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第3話 主人公との邂逅

 2ヶ月の月日が流れ、現在。

 時刻21時30分。



「はぁっ……はぁっ………待ちなさいッ」



 悠希人は、一人の少女に追われていた。

 薄暗い路地を縦横無尽に、凡そ人間が不可能な挙動で駆けていく悠希人。

 一方で追跡者の少女は危うさはありつつも、なんとか10mほど先を走る悠希人に続く。



 後方の少女を意識しながら、悠希人は現状に至る軌跡を想起していた。



(この2ヶ月………色々あったけど、なんとか怪人側の組織に取り入ることが出来た。それで幾つか命令をこなしていた訳だけど…………)

 


 転生してから2ヶ月という短い期間の中、悠希人はまず戦闘技能の向上に努めた。

 独学でしかないが、槻宮悠希人の才能は凄まじく、怪獣の討伐にも慣れてきた程だ。


 

 そこからは色々と事前準備をし、いよいよ怪人側のボスに接触。

 本当に色々となんやかんやあり、一先ずは怪人側の組織に与することが叶った。



 そうして幾度か命令に従い、怪人として行動をしてきた訳なのだが…………。



(まさか行く先々で、主人公に鉢合わせるとは……)

 


 悠希人が怪人として任務にあたるのは、今日で3度目である。

 つまり、まだ2回しか主人公である少女とは相対していない。

 なのだが、悠希人を怪人だと認識した少女は魔法少女としての正義感に駆られ、是が非でも悠希人を捕えようと躍起になっていた。




(『如月衣織(きさらぎいおり)』………本当に主人公の魔法少女まんまだ。凄いな)




 自身を追いかける少女---衣織---を見て、思わず胸中に感動を滲ませる悠希人。

 ゲームの登場人物が現実に存在するというのは、なんとも名状しがたい気持ちだった。



 当の衣織は、呑気に思考を巡らせる悠希人とは対照的な様子だった。

 



 鮮やかな赤のポニーテールを激しく揺らしながら、髪と同系色である紅玉(ルビー)の瞳に、苦渋の色を浮かべている。

 10mは先を行く悠希人に、全く追い付ける兆しが見えない為である。




 しかし、そこで悠希人が足を止める。



(おっと、行き止まりか…………まあ、そろそろ衣織とコミュニケーションを取ってみようかと思ってたし。いい頃合いか)



 過去の2度は、悠希人と衣織は碌に言葉も交わしていない。

 登場人物を始め、原作にいつ、どれだけ介入するか悠希人が熟慮していた為だ。



 とはいえ………。



(怪人側にはもう接触してる。魔法少女側にも、存在を認識されても問題ない………というより、その方が後々に繋がるか)



 そんな悠希人の思考など露知らず、袋小路へと追い込んだ衣織は優位を確信していた。

 仁王立ちになり腰に手を遣りながら、毅然とした態度で言い放つ。



「今日という今日こそお縄について貰うわよっ」




 正義の魔法少女となってから、一度は言ってみたかった台詞・第3位。

 もし効果音があれば「ビシィィッ!」とでも鳴っていたことだろう。




(ふふっ、遂に言ってやったわ………!)




 夢が叶った衣織は、内心とてもご満悦だった。




(『決まった…!』なんて思ってるんだろうなー)

 


 衣織の人間性(キャラクター)を知っている悠希人は、なんとなく彼女の内心を察していたが。

 


 

 それは、ともかく。

 全く真面目(シリアス)な空気に入れない中、ふいに悠希人はゆっくりとその両手を上げる。



「…………?それは降参の証と受け取って良いのかしら。やけに素直なのね?」



 悠希人の動作から、白旗を上げたのかと読み取る衣織。

 とはいえ、余りにも呆気ない幕引きに違和感を覚えたのも確かだ。

 そんな違和感を肯定するように、悠希人がその口を開く。



「この場で交戦の意思はない。退いて貰えるのなら、君のことは見逃してやろう」


「なっ!?……やっと喋ったと思ったら、随分と偉そうなのね。状況が分かってるのかしら?」


「その問いは、そのままお返ししよう。君こそ自分の立場を正しく理解した方がいい」 


「なんですって………!」



 悠希人の尊大な物言いに、こめかみをピクピクさせながら言葉を返す衣織。 

 都合3度目の邂逅でようやく口を開いたと思ったら、なんとも偉そうな男だと感じた。

 



 最も、悠希人にとっては謂わばキャラ付け。

 正体不明の怪人を演じるのに、こんな感じかなと雰囲気で喋っているだけだった。




「前は逃げるだけだから、お喋りは苦手だと思っていたのだけれど。そんな黒い外套に、黒の仮面(マスク)まで着けて…………てっきりとても内気(シャイ)なのだと思ったわ」


「怪人なのだから素性を隠すのは当たり前だろう。今回は君がしつこいから、仕方なく相手をしているに過ぎない」


「っ………あら、そう。態々どうも」



 

 煽りに倍返しで煽られ、衣織はこれ以上の舌戦は無意味だと悟る。

 紅玉(ルビー)の瞳に鋭い光を映しながら、本来の目的へと行動を切り替える。



「まあ、いいわ。とにかく、怪人であるあなたは拘束させて貰う」

 


 衣織が手を自身の胸にゆっくりと当てる。

 そして、力強く言い放つ。




「光聖姫『暁月』………怪人討伐を開始するわ」

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