客を外周の石造退避廊へ誘導してください! 貴族席、関係者席も例外ではありません!」
成人警備員たちが一斉に動く。
一般観覧客だけでなく、貴族、地方警備隊の代表、王国の成人職員も席を立たされた。
抗議の声は上がらない。
中階位相当の攻防だけでも、大演武場の床には無数の傷が残っている。
これから許可を審査されるのは、第八階位。
戦場一つの形を変え得る魔法だ。
レイシア団長とガイ団長は専用封戦場の中央で武器を下ろし、命令に従って待っていた。
レイシア団長の頬には浅い裂傷がある。
淡い銀青の髪も一部が乱れ、聖剣を握る指先からは血が滲んでいた。
ガイ団長も無傷ではない。
団長外套は肩口から裂け、大剣を支える腕には細かな傷が走っている。
二人とも呼吸が深い。
それでも、戦意は少しも失われていなかった。
「候補者および暫定配属者は、第三防護区画へ移動してください!」
成人警備員に促され、僕たちも第二防護区画から立ち上がる。
左腕の封魔具に触れないよう、僕は右手で赤縁の候補札を押さえた。
「アルト」
フィアが短く呼んだ。
「うん。行こう」
僕たちはミナとセルフィナを伴い、指定された通路へ移動する。
別の通路からは、ティアナとメルト、レグルス、ユリウス、メルナ、双子、北部地方学院の候補者が進んでいた。
負傷の治療を続けていた候補者たちは、成人治療職員に付き添われ、先に後方へ運ばれている。
第三防護区画は、厚い石壁と何層もの防護板に囲まれていた。
正面には透明な板が三枚重ねられ、その向こうに専用封戦場が見える。
成人警備員が候補札の数と入場人数を照合する。
「第三防護区画、候補者数一致!」
「西側退避廊、一般観覧客の移動完了!」
「北側退避廊、貴族および関係者の人数一致!」
最後の一人が石造退避廊へ入ったことを確認してから、重い隔壁が閉じられた。
成人治療職員たちは救護所そのものを大演武場の後方へ移していた。
担架が並べ直される。
治療物資の封が確認され、専用封戦場から救護所までの搬送路には何も置かれていない。
成人封印官と結界担当の成人職員は、床、外周、上空、退避口の順で既設設備を検査していた。
一つでも異常を見つければ、許可を出さないつもりだ。
「五人の騎士団長へ要請します」
成人選抜官が告げた。
「中立立会人として、防護設備の維持へ参加してください」
ゴウセル団長は専用封戦場の南側へ立ち、床面と地下へ繋がる設備を確認した。
イグナシオ団長は外周を歩き、負荷表示と緊急退避路を一つずつ見ていく。
ギルバート団長は成人職員の配置を組み替え、負荷が一箇所へ集中しないよう供給箇所を分けた。
シルフィ団長は上空側を担当する。
ガイ団長へ声援を送ることもなく、僅かな歪みも見落とさない鋭い目で設備を追っていた。
アーサー団長は北側へ立った。
聖剣エクスカリバーは鞘に収めたまま。
そこからなら、専用封戦場全体と四方の防護設備を同時に見渡せる。
五人の団長が既設設備へ魔力を流し始めた。
新たな魔法ではない。
専用封戦場を支えるための供給だ。
「すごい人数だね……」
ティアナが透明な防護板の向こうを見つめる。
「お父さんたちまで防護に入るなんて」
「第八階位を二つ、同じ場所で衝突させるんだ」
レグルスが静かに答えた。
「受け止めるだけでは足りない。使う二人にも、外へ漏らさない制御が求められる」
成人封印官から報告書を受け取った成人選抜官が、二人の団長へ向き直った。
「第八階位使用の条件を告げます」
大演武場が静まり返る。
「許可階位は第八階位まで。使用回数は両者一度。事前登録された一種類に限ります。完全詠唱の省略は禁止。詠唱中の攻撃も禁止します」
