Daze Days Death
戦場と言っても俺たちが戦っている場所は道路の真ん中だ。アスファルトの隙間に入り込んで根を伸ばし、成長した雑草のせいでほとんど緑色になっているが一応道路だ。どうして道路で戦うのかと言うと、住宅地で戦うと流れ弾で家を破壊しかねないからだ。ここの道路は幾度となく雨音に破壊されて土が見えている箇所がある。
綺麗な街並みはもうない。どこか別の世界に迷い込んでしまったのではないかと錯覚しそうになるくらいだ。妥協したら異世界転生のような感じでワクワクできるのかもしれない。
今いる道路と同じようにどこもかしこも雑草も生い茂り、伸びて絡まった植物のツタが街を緑色に変えている。
人間が少なくなってこの世界は少しずつ元の姿を取り戻している。
そして、人間に依存しているネズミやゴキブリ等の生物は数が減ったらしい。
今になってよくわかったことがある。奪うことと壊すことしかしてこなかった人間が、他の生物に命を与えていることもあったんだということを。皮肉な話だがな。
動かない電車。錆びた車。赤、青、黄色、どれも光らない信号。アスファルトの破片があちこちに散らばっていてあまりにも悲惨な光景だ。
生きた人がいない空っぽの街。賑やかさを失った街は廃墟と化している。
こんな場所をうろつくのはゾンビと元ニートだけだ。
ちらほら街角から現れるゾンビを見つけることで戦いの火蓋が切られる。
「そっち行ったぞ!」
「了解!」
鋭く、銀色に煌く日本刀を持ち俺は戦う。
迫ってくるゾンビを斬って、斬って、斬りまくる。俺に斬られ、僅かに呻き声を上げた後、ゾンビはゆっくりと倒れた。ゾンビの体から溢れ出す血がアスファルトに流れ、道路は鮮やかな緑と赤黒い血で染め上げられた。
そもそも相手は元人間だ。刀で斬るのに躊躇いははないのかと思うか? あるに決まっている。いや、昔はあった。死体を斬るなんて趣味が悪すぎる。オーバーキルもいいとこだ。しかし、殺らなければ殺られる。正当防衛だと自分に言い聞かせ、俺の心は頑丈になった。今となってはゾンビを斬ることに躊躇いも恐れもなくなった。人間は環境に適応する生き物だ。適応しすぎて捨ててはいけない何かを捨ててしまったと時々反省する。仮にゾンビを全滅させることができたとしても俺らは社会復帰できないだろう。
せめて一撃で楽にしてやろうと心に誓い刀を振るう。
それが生きている俺がゾンビにしてやれる最大限のことだ。そう思いゾンビの懐に潜り込もうと踏み出す。
「理人! そっち危ないわよ!」
「え?」
ピー。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
足元から音が聞こえた直後、その場から飛び退いた。そしてすぐに爆発が起こった。
火炎と黒煙が周囲を支配する。同時に熱風と爆破されたことで飛び散った土や石の欠片が俺の体を襲う。珠理の声が聞こえなかったら木っ端微塵になっていた。今ほど自分の反射神経と珠理に感謝したことはない。動くのがあと少し遅かったら足の一本くらいは持っていかれていた。現に爆発をモロに受けたゾンビの体が四散している。俺の足元に飛んできた手は黒焦げだった。危うくゾンビと心中するところだった。
こんなところに地雷埋めるようなやつは一人しかいない。
「雨音ぇぇぇぇぇぇぇぇ! これお前だろ! 地雷埋める場所考えろよ! うっかり爆破されちゃうとこだったぞ! バカ! 地雷バカ!」
人が物悲しい思いをしてる時になんてことしてくれんだ!
「自殺バカの間違いだよぉ」
だから自虐ネタも大概にしてよ!
さっきの爆風で目にゴミが入ったのかな? 涙が出てくる……。
いっけなーい! ゴミは俺自身だった。つまり現在目から流れているこれはガチな涙だ。もういいよ……。俺が悪かったよ……。
「よくわかんないけどなんかごめん……」
雨音に深々と頭を下げる。今すぐにでも土下座する勢いだ。今なら靴も舐められる。
「よくわからないのに頭を下げるのぉ?」
「……雨音、なんか悩みあるなら私聞くわよ? 一人で抱え込む必要はないんだからね」
ほら! 珠理も可哀想になって親身になってくれてるよ。
「ないよぉ」
平然と言ってのける雨音。なんなのこの娘……。遠慮か? 遠慮してるのか?
「嘘つくな、心の病抱えてるだろ。闇って言うか病みって言うか……とにかくお前の精神状態はまともじゃない」
リストカットの痕を見せつけるなんてどう考えても病んでる証拠だ。
「そうかなぁ。私元気だよぉ。病気も怪我もないもん」
きょとんと首をかしげる雨音。メンタルとフィジカルは反比例するもんなんだよ。精神が病んでる人に限って身体はやけに丈夫なんだって。風邪とか無縁なんだよ。この娘心配だよ……いつの日か首吊りそうで……。
「みんな雨音の味方だからな。何かあっても俺らが守ってやるから自殺はするなよ」
「今はそんな気分じゃないからしないよぉ。それにこんな死体だらけ場所じゃ骨埋めるところないもんねぇ」
そうじゃない! そこじゃない!
お前は何の心配してんだよ。そんなこと考えて今まで生きてたの?
違うよ、雨音……。論点がズレている。俺たちが言いたいのはそういうことじゃないんだ。
「この娘早急になんとかしないと……」
珠理が頭を抱えている。俺も頭を抱えてる。
「二人共どうしたのぉ!?」
どうかしているのはあなたです。
「お前ら! 俺一人に戦わすな! 理人帰ってこい! やばい! やばいやばい、めっちゃ集まってきた! 弾も切れそう! 助けて理人!」
遠くで要の叫びが聞こえる。……やっべあいつのこと忘れてた。雨音のインパクトが強すぎたせいだ。
「すぐ行く!」
要の援護に向かおうとすると、
ピー。
嘘だろ?
勘弁してくれよ……。
俺の額から滲みだした冷や汗がぽたりと地面に落ちた瞬間――本日二度目の地雷の爆音が街中に響く。凄まじい轟音で驚いた鳥や動物が一斉に逃げ出す。爆風に吹き飛ばされた俺は、なぜか花畑と綺麗な川が見えた。
二度死にかけました。雨音、今後から地雷禁止な。




