70話.取り調べ
「ふぅむ。だいたいの事情は分かった」
神社荒らしの犯人達は小酒館で拘留されたのち、あくる朝に箕山組の事務所へ連行された。
応接間の奥、組長の書斎にて、宵華たちは六右衛門に事の顛末を説明した。
「SNSの炎上に動画配信、落書きから不法投棄…それから畑荒らしやて?宵華ちゃんひとりの為に?なんや並々ならん気持ちがありそうですなあ」
六右衛門は恰幅の体を前のめりにし、正面に座る須々木早苗の顔を見つめた。
デスクの前、机を挟んで向かいあわせのソファの片側で、須々木は両脚を机に投げ出し、巻かれた手縄を解こうと腕を動かしている。
他の面々は別の部屋で各々の取り調べを受けるようで、和真含む何名かが事務所内を慌ただしく行き来している様子が見える。
「だったらなんだよ」
六右衛門に話しかけられ、須々木は苛立たしげに彼を見返した。
「話、聞かせてはもらえんやろか」
「誰が話すか」
「つれんお人や」
須々木は相変わらず敵対的な態度を崩さず、鷹揚な六右衛門を睨みつけている。
六右衛門は笑みを崩さず、しかし困ったように頭をかいて向かいのソファに座り直した。
宵華も樹希も、揃って眉を下げる。
「でも困ったわ六さん。これじゃ埒が明かない…」
どうしたものかと三人が考えあぐねていると、書斎の扉が開いた。同時に和真が呑気な顔で部屋へと入り、六右衛門に報告をした。
「親父ー、ベレッタの人らが口割ったらしいで」
「えっ」
「はあ!?」
宵華と樹希は期待に顔を上げ、須々木は驚きの声を挙げ、六右衛門は待っていたと言わんばかりに手を叩いた。
「よし。ここに連れてきてくれ」
「お待たせいたしました、組長」
「おおきに、ご苦労さん」
組の者がベレッタチャンネルの二人組を連れ入室した。そして須々木の両隣に立たせると、一礼してさっさと出ていってしまった。
二人はすっかり萎縮してしまっており、座るよう声をかけられている事にも反応できないでいるようだ。
その様子を見た宵華はクスリと笑った。
「この光景…六さんが組長と呼ばれているのも相まって、その筋の人みたいに見えるわね」
「お、おい宵華…」
宵華はゆらゆらと尻尾を揺らしながら笑みを浮かべており、樹希が小声でたしなめる。樹希の予想に反して六右衛門は怒ることはなかったが、垂れた目尻をさらに下げて頭を抱えた。
「宵華ちゃん、堪忍してや。箕山組のイメージが下がってまう」
「言うたやんか組やとイカついて。適当に名前変えよや。グループとかどない、箕山グループ。で、親父は代表取締役。これなら組よか怖ないやろ」
「時代かのお」
よほどイメージダウンを気にしていたのか、親子二人、本題をそっちのけで会社の話を始めてしまった。
「すまん、話しが逸れたな。ベレッタのお二人さん。そこにかけてもろて。あとは親父と神社の面々でよろしく」
数分ほどで話がまとまったらしく、和真が頭を下げた。それから立ち尽くしていたベレッタチャンネルの二人を須々木の両隣に座らせ、入口の方へ歩いていった。
てっきり同席するものと考えていた樹希が慌てて呼び止める。
「和真は同席しないのかよ?」
「ボクは別件で動かんならん事があるんや。それに事件のことをよう知ってるキミらがおれば大丈夫やろ。ほな!」
和真はドアノブにかけた手を止め、簡単な説明だけをしてさっさと出ていってしまった。
「さすが、六さんの息子、という感じね」
「……」
和真が出ていき、書斎内には重い沈黙が下りた。主な原因である須々木は、両隣の仲間を見ようともせずに口を開いた。
「…イズナ」
「ぅ…」
「テン」
「ね、姉さん」
「どの面下げて来やがった。裏切り者が」
静かな叱責に、イズナ、テンと呼ばれた二人は身を竦ませる。そして口々に言い訳をしはじめた。
「し、仕方ないよ、大人しく従わないと、姉さんに何をされるか分からなかった」
「それに俺たちは元々反対だったんだ、こんな大事に加担するなんて」
「知らん。コイツらを潰してから、あたしがお前らの根性叩き直してやる」
「そんな」
須々木は立ち上がり、やや浅黒な肌のイズナに片足を突きつけた。片足立ちという不安定な姿勢は少しも揺らがず、視線は樹希から宵華、六右衛門へとゆっくりと移っていった。手縄で両手が塞がれているとはいえ、人ひとり程度容易に下せるであろう実力と余裕がうかがえる。
荒事に慣れていない樹希は体を強ばらせ、宵華は身構えたまま、彼を守るように尻尾を伸ばした。
張り詰めた空気の中、六右衛門は依然自然体で穏やかに須々木へ話しかけた。
「まあまあその辺にしときましょう。大切なお仲間さんなんでしょうが」
声をかけられた須々木はピクリと震え、足を下ろしながら六右衛門を睨みつけた。
「知った口を聞くんじゃねえクソ狸。あたしの仲間はコイツらだけじゃないんだからな。今はこの事務所も手薄だろ?お前らくらいどうとでも…」
「待って姉さん」
「姉さん、その事なんだけど…」
食ってかかる須々木を制止したのは、イズナとテンの二人だった。