レイシア団長とガイ団長は黙って聞いている。
「発動方向は専用封戦場中央へ限定。外部流出を確認した場合、即時停止します。今回の許可に第九階位は含まれません。使用を求める場合、別途審査を行います」
「受諾します」
レイシア団長が答えた。
「分かった」
ガイ団長も大剣を肩へ担がず、切っ先を床へ向けたまま頷く。
成人治療職員が規定距離まで近づき、二人の瞳、呼吸、手足の震えを確認した。
「両名とも継続可能。ただし、既に筋疲労と魔力消費があります。第八階位使用後は、状態確認まで行動を停止してください」
成人封印官は二枚の登録票を開く。
「レイシア団長。登録術式は第八階位・水魔法《蒼海環界・一滴天穿》。媒体は聖剣。効果範囲は専用封戦場内」
「相違ありません」
「ガイ団長。登録術式は第八階位・無属性魔法《万有重環・一点墜界》。媒体は身体、足元、大剣。発動軸は専用封戦場中央」
「相違ねえ」
全ての退避口から確認札が上がる。
外周、床面、上空の設備も正常。
成人選抜官は最後に五人の団長を見た。
ゴウセル団長が頷く。
続いてイグナシオ団長、ギルバート団長、シルフィ団長。
アーサー団長も静かに首肯した。
「安全確認完了」
成人選抜官が二本の許可旗を上げる。
「両名、第八階位の完全詠唱を許可します。開始!」
レイシア団長とガイ団長が、同時に息を吸った。
先に響いたのは、澄んだレイシア団長の声だった。
「蒼きものよ、天を映し、地を抱き、境の内へ海をひらけ。満ちよ、満ちよ、一滴も外へこぼさず満ちよ。」
レイシアの長い詠唱を、僕は初めて聞いた。
第七階位まで無詠唱で扱う彼女にとっても、その言葉は省けない。
足元へ水色の魔法陣が広がる。
最初の「満ちよ」で、円の内側へ無数の細い線が生まれた。
二度目の「満ちよ」で、その隙間が水面を思わせる青い光に満たされていく。
まだ現実の水ではない。
けれど、専用封戦場を覆う海の設計が、詠唱によって形を得ていた。
続いて、ガイ団長の低い声が響く。
「形なき秤よ、天を一皿に、地を一皿に載せ、我が立つ軸へ万の重みを問え。重なれ、重なれ、外より内へ重なれ。」
灰色の光が、ガイ団長の足元へ円を描いた。
一度目の「重なれ」で、専用封戦場の外側に大きな環が刻まれる。
二度目で、その内側へ一回り小さな環が加わった。
環は互いに触れず、外から内へ力を渡す位置で止まる。
ガイ団長の額から、早くも汗が流れていた。
魔法はまだ発動していない。
それでも第八階位の構造を組み上げるだけで、二人の魔力は目に見えるほど削られている。
レイシア団長が聖剣を胸元へ構えた。
「巡れ、巡れ、一筋も内で滞らず巡れ。散る一滴は海へ帰れ、満つる海は一滴へ帰れ。」
水色の線が円を描いて走り出す。
最初の「巡れ」で、外周から中央へ。
次の「巡れ」で、中央から外周へ。
逆向きの流れが衝突せず、何重もの循環路として噛み合った。
散る力を外へ逃がさず、再び広域の水面へ戻す術式だ。
ガイ団長の大剣を囲む光も濃くなる。
「集え、集え、遠きものは近く、近きものは逃れず集え。軽きものを走らせ、重きものを墜とし、走る刃には軽さを、触れる刹那には山の圧を。」
一度目の「集え」で、外側の環から内側へ線が伸びた。
二度目で、大剣へ向かう経路が繋がる。
振る間は軽く。
触れる瞬間だけ重く。
相反する二つの状態を、一振りの中へ組み込む術式だった。
「広きものは狭きものへ、狭きものは鋭きものへ。寄せては退き、退いては寄せ、波は渦へ、渦は蒼き一点へ応えよ。」
レイシア団長の周囲で、水色の線が複数の渦へ変わる。
