その19
フランデブルグ元伯の亡命事件は、前線にも伝わっていた。
そして、ちょうどそのタイミングで、ラロスゼンロに帝国とバルディオンの軍の指揮官が集まっていた。
バルディオン側からは、これまで総指揮を執っていたエルドラン侯、そして、陸軍総司令官のシルフィラン侯がいた。
また、帝国側からは、マイラック公爵がやって来ていた。
マイラック公は、拠点をパンマジュダードからラロスゼンロに移していた。
そのマイラック公を表敬訪問する為に、戦線が膠着した時期を見計らって、シルフィラン侯は、ソルハからやって来ていた。
タイミングがいいことに、亡命の発覚となったのだった。
「さて、この亡命騒ぎ、戦線にはどういった影響を及ぼすことやら……」
まず、口を開いたのはシルフィラン侯だった。
そうは言っていても、侯自身はそれ程大きな影響を及ぼすとは思っていないようだった。
それは、いつもの冷静な口調だったからだ。
(侯爵は、何かを期待している訳ではなさそうだな……)
マイラック公は、不思議な既視感を持ちながらそう思っていた。
シルフィラン侯とは、初対面ではあるが、どうにも初めてあった気がしないのであった。
と言うのは、よく似た人物をよく知っていたからだ。
その人物とは意外と共通点は多い。
ただ、軍人と文人の違いは大きい。
なので、見間違えることは、まずない。
しかし、違いが大きい分、何故か、似た所がもの凄く似ている気になってくるのも不思議な感覚であった。
「シルフィラン侯は、何かがおきると予想しているのか?」
マイラック公が何も言わないでいるので、エルドラン侯は尋ねる事にした。
まあ、ああいう言い方をされると気にならない訳はなかった。
「シーサク側としては、明らかになった以上、何らかのリアクションを取らないといけないのは明白。
ただ、それが前線まで影響するかは未知数と言った所だろう」
シルフィラン侯は、いつも通りの冷静な口調で、冷静な分析をしていた。
「……」
エルドラン侯は、予想以上の無回答振りに、ただただ呆れるしかなかった。
まあ、ある意味、いつも通りだと感じてはいたが……。
(考え方が、似すぎてるな……)
マイラック公は、当然、フレックスシス大公の事が脳裏に浮かんでいた。
この場に大公がいたら、同じように、期待など全く関係なしに、冷静に分析結果を述べるのは明らかだった。
「しかし、ここは、攻勢の好機とも言えますな」
黙っていたマイラック公が、口を開いた。
出過ぎた真似かも知れないが、一応、言っておこうと思った。
敵に不利な情報が出てきた以上、ここで攻めない手はないという判断だろう。
「仰る通りですな。
確かに、表面上、動揺は見られない。
だが、シーサクにとって、これは、意外と大きな出来事かも知れない。
この情報は、連合の情報部からもたらされてますからな。
奴らが、ただ情報を出すということは、ありますまい」
シルフィラン侯は、マイラック公に同意した。
(どっちなのさ……)
エルドラン侯は、コロコロ変わるシルフィラン侯にツッコミを入れたかった。
とは言え、攻勢を掛ける為の理由まで話したので、その点は評価していた。
「では、このまま攻勢を仕掛けると?」
マイラック公は、確認した。
「いえ、私がここに来た時にこうなったのも、何かの縁でしょう。
第1軍を南下させ、戦力を増強した上で、攻勢を仕掛けます」
シルフィラン侯は、そう答えた。
当然、エルドラン侯は、嫌な表情になった。
指揮権を奪われるからである。
とは言え、そこは軍人である。
嫌だと思いながらも、エルドラン侯は、反対はしなかった。
この辺が立派な所である。
対して、マイラック公は、うんうん頷いていた。
「ならば、我が軍からも半分の兵力を割いて、参加させましょう」
マイラック公は、助力を申し出ていた。
「ありがとうございます」
「ありがとうございます」
シルフィラン侯とエルドラン侯は、同時に、マイラック公に礼を言った。
こうして、ラロスゼンロの東側のシーサク側の拠点に攻勢を仕掛けることが決まったのだった。




