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【完結】兄が異世界に行った弟の話  作者: 八月森


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14話 理由ならあるんだよ

「……なんだ、てめぇらは」


 渡り廊下の突き当り、T字路から続く左右の廊下にそれぞれ四、五人ずつ、不良と思しき男子生徒共が集まって道を塞いでいた。俺は苛立ちを隠さずそいつらを威嚇するが……


「へへへ……」


 不良共は下卑た笑みを浮かべるだけで全く退く様子がない。それどころか、こちらの行く手を阻むかのように進路を遮ってくる。どういうつもりだ、こいつら……!


「どけよ! こっちは急いでんだ! てめぇらみたいなのに付き合ってる暇は……!」


「どかねぇよ。お前ら、古城(こじょう)を探してんだろ?」


「なんだと……?」


 なんでこいつらがそれを知ってやがる……? ……まさか……!


「まさか、てめぇらが小春(こはる)を……!?」


「おっと、そいつは誤解だ。オレらは、もしここを通る奴がいたら邪魔するように言われてるだけなんでな」


「言われてる? 誰にだ!」


「そいつは言えねぇな。守秘義務ってやつだ」


 この場を仕切る目の前の男は、気取った調子でそんな台詞を口にする。覚えたての言葉使いたがる中学生か、てめぇは。


 と、そこで、ふと気づく。

 目の前の男、それにこの場にいる何人かも、以前俺に絡んできたあの不良グループの面々だということに。

 ただ……


(あの堀田(ほった)って奴はいやがらねえ……あいつが小春を連れ去って、こいつらに足止めさせてるのか?)


 いや。それは今考えても仕方ない。とにかく――


「言いたくなきゃ言わなくてもいいが……邪魔するってんなら、力尽くで押し通らせてもらうぜ!」


「ハっ! 来いよ、一ノ瀬(いちのせ)弟! オレらもてめぇにこの怪我の借りを返せる日を待ちわびてたんだ――ぜ!」


 台詞と共に殴り掛かってきた男の一撃をかわし、カウンターで顔面をぶん殴る。


「おらぁ!」


 ボグっ――!


「ぐぶっ!?」


 くぐもった悲鳴と共に吹き飛んでいく一人目の男。それを皮切りに他の不良共もこちらに殺到してくる。


 二人目が突っ込んできたところを先制して殴り倒し、三人目が殴り掛かってくるのを腕でガードするが、側面から回ってきた四人目に身体を蹴られ、体勢を崩す。


 それでも踏ん張り、組みつこうとしてきた五人目を膝蹴りで迎撃したところで――


「そこまでだ、一年坊!」


 後ろから聞こえる不良の声。見ればそいつは、秋月(あきづき)を背後から片手で押さえつけ、もう片方の腕を振り上げ威嚇している。


(しまった……!)


 頭に血が上りすぎて俺一人じゃないのを忘れちまっていた。こちらの動きが鈍るのを見て、秋月を人質に取った男はニヤリと笑う。


「よーし、動くんじゃねぇぞ一年坊。動いたらどうなるか分かってるよなぁ。この嬢ちゃんのかわいい顔が台無しになっちm――」


 男の台詞は最後まで続かなかった。

 囚われていたはずの秋月は、頭を後ろに勢いよく倒し、自身の背後にいる男に頭突きを喰らわせたのだ。


「がっ!?」


 鼻を(したた)か打ち付け、男がわずかに怯む。そこに間髪入れず後ろ足を跳ね上げ、彼女は男の股間を的確に蹴りつける。


「おふっ……!?」


 鍛えようのない急所を蹴り上げられ、背後の男が悶絶する。そこへ――


「――フっ!」


 ズダン――!


 と、廊下の床を強く踏みつける音が響くのと共に、秋月の背中が男を強烈に打ち付けた。


 小柄な一年生女子に打たれたとは思えないほど男は吹き飛び、やがてグッタリと動かなくなる。しばし場を沈黙が支配した。


 いわゆる鉄山靠(てつざんこう)(正確には貼山靠(てんざんこう)らしいが)というやつだ。中国武術の一流派、八極拳の代表的な技。日本では、某格闘漫画や某3D格闘ゲームで一躍有名になったのを憶えている人も多いだろう。……なんでそんなもん使えるんだこの女。


「実は、少々護身術をかじっていてね」


 護身術ってレベルじゃねぇだろ。


「とはいえ、女子高生の細腕だ。筋力差を補うために時には急所も狙わせてもらう。人数もそちらのほうが多いんだ。まさか卑怯とは言うまいね?」


 若干怯んだ様子の不良たちから視線を切ると、秋月は次に俺に目を向けた。


「見ての通り、自分の身は自分で護れる。だから君は早く行きなよ、晴人(はると)くん」


「秋月……けど、お前……」


「ぼくなら大丈夫。この程度、物の数にも入らないさ。それに、こんな明確な足止めがあったんだ。この先に小春さんがいるのは間違いない」


 確かに、小春が屋上にいる可能性はグッと高まった。急いで向かうべきなのも分かる。だが……


(……本当に、任せていいのか? いくら腕が立っても、男共に数で押されればどうなるか分からない。そんな危険を冒してまで……)


