その20
ただ、現場での指揮を執ることになったのは、エルドラン侯であった。
シルフィラン侯が気を遣ったという側面もない訳ではないが、戦術指揮官としての技量は、経験数からいってもエルドラン侯の方が上であったからである。
シルフィラン侯の方は、ラロスゼンロに残り、今後の対応に注力することとなった。
マイラック公の方も、ラロスゼンロに残ることした。
これは、ここにいた方が、情報が集まりやすいということであった。
と言う事で、帝国軍の方からは、リーラック伯が指揮する部隊が参加することとなった。
ただ、エルドラン侯は、第1軍と帝国軍が加わる前に、シーサクの拠点への攻撃を命令していた。
これは、性格が問題というより、現場に出向いてみて、指揮官としての空気感から下した命令だった。
エルドラン侯は、これまで前線視察を行ってきていた。
そして、その時と明らかに違う空気を感じていた。
恐らく、長年戦場に出ていないと、この空気の違いは分からない。
「父上、よろしいのでしょうか?」
即時攻撃命令の意向を示したエルドラン侯に対して、まず、息子であるバメグラッド伯が確認をしてきた。
参謀長であるラーケイが、ジッとその様子を見守っていた。
意見としては、バメグラッド伯と同じなのだろう。
ただ、2人共、何が何でも反対といった雰囲気ではなかった。
「グルフ、お前から見るとどうなんだ?
私から見たら、敵に動揺が見られるのだが?」
エルドラン侯は、逆に、息子に質問した。
バメグラッド伯は、長くこの戦場にいるので、その変化を一番良く察していると感じていると思ったからである。
「確かに、明らかに、敵の動きがおかしいと思われます。
したがって、今攻めるというのは、確かに好手であると思われます」
バメグラッド伯は、自分の感じているままを答えた。
だが、まだ、完全に賛成と言った訳ではなさそうだった。
何やら気にしていることがあるようだった。
「援軍がやって来るのだから、抜け駆けに見られないかという事だな」
エルドラン侯は、何故か満足そうな表情になっていた。
父親として、息子の気遣いに満足したのだろう。
エルドラン家の跡継ぎとしては、そう言ったことに気が付かないといけないのである。
「仰る通りでございます」
バメグラッド伯は、父親の指摘に頷いた。
「その点は、大丈夫だ。
現場指揮を全て託されているからな」
エルドラン侯は、一応、事前に対応していたようだ。
だが、実は、自身、現場に来るまでは、このような空気感になっているとは思っていなかった。
とは言え、戦いには機というものがある。
数々の経験から、今は攻撃するべきだという判断に至っていた。
「分かりました、父上。
その点で問題がなければ、確かに今攻める時でしょう」
バメグラッド伯は、父親の意見に賛同した。
元々、攻めるべき時だと感じていたのだろう。
諸条件から、それを躊躇っていたのだが、それがないとなると、賛成するのは当然だった。
「よし、それならば、グルフ、そなたに先陣を任せる。
直ちに、準備せよ」
エルドラン侯は、早速命令を下した。
「はっ」
バメグラッド伯は敬礼すると、直ちに準備に取り掛かるべく、陣幕を飛び出ていった。
「フルイ、全軍に出陣の準備をさせよ」
エルドラン侯は、次の命令を下した。
「畏まりました」
副官フルイも、敬礼すると、各所への伝令の為に、飛び出ていった。
援軍の到着前に、こうして、第2軍は、シーサクの拠点への攻撃を開始したのだった。