広域を覆う水面。
狭い渦。
さらに鋭い一点。
詠唱の対句が、魔法の形を一段ずつ変えていく。
「上なる力は下へ応え、外なる力は内へ応え、第一の環は我が足を支え、第二の環は我が刃を導き、第三の環は万象の重みを一点へ結べ。」
ガイ団長の足元で最初の環が閉じた。
大剣の周囲で二つ目が閉じる。
最後の環は、刃の中央へ収束した。
足。
刃。
一点へ落ちる圧力。
三つの役割が別々に完成し、それでもガイ団長の身体を一つの軸として繋がっている。
大剣を握る手が震えた。
ガイ団長は指へ力を込め、詠唱を止めない。
レイシア団長の声も、僅かに苦しさを帯び始めていた。
「第一の呼びかけに水面は伏し、第二の呼びかけに深みは立ち、第三の呼びかけに天穿つ一滴は我が剣先へ結べ。」
一つ目の呼びかけで、水面の術式が床へ沿う。
二つ目で、平面だった魔法陣に深さが生まれた。
三つ目で、全ての流れが聖剣の切っ先へ応じる。
まだ一滴にはならない。
広域制御から一点圧縮へ移るための道だけが、ここで繋がった。
「落ちよ、落ちよ、されど定めた軸を違えるな。集え、集え、されど名なきものを巻き込むな。」
ガイ団長の環が僅かに沈む。
それでも第三防護区画には、圧力も引力も届かない。
対象から外された僕たちだけでなく、成人職員や五人の団長、退避廊にいる観覧客も巻き込まれていなかった。
反復の一つ目が力を集める。
二つ目が範囲を縛る。
強くするためだけの言葉ではない。
壊してはならないものを、術式そのものへ刻む詠唱だった。
レイシア団長が最後の循環路を閉じる。
「海は一滴、一滴は海――満ちよ、巡れ、収まりて貫け。第八階位・水魔法《蒼海環界・一滴天穿》」
水色の魔法陣が完成した。
その向かいで、ガイ団長も大剣を両手で構える。
「万は一へ、一は刃へ――重なり、集い、墜ちて定めた場を留めよ。第八階位・無属性魔法《万有重環・一点墜界》」
無色に近い三重の環が完成する。
成人封印官が二つの登録術式を確認した。
「術式一致。範囲固定を確認!」
成人選抜官が許可旗を中央へ振る。
「発動を許可します!」
専用封戦場が海へ変わった。
そう錯覚するほど薄い水が、床から空気中まで一瞬で広がる。
水量は多くない。
人の足首を沈める深ささえない。
それでも一枚の巨大な水面となり、床の亀裂、空気の震え、残った魔力、ガイ団長が動かす大剣の角度まで波紋へ変えた。
同時に、ガイ団長を中心として三重の環が回転する。
外側の環が水を引いた。
広がった水面が中央へ崩れ、ガイ団長の足元へ吸い寄せられていく。
「水が……!」
僕が声を漏らす。
「消してない」
フィアが防護板の向こうを見たまま言った。
「引かれた水を使ってる」
レイシア団長は引力へ逆らわなかった。
引かれた水を外周から中央へ向かう流れへ変える。
中央へ届いた水は足元を回り込み、別の循環路から外へ戻っていった。
引力が強まるほど、水の巡る速度も上がる。
「水が、重力の向きを示しています」
セルフィナの翡翠色の瞳が、幾重もの流れを追う。
「ただし、全てを読めているわけではありません。ガイ団長が軸を動かしています」
ガイ団長が左足を半歩ずらした。
それだけで外側の環の中心が移る。
水の渦が斜めに引き伸ばされ、レイシア団長の剣先へ集まりかけた流れが崩れた。
レイシア団長は聖剣を返す。
流れを無理に戻さず、重力環と重力環の間へ通した。
ガイ団長が環を重ね直す。
レイシア団長は、その重なりによって生まれた狭い隙間へ次の水流を滑り込ませる。
水が重力を利用し、重力が水の狙いを変える。
どちらも、相手の魔法を消してはいない。