「お前、どうしてそこまで……」


「何言ってるんだい。親友だろう?」


 俺の懸念を一笑に付すかのように、秋月(ねい)は静かに微笑んだ。


 いや、しかし、お前が良くても、お嬢様とそのお付きの二人は……


「後輩にいいところは奪われてしまいましたが」


 耳に届いたお嬢様の声。見ると、彼女に手を出したのであろう不良が腕を掴まれたままひっくり返っている姿が目に入る。投げ飛ばされたのだろうか。


「護身術の類なら、わたくしも(けい)も一通り身につけていますわ。ですからあなたは彼女の言う通り、古城小春の元に急ぎなさい」


「ここを片付けたら私たちも後を追いますから。行ってください、晴人さん」


「あんたらまで……」


 数瞬、悩む。先刻の自問をもう一度繰り返す。が、結局俺は前を向き、声を張り上げた。


「……分かった、先に行かせてもらう。怪我すんじゃねぇぞ!」


 そして、道を遮っていた男の一人を殴り倒し、右の廊下へ向かって駆け出した。


   ◆◇◆◇◆


「……やれやれ。やっと行ったか」


 晴人くんが廊下の向こうに駆けていくのを見届け、ぼくは静かに息をついた。

 普段は人を遠ざけているくせに、肝心なところでは甘いのだから、本当に世話の焼ける親友だ……おっと。


「この先には行かせないよ」


 最初に晴人くんに殴られた不良が起き上がり、彼を追いかけるべく駆け出そうとしていたところを、ぼくは先回りして遮った。男は激昂したようにまくし立てる。


「グっ……クソ! なんなんだ……なんだってんだ、てめぇら! どうしてあのガキをそうまでして助ける! そこまでする理由があんのかよ!」


 台詞と共に繰り出される拳をかわしながら、ぼくは言葉を返した。


「君のような手合いに懇切丁寧に説明する気はないけれど……理由ならあるんだよ。少なくともぼくにはね」


「ふざけんなぁぁあ!」


 混乱しているのか、よく分からない怒りと共に、男は右の拳を大振りに打ってくる。

 それを左手でわずかに逸らし、懐に潜り込んだぼくは……相手の胸にカウンターで、右の肘打ちを打ち込む!


「ガっ……!?」


 衝撃に意識を刈り取られ、男は仰向けに倒れた。しばらくは起き上がってこないだろう。


(……どうして、か)


 それはさっき晴人くんにも聞かれたことだ。ぼくが彼を助ける理由。


 そんなもの決まっている。ぼくが彼に――晴人くんに好意を寄せているからだ。


 いや、より正確に言えばぼくは、『小春さんを好きな晴人くんが好き』なのだ。離れてしまった幼馴染との距離に苦悩し、それでも前に進もうと足掻く彼を見ているのは面白いし、純粋に応援したい。


 もし仮に彼の気持ちがぼくに向くようなことがあれば、ぼくはむしろ彼への好意を失ってしまうかもしれない。少なくとも、今ほどの興味は抱けなくなるだろう。親友として傍で見守っていられるこの関係が、ぼくにとってはちょうどいいのだ。


 だから晴人くん。ぼくの親友。必ず小春さんを助けて、二人の無事な姿を見せてくれ。君たちが数多の障害を乗り越えて結ばれる様を、どうかぼくに見せてほしい――


「どっせーい、ですわ!」


 不意に聞こえたお嬢様のお嬢様らしからぬ台詞にそちらを見れば、不良の一人が彼女の手によって宙を舞っているところだった。


 合気道か、柔道か。天王寺(てんのうじ)光姫(みつき)女史の腕前は確かなもので、男たちは何度も地面に寝かされていた。


 そしてそれ以上に、藤木戸(ふじきど)蛍女史の活躍が目覚ましい。男たちの攻撃を素早い身のこなしでかすらせもせず、空手由来と思われる打撃で次々と打ち倒していく。しかもそれを、主人を護りながら行っている。


 その忠心ぶりから、彼女の家は忍びの家系などと噂されることもあるけれど……この様子を見るに、あながち外れてもいないのかもしれない。


「さて、ぼくも負けていられないね」


 まだ不良たちの中には五体満足で戦意も失ってない者が残っている。ならば彼らが晴人くんの後を追えないよう、その意気を挫く必要がある。


 ぼくは再びケンカに混ざるべく、廊下の床を強く蹴った。

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