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自宅警備員=ニートではない  作者: 七城 七瀬
第三章 屍の帝國
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愛と友情のお見舞いイベント~珠理&六花編~

 要がお見舞いに来た翌日。


「雨音に何したの!?」


 俺の家に押しかけてきた珠理が開幕早々、疑問を投げかけてくる。投げるっていうか「背負投げー」みたいな感じ。


「ちゅーか? ちゅーをしたのか!?」


 六花も珠理に続くようにして俺に訊く。というか「ちゅー」とか言わないで……。当たってるけどさ。他人に言われると恥ずかしくなっちゃうじゃん。しかも表現が露骨だから尚更。

 こりゃ雨音も泣いて帰るよ。どうせ同じ様なこと訊いたんだろう。


「……帰ってくれ」


 ものすごい剣幕で問いかけられた俺はげんなりとした態度で言う。


「嫌よ! 悶々として眠れないのよ! このままじゃ不眠症になっちゃうわよ!」

「ずっと起きてりゃその内眠くなるよ。気長に待ってろ」


 今日は珠理と六花がお見舞いに来てくれた。来なくていいのに。ルンルン気分で扉開けた俺の感情の高ぶりを返してくれ。


「まぁそう邪険にするな。ほら、ティーカップと角砂糖を持ってきたぞ。とりあえず中に入れてくれ。そして全部ゲロってくれ」


 本当にみんなでアップルティー作る気らしい。何そこだけ律義になってるんだよ、いらないだろ。そしてそれを口実に人の恋愛事情を根掘り葉掘り聞き出そうとしている。そっとしとけよお前ら……。それからあのティーパック若干変な匂いしたぞ? 飲んだら別の意味でゲロることになるぞ?


「……二人共こういうの好きなの?」

「一応これでも辛うじてギリギリ女子だからね。恋バナは好きよ、女子力低い私でも」

「ボクたちも生物学上は女に分類されるからな。まともに女子扱いされたことないけど」


 なんでそんな悲しい言い方するの? 二人共ちゃんと女の子だと思うよ?


「いいよ、もう入れよ……。俺が悪かったよ……」


 俺は少し潤んだ目尻を人差し指で拭いながら二人を自室まで連れて行った。


「適当なとこ座ってくれ」


 そう言って俺はベッドに腰を下ろす。珠理たちも部屋の中心にあるローテーブル付近に座りこんだ。


「前来た時から思ってたけど理人の部屋ってシンプルすぎない? 小ざっぱりしてるって言うか必要最低限の物しかないって言うか廃人部屋っていうか」


 珠理が俺の部屋をぐるりと見回した後、ポツリと呟く。

 俺の部屋にはテレビ、パソコン、漫画にラノベ、そしてゲーム機少々という絵に書いたようなダメ人間の部屋だ。そこそこ精密な電子機器が多いため、余計な物は置かないようにしている。というかいらないのだ。俺が中学生まではこの部屋には本当に何もなかった。調べ物用のパソコンくらいしかなかった。はっきり言って勉強と寝るためだけの部屋だったのだ。


 それがニートなんかになってからはこんな有様。半年でここまで買い揃えた俺の活動力はすごい。それ以上に父さんと母さんの稼ぎがすごい。ありがとう、そしてごめんなさい。

 まぁ、今となってはこの電子機器は使う時があまりない。というか使えない。


 俺たち自他宅保護兵の家にはかなりハイスペックなソーラーパネルと自転車のペダルをこぐタイプの人力発電機が設置されていて、一応それなりに暮らしていける電力はある。

 だが、あまり無駄遣いしていると、ソーラーパネルだけでは賄えなくなる。人力は疲れるから嫌だ。何が楽しくて室内で自転車をこがなければいけないのだ。それにそんなに電気が溜まらない。


 今更ながら説明するが、兵士の家はかなり最先端の技術で構成された設備でガッチガチにグレードアップされている。やれ貯水タンクだ、ソーラーパネルだと、俺たちの家は未来の家みたいになっている。「ぼくがかんがえたさいきょうのおうち」って感じだ。


 どれもこれも俺たちの戦いをサポートするために開発されたものだが、こんなすごい技術を持っている人類がどうして滅びかけてるんだろう? にわかには信じがたい。科学が勝っているのか人類が勝っているのかよくわからない。

 いずれにせよ、今の俺の部屋には大して必要性のないものばかりだ。


「元神童のくせに勉強机とかもないじゃない。この机で勉強してたの?」


 俺の部屋にある日用品はベッドとローテーブルくらいだ。


「元々はあったけど受験に落ちてからは教科書や参考書もろとも捨てたからな」


 勉強机なんて俺にはいらない。


「……ごめん、余計なこと言ったわ」

「というかボクは今の話を聞いてよかったのか? 理人がニートになった理由がわかってしまったぞ?」


 そういや、六花は俺がニートやっていた理由は教えてないんだっけ。


「別にいいよ。東地区のメンバーは三人共知ってるし、六花ももうメンバーみたいなもんだし、何より同類だし隠す必要もない」

「そうか、そう言ってもらえて嬉しいよ」


 六花は照れくさそうに俯き、細い指先でほんのり赤く染まった頬を掻く。


「それから四月一日さんから聞いたんだけど、お前珠理の家の近くにある公民館に住んでるらしいな。勝手に私物化していいと思ってるのか? なんか変な薬品とか機材とかも持ち込んでるとも言っていたけど本当か?」