「威力のぶつけ合いではないな」
レグルスが息を詰める。
「制御へ使っている魔力の方が多い。少しでも外へ漏らせば、その瞬間に査定戦が止まる」
床が低く鳴った。
ティアナが足元を見る。
「下へ来る。お父さんが支えてるけど、これ以上一点に集まったら……」
専用封戦場の南側で、ゴウセル団長が供給量を増やす。
ギルバート団長が成人職員へ短く指示し、床から上空へ負荷を分けた。
イグナシオ団長は外周設備の表示を確認し、退避路の封鎖状態を再確認する。
シルフィ団長が上空の設備へ魔力を送り、歪みを内側へ押し戻す。
アーサー団長も北側から供給を続けていた。
五人とも勝敗には手を出さない。
ただ、二つの第八階位が外へ出ないように戦場を支えている。
レイシア団長が聖剣を前へ向けた。
広域を覆っていた水面が、外側から消えていく。
消滅したのではない。
複数の渦へ集まり、渦から細い流れへ、流れから剣先へ。
広域の制御を手放す代わりに、一点の圧力を高めている。
聖剣の切っ先に、青い一滴が浮かんだ。
僅かな水滴なのに、防護板越しでも空気が震える。
同時に、ガイ団長が大剣を引いた。
外側の環が内側へ重なる。
中間の環が力の向きを揃え、最も小さな環が刃へ沈む。
大剣が軽く振り出された。
その速さは、中階位相当までの攻防を超えていた。
触れる直前、刃の周囲に集まった重みが一斉に落ちる。
レイシア団長の聖剣から、一滴が放たれた。
青い線が、外側の重力環を貫く。
一つ。
二つ。
けれど、内側の環が水滴を左右から押し広げた。
一点だった高圧水が細い扇状に裂ける。
それでも水は消えず、裂けた流れが大剣の両側から再び中央へ回り込む。
ガイ団長が大剣の角度を変えた。
全てを正面から受けず、物理圧力を床へ落とす。
レイシア団長も聖剣を振り上げ、逃げ場を失った水と衝撃を上空へ導いた。
青と無色の圧力が、中央で噛み合った。
音が消える。
一瞬遅れて、専用封戦場が大きく沈んだ。
上空の防護設備が白く明滅する。
床には円形の亀裂が走り、中央が僅かに窪んだ。
第三防護区画の三枚の板が同時に震える。
それでも割れない。
衝撃の半分は上空へ。
残りは床へ。
レイシア団長とガイ団長、五人の団長、成人職員、防護設備。
全ての制御が重なり、破壊的な力を専用封戦場の内側へ留めていた。
水の流れが途切れる。
重力環も薄れ、最後には光の線だけを残して消えた。
「停止!」
成人選抜官の命令が響く。
レイシア団長とガイ団長は即座に距離を取った。
レイシア団長の顔は白い。
唇の端から細い血が流れ、聖剣を握る腕が震えている。
息を吸うたび、肩が大きく上下した。
ガイ団長の両手からも血が落ちていた。
大剣へ集中させた圧力の反動で、掌の皮膚が裂けている。
右膝が一度沈み、腰と肩を押さえ込むように大剣を床へ立てた。
それでも二人とも倒れない。
成人治療職員が規定位置まで進み、状態を確認する。
「両名、大幅な魔力低下。レイシア団長は右腕と魔力経路へ強い負荷。ガイ団長は両手、膝、腰、肩へ反動があります」
成人封印官も床の亀裂と外周設備を調べた。
「外部流出なし。ただし、防護設備の余力は当初の三割未満です」
五人の団長にも、設備維持による消耗が残っていた。
シルフィ団長は額の汗を拭い、ガイ団長を睨む。
ギルバート団長も浅く息を吐いた。
ゴウセル団長は床の亀裂から目を離さず、イグナシオ団長は退避路が維持されていることを確認する。
アーサー団長だけは静かな表情のまま、専用封戦場を見ていた。
「判定を告げます」
成人選抜官が記録票を確認する。
