66話.セキュリティ強化②
「なあ宵華、なんだって彼女に嘘をついたんだよ」
境内の裏口から山道へ向かう宵華を追いかけながら、樹希は尋ねた。宵華は耳をピクリと震わせたものの、振り返らずに答える。
「目の前で話を聞いている人物の本性は分からない。みだりに話を広める事は避けたいと、前にも伝えているはずだけれど」
「でも彼女は情報提供者だ。水源の事もあるし、わざわざ自分にもデメリットのある事なんて」
「彼女が諜報係だとしたら?それに、目的の為なら多少の不利益にも目を瞑れる人間もいる」
そこまで話してから立ち止まり、宵華は樹希に振り返った。
「組織だった犯行かもしれないという予想は樹希、あなたも承知のはずよ。何かあってからでは遅いのだから、もう少し慎重になって」
「う…」
樹希を見据える宵華は怒っているというよりも、困ったような表情を浮かべていた。樹希は彼女の眼差しに言葉を詰まらせた。
天野家に泊まった日のやりとりの中で、樹希自身も同じ事を言ったと思い出し、きまりが悪い様子で頭をかいた。
「それもそうだ。すまん」
「着いたわ」
「近所にこんな所があったのか。道中を思うと、確かに知らないとこんな所までは来れないな」
鬱蒼と茂る木々の合間、わずか数センチ程度の道とも呼べない道を行く宵華に続くこと数分、二人の視界の先に開けた空間が現れた。慣れ親しんだ土地にも関わらず、どこかよそに迷い込んだような気持ちで樹希はその場所を見回した。
柵は効果があるのか怪しいほど控えめだが、土地の四隅に立てられた柱にはそれぞれ札が貼ってある他、ツンと刺激的な匂いがする。
「唐辛子?」
「そう。獣避けにね」
農耕に疎い樹希は、誇らしげに尻尾を揺らす宵華の知識に舌を巻いた。
畑自体を見ても、作物は等間隔に植わっており雑草は畝に見当たらない。丁寧に世話をしている事が素人目にも伝わってくるようだった。
「詳しい事は知らないけど、随分と手入れが行き届いてるみたいだ。宵華はずっとここの世話を?」
「ええ。いつからなんて聞かないでね?始めたのは最近の事だけれど、詳しい時間なんて覚えてないから」
宵華は袴の裾に付く土を気にすることもなく畑の一角にしゃがみこみ、葉を撫でた。
「ちなみに、この辺のものは樹希にも時々渡しているわ」
樹希はいつもどこから調達してくるのかと不思議に思っていたが、合点がいった。畝を整えた手で顔を拭ったのだろうか、したり顔で見つめる宵華の顔には土が付いている。その様子が可愛く
「さ、そろそろ本題に戻りましょ」
話しながらしていた土いじりが一段落した様子で、宵華はスっと立ち上がった。樹希もそれにならう。
「うーん、どこがいいかな…」
辺りを見回しながら樹希は呟いた。どこを向いても木々に囲まれており、小型の監視カメラを忍ばせるには申し分ない。
その中でも高い位置から畑全体を見渡せそうな場所に小さな穴を見つけた。
「ここはどうだ?高さがちょうど良くて、カメラが埋め込みやすそうだ」
見た感じではやや奥がすぼまっているものの、実際にカメラを埋め込んでみると、上手い具合に固定してくれた。
向きもちょうど良く、畑全体を俯瞰して録れている事をタブレット型のモニターで確認できた。念には念をという事で、その辺の木くずや葉っぱでカモフラージュをしてから降りる。外見も違和感ない。
「いいわね。もう一箇所はどこにしようかしら…」
宵華は嬉しそうに頷き、もう一つの設置場所を探し始めた。そして間もなく良い場所を見つけたようで、真っ直ぐそちらへ歩いていった。
「ここにしましょう」
2台の監視カメラを設置し、作業が一段落した。宵華は樹希に向き直り、改めて頭を下げた。
「樹希。私のわがままを通してくれて、ありがとう」




