69話.解決
「宵華」
宵華が連中を縛り上げている間に、樹希が戻ってきた。その後には箕山和真が数人の狸人を引き連れてきている。
「ずいぶん騒がしかったけど大丈夫か?」
「ええ。何も問題ないわ」
狸人は藍暁が連絡でもしたのだろう。樹希が藍暁に話しかけている。二人で和真を見ながら話す様子を見る限り、宵華の想像は合っていそうだ。宵華は袴に付いた泥を払い立ち上がった。
「藍暁も手伝ってくれたし、思っていたよりも容易く片付けられたわね」
そう言って樹希に歩み寄る。肩に血がついていると心配されたが、相手を叩き伏せた時にでも返り血が付いたのだろう。と説明した。
「なー藍暁ちゃん、こない真夜中になんでボクら呼ばれたん?ていうかこの人らどちらさん?」
はよ説明してー、とおよそ緊張感ただよう空気に似つかわしくない声を上げたのは和真である。面倒臭そうにため息をついた藍暁が、状況をよく理解していない彼を小突きながら言った。
「あんた狸人でしょ?ちゃんと見なさいよ」
「うわっイタチの人らやんか!ボクも初めて見たわあ」
和真が目を丸くしたので、ようやく事態を飲み込めたのだと思ったのもつかの間。今度は芸能人か、動物園の動物でも見ているかのような声を上げる和真に、藍暁はさらに深くため息をついた。
「結局、本当に須々木さんが犯人だったのか…」
樹希が沈んだ声色で呟く。つい先ほどまでは神社を共に支える仲間だと思っていたのだから、当然ではある。宵華もその様子に眉尻を下げた。
しかし当の本人は全く意に介しておらず、むしろ鬱陶しそうに周囲を睨みつけている。
「うるっさいな。ていうかさっきから大人しく聞いてりゃ、こちとら見せもんじゃねーんだよ」
そこに樹希の知る須々木の姿はなく、いるのは獰猛な犯罪者だった。須々木の目はいまだ敵意と戦意を失う事なく、樹希を射すくめる程度には力強い。
「あれ?キミ神社の巫女さんやってた子とちゃう?なんで一緒に捕まっとるん?」
「チッ」
「はあ…」
「…和真さん、少し黙って」
一方、和真は相変わらずの軽い口調で須々木を眺める。須々木からは舌打ちされ、樹希からため息をつかれ、宵華は顔をしかめて彼を窘めた。
これ以上ふざけていても仕方ないと思ったのか、和真の表情がようやく真剣なものになった。
「あ、すんません。でも分かった。ここ来るまでは疑い半分やったけど、こりゃ確かに箕山組とも無関係とはいきませんわ」
和真の言葉で、宵華は箕山組とイタチの確執について六右衛門が話していた事を思い出した。
「六さんには?」
「和真たちを寄越させた時にあたしから事情を話してる。ま、規模感とか計画の杜撰さを考えるに過激派集団の暴走、ってとこじゃないかな」
宵華はそう、と短く返した。
六右衛門からすれば、おとぎ話と思って聞いてきた連中が実在していて、しかも実際に他種族にちょっかいを掛けているのだから、少なからず気を揉む事件となることだろう。
以前、宵華が気持ちを崩した時に頼らせてもらって以来、感謝とささやかな信頼を込めて六さんと呼ぶようにしている。買った喧嘩とはいえ、部外者の彼に助けを求めるのも少し申し訳ないような、可哀想なような気もするが、天狐である宵華と藍暁からの信頼という事で喜んでくれるだろう、というのは些か甘えすぎだろうか。
「うわあ!ベレッタチャンネルの人や!ボクいつも見てますねん!あでも捕まっとるいう事はもう見れへん…?ショックやあー!」
「和真、あんたもう帰れ」
内心で引け目を感じている宵華の視界の隅では、和真が嘆き、樹希が彼を小突いていた。
「それで、連中の処遇だけれど」
和真を大人しくさせたところで、宵華が本題を切り出した。藍暁も補足的に状況をまとめる。
「うん。獣人が大半だから、あんまり人間の警察機関は利用したくないね。一人二人くらいなら顔を利かせられるけど、都市部でこの規模はさすがに混乱しかねないよ」
「宵華が街へ繰り出した時も、ちょっとした騒ぎになったくらいだしなあ」
「そこでボクら狸人の出番言うわけやね」
樹希とともに難しい顔をしていると、和真がそう割り込んだ。宵華と樹希はその様子に顔を見合せて困惑した。
「それはどういう…」
「人間社会にはどうあがいたって獣人は馴染めん。ボクらにはボクらの自治組織が必要で、それをこの辺じゃ狸人が担っとるんや」
「六ちゃんにコンタクトをとったのも、その辺の事情があったからなんだー」
聞く限りでは、獣人による犯罪も人間並に多いらしいのだが、それでも目立たないのは狸人が取り締まってくれているかららしい。
狸人は天狐ほど身体能力に秀でていないものの、中には荒事に長けた連中もいると和真が付け加えた。だてに少数種族の中で栄えていないということなのだろう。
「なるほど、だから和真が来てたんだな。てっきり藍暁の手伝い兼野次馬かと」
「ひっどいわー。これでもちゃんと仕事に来てんねんで?」
「どうかしら。でもそういう事なら貴方達に任せた方が良さそうね」
和真が肩をすくめながらも、周囲の狸人に指示を出し始めた。何はともあれ、この間に生まれた様々な問題懸念が終息を迎えようとしているようだ。