「その通りだよ。古いし畳臭い場所だが慣れればいいものだ。住めば都になるものだ」


 全く悪びれもせず淡々と言ってのける。

 どうにも六花はこの東地区でしばらくの間暮らすらしい。昔は千代浦町の方で住んでいたこともあり、土地勘もあるということで特別に許可したと四月一日さんは言っていた。その代わり、危ないから千代浦町ではなく、俺たち四人の家の近くに住めとのことで、公民館がある珠理の家の近所に住むことになった。それ自体は別にいいのだが、


「有毒ガスとか巻き起こすなよ? 珠理の家近いんだから巻き込まないでくれよ?」

「お、起こさんわい!」


 些か不安が残ってしまう。

 六花は戦闘要員じゃないからゾンビに襲われるた時対処できない。この前みたいに家ごと襲ってくるゾンビもいるわけだし、正直心配だ……。所構わず硫酸ぶちまけられるのも困る。


「とりあえず、戸締りはちゃんとしとけよ?」

「わかっている。そこまで愚かではないよ」


 どの口が言っているのだか……。

 ベッドの上であぐらをかき、頬杖をつきながら呆れがちにふぅと短い息を吐く。


「それより、俺がいなくてもみんなしっかり戦えてるんだな」

「そうね、別に困ったことはないわ」


 その一言は思いっきり金属バットで頭を殴られた衝撃に近かった。


「えっ? …………俺、いらない子?」


 なんだか「お前みたいな役立たずの脛齧りなんていらねーよ、さっさと死ねよゴミ野郎。そもそもお前みたいな奴に生きる権利があると思っているのか? ねーよ、笑わせんな! 言っとくがお前なんて無価値だぞ。ニートなんて害悪以外の何物でもないんだからな。公害に等しい……いや、それ以上か。とにかくお前なんて人間として扱うのもおこがましい。くたばれよ、頼むから。あ、別に死んでも異世界とか行けないから。お前みたいな奴、ニートがたむろする異世界でもお呼びじゃないから。まぁ確かに異世界に行けるのは存在全てが人の神経を逆撫でするような不快な奴だからお前も当てはまってるけど、どうせお前異世界行っても流れ弾に当たって即死みたいなオチになるにきまってるから。普段は温厚だけどキレたらやばいみたいな感じにキャラチェンジしたらワンチャンあるんじゃないかって考えてるなら無駄だから。全然かっこよくないから、むしろきもいから。わかったらとっとと死ね。そして転生するな。黒歴史が服着て歩いてるようなやつが!」と言われた気分だ。俺の被害妄想が半端じゃない。つーか長い。そしてウザイ。こんなの誰かに聞かれたらやばい。

 仮に聞かれたとして、「こいつ異世界になんか恨みでもあんのか?」みたいなつまらないことを思った人は思慮が浅くて心が汚れています。


 考えてみれば、俺って一番ゾンビを倒していない。

 順位付けするなら上から雨音、珠理、要、そして俺となる。そんなわけで俺がいなくても大して変わりがないのだろう。はっはっは、マジで死のうかもう……。


「そ、そんなことないわよ! 理人はここぞって時いつもいろんな知恵で助けてくれるじゃない! もっと自信持って!」

「……土壇場じゃなきゃ活躍しない俺って必要かな? それにさ、俺って結構運任せの姑息な知恵しか持ってないわけで……一歩間違えればみんなを危険に晒してるだけのような……」


 あれ? なんだろう? なんかすごく切ない……。卑屈になっちゃう……。


「いやいやいや! 理人がいなきゃ私たちはダメダメよ!?」

「そうだぞ! みんな理人の帰りを待ってるんだ!」

「二人共……」


 俺は泣いたよ。咽び泣いたよ。


「ん? ちょっとちょっと! 理人と雨音のラブストーリーがおざなりになってるわよ! 結局何があったのよ?」


 俺の肩をぽんぽんと叩きながら慰めていた珠理が突然声を上げた。

 いい感じだったの雰囲気をぶち壊すようなことやめてよ……。もう……しつこいなぁ……。

 目頭を指でほぐしながら今度は大きなため息を吐く。

 結局、昨日要に話したことを一から二人にも説明することになった。




「うっひゃぁぁぁ……胸焼けしそう……」


 一通り語った後、珠理は朱色に染まった顔を両手で押さえあわあわ言っている。なんだかんだ言ってこいつもこいつでちゃんと乙女だったりする。

 いつからかなくした感情を珠理は珠理なりに探しているのかもしれない。きっと変わりたいと思っているのは俺や雨音だけではないようだ。みんな何かしら思うところがあるのだろう。


「もういいだろ? 雨音には余計なこと言うなよ?」

「わかってるわよ。いやぁスッキリしたわ。それじゃあ私ら帰るけど、明日はなんとしてでも雨音を連れてくるから頑張ってね。絶対に落としなさいよ」

「これでヘタレたら今後理人のことを男だと思わないからな」


 二人共いらないことを言ってスタスタと足早に帰っていった。


 またぽつんと部屋に一人。

 窓から眺める空模様はどっかの誰かさんの顔みたいに赤く染まっていた。


次話は8月13日です。

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