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月曜日の宝箱  作者: ful-fil


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7/10

アリババと四十人の盗賊③

 壺がしゃべった。

 男の声で。


 絨毯が空を飛ぶのなら、壺が人間みたいにしゃべってもおかしくない……のか?

 いや、おかしいよな。

 白雪姫の魔法の鏡ならともかく、壺は壺であって鏡ではない。

 壺に求められる機能は物を入れることだ。

 魔法の壺を作るとしたら、まず容量を拡大するのが普通だと思う。

 話しかけたわけでもないのに、勝手にしゃべりはじめる壺……そんなホラーな壺はいらない。


 とすると、この壺がしゃべったのは魔法の壺だからではなく……。


 俺は壺を睨んで考えた。


 ……これ、人が入ってんじゃねえの?


 サイズ的には人一人くらい入れそうだ。

 中肉中背の男なら、中で座れるんじゃないだろうか。

 居心地は悪そうだが。

 壺の口には布が被せられ、紐で固定されている。

 改めて見ると、密閉が甘いというか、空気が通りそうに思える。

 ガチガチに密閉したら、中が酸欠になるもんな。

 同じような壺がざっと四十個ある。

 なぜ正確な個数がわかるかというと、運ぶのを手伝ったからだ。

 五台の荷車があり、荷車一台に壺が八個ずつ乗っていた。

 5×8で四十個。

 お客さんの荷物で、中身は油だということだった。

 なんで夜のお店に遊びに来るのに大量の荷物を持ってくるのか、意味がわからないが、誰も疑問に思ってないようなので、ここではこれが普通なのかもしれない。


 さて、この触れ込みとしては油の入った壺、実際には人が入ってる疑いのある壺をどうするか。

 聞こえた声の数からして、壺に潜んでいる男は一人や二人じゃない。

 全ての壺に人が入っているとしたら、その人数は四十人。


 ……盗賊の数じゃん。

 これもう確定でいいよね?


 壺を蹴り倒してやろうかと思ったが、中から盗賊が飛び出して来たら、ファティマ(俺)の華奢な体で勝てるかどうかわからない。

 他の壺からも盗賊が一斉に出てくるとしたら、多勢に無勢、俺一人では勝ち目がない。

 味方の人数を増やさねば。


 というわけで俺は店に引き返した。

 マルジャーナ姐さんにご注進するために。



※



「マルジャーナ姐さん、壺に盗賊入ってんですけど、どうしたらいいですか?」

「何言ってんの?」


 忙しそうなマルジャーナ姐さんを捕まえて、話を聞いてもらったが、信用してもらうのに苦労した。

 壺に盗賊が潜んでいるのは、この世界でも普通ではないらしい。

 半信半疑のマルジャーナ姐さんを裏庭に連れ出して、壺のそばで耳を澄ましてもらって、適当な壺に小石をぶつける。


 カーン。


「今、合図あったよな?」

「ないって」

「またそんなこと言って。おまえいつも気が早いんだよ」

「作戦開始は真夜中、屋敷のやつらが寝静まってからだろ。まだのんびりしてようぜ」

「音もなく忍び込み、金持ちの首を掻っ切って、静かにお宝を運び出し、風のように去っていく……それが俺たち盗賊団。うん、美しい」

「男の美学はいいから、お頭が起こしに来るまで寝とけよ」

「退屈なんだよぉ~」


 暗がりで、俺とマルジャーナ姐さんは無言で顔を見合わせた。

 声を出さず、目と目で会話する。


俺:ほらね、盗賊いるでしょ?

姐さん:うん、いたわ。

俺:どうします?

姐さん:とりま店に戻るわよ。

俺:りょ。


 俺たちは忍び足で店に戻った。



※



「緊急事態よ。お屋敷始まって以来のね」


 マルジャーナ姐さんはフロア係を何人か表に残して、それ以外の従業員全員を厨房に集めた。


「油が入ってるはずの壺の中に盗賊が潜んでいるわ。人数は確かめてないけど、最大で壺の数と同じだけの四十人。金持ちの首を掻っ切るって言ってたから、武装してるわね。何とかしないと皆殺しにされちゃうわ」

「役人を呼んでくるのは?」

「もちろん呼ぶわ。アリー、あんたひとっ走り行ってきて。アリババ様の屋敷に盗賊団が押し入ろうとしてるって。百人くらいが暴れて大変なことになってるって言うのよ」

「わかった!」


 アリーと呼ばれた男は役人を呼びに飛び出していったが、少し話を盛りすぎではないだろうか。

 四十人の盗賊なのに、百人って。

 それに潜伏してるだけで、まだ暴れてないし。

 なんでそんなに話を盛るんですか?

 怪訝な気持ちが顔に出たらしい。

 俺を見て、マルジャーナ姐さんが説明してくれた。


「こういう時は話を三倍くらいに膨らませてちょうどいいのよ。役人だって訴えは話半分に聞くんだし。百人って言っとけば、五十人かなと思ってそれくらいの人数集めてくるでしょ。四十人って言ったら二十人かなと思われて、それなりの人数しか集めてこないわよ」

「なるほど」


 この世界では緊急通報は危機感を三倍にして伝えるものらしい。

 日本だったら強盗の人数を水増しなんかしないけど。

 これが文化の違いというものか。


「さて、役人が来るのを待ってたら間に合わないわ。私たちも防衛するわよ。ここは私たちの家なんだ。盗賊に荒らされてたまるもんか!」

「おう!」


 そうしてマルジャーナ姐さんが立案した『アリババ様のお屋敷防衛作戦』はけっこうえぐいものだった。



※



 お屋敷の裏庭。

 四十個並んだ壺の前に俺たちは立っている。

 味方の人数、総勢八十人。

 従業員総出だ。

 なんなら近所の応援も集まっている。

 アリババは近所からも慕われているらしい。

 当のアリババ本人はここにいないけどな。

 アリババは何も知らずに店で客と歓談しているらしい。

 ぶっちゃけお人よしの善人だから、荒事には邪魔なのでいない方がいい。


 集まった八十人のうち、半数は鍋などの耐熱容器を持っている。

 その中身は熱した油だ。

 全員が位置に着いたのを確認して、マルジャーナ姐さんが合図を出した。

 その合図で俺たちは一斉に行動した。

 二人一組で、一人は壺の口を覆う布を切り開き、もう一人が油を中に流し込む。

 当然、中に隠れてる盗賊は大やけどを負うわけで。

 たちまち辺りは阿鼻叫喚。


 マルジャーナ姐さんが考えた『熱々の油でジュッ♪』作戦、けっこう酷いよな!



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