71話.スケープゴート
「姉さん、落ち着いて聞いて」
「あたしは落ち着いてる。大事なことならさっさと話せ」
テンがおどおどとした様子で話を切り出し、須々木はじれったそうに先を促す。
「何を知っても取り乱さないでよ?」
「くどい」
「まあまあ。時間はあるんや、ゆっくり聞いてやったらどうです」
なおも不安げにするテンにしびれを切らしそうな須々木を、六右衛門がなだめる。テンはイズナに目配せをし、ため息とともに話し始めた。
「みんなが捕まった時、姉さんは自分が首謀者だって言っただろ?自分がみんなをそそのかしたんだって」
「それで俺たちとは別でここに連れてこられたんだったよな」
「…」
須々木は黙って聞いている。弟分の言い分は聞いてやろうという事だろうか。テンも話して問題ないと判断したようで、続けていく。
「僕たちは僕たちで一人ずつ事情聴取を受けるって事で、広い待合室に通されたんだけど…」
そこで口ごもる。ちらちらと宵華を見ており、宵華は首を傾げる。
「僕たち、その、宵華…さんに手も足も出なかったでしょ?」
「私?」
畑での出来事を持ち出された宵華は目を丸くした。宵華も樹希も、話の方向が分からず戸惑う。
「あれで他のみんなもすっかり怯えちゃったというか」
核心の見えない話になんとも言えない空気が漂い始めた頃、須々木が身を乗り出してテンの話を遮った。
「要領を得ねぇな、さっきから何が言いたいんだよ?知ってるだろ、あたしはまどろっこしいのが嫌いなんだ」
要点だけをさっさと話してくれ、とテンに詰め寄るが、テンはそれきり口をつぐんでしまった。
それでも何かを言いたげに須々木を見ており、イズナがその後を引き継いだ。
「…やっぱり、何も言わずに大人しくしよう、姉さん?もう諦めた方がいいって」
その言葉に須々木はピクリと眉をはね上げ、イズナに詰め寄った。
「おい、ふざけるのも大概にしてくれ」
言葉こそ静かだが、目は見開き縛られたままの両手でイズナの胸ぐらを掴む。イズナは顔をしかめ、振りほどこうともがくがびくともしない。
「これはあたしらの悲願だったはずだ。そんな及び腰でハイそうですかなんて引き下がれるか」
「姉さん」
「早苗ちゃん、落ち着き」
テンがたまらず須々木にすがりつき、六右衛門は厳しい顔で彼女を諌めようとする。しかし須々木の手にはますます力が入っていった。
「どけ。蹴り飛ばすぞ」
凄む須々木にテンは一瞬怯むが、負けじと見返す。そのまま数秒、須々木はため息をついてイズナを締め上げる手を緩めた。
「なあ二人とも。あたしはお前たちにイライラする事はあっても、お前たちのした事を蔑んだりしない」
須々木は咳をしながらうずくまるイズナを立たせ、テンと交互に目を見据えた。
「小心者で心配性のお前たちの事だから、大方あたしに害のある内容でも聞いたんだろ。聞かせな。あたしを売ったか?始末でもしに来るのか?」
須々木の言葉に、テンもイズナも言葉を失った。青い顔で互いを見合わせ、小さく頷いたのちに口を開いた。
「連中の中にいたリーダー格の一声で、姉さんを暗殺するって…」
敵地で企てられた予想外の計画の存在に、一同は重い沈黙の中へ引きずり込まれた。




