すみれの抜け駆け……
1月某日、土曜日の午後。
悠真は、バイト終わりに少しだけ寄り道するつもりだった。
ただの「少しだけ」のはずだったのに——
気づいたら、すみれと二人きりで街を歩いていた。
きっかけは些細なもの。
バイト先でシフトが被ったすみれが、
「悠真くん、今日終わったら……ちょっとだけ、一緒にカフェ行かない?他のみんなには、内緒で……♡」
と、いつもの甘い声で上目遣い。
断るタイミングを逃した悠真は、
「え、ちょっとだけなら……」と、うっかり頷いてしまった。
それが間違いだった。
カフェでケーキをシェアし、
「悠真くん、ここのクリーム、すみれの唇に付いちゃった……拭いて?♡」
と甘えられ、そのまま「もう少しだけ……映画見に行こ?」と誘われ、気づけば夕方近くまで二人でデートコースを回っていた。
映画館の暗闇ですみれが悠真の袖をぎゅっと掴み、
「怖いシーン……悠真くん、守ってね……♡」
と寄り添ってくる。
帰り道、すみれが「今日は……すみれだけの悠真くんだったね」と、頰を赤らめて微笑む。
悠真は罪悪感と、妙な幸福感の狭間で、
「……他のみんなにバレたら、殺されるかも」と呟いた。
そして、家に帰った瞬間——
玄関を開けたら、瑶季、理央、海月がリビングに仁王立ちしていた。
瑶季(腕組み、目が笑ってない)
「……おかえり、悠真くん。今日は『バイトが長引いた』ってLINE来たよね?
でも、なんか……甘い匂いがするんだけど?」
理央(スマホを片手に、にこにこ)
「ふふ〜、私、悠真くんの位置情報共有してるの忘れてた?
カフェ→映画館→公園のベンチ……すみれちゃんのインスタストーリーにも、悠真くんの後ろ姿写ってたよ?」
海月(穏やかな笑顔で、でも声が低い)
「悠真くん。抜け駆けデート、楽しかった?私たちに内緒で……そんなに大胆になれるようになったのね」
悠真「待って待って待って!!これは……その、すみれが……ちょっとだけって……!」
そこへ、遅れて帰宅したすみれが玄関からひょっこり顔を出して、
「ただいま〜……あれ? みんな、来てたんだ♡えへへ……バレちゃった?」
瑶季「バレちゃったじゃないよ!!あんた、完全に抜け駆けじゃん!!悠真くんを独占した罪は重いぞ!!」
理央「私たちの中で一番甘え上手なのに……それを利用して先越すなんて、卑怯♡」
海月「ふふ……でも、すみれちゃんの作戦、なかなかやるわね。私も見習おうかしら」
すみれ(頰を赤くして、でもどこか得意げ)
「えへへ……だって、悠真くんが『ちょっとだけなら』って言ってくれたんだもん……
すみれ、嬉しくて……止まらなくなっちゃった♡」
悠真「俺が悪い!! 全部俺のせい!!みんな、怒らないでくれ……!」
四人が一斉に悠真に詰め寄る。
瑶季「来週は私と二人きりデート!」
理央「私はその次の週! 絶対に!」
海月「ふふ……私は平日夜の研究室で、特別に甘やかしてあげるわ」
すみれ「え〜、すみれもまだ足りないよ……また抜け駆けしちゃおうかな♡」
悠真「……俺、もう逃げ場ないじゃん……」
リビングは一瞬で大騒ぎに。
でも、誰も本気で怒ってるわけじゃない。
むしろ、みんなの目がどこか楽しげで、「次は私!」というライバル心が燃え上がっているだけだった。
結局、その夜も五人で鍋を囲み、すみれの抜け駆けデートをネタに大爆笑しながら、いつものように甘く熱い時間を過ごした。
瑶季が、鍋をつつきながらぽつり。
「……でもさ。すみれちゃんがそんなに大胆になるなんて、悠真くんのこと、本当に好きなんだなって……
ちょっと、悔しいけど、嬉しいかも」
理央「だよね〜。私たち全員、悠真くんを幸せにしたいって思ってるんだもん」
海月「ふふ……これからも、みんなで競い合っていきましょうね」
すみれ「うん……みんなと一緒に、悠真くんを巡るの……大好き♡」
悠真は、ため息をつきながらも、小さく微笑んだ。
「……お前ら、ほんと容赦ないな」
この五角関係は、抜け駆けも、嫉妬も、甘えも、全部ひっくるめて、ますます深く、絡み合っていく。 そして、きっと——誰も、離れたくないのだろう。




