第13話 私の名前を、間違えずに呼んで
訂正の日、王都は晴れていた。
あの処刑台は、もう片づけられていた。
代わりに、審察局の机が置かれている。
私は、壇へ上がる前に立ち止まった。
乾いた木の匂いなのに、雨の匂いがした気がした。
カイが、手を差し出した。
私は、それを取った。
今日は、二人とも手袋をしていた。
裁判所の書記が、私の名を読んだ。
聖女アルマ殺害に関する認定の取消し。
襲撃への関与の疑いも、所在記録、写し面の使用者の供述、偽造文書とその作成過程を確認して、除かれた。
使用人の一人は、私の顔を見たと思い込んだ経緯を語った。
もう一人は、金を受け取り、見ていないことを証言したと認めた。
同じ間違いの中に、違う責任があった。
叔父は、家産の不正管理と、虚偽の証明、襲撃を隠すための偽造への関与を問われた。
後見と管理の権限は停止され、私の財産は、独立した管理人の照合を経て返還される。
金の一部は既に使われ、すぐ全額が戻るわけではない。
それでも、もう叔父の許可でしか使えない金ではなかった。
グレゴルは、大司教の地位を解かれた。
死亡証明の偽造、アルマの不当な拘束と祝福の採取、虚偽の証拠を使った訴追への関与。
協力者も、それぞれの記録と行為を調べられる。
刑の判断は、別の公判で行うという。
その前に私の訂正を出すことが、必要だとベラは言った。
犯人の全てが裁かれる日まで、私が犯人扱いのまま待つ理由はない。
オスカーが、壇へ上がった。
「私の判断に誤りがあった」
彼は、集まった人たちを見た。
「ミラ・アルゼンは、聖女を殺していない。本人の説明を聞かず、虚偽の証明を信じ、死刑判断を支持したことを、ここに撤回する」
人の声が、揺れた。
彼は、私へ向き直った。
「婚約の解消は、彼女の意思を尊重して維持する。彼女に、罪があるためではない」
私は、まっすぐ聞いた。
私が命を失いかけたとき、彼はこうして立ってくれなかった。
今日立ったことは、受け取る。
それで、過去がなくなるわけではない。
王家は彼の公務を一定期間停止し、今回の経緯を監査の対象にした。
誤りの代金を、私との復縁で支払わせることはなかった。
私は、自分の番に前へ出た。
手にした紙は、ベラと相談して書いたものだ。
「私の名で、事実と違う記録が作られました」
声が少し震えた。
「聞かなかった人がいました。聞いてくれた人もいました。私は、後者の人たちのおかげで、今、ここにいます」
カイを見ないようにした。
見たら、声が詰まりそうだった。
「私の名前を、間違えずに呼んでください。殺した人でも、救われた悪役でもなく、ミラ・アルゼンと」
拍手は、すぐには来なかった。
人たちは、何をしたらいいのか迷っていた。
それでよかった。
私が明るく手を振れば、みんな安心して、この話を終わらせてしまう。
そんな役まで、私が引き受ける必要はない。
壇を降りると、カイが言った。
「ミラ」
ただ、名前だけ。
私は、彼を見た。
「呼んだだけだ」
彼が、少し困った顔をした。
「……正しく、呼びたかった」
私は、笑った。
そのあとで、涙が落ちた。
あの台で殺されるはずだった私は、自分の名前で呼ばれて、ここを降りた。




