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自宅警備員=ニートではない  作者: 七城 七瀬
第三章 屍の帝國
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愛と友情のお見舞いイベント~要編~

 暇だ。


 控えめ言ってものすごく暇だ。何もすることがない。さっきから瞬きと呼吸しかしていない。

 定年退職した無趣味のサラリーマンのようだ。日々ぼーっと過ごし、家族からは邪魔者扱いされ、家庭に居場所がない惨めな老人の気分だ。

 やばい、このままだと盆栽に手を出してしまいそうだ。


 どうして俺がこんなに暇しているかと言うと、四月一日さんから自宅休養との指示があったからだ。

 先日、ゾンビに肩を噛まれ、生死の境を彷徨ったことがあり、精密検査の後に自宅休養となったのだ。

 体の方は幸いなんともなかった。異常なしだそうだ。だが、肩の傷は癒えておらず、利き腕の方なのでまともに戦えない状態なので前線に立てないのだ。役立たずだから。そんな二重で立てない俺は朝から晩まで寝っ転がっているしかないのだ。


 俺の臨時休暇は二週間。現在五日目。初日は楽しかった。初日だけは楽しかった。馬鹿みたいに「仕事なんてやってられるかよ! 休み最高! 無職万歳!」なんて真夜中に叫び倒していた俺だが、翌日から何もすることがないことに気付き、それ以降は廃人同然に無駄に日々を過ごした。


 俺はいつから仕事が生きがいの人間になっていたんだ。一体俺に何が起きたというのだ。こんな人間になるだなんて思ってもいなかった。目を覚ませ俺。いや、目を覚ましたから仕事人間になったのか? ならもう一度眠ろうか? ダメだ、永眠してしまいそうになる。


 平日昼間からゴロゴロゴロゴロ……。俺ったらダメ人間みたい。……すいません、前からですね。


 この数日まともに声すら出していない。俺、休暇明け声出るかな? 声の出し方忘れているんじゃないだろうか? 不安だ……。

 だって、毎日毎日睡眠時間十七時間超えだぞ。一日の半分どころか三分の二以上寝ている。きっと俺の前世はナマケモノ。前世から何も学んでいない。むしろ退化しているまである。


 みんな今頃はゾンビを倒してるんだろうな……。なんだろう、なんか罪悪感ある……。俺こんなことしてていいのかな? ものすごく申し訳ないんだけど……。

 なんて、考えているともう時計の針は午後五時を指し示していた。

 今日も無駄に一日を過ごしてしまった。


 はぁと短いため息を吐いた瞬間――インターホンが鳴り響いた。

 すぐさまベッドから降りて玄関に向かう。


「よっ、見舞いに来たぞ。調子はどうだ?」

「要……」


 扉を開けるとそこには軽く手を上げ気さくな挨拶をする要がいた。仕事帰りに寄ってくれたみたいだ。


「肩がまだ痛むだけだ。熱もとっくに引いたからな」


 久しぶりに要の顔を見た。そして同時に安堵する。よかった……俺ちゃんと声出る。


「そっかそっか。そりゃなによりだ。安心したよ、大丈夫そうで」

「悪いな、わざわざ見舞いなんて。気遣ってくれなくてもよかったのに」


 なんて言うものの、インターホンが鳴った途端に玄関まで駆け出したのだが。どうにも俺は誰かお見舞いに来てくれないかなーみたいな淡い期待をしていたのだ。


「そう言うなよ。心配くらいさせてくれよ、友達なんだし。というか俺で悪かったな」

「何で? 全然嬉しいぞ」


 気遣いなしにお見舞いという行為はありがたい。俺は寂しいと死んじゃうもん。ハムスターかよ。

 そもそも俺、風邪で学校休んでも誰も来てくれなかったし。プリントすら持ってきてくれなかったし!

 そんな悲しい学生時代を送った俺から言わせてもらえば、お見舞いイベントなんて空想上のものでしかない。ドラゴンやペガサスや仕事を楽しいと宣う社畜に等しい。特に最後のやつは絶対いない。間違いない。ツチノコとかカッパとかUMAの方がいる確率高い。


「雨音の方がよかっただろ?」

「……え?」


 瞬間――額に脂汗がうっすら浮かんでくる。

 雨音に告白されたことや、告白したことはまだ誰にも言っていない。二人だけの秘密にしておこうと約束したわけではない。というか、俺と雨音って付き合ってるのかどうか定かではない状態なのだ。あの後、いろいろゴタゴタしていてちゃんと話す機会がなかったのだ。


 そんなわけで現在俺と雨音の関係はふわふわしている。両想いだけど恋人ではないというなんともややこしい状態だ。どうにかしたいものの、俺は自宅療養中で外出禁止を命じられている。雨音は雨音であの告白以降音沙汰なし。「これから私、どうなっちゃうの~」みたいな感じなのだ。

 なのにも関わらず、要は俺たちの関係を悟っているかのように言う。


「……もしかして雨音から聞いた?」

「聞いたっていうか自白させたって言う方がしっくりくるな」


 ちょっと待って! どういうことなの? 自白って何? 俺の好きな娘、容疑者みたいな扱いされてるよ!


「珠理と六花が質問攻めにして無理やり言わせてたぞ。昨日までは何訊かれても『何もなかったよ』って言ってたんだけど、今日になって、『理人に好きって告白しました!』ってやけくそになって言ってた」


 あのクソアマ共! 雨音は下世話な話苦手なんだぞ!