「双方の術式はほぼ同時に有効範囲へ到達。外部流出なし。優先判定不能。勝敗は成立しません」
第八階位でも、決まらなかった。
僕は安堵するべきなのか、恐れるべきなのか分からなかった。
二人とも立っている。
けれど、もう十分に傷ついている。
これ以上を続ければ、査定戦の規則で禁じた傷へ届きかねない。
「第九階位の使用許可を求めます」
レイシア団長が乱れた呼吸のまま告げた。
「第九階位、申請する」
ガイ団長も大剣を支えにせず、両手で持ち上げ直す。
第三防護区画がざわめいた。
第九階位。
人間が通常の研鑽で到達を確認できた、最高の魔法階位。
扱える者は、全人類の〇・一パーセントにも満たない。
「駄目です」
成人治療職員が即座に言った。
「現在の身体状態で、第九階位の発動は推奨できません」
「第九階位の使用は許可していません」
成人選抜官も厳しく告げる。
「完全詠唱はもちろん、最初の詠唱節へ入ることも禁止します」
レイシア団長もガイ団長も反論しない。
ただ、申請を撤回もしなかった。
成人選抜官は成人治療職員、成人封印官、結界担当の成人職員と短く協議した。
五人の団長からも、防護設備の状態が報告される。
やがて成人選抜官が二人へ向き直った。
「発動許可ではありません。申請術式の危険性を審査するため、準備魔法陣の構築のみ許可します」
二人の視線が上がる。
「許可範囲は、基礎魔法陣の構築、媒体の配置、対象範囲の仮指定、魔力経路の接続前確認まで。完全詠唱、最初の詠唱節、魔力経路の本接続、現象発生は全て禁止です」
「承知しました」
「分かった」
二人は再び専用封戦場の左右へ分かれた。
レイシア団長が聖剣の切っ先を床へ向ける。
言葉は発しない。
足元から、水色の線が伸び始めた。
その隣を、淡い緑金色の線が走る。
二色の線は地面を這う根のように分かれ、やがて中央で一本の幹を思わせる形へ重なった。
そこから、無数の枝が上空へ向かって広がる。
現実の樹木ではない。
葉も、花も、生命も生まれていない。
専用封戦場の内側だけに描かれた、巨大な樹形の基礎魔法陣だ。
「世界樹……?」
誰かが息を呑んだ。
その瞬間だった。
北側で防護設備を支えていたアーサー団長の右手。
その人差し指が、ぴくりと一度だけ動いた。
長く束ねた金髪も、王のような立ち姿も変わらない。
けれど、澄んだ青い瞳だけが、はっきりとレイシア団長へ向けられていた。
「今の……」
セルフィナが小さく呟く。
僕も見えた。
けれど、何に反応したのかは分からない。
アーサー団長は何も言わず、すぐに防護設備へ視線を戻した。
反対側では、ガイ団長が大剣を床へ立てていた。
足元へ無色の環が一つ。
その外側に二つ目。
さらに上空と床、大剣と身体を結ぶ位置へ、幾重もの仮の環が配置されていく。
まだ重力は生じていない。
床の小石一つ動かない。
候補者も成人職員も引かれていない。
魔力経路も繋がっていない。
それでも、第八階位を超える構造だということだけは、僕にも分かった。
レイシア団長の腕は震えている。
ガイ団長の掌からも血が止まっていない。
それでも二人は、完成前の基礎魔法陣を挟んで向き合った。
成人選抜官は詠唱開始を許可していない。
二人も、その命令を破らない。
ただ、次の一言を待つように構えた。
世界樹の枝と重力の環が専用封戦場を二分し、二人は第九階位の最初の一節を紡ぐため、同時に息を吸った。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
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