第7話 配下への加入
「…………………」
悠希人からの問い掛けに、アウレーシアは沈黙を返す。
今回ばかりは驚きによって、即座に返答することが叶わなかった。
その表情にも驚愕がありありと現れている。
「正しくは世界の滅亡、かな。その過程として、大怪獣の復活を目論んでいる。そうだろう?」
「………………」
補足を加える悠希人ではあるが、アウレーシアは未だ口を閉ざしたまま。
だが驚愕によって揺れる心を落ち着けるよう、一度大きく息を吐く。
ゆっくりと紫水晶の瞳を開け、面前の悠希人へと問い掛ける。
「これが最後だが、今一度問う。グレイ、其方は一体なんだ?何を、どうやって知り得た?」
「生憎だが、答える気はない。いや、答えた所で理解できないといった方が正しいかな」
「?…………まあいい。期待はしていなかった」
悠希人が自身について何も明かす気がないことなど、アウレーシアも察していた。
それでも問いを投げたのは、それだけ悠希人から齎された衝撃が大きかったからだ。
「大怪獣の復活、世界の滅亡…………確かに、それは我の本懐だ。だが、先の其方の発言。よもや其方の目的もそうだと?」
「正しくは前者だな。俺が望んでいるのは大怪獣の復活。まあアレが甦るとなれば、どの道世界は破滅へまっしぐらだろうがな」
「数百年も昔の怪物を、まるで見たように語るのだな…………まあいい。其方も我と同様、この世界に厄災を齎そうという訳か」
悠希人の目的は大怪獣の復活。
それは間違いない。
ただ世界を滅亡させる気などないので、後者については直接的な表現は避けた。
「其方のことだ。大怪獣復活の手法、どうすれば奴を目覚めさせるかも知っているのだろう?」
「貴方が怪人を生み出すのと原理は同じだろう?その体躯へ瘴気を流し込む。最も大怪獣の場合は、世界の何処かに眠る亡骸になるがな」
「当然のように怪人についても知っているか。ふん、まあその通りだ」
二人によって明かされる大怪獣復活、そして怪人創造の手法。
現在の世界に怪獣を生み出す『瘴気』。
これは大怪獣だけでなく、それから誕生する怪獣も僅かだが含んでいる。
そしてそれは怪人の女王たるアウレーシアも、その身に宿すものだった。
アウレーシアの持つ瘴気は大怪獣には遠く及ばずとも、怪獣のそれとは比にならない。
「我の瘴気を人間に流し込むことで、その者は怪人となる。人間の場合は生者に限るが、大怪獣ほどの怪物ならば死体でも問題ないだろう」
このアウレーシアの読みは正解だ。
ゲームで亡骸から甦る大怪獣を、悠希人は実際に目にしている。
「だが、事はそう簡単ではない。だろう?」
「…………ああ、そうだ。我が生み出した怪人は現在10人。人間を怪人に変えるだけであれば、我の持つ瘴気でも事足りる。だが、大怪獣はそうはいかん」
「アレを復活させるとなれば、莫大な瘴気が必要となる。いかに貴方でも到底賄える量じゃない」
人間を怪人に変えるだけでも、それ相応の瘴気が必要とされる。
分かりやすく言えば、この世界でそんな真似が出来るのはアウレーシアだけというぐらいに。
(だからこそ、コレが重要なんだよな。やっぱり見つけておいて正解だったな)
悠希人は懐に入れた、とある物に手を当てる。
それがあるかないかで、アウレーシアからの印象がまるで違うだろうと予測していた。
ようやく事前準備が生きると、悠希人は口角を僅かに上げる。
「大怪獣復活のための瘴気。確かに、それは途方もない量だ。だが、アテがない訳ではない。其方は知って…………どうした?何を笑っている?」
「いや、失礼………実は、手土産を持ってきていたのだが。渡す時機としては絶好だと思ってな」
「手土産だと?」
「ああ、きっと喜んで貰えるだろう。受け取れ」
そうして悠希人は、ある物を投げる。
それは、魔玉。
大怪獣の瘴気が込められた、名を『瘴魔玉』というものだった。
「これは…………まさか…………」
瘴魔玉を受け取ったアウレーシアは、次第に紫水晶の瞳を大きく見開く。
そして、驚愕を全身で現す。
それはこれまで悠希人との遣り取りで見せたものとは、一線を画する様子だった。
「馬鹿なっ!?まさか、其方は知って…………いや、それより見つけ出したというのか!?世界に10個しかない『瘴魔玉』、その一つを!!」
「ふっ、流石の貴方も冷静では居られないか。そうだ、貴方が喉から手が出るほど欲しいもの。その一つをこうして持ってきてやった」
期待通りの反応に、悠希人もしっかりと手応えを感じる。
これで『グレイ』という存在は、アウレーシアにとって一気に価値を増した。
「っ、他の瘴魔玉は!?残りの在処は知っているのか?いや、まだ他にも持っているのか!?」
「いや、生憎だがこの一つだ。残りが何処にあるかも知らん。それ自体、見つけたのは偶然に近いからな」
悠希人はさらっと真実を伏せる。
だがその言葉は、全てが虚偽ではない。
(実際、大体はほんとに知らないからな。ゲームの記載だと大雑把なものもあったし)
詳細な在処を知っているものもあれば、全く情報がないものもある。
どの道、これ以上を明かす気は無かった。
今回一つを手土産としたのは、アウレーシアからの信用と興味を勝ち取る為だ。
「そうか…………いや、当たり前だな。すまない、冷静さを欠いていたようだ」
はっとしたように正気に戻るアウレーシア。
しかし心の奥底では、未だ熱情が激しく渦巻いていた。
(なんという僥倖だ。これで3つ目、大きな前進だ。よもやこんな形で、我が手に収まるとは!)
長年自身の配下に探すよう命を下し、なお中々手に入らない代物。
その一つを手中に収めたことは、悠希人が思う以上にアウレーシアの心を動かした。
「ふん、謝る必要など無いがな。貴方の気持ちは理解できる」
「ふっ、存外気が効くのだな……………しかし、本当にこれを手土産などと言う気か?無条件で我に差し出すと?」
「誠意の表れと受け取って貰いたい。秘密ばかりの俺に不信感はあるだろうが、確かに貴方の力になる気があるのだと」
悠希人は真っ直ぐに目を向ける。
誠意をその身体でも示すように。
最も、内心は打算を含んでもいるが。
(まあ実際は、俺が持ってても意味ないしな)
瘴魔玉を真に扱えるのは、この世界でアウレーシアただ一人。
『光聖協会』ならば、秘めたる莫大な魔力を活用することは出来る。
だが、それは通常の魔玉でも同じこと。
瘴魔玉を持つべきは、やはりアウレーシアだ。
「ともかく、当初の話へ戻ろうか。俺を貴方の配下へと加える。その気はあるかな?」
半ば答えを確信しつつ、悠希人は問う。
『グレイ』という存在は謎が多い。
不信感も消えてはいないだろう。
だが、それでも。
圧倒的な有用性を持つ。
アウレーシアの答えは決まっていた。
「いいだろう…………いまこの時をもって、グレイ。其方を我が配下の一員として迎えよう」




