ポンコツ四人組
人間が地上から姿を消して約一年。当然、街は少しずつ廃れていった。なんとか形を保てているのは、地下にこもった人間が時々出てきては街を観察し、維持することに全力を尽くしているからだ。人間は絶滅したわけではないので辛うじて混沌とした状況にはならなかった。いつでも地上に戻ってこられるように地下に住む人たちは試行錯誤を繰り返している。
彼らは生きることをまだ諦めていない。彼らが必死に繋いだ元の生活という名のバトンを俺らは受け取り、日々戦っている。
「おう、みんな早いな」
俺が到着すると仲間二人が待ちわびたぞと言わんばかりの表情を浮かべた。
「おはようゴミニート」
「おはようクズニート」
朝からパンチの効いたやり取りを繰り広げる相手が俺の相棒、元クズニートの八代要。
結構なイケメンだが重度のオタク。黙っていればそれなりにモテるんじゃないかと思うような外見をしているのに見事に期待を裏切る極度のオタク。はっきり言って人生損している男だ。
「あ、あんたらそれでよく仲良く友達でいられるわね……。私だったら無理だわ」
少し引きつった笑みで俺らを見る少女が二階堂珠理だ。ツインテールなので安易にツンデレキャラを連想してしまいそうになるがツンもデレも見当たらないツインテール詐欺少女。凛とした雰囲気なので、俺らみたいなゴミクズコンビとは無援の存在に見えるがこいつも元カスニート。れっきとしたオタクだ。
「同じ底辺の人種だからな、仲間意識は強いんだ」
「カスムシ同士仲良くしないと。だってこれ以上友達減ったら寂しくて死んじゃう」
「ニートなんて死んでるようなもんだけどな」
ここまで饒舌に会話をすることができるようになったのは要のおかげだ。
出会った当初はお互い慣れない会話をしていた。憎まれ口を叩き合うなんて考えられなかった。ゾンビが現れたおかげである意味社会復帰できた。
あれ? あいつらいいやつなんじゃ……。
「こうやっていると元ニートだなんて思えないわね」
「お前もな」
理由は知らないが、珠理も俺らと同じ元ニート。
ここにいる三人共元ニート。隣の地区にも、他の県にも元ニートの軍勢が日々ゾンビと戦っている。世界は元ニートとゾンビに溢れている。この世は一体どうなっているんだ。そんなにニートを大量生産しても得することなんて何もないだろ。俺らは大量消費されないぞ。
本当に腐ってるな。ゾンビじゃなくて世の中が。
「つーか雨音は?」
俺ら自他宅保護兵は基本フォーマンセルで行動する。時々減ることもあるが。理由は言わなくてもわかるだろ? こういった仕様が俺らニートの中二心を刺激する。お偉いさんたちは本当に悪知恵が働く。社畜ってすごい! 肉体だけじゃなく、知恵も働くって社畜の鏡だ。俺には無理だ。できないし働きたくもない。
「雨音なら爆弾取りに家に戻ってる。今朝早々に使っちゃったから」
「今朝の爆発音あいつかぁぁぁぁぁ!」
朝からボカンボカン音立てるな! 朝っぱらから手榴弾投げやがって! あいつ家守る気ないだろ!
「落ち着け理人! あいつはちょっと頭が弱いんだ」
ちょっとじゃないだろ! どこの世界に所構わず爆弾投げる女がいるんだ! テロリストか何かだろ! 前世でハイジャックとかやってるだろ。
「あれぇ、理人来てたんだぁ。おはよぉ」
俺の後ろから声が聞こえてきた。振り返り確認するまでもない。
声の主は爆弾魔、一ノ瀬雨音だ。ふんわりとした話し方と同じで中身もふんわりしている癒し系の女の子。亜麻色の髪をなびかせ、妖艶な笑みを浮かべる姿は爆弾魔には見えない。見た目と中身が合ってない。そしてこいつも元チリニート。
「おはようテロリスト」
腹立つから皮肉を言ってやる。
「やだなぁリストカットの間違いだよぉ」
そんな間違いしてないわ!
自虐ネタも大概にしろ。引くを通り越して涙出そうになる。
「ほらほらぁ」
そう言って左腕の手首を見せつけてくる。その白く細い腕にはかなりの傷跡がある。
「ちょっ、あの……ほんとごめん」
潤んでくる瞳を手で隠しながら謝罪する。
「謝るのは私の方だよぉ。理人にはこんな腕、見せたくなかったんだけどぉ……」
その割には見せつけてきたじゃん……。
「なんでもいいから許してくれ……」
「いいよぉ。昔の話だもん」
お前どんなメンタルしてんだよ。精神カチンコチンじゃねーか。
こんなゆるい話し方の彼女に過去に一体何があったんだろう。聞く度胸がない。だって怖いもん……。とんでもない爆弾をいろいろ抱えてる。身も心も爆弾抱えてるって雨音さんマジプロ意識高い。捨ててしまえよ、そんなもん。
「深く考えるなよ」
要が俺の肩をぽんと叩き耳打ちしてきた。心読まれてる……。
ガチガチのアニメオタクの要。
無駄ツインテールの珠理。
自殺狂の雨音。
この三人が俺の仲間。見た目詐欺の集団で全員元ニート。そしてこの元ニートの軍団を統率するチームリーダーが俺だ。
……大丈夫かこのチーム。全員年齢が同じだから、クラスメイトがふざけているようにしか見えない。
みんなとは長い付き合いではないが、中々に良いやつらだと思っている。元ニートという境遇が仲間意識を強くするのだろう。
俺の住む九十九市は結構大きい街だが自分の家の近くにニートが三人もいた。狭いな世間。そして狂ってるな世間。ゴミカスだらけじゃねーか。捨てようにも、どこの家庭も萌えるゴミの日がわからないのだろう。この国の将来が心配で仕方ない。
こんなゴミカス軍団が世界を元に戻そうと日々奮闘している。俺らみたいな存在に世界の存亡を託すなんて気が狂ってるとしか言い様がない。
俺らみたいな存在に何ができるかはわからない。
地下にこもることもできるが、家族に会いたくないからこの仕事をやっているだけ。冷たい目が怖いから。ニートやってた時も正月の親戚同士の集まりとかには絶対出なかった。「理人くんって今高校何年生?」とか聞かれたら、答えに困り、言葉に詰まるどころか卒倒してしまう。なんなら失禁まである。
そんなに逃げに逃げ続けた輝かしい経歴を持ち、家庭に居場所がない俺は、現在も流されるままに兵士をやっている。俺のこの経歴も水に流してくれないかなぁ……。
「それより全員揃ったんだし狩りに行くわよ」
そんなゲーム感覚で言うなよ。ゾンビから何かしらのアイテムがドロップしそうな感じになっちゃってるよ。ドロップするのは大抵眼球とか骨だぞ。一体何に使うんだよ。
「えらく張り切ってるじゃねーか」
「今ダイエット中なのよ。動いてカロリー消費しないと」
約一名ダイエット目的でゾンビ退治してるんですけど……。あいつらダイエットマシーンとかじゃないよ? 確かに一戦交えるだけで結構なカロリー消費しそうだけど。
まぁ目的はともかく、いつまでもここで雑談するわけにはいかない。
各々装備の確認をし、俺らは家を守る戦いに向かう。
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