65話.セキュリティ強化
「頼んだ監視カメラが届いたよ」
天野家で話をしてからおよそ一週間、樹希は社務所に届いた荷物を開封していた。樹希たちの予想よりも多少早い到着だったが、それでもこれまでの情報を整理、対策を立てるには十分な時間があったので、結果としてはちょうどいいタイミングだった。
「ありがとう。お母さんには無理を言っちゃったかな」
「全然。母さんは嬉しそうだったから、むしろ頼って良かったかもしれない」
耀と話すかたわら、宵華はゆらゆらと尻尾を揺らしながら、もの珍しそうに品物を眺めている。
樹希の母、杏奈には無理を承知で頼んでみたのだが、樹希の予想に反して二つ返事の快諾であった。そして数日もしない内に指定の台数が届いたのである。
「しっかし、兄ちゃんのお母さんてば相当良いモノをくれたんじゃないの?特にこれ。こんなサイズ、見た事ないぜ」
耀が1台をいじりながら言った。その手のひらにあるのは、消しゴムほどのサイズの黒い長方形だった。他にもドーム状、置物タイプ等設置する場所に応じた様々な形を用意してくれたのだが、中に混じっていたその消しゴムを見た時には、全員の目が点になっていた。
「懇ろにしてもらってる取引先の最新技術だってさ。試運転も兼ねてるらしい。小さい神社には過ぎた代物な気もする…というか盗撮の準備をしてる気分になりそうだな。けどせっかくもらえたんだ、ありがたく使わせてもらおう」
「私のお願いした場所にはどれがいいのかしら」
恐る恐る目の前に並んだ機械たちを触りながら、宵華が尋ねた。 樹希はそうだなあと呟いて昨日のやり取りを思い出していた。
「樹希、監視カメラが余るの?」
宵華がそう尋ねたのは、樹希が届く監視カメラの数の納品予定書と設置場所とを見比べている時だった。
「うん?ああそうなんだよ。境内の主要な箇所が思ったよりも少ない数でカバーできたし、どうしようかと思ってさ」
「それなら2台ほど分けてもらえないかしら。あの花壇と、裏の山道に置いておきたいの」
「花壇は分かるけど、山道?」
「ええ。道から逸れるとひらけた場所があって、先に畑があるのだけど。その場所にも見張りが欲しいの」
「へえ、あんな所に?パッと見じゃあ分からないな」
樹希の言葉通り、神社から裏山へは山道が繋がっているのだが、舗装された道は一本道となっている。思い返すまでもなく、脇道などは存在しないというのが樹希の記憶であった。
「知らない人は絶対気付かないわね。でも目印があるの」
ふうん、と相槌を打ちながら、樹希はその申し出を承諾したのだった。
「まだその場所を見てないからな。少し見せてもらっていいか?」
回想から戻り尋ねる樹希に、宵華は快諾した。
「樹希なら構わないわ」
「最近のは業者に頼まなくても取り付けられるんだな」
「私にはよく分からないけど、すごい事なのね?」
手分けして各所への設置をする事で話がまとまり、社務所での集まりは一旦解散となった。樹希と宵華はその足で裏山まで歩いていき、その道中のカメラ設置を担当する事となった。
「それで、その目印ってのはなんなんだ?」
「道に1本だけ、倒木が放置されてるでしょう?あれをまたいでまっすぐ進むと開けた場所に出るの」
「あっ、樹希さん!」
作業がある程度終わり、歩きながら山道の事を確認していると、物陰から歩いてきた須々木と鉢合わせた。
「ああ須々木さん。お疲れ様。この間は情報提供ありがとう。おかげで回収作業も滞りなく進んでるよ」
「それなら良かったです。…でも不法投棄とかってお知らせだったんですけど、そんなのじゃなかったですよね」
須々木は照れくさそうに頬を掻き、それから首をかしげた。
「生き物の死骸も一応投棄物の括りでいいかって管理職内で話をしたんだよ。それに、本当の事を伝えたら気味悪がる人も出るだろうからな」
「そんなもんですかね?」
「命あったものが動かない様は、多少なりとも目を背けたくなる光景でしょう」
「ふーん?まあたしかに気持ちのいいものじゃないかー」
あまりピンと来ていない様子の須々木だが、納得したように小さく頷いた。それから二人を見やる。
「それより、おふたりはどこに行くんです?」
「俺たちは…」
宵華の畑へ、と言おうとした樹希を遮り、宵華が答えた。
「裏山へね。現場をもう少し調べてくるの」
「そうでしたか。怪しいヤツがいたら大変なんで、気を付けてくださいね!」
答えを聞いた須々木は納得したように手を叩き、手を振って二人を見送った。




