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第9話 家族だから、許されると思っていましたか

 叔父は、私を見るなり両腕を開いた。

「ミラ。恐ろしい目に遭ったな」

 半月前、面会を求めたときには来なかった。

 死刑が決まったときも、手紙すらなかった。

 私は両手を下ろしたまま立った。

「書類を、返していただけますか」

「先に、お茶でも」

「先に、書類を」

 叔父の腕が、ゆっくり下がった。


 玄関には、見慣れない使用人がいた。

 叔父の手には、白い手袋。

「不思議な能力を得たそうだね」

「ご心配なく。勝手に触れません」

「家族まで疑うのか」

 私は、答えを急がなかった。

 かつては、その言葉を聞くだけで、疑う私のほうが悪い気になった。

 父と母を十六歳で失ってから、叔父は私の後見人だった。

 何を決めるにも、叔父の許可が要った。

 私のためだと言われれば、私のためなのだと思おうとした。

「疑うことと、事実を確かめることは、違います」

 私は、椅子へ座った。

「今は、両方しています」


 机の上には、家産の管理契約があった。

 叔父は紙を押した。

「混乱の時期だ。資産を一つへまとめれば、君も安心できる」

 私名義の資産を、叔父の管理会社へ移す契約。

 死亡後の相続も、そのまま叔父へ渡る形になっている。

「これを、新しい書類だと?」

「将来を考えて」

「私が死ぬ将来を、先に考えたんですね」

 叔父の顔が、固くなった。

「そんな言い方を、どこで覚えた」

「自分で考えました」


 開いた扉の向こうに、ベラが立った。

 カイと、補佐官もいる。

 叔父が立ち上がる。

「二人で話す約束だ!」

「その約束を受けた覚えはありません」

 私は、叔父の手紙を机へ置いた。

 ベラが、押収令を示した。

 神殿で差し押さえられた写し面の貸出簿には、叔父の管理会社への搬出番号があった。

 事件の前日。

 それと、私の名で提出された証明書の控え。

 記録に基づく捜索であって、私が聞いた心の声を理由にしてはいない。


「家の金で、何を買ったんですか」

 私は尋ねた。

 叔父が、顔を背ける。

 机の引出しと、書庫が確認されていく。

 私は椅子へ座ったまま、叔父を見ていた。

 心の言葉は聞こえない。

 聞かなくても、叔父が私へ説明をしてこなかった年月は変わらない。


 補佐官が戻った。

 搬入の受領書。司教の部下へ渡した金の控え。

 私の古い手紙をなぞった、筆跡の練習紙。

 それぞれ、見つかった場所と時刻が記録される。

 叔父が、ようやく口を開いた。

「家を守るためだった」

「誰から?」

「お前が王子妃になれば、家産は王家の監査を受ける。私がここまで整えてきた物を、取り上げられる」

「父と母が、私へ残した物です」

「私は、お前を育ててやった!」

 その声に、身体が縮みかけた。

 机の下で、私は自分の手を握った。

「育てた相手なら、殺されても黙っていていいんですか」

 叔父が、言葉を失った。


 ベラが、叔父と管理会社の責任者を、別々の部屋へ移した。

 これから、記録と本人の供述を確かめる。

 金の行き先も、手紙が実際に作られた過程も。

 今日見つかった紙だけで、全ての結論を出すわけではない。


 私は、廊下へ出た。

 脚が震えている。

 カイが、近くに来た。

「よく話した」

「怖かったです」

「分かる」

「……分からないかもしれません」

 叔父に笑ってほしかった子どもの私は、まだどこかにいた。

 今日の言葉で、一度に消えはしなかった。

 カイは、うなずいた。

「全部は、分からない」

 その答えに、私は寄りかかれた。


 彼の手袋へ、指を置く。

「お昼の約束、まだ間に合いますか」

「少し遅い昼になる」

「それでも」

「行こう」

 扉の外には、私が自分で決めた行き先があった。

 家族の許可を待たずに、私はそこへ歩いた。

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