「雨音はその後、顔真っ赤にして涙目で逃げたけどな」


 うわー、目に浮かぶよその姿。


「そんな感じだから俺も気になって見舞いを口実に来てみました」

「お前も結局珠理たちと同じ様なことやってるじゃねーか。野次馬根性丸出しかよ」


 やばいな、早く復帰しなければ雨音が珠理と六花に茶化される。


「はぁ……。わかったよ、話してやるからとりあえず中に入ってくれ」


 いずれ話すつもりだったし、ここまで知られているなら無駄に引っ張る意味もない。それに、俺が話さなければ要の探究心の矛先が雨音に向かってしまう。

 観念し、要を自室に連れて行く。


「まぁ、話してやるって言っても、大体は雨音から聞いてるんだろ?」

「いや、雨音が告ったってことしか聞いてないぞ。でもさ、独特の雰囲気みたいなのが……」


 なんだそれ?


「ここ数日やたらにこにこしてるし、鼻歌とか歌ってるし、機嫌いいし。見ただけでいいことあったんだなって思うくらい浮かれてる」


 やだ! 雨音さんったらわかりやすい! 俺なんだか恥ずかしいよ……。


「それでみんな噂してるんだよ。絶対付き合ってるって。で、実際どうなの?」

「俺が聞きたいよ……。生殺し状態なんだよ……。察してよ……」


 付き合ってるって言っていいのこれ? 変に調子こいたこと言った後で、雨音から「彼氏面しないでよ」みたいなこと言われたらうっかり舌噛んで自殺する自信ある。


「あの後、大変だったんだからな! 雨音は泣くし、告られるし、告ったし!」

「ん? 最後告ったって言った? え? 何? 結局理人も雨音のこと好きだったの!?」

「……まぁ、そういうことだ」


 実際気付いたのはゾンビに噛まれる寸前だったけど。


「やっぱりかよ……。でもさ、それなら相思相愛だったんだし、付き合ってることになるんじゃねーの? 告った後どうなったの?」

「それがさ、雨音顔真っ赤にして『今日は帰りますっ!』って言って逃げるようにして帰った」


 だから話がややこしいとこで途切れ、俺は生殺し状態で放置されている。雨音は普段おっとりしているから知らなかったけど、あいつ相当ヘタレだぞ。まぁ、ニートって大概ヘタレなんだけどさ。むしろヘタレじゃなければニートじゃないまである。


「なるほど、やけに話がこじれてるな。これはどうしようもないな。『付き合ってくれ』って言ったらよかったのに……」

「そのつもりだったよ。そのつもりだったけど……」

「けど?」


 キスした後、気まずくなって、そのまま恥ずかしさでどうにかなった雨音に逃げられたとは言えない……。


「いろいろあったんだよ……。察しろ」

「いや、わかんないんですけど! お前ちょいちょい察しろって言うけど、察する程情報を与えられてないんだけど!」

「うっさいわ! 俺だっていろいろ渦巻いてるんだよ! 彼女できたってはしゃぎたいんだよ! それなのに雨音は音沙汰なしだし! 俺は外出できないし! 無理して外出してゾンビに襲われたら今度こそ確実に死ぬし! どうしろって言うんだよ!」


 溜まりに溜まった鬱憤を怒号に乗せ発散させた。要は逆ギレした俺を咎めることもせず、ただうんうんと頷いてくれた。

 ごめんね、こんなのが相棒で……。

 一通り鬱憤をぶちまけた俺に要は優しく微笑み、


「お前全然休まらないな……。特に精神面が……」


 同情の一言を告げた。

 俺は同情が欲しいんじゃないんだよ? 彼女が欲しいの。


「話は大体わかったよ。悪かったな押しかけて。俺はそろそろ帰るよ。なんか可哀想になってきたし……。あ、そうだ。これお見舞いの品」


 そう言って鞄から白いビニール袋を取り出した。受け取った俺は中身を確認する。


「何これ?」

「アップルティーのティーパック。お見舞いって言ったらリンゴとかのフルーツの詰め合わせが浮かんだんだけどそんなの手に入らねーからこれでいいかって。似てるし。俺んちに眠ってたから全部あげる。腐ったりとかしないと思うから飲んでくれ」

「馬鹿なんじゃねーのお前!」


 お見舞いの品が余り物のティーパックって……。お見舞いのセンスゼロか! 今のご時世じゃフルーツの詰め合わせとか入手困難なのはわかってるけど、それにしてもティーパックってどうなの? これただの在庫処分っていうかいらないものただ単に押し付けられただけっていうか……。いや、まぁ確かに久しぶりに見たけど、せめて飲める状態にして渡してくれよ!

 つーかこれ大丈夫なの? 茶葉って酸化や湿気に弱いんだよ? カビとか生えちゃうんだよ?

 まぁいいか、飲めそうになかったら消臭剤として使ってやろう。茶葉って結構便利なんですよ? これ豆知識。


「明日は珠理と六花が砂糖とティーカップ持ってくるから」


 なんでみんなでアップルティー作るんだよ! 要一人で作れるだろーが! これ何の嫌がらせ?


「雨音に絶対お湯持ってこさすから楽しみにしとけ。その時にゆっくり話な」


 なるほどね! 要さん無駄にかっこいいよ! 何柄にもないことしてるの?


「とりあえず……ありがとう」


 俺が小さな声で礼を言うと、要はサムズアップしながら俺の部屋を後にした。


 え? なんでちょっと心までイケメン風な男みたいな感じになってんの?


次話は8月7日です。

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