第5話 怪人の女王アウレーシア
(…………さて、戻るか)
衣織が離脱した事を確認した悠希人は、自らも帰還することを決める。
その行き先は、怪人側の拠点である。
「…………《帰還》」
自らの中指にはめた指輪を口元へ近づけ、そう口にする悠希人。
その瞬間、指輪から黒い靄のような魔力が溢れ悠希人の身体を飲み込む。
その指輪は、衣織が使用した光聖協会の離脱システムと似た転移装置だった。
視界が一瞬にて切り替わる。
転移した先は、世界のとある場所。
悠希人の眼前には、やや古めかしさの感じる巨大な城が聳え立っていた。
(…………さて、報告に行くか)
城へと足を踏み入れた悠希人は、そのままどんどん奥へと歩いていく。
城内には人一人いないが、この城ではいつもの光景であった。
そして辿り着いた、城の最奥。
荘厳な扉が閉ざす、城主の間。
コンコンと軽くノックをする悠希人。
しかし返答など無いことを知ったように、すぐに扉を開ける。
室内へ踏み入った、その時。
「…………戻ったか、グレイ」
女性の声が悠希人へ投げかけられる。
その声の主は、広間の玉座へと腰掛けていた。
「ああ。任務を終えたのでな、アウレーシア」
怪人の女王、『アウレーシア』。
背中まで届く真っ白な髪と、対照的な褐色の肌が特徴的な見目麗しい女性。
しかし怪人のボスに相応しく、その頭部には角が、その背には黒い翼が備わっていた。
2ヶ月前、悠希人はこの城を訪れ、アウレーシアに直接仲間に加えるよう申し出た。
事前準備に加え色々と交渉をしたことで、特殊な立ち位置として配下と認められている。
怪人名を『グレイ』と名乗って。
「ご苦労だったな。しかし毎度すぐに報告に来るとは、存外に律儀なのだな」
「請け負った仕事に手は抜きたくないだけだ。普通のことだろう」
「報告など碌にしない奴もいれば、頼んだ任務を忘れるような奴もいるぞ」
「…………他の連中がおかしなだけだ」
ため息混じり言葉を返す悠希人。
確かに、アウレーシアの配下は一癖も二癖もある連中ばかりだと知っている。
「まあ我としては助かるな。其方を迎え入れた時はどうなるかと思案したが、杞憂だったようだ」
「今後も同じとは限らないがな。当初の取り決め通り、貴方の命令、その全てに従うとは思わないで頂こうか」
怪人の女王であるアウレーシアに対しても、臆さず言葉を返す悠希人。
この遣り取りからも、悠希人が特殊な立ち位置として配下となったことが窺える。
とはいえ全幅の信頼は置いていないものの、二人は互いを認め合っていた。
悠希人は、アウレーシアの人間性を知っているので当然。
対するアウレーシアも、不気味ながらも有能であるのは間違いない悠希人を気に入っている。
今回を合わせ、都合3度の命令を忠実にこなした実績からも配下として申し分ないと。
「…………さて。遅れたが、首尾はどうだ?」
「直接確かめるのが一番だろう」
そう言葉を返して悠希人はある物を取り出し、アウレーシアへと投げ渡す。
それは『魔玉』という、この世界に存在する魔力を内包する宝玉。
『魔玉』は世界の至る所で発見される、非常に価値の高い資源である。
それは光聖協会と怪人、どちらにとっても。
一つの例としては、魔玉によって光聖協会の施設や光聖姫の武具が作られる。
他にも様々な活用方法があり、魔玉は双方にとって重要な代物である。
アウレーシアは受け取った魔玉をまじまじと見つめると、やがて落胆したように息を吐く。
「…………今回も外れか」
「ああ。期待に添えず申し訳ないがな」
「いや、仕方あるまい。我らが長年探し求めて、ようやく2つ見つけたほどだ」
アウレーシアも、初めからあまり期待はしていなかった。
配下である怪人たちに『それ』を探すよう任務を与え続けて尚、中々見つからない代物だ。
途方もない時間と労力が必要となることは、最初から織り込み済みだった。
「こうして一つ一つ潰していくしか道はない。配下たちには苦労を強いるがな………」
「必要なことだ。その積み重ねが俺の、ひいては貴方の目的へと繋がる」
「ああ、その通りだ。しかし…………」
そこで言葉を区切る、アウレーシア。
そして、悠希人へと真っ直ぐ視線を向ける。
やがてゆっくりと口を開く。
「しかし、だからこそ驚いた。其方が我の探し求める魔玉…………大怪獣の瘴気を含んだ魔玉を持って現れたときはな」
その言葉を受け、悠希人は想起する。
2ヶ月前、アウレーシアの元へ訪れた時を。




