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狐巫女の嫁入り  作者: なんてん
6章

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64話.家族会議

 夜、樹希いつきは天野家の夕飯に相席していた。もちろん湖で目の当たりにしたおぞましい光景の報告なのだが、久々の同席に泰然たいぜん耀あきらも浮き足立った様子だった。

「久しぶりだよなあ、兄ちゃんがこっちで飯なんて!」

「おいおい大げさだな。毎日顔は合わせてるだろ」

 それとこれとは別だと破顔する弟に苦笑いしながらも、樹希も久々の団欒だんらんを楽しんだ。


「ごちそうさまでした」

 合掌し、3人で食事の後始末を始める。やけに豪勢な夕飯だと思った樹希が2人に尋ねると、やはり今日は特別だったらしい。洗い物をしながら耀が話した。

佐伯さえき琴音ことねさんいるだろ?」

「ああ、巫女さんの?」

「そうそう。父さんが退院した頃から、娘さんと一緒にちょくちょくうちに顔を出してくれてるんだ。今日もその日」

「なるほどな。琴音さんも忙しいだろうに」

 業務もソツなくこなしており、よく気の回る人という印象が樹希にはあった。私生活でもお世話になっていたとはさすがに予想もしなかったが、彼女らしいといえばらしい。

「娘さんっていったら、確か小酒館しょうしゅかんでバイトしてるんだっけ?」

「男2人で、しかも親の方は身体を崩したときたら家事なんてしてないんじゃないかって思われたらしい」


 そこで耀は1度言葉を切り、俯きがちにこぼした。

「母さんも、結局お見舞いにも来なかったしなー…」

「こら耀、手が止まっているぞ」

 遠い目をしている耀の肩を泰然が叩いた。

 耀はハッとなり、慌てるあまり手に持った皿を取り落としそうになった。泡が流されていた事と、樹希が咄嗟に受け止めたおかげで家事を増やさずに済んだが、耀は少ししゅんとしている。

「ご、ごめん…」

「まあまあ。俺が夕飯まで一緒にいるのも久しぶりだし、思い出しても仕方ないって」

 とはいえ、ぼんやりとされても仕方がないので、残りの食器は樹希が請け負うことにした。


 片付けも終わり、3人が腰を落ち着けられる頃合を見計らって樹希が今日の出来事について話した。

 真剣な顔つきで話を聞く2人に、さらに宵華ゆうかが湖を後にする際に言った言葉も伝えた。

『この事は、あまりおおやけにしたくないわ。内部犯の可能性が捨てきれないもの』

 もちろん、樹希も概ねは同意している。しかしそれには問題があった。

「そんな事言ったってなあ…こんな大事件、皆に知らせないわけにも行かないぜ?というかもう水道水が変なのは結構問題になってる」

 耀が樹希の懸念を口にした。

 すでに水が臭うだの味が変だのといった苦情や、中には体調不良を訴える者も出てきている事は、樹希も把握していた。もはや隠し通すのは不可能だという自覚は樹希にもある。

「今さら無理があるのは分かってる。だから、何とかならないかって相談しに来たんじゃないか」

「どの道業者を呼ぶ必要はあるから、誤魔化すならその辺だと思うけどな。それにしたってどうするって話で」

「やっぱりそこしかないよな…」

 一度は考えたんだが、と樹希は頭を抱えた。

 1人涼しい顔で茶を飲んでいた泰然が、息子2人が押し黙ってしまった様子を見て口を開いた。

「目的を少し細かくしてみてはどうだろう?問題解決に必要な事を大きく分けると、汚染の元を断つ事と、犯人を特定する事の二点だ。早急に対応すべきは」

「もちろん犯人の特定。死骸を取り除いても、同じ事をされないとは考えにくい」

 泰然の言葉を樹希が引き継ぎ、泰然は小さく頷いた。

「水質調査の結果、上水道と貯水槽に大量の不法投棄物を発見したと説明しておこう。水源はこれから調べるという事にしておけば、撤去作業が入っても怪しまれまい」

「ありがとう父さん。水源は俺が母さんにかけあって、カメラを設置しておくよ。そっちは周知しない方がいいかもしれない」


 話がまとまったところで、泰然は樹希を呼んだ。

「…樹希」

「本来なら知らせないと問題だって事くらいわかってる。でも宵華は内部犯の可能性も考えてるし、何より個人でできる規模じゃない。下手に刺激して参拝客や従業員に何かあったら…」

 プライバシーの問題を指摘されると思った樹希が弁明をするが、泰然は首を振った。

「そうじゃない。皆のプライバシーも大事だが樹希。今は宵華殿がいらっしゃるとはいえ、昔からお前は1人で背負い込むきらいがある」

「あ…」

 父親として心配する泰然の言葉に樹希は固まった。じわじわと顔に熱を感じる。

「そうだぜ兄ちゃん。なんか最近の変な個人主義があの狐さんっぽいっていうか、もうこれ神社全体の問題なんだからさ」

 弟も追い打ちをかけ、ますます樹希は何も言えなくなってしまった。

「もう何度言ったかも分からんが…血は繋がりなど関係なく、私はお前を家族だと思っておる。必要なら遠慮せず頼りなさい。それだけで父親としては嬉しいものだ」

 無性にむず痒くなり、樹希はぶっきらぼうに返事をしながら2人から顔を背けた。

「分かったって。何かあったら頼る」

色々添削するうち、少し横道ができた気がする回。

佐伯家とのエピソードはどこかで幕間にでも。天野家母は今後出す予定もないのですが、これまで家庭内の描写で登場すらしてこなかったのも変なので急遽追加しました。

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