第18話:更衣室で起きる定番
体育の授業は男子生徒から一番嫌われている科目である。理由は様々あるが、中でも特に多い理由は更衣中に覗きを働く不届き者が後を絶えないこと。
盗撮行為は伝統だ……、馬鹿げた発言を恥ずかしげもなく堂々と言及する輩がこれまでに多く学園から追放、停学処分を受けているにも関わらず同じ轍を踏まんとする女子生徒は減るばかりか年々増加傾向にある。
むろん、学園側も男子生徒も何もせずただ手をこまねいていない。
男子生徒には専用の更衣室が与えられて、学園内において唯一女子生徒立ち入り禁止区域に設けられている。
そこを利用する男子生徒も日々、隠しカメラや盗聴器の類がないか定期的に調べている――にも関わらず、彼女らは監視の目を掻い潜って自らの欲を果たしているのだから、雷志は恐怖せざるを得なかった。
今正に、件の更衣室で体操着に着替えている。
「一人に与えられるロッカーは大きいし、中も広い……たった数人が使うっていうのはもったいない気がするな」
「僕らとしては嬉しいけどね」
「最初は落ち着かなかったけど慣れればどうってことないよ雷志くん」
「そういうもんか……それで、だ。さっきからお前は何をやってるんだ? ピッピッピって少しうるさいぞ」
体操着に着替えたならば体育館へ行けばよいというのに、一人の生徒は黒くて鈍く輝く小さな機械を手にしたまま室内をうろうろとして一向に出ていこうとする気配がない。
「決まってるじゃないか、探してるんだよ」
「探してるって?」
「盗聴器や隠しカメラの類だよ。これはその機器から発する電磁波を捉える探知機さ」
何故お前はそう得意げなのか……、雷志が怪訝な眼差しを向けている男子生徒は眼鏡をくいと挙げると、ふんと鼻を鳴らして探知機を手にしたまま室内を徘徊し続ける。
――ぴっ……ぴっ……ぴっ……――
一定のリズムを刻む電子音は、更衣室へと入ってからずっと変化がない。
おかしい、とその男子生徒が不意に呟いた。
それからも必死に探知機を至る個所へと翳したもののやはり、これと言った変化は一度も表われはしなかった。
以上から一つの結論が導き出される。
雷志は誰よりも先にこの結果に納得していたが、一人だけ……探知機を持つ手をわなわなと打ち震わせている彼だけが納得していない表情で、まるで抗議でもするかのように声を荒げた。
「そんなはずがない! 盗聴器や隠しカメラが一つも仕掛けられていないなんて……!」
「いや、それが普通なんだけどな。聞き方を変えると盗撮とかしてくださいって言ってるように聞こえるぞ」
「だ、だって本当におかしいんだ! これまで何度も盗撮とかをしてきた女子なんだよ! それが急に何も仕掛けてこないなんて……こんなのありえないよ!」
「えぇ……」
そこまでして驚愕に値するほどの出来事なのか。
おかしいと呟いてはめげずに探索を続ける男子生徒に雷志は冷ややかな目で見やった。
いずれにせよ、このまま探したところで彼が求める成果は得られそうにないのは雷志のみならず誰しもが理解していた。
どの道このままでは授業に遅れてしまう、彼一人のために被害を被る必要はないし、放置しておけば自分達が遅刻扱いを受ける心配はない。
これから共にすごしていく数少ない仲間を放っておけない。
そう考えた雷志は調査の手を休めようとしない彼の手を取ると、そのまま更衣室の外まで引っ張り出していく。
「な、何するんだ雷志くん!」
「もういいだろ? このままだと本当に遅刻するぞ」
「で、でも……」
「だからでももパレードもカーニバルも……ってこれは前にもあいつらに言ったな。とにかく、見つからないんだったらそれでいいだろ」
「あ、ま、待ってよ!」
尚も調査を続ける姿勢を崩そうとしないその男子生徒には、さしもの雷志も頬をひくひくと釣り上げるしかない。
じたばたと暴れている彼を拘束しておくのも、いささか嫌気を感じてきた。
(いったい何がそこまでしてこいつを駆り立てるんだ?)
まさか悪霊の類にでも取り憑かれているのではなかろうか……、異常すぎるほどの執着心から雷志の脳裏にそんな非科学的な思考がよぎった。
「もう、いい加減にしなよ田中くん!」
「ほら、授業遅れちゃうよ!」
「み、皆まで……!」
他の生徒達にも促されてようやく観念した男子生徒は、何度も更衣室の方を振り返りながらも体育館へと向かう。
明らかに後ろ髪を引かれている挙措に雷志は依然怪訝な眼差しをもって彼の背中を追っていた。




